表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

運命の交錯点

作者: 平井 瑛太
掲載日:2026/03/31

プロローグ


 「はあ、はあ・・・。」

すっかり日の暮れた住宅街の路地を、一人の少女が息を切らしながら走っていた。その少女の少し後ろを、黒服の人物が追いかけるように走っていた。

「なんで・・・なんで・・・なんで・・・なんで!?」



 友情ってなんだろう。


 人がそれぞれ持っている〝特別〟って何だろう。


ボクはずっと疑問に思っていた。

ボクはかつて、親友だと思っていた相手に裏切られたことがある。

そいつは、三池陽人と言って、今もクラスメートだ。でも、思考が右とか左とか、そういう概念を超えて偏りすぎている。あだ名は、“奇人 三池”だ。

でも、人が持っている〝特別〟に助けられたこともある。隣の席の紺野くん。彼はボクと同じぐらい勉強ができ、ボクと桃高自然科学科一・二を争う学力。彼は、ふとした事に気が付いて、そっと気遣ってくれたり、手助けしてくれたりしてくれる。彼のそんな姿勢には幾度となく助けられた。そんな彼だが、元・警視庁捜査一課警部の父親の影響で、ミステリーに目がなく、なんだかんだ言うと、必ず、ホームズだの、モリアーティーだの、片山だの、城塚だの、真ちゃんだの言っている。

 それに、クラスメートの神之門さん。彼女は明るくて、社交的で、友達も多い。ボクとは真逆の存在だ。でも、ボクだって1回目の人生の時は・・・。おっと。ボクの自分ガタリはこれぐらいにしておこう・・・。








1章  すべての始まり


 教室の隅で、数名の女子が固まって話をしていた。

「ねえ、あの子ってなんか怖くない?」

「えっ?あの子って、川下さん?」

「そう。休み時間もずっと本読んでるし、ずっと下向いてるから、表情、よくわからないし。」

「まあ、確かに。あだ名付けるなら、〝謎の少女〟って感じ。」

「ねえ、そういえば、この間のテスト、彼女、すごくいい点数、とってたよ。」

「やっぱり、ずっと勉強してるのかな。」

「絶対そうだよ。でなきゃ、人生2回目じゃないの。」

「でも、勉強ができても、あんな態度はね・・・。」

「隣の席の紺野くんがかわいそう。」

「確かに、ペアワークとかしにくくそう。」

「確かに。」

「でも、休み時間、よく話してるよね。あの二人。」

「あの・・・」突然、川下がその女子たちに話しかける。

「はっはい。」

「ちょっと窓を開けたいので、どいていただけませんか?」

「えっ、あっ、はい。」川下のその雰囲気に、思わずその女子たちもひるんでしまう。そして、慌てて、その場から移動した。

「ねえ、やっぱり怖くない?」

「うん。」

「さっきの目力とか・・・」

「なんか、この世の終わりみたいな目をしてたよね。」

彼女¬¬¬¬¬¬¬———川下は、その見た目さゆえにクラスメートから煙たがられていた。



昼休み。川下は、とあるクラスメートに声をかけた。

「ねぇ、神之門さん。」

「はっはい。」おどおどしながら神之門が答える。

「今夜午後10時に3号館の天文ドームに来てくれない?」

「えっ。10時って完全下校、とっくに過ぎてるよね。」

「だから?トイレにでも隠れておいてよ。」

「でも、なんでそんな時間に?」

「頼みごとがあるんだ。いいよね?」川下が語調を強める。

「うっうん・・・分かった。」半ば川下の迫力に押されるような感じで神之門はうなずいた。



夜10時。天文ドーム前。神之門は恐る恐るドアを開けようとしていた。その時、後ろから川下が近づいてきた。

「やっぱり、怖い?」

神之門が飛び上がる。

「そんなにびっくりしなくても大丈夫だよ。ボクだから。」

「なんだ・・・川下さんか・・・。」

「さ、入ろう。」

天文ドームに入る川下の後を神之門が追う。

「ねえ、川下さん。ここのカギってどうやって手に入れたの?」

「前、先生から借りたときにこっそり持ち出して、合鍵を作ったんだ。」

「そんなことしていいの?」

「いや、もちろんだめだよ。だから、絶対内緒な。」

川下が振り向く。いつも顔を覆っている前髪がない川下の表情は普通の女子高生ならだれもが見せるような笑顔だった。

「川下さんって、笑うとそんな顔するんだ。」

「えっ?」

「えっ⁉あっ、ううん。なんでもない。」川下が反応したことで思わず心の声が漏れていることに気づいた神之門は慌ててごまかす。

「そう。」

二人は天文ドームの中に入っていった。

 天文ドームの中はもちろん真っ暗だった。川下が携帯電話のライトをつけ、背面を上にして、机に置く。そのライトの部分にちょうど来るように持ってきていた水入りのペットボトルを置く。

