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Luck⇔Ruler  作者: 真尋
第二章 加速する混沌
8/11

(2)

 …………えー、もう土下座するしかないですねこの状況。

 就職活動、早く終わって続きを書きたいです……………。



 内裏。

 史実においては天皇が座し、貴族達が政務を行う、他国で言う所の宮廷である。

 正確に言えば大内裏と呼ばれる宮城の中に内裏という天皇の私的空間があった訳だが、この世界では丸ごとひっくるめて内裏と呼んでいる。


 この世界では日本……別名『大和四王国連合』の一角たる西王国の政治の中心とされ、玉座に座るのは国王となっている。

 国王とは言うが、その仕事を担うものは基本的にはプレイヤーとNPCが投票を行う選挙で決定される。様々な集団の都合を調整し、最良の結果を導く能力が期待される重責を負う職務だ。その職務の重要性、掌握する権限の大きさから、票を操作する不正は下手をすれば現実以上に厳しい目で見られる。国外追放が生温いほどの厳罰が処される可能性もある。


 また、国土の形状から考えるとちょうど真ん中に近いため、日本全体の方針を決定するために開かれる「四王国連合会議」も、この内裏で開かれることとなっている。


「第一会議室だったな」

「うん、そうだね」


 時刻は午前11時45分、ちょうど約束の15分前である。

 京都の中心に南北に走る朱雀大路。その北の終点である二条大路との交差点……すなわち内裏の南門、朱雀門の目の前に出月と麻仁は立っていた。

 門番を務めるNPCに会釈をして、開かれている門を潜る。敬礼をする元NPCの様子からもわかる通り、彼らはここを顔パスで通ることが出来る。


 いくつもの建物が建ち並ぶ中、二人は迷わずにすぐ目の前にある門……応天門を通り抜け、国王が政務を行う朝堂院の中に入る。

 そのまままっすぐ進み、更に門を二つ程抜けて、第一会議室、またの名を「太極殿」と呼ばれるやや大きな建物の中に入る。


 入った直後、奥から大きな声が響いた。


「早かったな、待ってたぜ!」


 響く声に、名乗り、一礼する。「待ってた」と「早かった」は矛盾しているのではないかという疑問を頭の片隅に追いやりながら。


「陰陽寮第一次官、天原出月、参内。こんにちは、王様」

「兵衛府大尉兼神祇官主典、小鳥遊麻仁、参りました。五時間もの馬での移動、お疲れ様です」


 二人が官職とともに名乗っているが、これは所属の一つと考えればいい。

 通常、一つのゲームで登録することの出来る集団………クラン、連合等様々な呼び名があるが、AOでは組合(ギルド)とされている……は一人につき一つだけだ。


 しかし、AOはその法則を打ち破った。『実際の人生において一つの集団にのみ所属することはあり得ない。国、家族、学校、会社、趣味の集まり………間違いなく複数に所属しなければまともな生活はほぼかなわない。ならば、リアルを模したゲームの世界でも複数の集団に所属出来るようにしても問題ない』というのが運営の考えである。


 そうして、生み出された無数の組織、その中で、「国の発展のために自らの力を駆使しよう」という組合が複数作られる。これが機関と呼ばれる組合の誕生で、陰陽寮、兵衛府、神祇官などがそれに当たる。これらに所属する条件は、「特別な事情がない限り国益を損なうような行動はしない」「特定の職業であること」の二つだ。後者の条件は、陰陽寮ならば陰陽師の職業をPJあるいはSJで取得しているもののみ、と言った例を挙げればわかりやすいだろうか。そのため麻仁のように二つの機関に所属するものも少なからずいる。


 勿論、これらに参加するのは自由意志であるが、こういった機関に所属している者は、国が出す特殊な依頼(クエスト)を受けることが出来る。イベントやキャンペーンにおいても有利になることも多いので所属する者は多い。



「堅苦しいのはどうでもいい。それよりもお前等こそ『お疲れ様』だ。あのダンジョン内を隅々まで探してくれたおかげで、死者がかなり減った。……正直、よく近くにいてくれた」

「修学旅行中だったもので」

「なるほど、このタイミングは幸運と不幸を同時にくれた訳だ。………不幸の方が多すぎるがな」


 出月のあっさりした言葉にシブい笑みを浮かべた国王はチョイ悪親父という死語を思い出させる、30代後半の男だった。AOでは20代の精悍なイケメンだったので、やはり年齢を操作していたのだろう。


