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Luck⇔Ruler  作者: 真尋
プロローグ
1/11

(1)

 連載(予定)の一次創作を書くのは実は初めてです。知ってる方も知らない方もよろしくお願いします。

 どうでもいい事ですがタイトルの真ん中に入ってる⇔には「行ったり来たり」とか「右往左往」なんて意味を込めてます。ちょうどLとRですし。

 いくら世界が変容しても、決して消えることのない問いがある。


 すなわち、「あなたが生きる上で、最も重要と考えるものは何か」。


 ある男は「武力だ」と歯を剥いて答えた。

 相手を打ち倒し、従わせる力があれば誰かに虐げられることも奪われることもない。


 ある女は「知力よ」と冷たく言った。

 「知っている」ということはそれだけで武器であり、それを活用できれば生きて行くことは難しくない。


 ある老人は「経験じゃよ」と飄々と笑みを浮かべた。

 心身問わず、様々なことを経験していれば想定外の事態への対応もより的確に行うことが出来る。


 ある子供は「お金!」と大人ぶって答えた。

 衣食住をはじめとした生活に必要な全ては貨幣で支払われる。お金があれば絶対に幸せという訳ではないが、金があった方が幸せな生活は送りやすい。


 ある青年は「バランス……かなあ?」と自信なさげに返した。

 過ぎたるは及ばざるがごとし。武力、知力、財力……いかなる力も強すぎれば災いをもたらし、弱すぎれば軽く扱われる。そのすべてを少しずつ保有し、強すぎず弱すぎない境界線を見極めるのも重要だ。


 ある少女は「愛です」とはにかんだ。

 たとえ何もなくとも、共に生きてくれる人がいれば十分。どんなに辛くとも、それだけで幸せに生きて行くことが出来る。



 この問いに模範解答はない。

 否、唯一不変となりうる解が存在しない。人によって答えは変わるからだ。



 ところで。

 もしこの物語の主人公がこの質問をされたならば、上記の全てと全く異なる解答を淡々と即答したであろう。


「運」


 世の中に絶対など存在しない。「人事を尽くして天命を待つ」……あらゆる努力をした後は運命に任せる、という言葉があるが、それは逆説的に言えばいかなる努力をしようと最後は確率、運次第であるということでもある。

 誤解を恐れなければ、運を手にすればあらゆる結果が望み通りのものとなる、と言ってもいい。


 ………念の為に繰り返し言っておくが、この問いに模範解答はない。「全てが思い通りなんて逆につまらない」という人も少なくはないはずだし、そもそも彼自身もっとも重要とは言っているがそこまでの高望みをしている訳ではない。

 彼からすれば、五体満足で生まれ、大往生で家族にみとられて死ぬという幸運だけで十分である。





 さて、そんなささやかな幸せを若くして願っている少年は、東京駅の地下で欠伸をかみ殺していた。

 ブレザータイプの制服の典型例、とでも言うべき学生服を着て、その足下にはリュックサックが置いてある。リュックサックの中身の少なさを想像させるへこみは、そのまま彼のやる気のなさを示していた。

 どこまでも無表情なまま、ケーブルのないヘッドホンから流れる大音量の音楽を聴きつつ思う。


(品川駅の方が家からも、目的地にも近くて楽なんだが……)


 だが、それはいくら考えたところで今更なこと。そもそも、学生の大事な行事で一生徒の都合に合わせて学校が動くはずもない。無意味な思考を打ち切って、少年は辺りを眺めた。同じ制服に身を包んだ男女があちらこちらで談笑している。

 自分の周りにはそのような人間はいない。当然だ、と少年は考える。ヘッドホンをして外界との接触を断とうしている人間に話しかけようとするなどよほどの物好きに違いあるまい。


 しかし、そう考えた矢先に後ろから肩を叩かれた。どうやらその物好きがいたらしい。


「おはようイヅ! 調子はどう?」


 ヘッドホンを掛けた耳でも聞こえるようにするためか、やや大きめの声で少年は挨拶された。

 イヅと呼ばれた少年はヘッドホンを外し、挨拶してきた同級生を半目で見る。


「分かっているだろう、いいわけがない。それと、HN(ハンドルネーム)で人を呼ぶな、啓介(けいすけ)