「これで幾分、明るくなっただろ?」

「うん・・・。」

気まずい沈黙が流れる。

「ねぇ———」

「あのさ———」二人が同時に話し出そうとする。

川下が笑い出す。神之門もそれにつられてわずかに笑うが、緊張のあまり、ぎこちない笑いになってしまったのに、彼女は気が付かなかった。

「どうぞ。」

「えっ?」

「ほら、なんか言いたいんだろ?」川下が神之門を促す。

「頼み事があるって言ってたけど、私に何を頼みたいの?」

「なんだ、そのことか・・・。」ここで、川下は一つ息を吸った。

「神之門さん。これから72時間、ボクと入れ替わってくれない?」

「えっ?」その瞬間、川下は左手を、両目を隠すように持っていき、中指と薬指の間からその可憐な右の瞳をのぞかせた。「ど———」

バタン

川下と神之門の二人はその場に倒れた。






2章  信じられない状況 ―入れ替わり1日目―


 神之門はややあって意識を取り戻した。

「いてて・・・。何があったんだろ・・・。」神之門は立ち上がろうとわきにあった机に手をかけた。「えっ?この腕時計、川下さんのだよね・・・。えっ?」

神之門は慌てた様子で、自分の腕を見る。そして、さらに、自分が眼鏡をかけていることに気が付く。

「どうして、眼鏡なんかかけてるの?しかも、これ、川下さんのだよね・・・。」

さらに、神之門は自分の髪の毛に手を伸ばす。

「おかしい・・・。私は今日、髪の毛、結んでないはずなのに・・・。どうなってるの?なんで・・・どういうこと!?」

少し離れたところにいる少女の姿を見た神之門は驚愕の表情を浮かべた。

「あそこにいるのは・・・私?なんで、私はここにいるはずだよね・・・?もしかして私、死んだ?あの時、川下さんに殺された?そしたら、今、私は幽霊?でも、そしたらなんで川下さんの格好をしてるの?」

神之門の体がゆっくりと起き上がる。

「ひどいな・・・。勝手にボクを殺人犯に仕立て上げるなんて。」

「えっ?」その口調は川下そのものなのにも関わらず、その声は神之門の声なのだ。

「うまくいったようだな。」川下の口調で、神之門が言う。

「ねえ、いったいどうゆうことなの?」

「あぁ、そういや説明しなかったな。入れ替わってるのさ。君とボクが。」

「いやいや、まったく意味が分からない。入れ替わってるってどういうことなの?」

「そのままさ。君とボクが入れ替わってるってこと。つまり、ボクの体だけど、中身は君。一方、君の体だけど中身はボクっていう訳。」

「なるほど。分からん。」

「一言で矛盾しないでくれ。」

「いや、説明されて一発でわかるほうがおかしい。」

「う~ん。でもな・・・これ以上説明のしようがないしな・・・。まあ、とにかく、あと72時間、ボクと君は入れ替わったまま。」

「72時間も!?」

「最初に言っただろ。ボクと72時間入れ替わってくれって。」

「あっ・・・そういえば言ってたような・・・。」

「とにかく、絶対にボクたちが入れ替わっていることがばれちゃだめだからな。72時間、あたかもボクのようにふるまうんだ。いいね?」

「でも、なんで私?ていうか、何のために入れ替わったの?」

「それは・・・すべてが終わったらじっくり話すよ。くれぐれも危険がないようにするから。」

「ねぇ、何?危険が伴うようなものなの?それなら、今すぐ戻してよ!私を巻き込まないで!」

「一度入れ替わったら72時間は元に戻せないんだ。」

「うそでしょ・・・。自分勝手にも程があるでしょ!もう、いい加減にしてよ!」

川下の体をした神之門が駆け出す。

「待ってよ!神之門さん!」

追いかけようとした神之門の体をした川下だったが、数歩行ったところで足を止め、うつむく。そして、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

「これで・・・いいんだよね・・・。こうするしか・・・方法はないよね・・・。でも、話すべきだったかな・・・。いや、これ以外に方法はないんだ・・・。これでいいんだ・・・。」

神之門の体をした川下は再び足を前に進めた。


ここからの表記は以下の通り

神之門(川下)・・・川下の体をした神之門

川下(神之門)・・・神之門の体をした川下



 ————翌朝。神之門家。————

ピンポーン

インターフォンの音が鳴り響く。

「こんな朝早くから誰・・・?ふぁぁぁぁぁぁぁああ。はあい。どちら様?」

ドアののぞき窓から外の様子を見た神之門(川下)は怒りの表情を見せる。

ガチャ

「朝から何の用?」

訪ねてきたのは川下(神之門)だった。「いや・・・一応、入れ替わってるわけだから、荷物とか交換したほうがいいと思って。ほんとは昨晩、やろうと思ったんだけど、君が帰っちゃうもんだから。」