「オレの歳についてはなんにも触れないんだな」

「『ガハハ』と笑う時点で『あ、中身はおっさんだ』と確信していたので」

「……地味に傷つくぞ」

「ま、その辺はええんとちゃいます? さっさと本題に入りましょ」


 さっくりと傷心の国王、「獅子心王(ライオンハート)」の二つ名を持つ百家の一人、岩瀬隼雄(いわせはやお)を無視して言い切ったのは昨日から通信をかけていた美代だ。白装束と緋袴に身を包む小学五年生の笑みはどことなく危うい色気を醸し出している。

 が、そんなことはここにいる面子は気にも留めない。


「ほっほ、同感じゃの。即時の対応が求められている訳じゃからな」


 顎髭をしごきながら笑う老爺も百家の一人。宇治宮(うじみや)達己たつみという僧侶の職に就くものである。

 笑みを返しつつあたりを見回して、麻仁が問うた。


「他の人はどうしたんですか? ………生産関連の人はいないみたいですけど」

「そっちはもう会議を終わらせた。食料の大幅増産、および住居の確保のための開拓の進行と、初心者(ニュービー)用の武器作成、あと初心者の受け入れ態勢を整えることを最優先事項とする。税率をかなり下げることになるな」


 つまり生産関連以外の話になる訳だ。出月が考えている間に、国王である隼雄は口を開いた。


「じゃあ、会議を始めるぞ。他の奴らはそれぞれ現地………こっち来た時にいた場所でそれぞれ仕事をしているらしいんでな。あいにくだが、ここにいるやつ以外は西王国所属の戦闘系のカンストプレイヤーはいないものと思ってくれ」

「他の国に所属している人は色々いるので、戦力には極端に困っている訳でもないんやけどな」

「まあ、予想はしていました。大丈夫です」


 麻仁がため息まじりに頷く。当然の話ではある。普段住んでいる所でプレイするよりも、新しい場所でプレイしてみたいと考えるゲーマーの心を非難することなど出来ようはずもない。少し日がずれていれば麻仁や出月とて東王国で西王国所属の立場だったのだから。

 特に西王国ではそれが顕著だ。観光名所であった京都でプレイしたいと思う外国人は非常に多く、入場制限もかかったことがあるらしい。そのプレイヤーが全員祖国にいると考えれば、そう不思議なことでもない。


「議題は勿論、国防(・・)だ。その中でとりあえず事前に送った資料の通り、二つの大きな問題は最後に扱う。その前に、それ以外の要件について各人の意見を聞きたい」

「現実世界で領土問題が発生している土地の確保は急務ですね」


 麻仁が即座に言い切った。随分と過激な内容だが、目が真剣さを良く表している。


「大陸では恐らく少数民族の独立運動等もあって内乱で大きく荒れるでしょう。資源調達のために国土を犯されたりする訳にはいきません」

「ああ、それは実は移動中に他の三王との会議で出た。領土紛争は出来るだけ避けたいし、もう確保してあると聞く。現地に落とされた人はこちらから本国に送ることになっている。原則として、『AOにおける統治体制の維持』が国家間の約束になったからな」


 他国からの情報は今後も逐一手に入れる、という王の言葉に麻仁が納得する。

 つまり、対外での国防は現時点では問題ないということだ。


 更に出月が手を挙げた。


「モンスターの分布は見た限りでは変化なしだった。数の増加とかはちゃんと見てないけど」

「っちゅうことは初心者の成長はそこまで難しくはないっちゅうこと?」

「いや、安全マージンの取り方が大きくなるから一概にはそれは言えない」


 色野への返答に一同が苦い顔をする。

 命がかかる。ゲームオーバーの後のリプレイボタンが存在しない以上、ゲームの時よりも慎重に戦わざるを得ないのだ。

 更に言えば、モンスターの数とプレイヤーの数のバランスも重要だ。基本的にモンスターを倒して経験値を得ることで能力を成長させるこの世界では、絶滅寸前と言ったレベルまでモンスターが狩られたら、倒すモンスターの奪い合いになる。それ以後のプレイヤーの成長に大きな問題をきたすのだ。