「ああ、ごめん直樹(なおき)。忘れてた」


 抑揚の少ない声で不満を言う平塚(ひらつか)直樹は、身長が170cmほどの黒髪の少年だった。顔はよくも悪くも平凡で、滅多に揺らぐことのないぼんやりとした無表情が、群衆の中での目立たなさに拍車をかけている。

 一方、笑みを浮かべつつもしっかりと謝罪をした矢島(やじま)啓介は、平塚よりもやや小柄な、栗色の髪の少年だった。形の整った顔の口元には軽薄に見えない程度の笑みが浮かんでいる。


 二人は小学校時代からの幼なじみで、クラスが異なることがあっても疎遠になることなく今に至るまでつるみ続けている。

 その二人をつなぎ止め続けたもの、それは、ゲームだった。


「それで、君の方は大丈夫なのかい?」

「いや、心配だからお前のところに預けておいた。……事後承諾になったな、すまない」

「いいって。これから修学旅行だし、AOに戻るのは三日後になるのかな」

「……憂鬱だ。ネットワーク環境を教師に監視されている可能性を考えると宿でやるわけにもいかない。……まあ何人かは考えもせずにやるんだろうが」


 当然ではあるが、年齢によって手にするゲームも普通は異なる。現代っ子らしく流行に乗って変化していった末に彼らが今現在プレイしているゲームは、いわゆるオンラインゲームだった。


 Anothearth(アナザース) Onlineオンライン。矢島のように略してAO(エーオー)、あるいはアオと呼ぶ者もいる。


 いわゆるMMORPG……多人数同時参加型オンラインRPGの流れを汲むものであるが、この作品は二つの特徴をもって圧倒的な支持をプレイヤーから得ていた。

 その特徴とは、「電気信号型の仮想現実(VR)システム」と「全世界規模での参加プレイヤー」である。


 電気信号型のVRシステムが凄いのは五感全てをVRシステムの中につぎ込めることである。MMORPGで使われていたそれまでのシステムでは目に向けての映像、耳に向けての音を並行して扱うのが限度だったのだが、装着したヘッドギアから脳へ直接ゲーム内の世界の感覚を電気信号で送り込むことで設定したキャラクターを自分の身体のように動かすことが出来るようになった。

 また、今までどれほど多くても精々4、5ヶ国のプレイヤーが参加する程度だったのが、そこまで人数を膨れ上がらせても問題が無くなったのは、従来の古典的コンピュータの性能を遥かに上回る光量子コンピュータをサーバーに採用したことが大きい。会話に違和感を感じさせないほどの高速自動翻訳システム「バベル」も機能している。


 これらの画期的な技術を開発、採用することによって、AOはMMORPGのシェアをほぼ独占した。他社はコスト、技術の両面から追随することが出来ない状態だ。


 驚くべきことに、プレイヤー数は日本だけで700万人。2年前の国勢調査で出た、2070年現在の人口がおよそ8400万であることを考えると、30%以上の高年齢層を含む国民の8%以上がこのゲームをプレイしているということになる。他国まで合わせると何をか言わんや、である。


「まあいいじゃない。実際に京都に行くのは初めてだろ?」

「実際にはな。AO内じゃ本拠(ホーム)だ。完全に見慣れてるものを見に行くのにさして意味があるとも思えない」

「いやいや、さすがにVRと現実じゃ結構違うでしょ。歴史の重みってやつはあっちじゃ味わえないからね」

「…周りの建物で重みが台無しになってなければいいが」


皮肉った平塚が言ったことからも判るが、AOの舞台となるのは地球をベースにしている。勿論、完全に現在の地球と同一というわけではない。モンスターが出てくるし存在しないはずの大陸が存在している。国家のシステムも既存のものとはかけ離れているところも少なくない。

 活動場所は他国を選択することも可能だが、この二人はとある事情もあって日本で活動(プレイ)している。拠点を置いているのは京都だ。



「マイナス思考でいると余計つまらなくなるよ。どうせ行かなきゃならないんだから出来るだけ楽しもう」

「確かにな」


 平塚は頷き、周りの集団に目を向けた。どうやら集合時間が近づいているようで、担任の教師がざわつく生徒達に集まるように声を張り上げている。

 平塚は足下に置いていたリュックサックを持ち上げ、人が集まりつつある場所へと足を向けた。


 その足取りは、駅まで歩いてきた時と比べると幾分か軽くなっていた。

 次回更新までしばらくお待ちくださいませ。

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