「はぁ・・・。」


 「ねぇ、ほんとに戻れないの?」

「うん。」

「はぁ・・・。」

神之門(川下)と川下(神之門)は連れ立って高校に向かっていた。

「ていうか、私で変わりが務まるかな・・・。川下さんほど勉強、できないもの。」

「大丈夫だよ。神之門さんなら。」

「そういわれてもねぇ・・・。」

「ほら、もうそろそろ同じ学校の人が増えてくるから、ボクのフリ始めて。」

「はぁ・・・わかったよ。」神之門(川下)は咳払いをした。「ねぇ、でも何を話せばいいんだ?」

「適当にやって。」

「適当にやってと言われても難しいんだよ。」

「でも、そうとしか言いようがないし・・・。」

「あっ、そうだ。初めて一緒に学校に行くんだし、こんな感じでいいと思う。わ・・・ボクに合わせて。」

「うっうん。分かった。」

「でも、なんでボクなんかと一緒に行こうと思ったの?」

「えっ?何か問題でもある?」

「だって、ボク、いつも暗いし、普段誰とも話さないし・・・。」

「私は別に気にしてないよ。ただ、か・・・川下さんとじっくりしゃべってみたかったから。」





 その後、学校に到着した二人は自分たちの教室に入った。

「おはよ~。」何人かのクラスメートが神之門に向かって言う。

「おはよう。」返事を返したのは神之門(川下)だった。

遅れて、川下(神之門)も、おはようと返事を返した。

「えっ?あっ、おっおはよう。やっ川下さん。」慌てたように返事をする。

「ねぇ、ちょっと。」自席に座ろうとしていた川下(神之門)の腕を挨拶してきたクラスメートのうちの一人が引っ張る。

「どうしたの?ももちゃん。急に、川下さんなんかと仲良くしだして。」

「何か不都合でもあった?」

「まあ、ないけど・・・。それにしても、今日、川下さんの雰囲気、違うよね。どちらかというといつものももちゃんみたい。」

「そんなまさか。入れ替わってない限りないよ。私はいつものももちゃんですよ。」(はは・・・ばれかけてる。そりゃ、神之門さんみたいだよ。だって中身は神之門さんなんだから・・・。)川下は内心焦っていた。「何かあったんじゃない?」

「まあ、そうかもね。」

「ごめん。ちょっと用があるから。」

「うん。行ってらっしゃい。」

川下(神之門)は、自分の席に座って本を読んでいた神之門(川下)の腕をつかみ、半ば強引に外に連れていく。その様子をクラスメートたちは茫然と見ていた。やがて、一人が口にした。

「やっぱりあの二人、今日なんかおかしくない?」


 川下(神之門)が神之門(川下)を連れてきたのは、人気のない廊下だった。周りを見渡し、だれもいないことを確認した川下(神之門)は怒りをあらわにした。

「駄目じゃないか!ボクを演じてくれなきゃ。バレたら全て計画が台無しなんだよ。」

「いいんじゃない。バレても。私は勝手に入れ替わらされただけだから。っていうか、だから計画って何なの?」

「それは・・・。」

「言ってくれないなら、私は協力しないわ。」

一瞬、川下(神之門)はうつむいた。そして、ため息をついてから再びしゃべり始めた。

「いいのか?死んでも。」

「えっ?」

「君が、しっかりボクを演じてくれたらそんなことにはならないと思うけど、もし、バレでもしたら、命を狙われかねない。」

「そんな・・・。」

「大丈夫。そんなことにならないよう、ボクが死んでも絶対守るから。」

「それが信用できると思う?」

「それは・・・」

「はぁ・・・とにかく,分かったわ。あなたのフリをすればいいんでしょ。」

「ありがとう。」

「私だって死にたくないもの。まだ、彼氏もできてないし、かなってない夢だってあるし。」











 ———昼休み———

「ねぇ、川下さん。」川下の隣の席の紺野が話しかけてくる。

「えっ?何?」神之門(川下)は驚いたように返事を返した。

「これ、買ったんだ。〝大雪のコールドケース〟‼」

「へぇ・・・。そうなんだ。」神之門(川下)は再び手元の本に目線を戻した。

「へ?」

「なにかあるか?」再び手元の本から顔を上げ、不思議そうに尋ねる。

「いっいや。なんでもないよ。」(おかしいな・・・。いつもの川下なら『え~!ほんと!読み終わったら貸して!』ぐらい言いそうなのにな・・・。)

その時、教室に川下(神之門)が戻ってきた。自席———神之門の席だが———に着きながら川下(神之門)はつぶやいた。

「はぁ、疲れた・・・。最近の女子高生って元気だね・・・。私も〝最近の〟女子高生のはずなんだけどなぁ・・・。いや、全部足したら、アラフォーか?昔はあの中にいたのにな・・・。」




 放課後。

 「ももちゃん。今日、部活ある?」神之門の友人が声をかける。

「ないよ。」

「じゃあ、一緒に帰らない?」

「ごめん。ちょっと、用事が・・・。」

「そっか。じゃあ、また明日。」

「バイバイ。」友人たちが去ったのを見届けると、川下(神之門)はため息をついた。そして、神之門(川下)に近寄る。

「ちょっと来て。」


 川下(神之門)は、朝、神之門(川下)を連れてきた人気のない廊下に再び向かった。

「なに?また説教?」神之門(川下)がいかにもうんざりしたように言う。

「いや。説教じゃない。今日の帰り、なるだけ一人にならないでほしいんだけど・・・。」

「誰もいないよ。一緒に帰る人なんて。」

「じゃあ、家まで送るね。」

「別にそこまでされなくても・・・。」

「君の安全のためだ。」

「わかったよ・・・。」(こんなんであと48時間も耐えられるかな・・・。はあ・・・。)

