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Luck⇔Ruler  作者: 真尋
第二章 加速する混沌
7/11

(1)

 申し訳ありません、かなーりお待たせしています。就職活動って色々削られますね……。

「撤収命令………?」


 麻仁が呆然と放った声に画面の先の美代が頷く。


 夜が明けて、日も少しずつ高くなり始めた時の事である。さすが魔都と言うべきか、禍々しい空気は色あせる事なく、小鳥のさえずりは一切なかったが。


『せや、長岡京での救命活動は終了、そこから先、死者の弔いとか遺留品の捜索は別の人達に出てもらう事になるわ。………ようやくある程度事態の収拾がつき始めたんよ』


 彼女曰く、国王が到着し、とりあえずの体制は整った。

 救助に用いる転移符の予想必要枚数もある程度低下した。これは昨日の間で生き残った人物はほとんど救助されたためだ。

 さらに、ある程度は避難所も目処が立ち始めているらしい。転移符で送られてきた人を即時受け入れる態勢も出来上がっている。

 食料に関してはとりあえず国庫の備蓄を開放することで解決している。


『疲れているやろうし、今後はこっち側でやってもらわなあかん事もあるさかい、戻ってきてほしいんよ』

「……で、でもまだ他の人が生きているかもしれないんだよ? それを置いて行くなんて」

「ここに生存者はもういない。舐めるようにマップの隠れ場所やレーダーの穴まで全て捜索して、俺達が確認したことだろう」


 少し疲れた声で出月が断言した。途中で体力や魔力、スタミナの回復用のアイテムをとっていたとはいえ、精神的な疲れはアイテムで取れるものではない。


「そ……っか。」


 麻仁が俯いて、噛み締めるように言った。

 出月は彼をちらりと見てから顔を美代の映る画面へと向け直す。


「ではこれより帰投する。……帰投方法に指定は?」

『転移符、残ってる?』


 問われ、二人はアイテムボックスの中を確認した。


「国庫においてあった分をかなり持ってきた。割と余裕があるな」

『ならそれで都の中に帰還して。外から入ろうとした時に避難民ともめ事があったらマズいし』


 言葉に込められた意味に気づいた麻仁が眉をひそめた。


「………それほどまでに荒れているの?」

『ううん、どっちかって言うと気が立ってるって感じやな。人の住居にむやみに入り込むのは良くないって理屈ではわかってるんやろけど、隔離されてるように感じてるみたい』

「無闇に神経を逆撫でして爆発させる必要はない、か。了解した。その後は?」


 出月の質問に予定表らしきものを展開、確認しながら美代は答えた。


『お昼までは自宅で休んでて。正午になったら内裏の第一会議室でまた協議するわ』

「わかった。今までで決まってる内容を後で送っておいて」

『任せといて、資料はもう大体編纂終わってる。……正直、皆この状況でめっちゃ頑張ってると思うわ』


 感情が深くこもった美代の言葉。それを聞いて二人は顔を見合わせ、苦笑した。


「……小五のお前に言われては形無しだな」

『……あはは、違いないな。ほな、また後で』

「じゃあねー」


 くすりと笑った美代に麻仁が手を振って、通信は終わった。


「さて、じゃあ」

「ああ、そうだな」


 頷き合い、取りだした転移符を起動する。

 二人が一瞬で光に包まれ、そして消えた。



 大通りを土煙をたてて馬が駆け抜けて行く。大量の米俵を積んだ荷車が門の外へ運ばれていく。

 一方で何人かが部隊(パーティー)を組み、装備のチェックと各々の役割の確認を行っている。先ほど美代が言っていた救援部隊だろう。



「やはり、慌ただしいな」

「まあこの状況でのんびりしてる方がおかしいよ」


 無事転移した二人は都の中を並んで歩いていた。歩調はそこまで速くないものの、その足に迷いは一切見られない。

 彼らが熟知した都の地理と完全に一致していたからだ。


 屋敷のある右京へ向かう。

 二人とも別荘を嵯峨に持っているのだが、仕事の関係もあって普段は都の中の屋敷に詰めているのだ。


「そういえば、娘さんこっちに来てるって言ってたよ」

「お前の嫁がか?」

「『嫁』って……まあ、うん」


 麻仁が照れくさそうに頭をかくが、出月は少し心配していた。