「それと繋がってくるけど、こちらから初心者の職業を指定しますか? 食料等の生活必需品の自給率の向上と、それぞれが望む職業を考えると………」


 一般にオンラインゲームにおいては生産職は2〜3割。しかし現実、例えば江戸時代では生産の役割を担っていたのが8割以上であった。

 もしこの差がはっきりと現れてしまったら、市民の飢え死には避けられない。出月の懸念はそこにあった。


「いや、指定しない。……そもそもこっちの方の生産効率、聞いた限りじゃゲームに近いから圧倒的に現実より高い。恐らく新規の3割が生産に回れば余剰が出るだろうってレベルだ。国庫が空になるより先に生産が追いつくかどうかが勝負だな。そこは今の生産職のがんばり次第としか言えない」

「わかりました」


 職業選択の自由と食料自給率はどうやら両立されるらしい。ほっと一息ついて出月は手を下ろす。

 それを横目で見ていた達己が今度は手を挙げた。


「現実世界での日本の政府………『旧政府』とでも言った方がいいのかの? そことの関わりはどうするつもりじゃ?」

「………そこなんだよなあ」


 隼雄が頭を抱えて唸る。

 現実世界では隼雄も一般的なサラリーマンに過ぎない。今回の事件の被害者達から見ると信頼が置きにくい上、間違いなく統治のシステムを見て「民主主義に反する」等の反対運動が遠からず起こるだろう。

 ただし元々のプレイヤーやNPCから見れば話が変わる。曲がりなりにもこの王は長年国内に問題を抱えることもなく治め続けた名君であり、「自分たちの選んだ王」であると確信している……はずだ。それをいきなり引きずり下ろせ等とよそもの(・・・・)が声高に叫び始めれば反発が間違いなく起こる。

 さらに元々政府を取材し一般人に知らせる役割を担う現実のマスコミが関わって大規模に報道されでもしたら、その問題は全国に拡散する。その先に待つのはハイレベルプレイヤーによる被害者達の虐殺か、あるいは内乱か。想像もしたくもない事態になることは間違いない。


「実は、儂に任せて欲しいからこんなことを聞いたんじゃがの」


 柔和な笑みを浮かべる達己の自信ありげな言葉に皆が訝しげな顔をした。


「理解のある一部の政治家を招聘し、意見を求めることにする。いわばオブザーバーという訳じゃな。勿論政党等の問題もあるんじゃが、基礎的な理解が大部分の政治家の頭から抜けている以上、本当にこのゲームをプレイしていた者に限れば良かろう。無論、間違っても傀儡になどならんようにおぬしもがんばらねばならんがな」

「けど、それで彼らが納得するんですか? オブザーバー以上の立場を求めるようになる可能性もありますよ?」

「そこはほれ、儂がなんとかしよう。昔取った杵柄ゆえにな」

「昔取った杵柄? 爺さん、あんた昔政治家やっていたのか?」

「うむ、隠居する前のことじゃ。そうじゃな………とりあえず、一度内閣総理大臣(・・・・・・)は経験したの」

「「「はあっ!?」」」


 ほとんどの人間が驚きの声を上げる。

 信じられない。だが、この老爺はからかうことはあっても真剣な場で嘘偽りを話すことはあり得ない。それは長いこと親交のあった全員が知っている。

 一人声を出さずに固まっていた出月が、どうにか言葉を絞り出した。


「流石にそれは予想外だった………。隠居した後の道楽とは聞いていたけど」

「ほっほ。いやあ、はなはだ世間に嫌気がさしてきての。古風に出家でもしたくなったんじゃが、かと言って家族を見捨てられる程執着心を捨てられる訳でもなし、と考えていた所でこのゲームを発見したんじゃよ。それで僧侶になった訳じゃが………まあ、こっちでも結局執着心を捨てて本気で出家することは出来んかった。今ならそれで良かった、とも思えるがの」


 そう言ってからからと笑う達己は、後日自身がオブザーバーとなったことを彼らに笑顔で報告することになる。

 元々ご意見番として広く認められていたので、この人事は温かく受け入れられた。


「他はないか?」

「ないな」

「ないです」

「ありまへんな」

「ないのぅ」



「じゃあ最後の議題についてだ。『国民大移動』と『大戦イベント』について、話を始めるぞ」


 ただでさえ真面目だった会議が、更なる真剣味を帯びる。

 彼らの会議は踊らない。踊る暇もない。ただひたすら、現状の打破を目指して進むのみだった。

 会議は次回へ続きます。

 そろそろ話が再び動き始めるかも………?

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