その後、神之門(川下)と川下(神之門)は、二人で帰ったのだった。
















3章  ひしひしと近づく危機 ―入れ替わり2日目―


 「おはよ~。」

朝、挨拶が飛び交う。一見、いつも通りの日常に見えるが、彼女たちは違った。

「はぁ~。」自席につきながら神之門(川下)がため息をつく。

「どうした?川下さん。ため息なんてついて。らしくない。」隣の席の紺野が神之門(川下)に声をかける。

「いや・・・、何でもない。」

「昨日から様子がなんか変だぞ。」

「そうか?」

「うん。いつもはもっと明るいのに。」

「なぁ、ボクと君って前から話してったっけ?」

「えっ!?うっうん。話してたけど・・・。」

「そっそうだよな・・・。ごめん。変なこと聞いて。」(嘘!川下さんのことだから、てっきり誰とも話してないかと思ってた・・・!)

「大丈夫か?疲れでもたまってるんじゃないのか?」

「そうかもな。」

「そっか・・・。ちゃんと寝ろよ。無理は体に良くないぞ。」

「うん。そうだな。今日は早めに寝るとするよ。」



 神之門(川下)は最寄駅から自宅に向けて歩いていた。左手には買い物袋が握られていた。

「♪今日は、肉じゃが、肉じゃが。じゃが じゃが♪」

鼻歌混じりに歩く神之門(川下)の後ろを黒ずくめの人物がつけてきていた。

(うん?誰か後ろをつけてきてる?)

神之門(川下)は不信がった。(もしかして、川下さんが言ってた危険ってこのことじゃ・・・。)

神之門(川下)は曲がり角を曲がった。後ろの男もややあってついてくる。

(やっぱり、私をつけてる。どうしよう・・・。これで襲われでもしたら・・・。)

不安のあまり、神之門(川下)は駆け出す。後ろの男も駆け出した。

「(なんで・・・なんで・・・私がこんな目に!?)誰か!助けて!」

しかし、ここは閑静な住宅街から少し外れた裏路地である。誰かが来てくれる可能性は極めて低い。神之門(川下)が諦めかけたその時だった。

「川下さ~~ん!ごめん~!駅まで迎えに行く約束だったのに、遅くなって。」

「あ・・・!かわ・・・神之門さん!」

その様子を見ていた(?)後ろをつけていた男は慌てて逃げていった。

「神之門さん。大丈夫だったか?」

「うん。大丈夫だったけど・・・あの人何なの?」

「わからない。ボクも初めて見た。」

「そうなの?てことは、前に行ってた危険とはまた違うの?」

「うん。多分。」

「多分って何?」

「いや、相手の顔が見えなかったから。」

「誰が危険をもたらすかわかってるなら、警察に相談したら?川下さんの席の隣の紺野君のお父さん、元・警視庁捜査一課警部で、今は、京都府警捜査一課の警部だよ。相談すればいいじゃん。いつも話してるんだからさ。」

「いや、それには及ばない。しかも、こんな浮世離れした話、警察が取り合ってくれるわけない。前もそうだったし。」

「〝前も〟?」

「いや・・・何でもない。ともかく、ボクの手で捕まえなきゃダメなんだ。」

「なんかよくわかんないけど、絶対、守ってよね。もらい事故とか、私、いやだからね。」

「うん。分かってる。それより、今日、君の家に泊まってもいいか?」

「えっ?」

「だって、君、一人暮らしだろ。それに、また、狙われても困るし。絶対、死んでも、君のこと、守ってあげるから。」

「えっ・・・。」その意思の強さと川下(神之門)のカッコよさに思わず、神之門(川下)は顔を赤らめた。「わっわかった・・・。そこまで言うなら。でも、どうしてここまでしてくれるの?」

「だって、君はボクにとって大切な人なんだもの。それに、ボクが巻き込んでんだから。」少しの間沈黙が流れる。先に口を開いたのは、川下(神之門)だった。

「ちなみに、夜ご飯は・・・その・・・いただけますか・・・?」

「ふふふ。川下さんでも、ご飯のこと気にするんだ。」

「え?」

「いや、川下さんのことだから、本と勉強のことしか頭にないのかと思った。」

「そこまで頭はおかしくない。」

「そりゃそうよね。人間だもの。じゃ、着替えとかとってきたら。」

「その必要はないんだ。」

「えっ?じゃあ、明日もその恰好のまま?着替えないの?」

「いやいや。もう、持って来てる。さっきのことがなくても、泊めてもらう気だったから。」と自慢げに川下(神之門)がバックを掲げて見せ、笑う。

「・・・。」声も出ない神之門(川下)であった。「なんか、川下さんらしいね。」

「そうか?」

「うん。まあ、いいや。入って?」神之門(川下)がドアを開け、招き入れる。

「お邪魔します。」川下(神之門)も後に続く。

「案外、広いんだね。」

「もともとは3人で暮らしてたからね。」

「お母さんとお父さん?」

「うん。小学生の頃に病気と事故で死んじゃったんだ。」

「どんな両親だったんだ?」

「お母さんは強くて優しい人。お父さんはいつも仕事してる人だった。家に帰ってくるのも遅いし、休日も無いし。」

「そうだったんだ。」

「そ。だから私、あんまり家族の在り方とか幸せとか親孝行とか親の愛情とか分かんないんだよね・・・。」

「家族ってね、不思議なもので身近にいるとそのありがたさに気づけないんだ。でも失ったときに始めてその必要性を理解する。所詮そんなものだ。だけど、人間には家族が必要なんだ。時にくじけそうになったり、悲しくなったりするだろ?そん時に必要なんだ。」