「リアルで恋人はいなかったわけだが、これからどうするんだ? 親への紹介もあるだろう」

「………あ」


 「実体化したゲームのキャラと結婚してます」という説明がどう受け取られるのか、というのは案外重要な問題かもしれない。


「ま、まあ、連絡も取れないし。そこは追々考えていくよ」

「しっかり考えておくことをお勧めする」


 そんな会話を交わすうちに麻仁の屋敷にたどり着く。ちなみに出月の屋敷はちょうど向かいだ。


「ただいまー!」


 麻仁が声を張り上げると門がひとりでに開く。


 開いた先で待っていたのは、


「おかえり、遅かったじゃないか……って」

「…………………おかえり、なさい。……あ」


 活発そうな美女と、神秘的な空気を纏う美少女だった。


「あんた……いつの間に若返りしたんだい?」

「ちょっと、色々あってね」


「いづき、さま……?」

「ああ、お前の父だ」


 それぞれ家族と、複雑な表情で会話を交わす。


「まあ、積もる話は後にしよう。玄関にずっといるのも邪魔だしね」

「そうだな。じゃあ、一度僕は帰る」

「うん、また昼に」

「行くぞ、春日(かすが)

「はい……出月様。………あ」


 出月が娘の……天原(あまはら)春日(かすが)の手を握り、優しく引く。

 その感触に出月の横を春日の顔がわずかに綻んだ。


「優しく握ってくれる感じ……やっぱり、出月様だ……」

「ああ、見た目が変わっただけだ。……しかし、お前も美しくなったな」

「えっ……?」


 自分の家の門が開くのを見つつ、出月は呟く。

 前は「可愛らしい」という言葉が似合っていた自分の娘が「美しさ」を手にしている。それは結構な衝撃だった。


「やれやれ、お前ももう嫁に行ってしまう年頃か。……寂しくなるな」

「私、結婚なんてしない……」


 若干むくれて言う少女にわずかに苦笑しつつ、屋敷の中に入る。

 基本的に作りは一般的な寝殿造……教科書に出てくる平安時代の建物そのものだ。ただ、歴史上のそれと違うのは利便性だ。光熱系は術式で補い、水道は完備している。

 瞬間、出月の懐の式符が自動で発動し、六体の式神達が現れる。ただ、先ほどとは異なり、彼らの姿は……


「開放感が尋常じゃないですねー」

「のんびりー」

「お前はいつものんびりしてるだろう」

「まあまあ、とりあえず羽を休めましょう」

「羽持ってるのアタシとあんただけだけどね!」

「今は人化してるから、全員羽なんてないけどね」


 最後の香墨の台詞からわかるように人の姿をしていた。全員、春日と同程度の背格好をしている。

 春日を育てることになった時に「寂しくないように」と式神の設定年齢を春日に合わせて変動するようにしたのだ。


 部屋に入っても式神の声が聞こえることに、春日は目を細めた。


「……にぎやか」

「……そうだな。春日、悪いが僕は少し寝る。昼からまた会議があるんだ」

「…出月様、お疲れ?」

「まあ、な」


 心配そうに見る春日に対し少しだけ唇の端を曲げてみせる。


「割と大きな異変だから早めに対処しなければならない。休める時に休んでおかないとな」

「……………なら、ココで寝れば良い」


 正座から少し姿勢を崩した状態で、ぽんぽん、と膝を叩いてみせる春日。

 要するに膝枕する、ということらしい。


「娘の膝枕か……悪くないな」


 少しだけ笑みを浮かべて、出月は身を横たえた。少女の膝を枕にして。


「………もう寝ちゃった」


 

 春日は出月の横顔を見下ろしながら呟く。目の下に隈が出来ていた。

 普段からあまり疲れや痛みなどを見せない人だから、よほど疲れているのだろう。

 さらさらした髪を指で梳きながら、思う。


 ……先ほどから出月は春日を指して娘と言っているが勿論、実の娘ではない。養女だ。

 ゲーム時間内で何年か前、ある事情から孤児になった春日を拾い上げて、娘にした。


『……なら、我が家で過ごすと良い』


 家族を失って、涙も枯れ果てた所に差し伸べられた手を、春日は忘れていない。恐らくこれからも忘れないだろう。

 春日も膝の上のぬくもりを感じながら、目を閉じる。



 昼になるまで、重なり合った影の形が変わることはなかった。

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