「うん。」

「家族を失うことの辛さを知っている人はその分、強くなれる。だけど、その分一人で抱え込みがちなんだ。だから・・・その、何かあったらボクになんでも相談してよ。友達なんだからさ。」

「友達になった覚えもないし、何ならあなたのせいで何かあるんだけど?」

「まあそうだね・・・。」

「ま、ありがとう。そう言ってくれるだけでうれしいよ。」




その日の夜。

「いよいよ。明日だ。やっと、やっと、やっと、この日がやってくる。川下さんは、いったいどんな顔をするんだろう。楽しみだ。ふふふ・・・ハハハハハ・・・ハハハハハハハハハハ!!」






4章  迫る運命の時 ―入れ替わり最終日―


 翌朝。神之門(川下)と川下(神之門)は仲良く二人で登校した。そんな二人を見て、クラスメートたちはこそこそと話し始めた。その中の一組には、川下の隣の席の紺野や、クラスで一番の奇人と言われる三池、いたって平凡な蔵前の3人組もいた。

「最近、川下、変わったよな・・・。神之門とも仲良くなったみたいだし。まぁ、俺とはあんまり話さなくなったけど。」

「確かに。」と蔵前。

「でも、それがなんだっていうんだい?」三池が言う。

「えっ?」

「別に彼女たちが仲良くなろうと、自分には全く関係ないだろ。どちらかを殺そうとでもしてない限り。」

「三池。お前ってほんとに人の心、ないよな。」

「いやいや、これが普通だろ。」

「いやいや、人の心配をするのもやさしさも人として大切だろ。お前って本当に“奇人・三池”ってあだ名がぴったりだな。」

「そうかい?」そういうと、腕を組んでいた三池は右手の人差し指で左手の二の腕をたたき出した。それを見ていた紺野はどこかに行こうとする。

「紺野。どこ行くんだ?」蔵前が尋ねた。

「ちょっと、先生に呼ばれてたの忘れてた。」

「わかった。行ってらっしゃい。」


 紺野は廊下に出ると物陰に隠れて電話をかけ始めた。

「もしもし。警部。お願いがあります。今日の夕方、俺の高校に来てくれませんか?きわめて重大なお話があるんです。」



 ———放課後———

「ねえ、神之門さん。話があるんだけどちょっと来てくれないか?」

「今じゃなきゃダメか?」

「あぁ。絶対。」

「っ・・・わかった。」


紺野が川下(神之門)を連れてきたのは、この間、川下(神之門)が神之門(川下)を連れてきた廊下だった。

「ねぇ、話って何?」

「あのさ・・・神之門。いや・・・」

「えっ?何?もしかして告白?」川下(神之門)がわざとらしく明るくしゃべる。

「真剣に聞いてくれないか?神之門———いや川下。」

それを聞いて川下(神之門)は笑い出した。「やっぱ、君にはかなわないよ。紺野君。どうして、ボクだと分かったんだい?」

「おととい、というかここ最近の川下の態度、つまり神之門の態度だよ。彼女は、俺と話そうとしなかったし、ミステリーの話題にも興味を一切示さなかったからな。彼女は普段の川下しか知らないわけだから、だれに対しても冷たく接してたんだろうけど。ほら、川下だったら食いつくだろ。〝大雪のコールドケース〟」

「えっ⁉買ったの?」

「うん。」

「読み終わったら貸して!」

「いいよ。それより、三池に狙われてんだろ。君の話、聞かせてくれないか?」

「分かった。」真剣な顔つきに戻った川下(神之門)が口を開く。「ボク、人生3周目なんだ。」

「えっ?」

「さすがの紺野君でもそこまではわからなかったか・・・。実は、ボク、今までの人生で二回とも三池に殺されたんだ。あの天文ドームで。1回目死んだあと、『あっ死んだのかな。』って思って目を開けたら、ボクが高校1年の時に戻ってたんだ。次こそは殺されないように過ごそうと思ったんだが、もうこの高校に入ってしまってるわけだから、殺されるのは時間の問題だ。そうこうしてるうちに、また、三池に狙われた。1回目と同じように睡眠薬をかがされて、天文ドームに連れてかれた。でも、その時は何の因果か知らないけど、目覚めたとき三池がいなかった。そこで、ボクは逃げ出すことができた。けど、直後に三池に見つかったんだ。で、北堀公園に向かう道のほうに追いやられていって、通り魔殺人事件に見せて殺されたんだ。」

「そんなことが・・・。」

「でも、今回は人生の途中からじゃなくて、最初からだったんだ。」

「じゃあ、なんでここに?」

「なんか、受付みたいなところにいて〝もう一度人生をやり直せます。ただ、過去を変えてはいけません。変えていいのはあの事件だけです。〟って言われたんだ。。」

「それで、またこの高校に入学したのか。」

「うん。でも、なんで三池はずっとボクを狙ってんだろう・・・。1週目の時は、今のももちゃんたちのグループにいて、生徒会長とか、文化祭の主役とかして結構目立ってたから、それで逆恨みされたもんだと思って、2回目も今回も限られた人としか親しくしなかったのに・・・。」

「三池は多分、完全犯罪を成し遂げてみたいんだよ。それで、一人暮らしの川下に狙いを定めた、っていう訳だと思う。あぁ、でも、神之門さんだって、一人暮らしだよな・・・。」

「なるほどな。それなら、全部、説明がつく。」

「どういうことだ?」

「ももちゃんはボクの人生1回目と2周目の高校生活の時も一人暮らしじゃない。多分、今回は生まれたときから人生をやり直しているから、過去が変わってしまったのかもな。」

「なるほど。」

「でも、三池が実行した日は2回とも違うんだ。だから、三池がいつ実行するのか・・・。」

「それなら、たぶん、今日がその決行の日。」

「えっ?」

「三池のやつ、今朝から妙に焦ってんだ。川下と神之門が仲良くなったからの様子も変だったし。昨日だって川下の体をした神之門の後をつけてたんだ。」

「えっ、じゃあ、昨日のストーカーは三池なのか?」

「いや、あれは俺だ。三池が近づけないように、だからストーカーのフリをしたんだ。すまない。心配をかけて。」

「いや、それはいいんだが、もし君の話が本当なら、急いで戻らなくちゃ。」

「あぁ。でも、いつもみたいに何人かはまだ残ってるだろうし、それに、彼女は今日、日直だ。だからまだ、大丈夫な気もするが・・・。」

「とにかく、行ってみよう。」「ああ。」

そのころ。神之門(川下)がいる教室。

神之門(川下)は日直として、だれもいなくなった教室の戸締りをしていた。

「紺野君と川下さん、どこ行っちゃったのよ・・・。これじゃ、帰れないじゃない。」

ぼやきながら、彼女は黒板消しをクリーナーにかけていた。その動作音に隠れるように、一人の人物が彼女に忍び寄る。そして、彼女の背後にたどり着くと、その右手に持ったハンカチを彼女の口元に押し当てた。

「・・・!(誰か・・・。)」バタン

神之門(川下)は倒れた。横たわるその姿を見て不敵に笑みを浮かべたのは———三池だった。


紺野と川下(神之門)の二人は神之門(川下)が連れ去られた後の教室に戻った。

「クソ!一歩遅かったか・・・。」思わず川下(神之門)は、そばの机をたたいた。

「今日に限って、みんな一斉に帰るとは・・・。すまない。俺が今、呼び出さなきゃよかった。」

「いいよ。紺野君のせいじゃない。」二人は、川下の席に近づいた。「なぁ、これって、ボクのリュックだよな。」

「これがここにあるということは・・・まさか・・・。ちょっと待ってくれ。父さんに連絡する。」

「君のお父さんって、本当に京都府捜査一課なのか。」

「あぁ。そうだよ。警視庁時代に拳銃を発砲して、京都府警に異動になってそれきり。本庁に戻る話もあったらしいけど、もう6年近くこっちにいるんだ。」紺野が携帯を耳に当てながら答える。「あっもしもし。警部。最悪の時が来てしまったみたいだ。早く、俺の高校に来てください。」



 「うっうぅ・・・。」重い頭を抱えて、神之門は起き上がろうとする。しかし、体に力が入らず、まったく動かない。

(私、死んだのかな・・・?やっぱり、川下さんのことなんて信じるんじゃなかったな・・・。夢だってかなってないし。第一、体だって戻ってないのに、死にたくないよ・・・。)

その時だった。

「いい加減、起きてくれないか?川下さん。」

「えっ?」

誰かに声をかけられて、神之門(川下)は目を開けた。目の前には、三池が立っていた。

「えっ?」

「ようやく起きたか・・・。」

「三池君?えっ、なんで?」

「・・・。」三池が神之門(川下)に無言で襲い掛かろうとする。その手にはナイフが握られていた。

「やめて?三池君!誰か!助けて!」

「今更、助けを呼んだって無駄だよ。君は今から、僕の被検体になるんだ。大丈夫。苦しくないように、すぐいかせてあげるから。それに、誰も、ここを突き止めることなんてできやしない。」

「そんな・・・。」

その時だった。急に周りが明るくなった。三池がその明るさに驚き、神之門(川下)から少し離れたその時、誰かが神之門(川下)に抱き着いてきた。

「ごめん。神之門さん。ほんとにごめん。」抱き着いてきた人物は、神之門(川下)の耳元でこうつぶやいた。

「やめろ!三池!」少し離れたところから、今度は男の声が響く。

「くっ!」そして、三池にも誰かが飛びついたのだろう。短い叫び声の後に倒れるような鈍い音がした。しかし、明るさに目が慣れ、その二人が誰なのかが分かる前に、神之門(川下)の意識は途絶えた。



 「なんで・・・なんで、分かったんだ?」

「お前、自分じゃ気づいてないだろうけど、イライラしてるとき右手の人差し指で左手の二の腕をたたき出すんだよ。それにお前は前に言ってたよな。〝完全犯罪っていいよね〟って。だからだよ。他人との接点の少ない川下を狙って、発見を遅らせる算段だったのに、川下が神之門と仲良くなり始めたから焦ってたんだろ。」

三池は押し黙ったまま、うなだれた。

「三池。立てよ。下に警察が来てる。自首してくれないか?まだ、お前にはやり直す機会がある。」

「もう何でもいい。結局、神様なんていないんだ。あと一歩で完全犯罪だったのに・・・。」

パチン

紺野が三池の頬をたたいた。

「ふざけんな!人の命をなんだと思ってるんだ!人の命はお前が考えている以上にかけがえのない、一度傷つけられたらもう二度ともとには戻らない、尊いものなんだ!人の命の重さもわからないやつが、知識だけ勉強したってなんの意味もない!人の命の重さもわからないやつが、自分の夢なんかかなえられるはずもない!それに、何度、お前が完全犯罪をしようとしても、絶対、俺が未然に防いでやる。」

「落ち着け。」今にもつかみかかりそうな紺野の肩を入ってきた警官がつかむ。

「父さん・・・。」紺野が言う。

「未然に犯罪を防いだのはよかったが、犯人に対して手を上げたり、怒鳴ったりするのはよくないぞ。」

「すみません。」

「でも、いい説教だった。」

「えっ?」

「三池 陽人君。不当逮捕・監禁罪及び傷害未遂の現行犯で逮捕する。」

「紺野警部、急にいなくならないでください。えっ?」あとから入ってきた刑事がその場の状況に驚く。「事件、解決したんですか?」

「ああ。早くしろ。黒鳶。連行するぞ。」「はい。」

「ねえ!川下さんの意識がない!」川下(神之門)が声を上げた。

「早く病院に!」黒鳶と呼ばれた刑事が言う。



 病室のベッドに一人の少女が寝ていた。その枕元にもう一人の少女がいた。疲れてしまったのか、ベッドに頭を持たれかけて寝ていた。さらに、部屋にあるソファーに少年が座っていた。やがて、ベッドで寝ている少女が目を覚ました。それに気づいた少年はベッドの少女に近づいた。。

「大丈夫かい?神之門さん。」

「えっ?ここは?」

「病院。」

「なんで私は病院に?」

「天文ドームで三池に襲われたあと、神之門さん、倒れたんだよ。」

「そうだったの・・・。ごめんね。」

「君が謝ることじゃない。」

「そういえば ・・・!私の・・・体・・・あっ・・・」

「大丈夫だよ。全部、話は聞いてる。川下から。」

そういうと紺野はベッドに頭を持たれかけて寝ている少女を指差した。

「さっきまで川下、起きてたんだけど疲れがたまったんだろうな。寝ちまった。ずっと、心配してたんだよ、あいつ。『ボクのせいだ』ってすごく落ち込んでたんだ。あっ、ちなみに、三池は逮捕されたから、もう危険はないよ。」

「いろいろありがとね。紺野君。」

「いいんだよ。刑事の息子として当然のことをしたまでさ。」

「ふぁぁぁぁぁぁぁああ。あれ、ボク寝てたのか・・・。あっ!神之門さん!よかった・・・目覚ましたんだな。大丈夫⁉怪我無いか?」

「うん。大丈夫みたい。」

「よかった・・・。」

「じゃあ、俺は警察に行ってくる。父さんに呼ばれてるから。」

「あっ、ありがとう。助けてくれて。」川下が立ち上がって言う。

「いえいえ。じゃ、またあとで。」

紺野が病室を後にする。

「あのさ・・・・・神之門さん。本当にごめんなさい。こんな危険な目に合わせて。絶対守るとか言ったのに結局守れなかった・・・。本当にごめんなさい。」

「ほんとだよ。いい加減にしてよ。散々巻き込んで、結局守れないなんて。」

「ごめん・・・。」

「ふふふ。嘘だよ。冗談。いいよ。許してあげる。だって、私の親友だもの。川下さんは。」

「神之門さん・・・。」川下(神之門)が泣き出しそうになる。

「そんな顔しないの。せっかくの顔が台無しだよ。」

「うん。分かった。ごめん。神之門さん。」慌てるように川下(神之門)が笑う。

「実は、私、嬉しかったんだ。」

「え?」

「私、小学生の時に両親を亡くしてて、ずっと、一人だったからさ。なんていうんだろう、同じ独り者同士、親近感がわいたというか、なんというか。」

「うん。」

「私、周りの子ともなんか、壁があるというか。なんか、自分の本心をいえなかったんだよね。私初めて友達に怒ったし。」

「確かに今まで神之門さんが怒ってるとこ見たことなかったからこの間キレられてびっくりしたんだよね。」

「あの時はごめんね。突然の出来事にわけがわかんなくなっちゃった。」

「あれはボクが悪かったんだから、気にしなくていいんだ。ボクが自分の復讐に神之門さんを巻き込んだんだから。」

「川下さん・・・。」

「ほんとに、ごめんな。巻き込むにしても、ちゃんと説明してからにするべきだった。ちゃんと人のことを信じるべきだった。」

「川下さん。もういいんだよ。私もこうしてちゃんと今、生きてるし。でも、もし、死んでたら一生呪ってやるって思ってたけどね。」

「神之門さん・・・。」

「あ。もちろん今は呪おうなんて思ってないからね。安心してよ。」

「ほんとに、ありがとな。」

「あのさ、なんで入れ替わる相手に私を選んだの?」

「人生一周目の時、ボクと君は親友だったんだ。だから、話せばちゃんとわかってくるだろうと思ってね。もともと、馬が合ってたわけだし。あと、君ならボクもフリをするのが簡単だと思ったから。」

「そうだったんだ。」

「ほんとにごめんな。変なことに巻き込んじゃって。」

「もういいよ。済んだ話なんだから。くよくよしないの。それに、親友なんだしさ、さん付け、やめようよ。」

「でも、そうしたらなんて呼ぶんだ?」

「あだ名でしょ!」神之門(川下)がニカっと笑った。

「神之門さんはももちゃんがあるけど・・・ボクは・・・。」

「う~ん・・・。あっ!〝ひび姉〟は?なんか、年上感あるし、お姉ちゃんみたいに頼りがいあるし。」

「ふふふ。」

「どうしたの?」

「いや、ボクが何度人生をやり直したとしても、ももちゃんは変わらないんだなと思ってな。もちろん、ももちゃんは知らないと思うけど、ボクがまだももちゃんのグループにいた人生1周目の時は、ひび姉って呼ばれてたんだ。」

「そうなんだ。」

「そう。あっ、そろそろ、元に戻ろうか。」「うん。」

川下(神之門)があの時と同じように左手を、両目を隠すように持っていき、中指と薬指の間からその可憐な右の瞳をのぞかせた。

 それから少し経った後。

「大丈夫そうかい?ももちゃん。」

「うん。でも、3日間ひび姉の姿でいたから、なんか違和感がある。」

「あぁ・・・。確かに、それはある。」

「だよね。」

二人の笑い声が病室に響いた。

その時、私は思った。

友情ってふとしたことで生まれるものなのかもしれない。

でも、その友情は自分たちの行動次第で、かたいものにも、もろいものにもなりうるのだと。そして、それが本当の友情なら、それが裏切られることはないのかもしれない。

そして、人の〝特別〟は、何かのきっかけで、人を救うものになると思う。

 約40年間生きてきて、長年の謎がやっと解けたように思った。そして、ボクは固く心に誓った。

『ももちゃんとの友情を大切にしていきたい。どんな時も、相手の支えになれるようなそんな二人なりたい』と。

「ねぇ、ひび姉。」

「へ?」

「やっぱり聞いてなかったよね?」

「うん。ごめん。考え事してた。で、なんだっけ?」

「だから、ひび姉の人生2回分の話、聞かせて。」

「ボクはいいけど、長くなるぜ。」

「いいよ。入院してたら、どうせ暇だし。」

「わかった。じゃあ、一周目のお話からな。もともと、ボク、ももちゃんたちのグループにいたんだ。1年の劇もボク、主役やったんだぞ。」

「そうだったんだ。」

「う~ん。そうだな・・・。何を話そうかな・・・。」

これからも続く。彼女たちの平穏な日常は。二人が望む限り。

5章  朝

 いつもと変わらない朝。

でも、川下と神之門のクラスは今までとは違う朝を迎えていた。

「ねぇ、ひび姉。」川下にクラスメートが話しかける。

「うん?」

「数学、教えて!」

「いいよ。どこだ?」

「全部!」

「はいはい。ふざけないで、ちゃんと答えてくれよ。」

「すみません。」

「ももちゃん。」神之門の周りにも人だかりができていた。

「化学教えて。」

「いいけど、どこ?」

「酸化数。」

「あぁ~。そこか・・・。いいよ。教えてあげる。覚悟してよ~。そこ、結構難しいからね。がっちり教えてあげる。」

「ひぇ~。ももちゃん怖い~!」

少し離れたところに、紺野が蔵前と一緒に立っていた。

「三池がいなくなって1ヶ月か・・・。」蔵前がため息交じりにつぶやく。

「そうだな。でも、川下が明るくなったから良かったじゃないか。」

「あぁ、そうだな。」

「ほんと、笑ってる彼女のほうがいいよ。」

「なあ、紺野。」

「どうした?」

「お前、恋してるだろ。」

「えっ?誰に?」

「川下に。」

「そんなまさか。」

「嘘つけ。最近、川下さんがあんまり話してくれなくなって寂しいんだろ。」

「そんな訳———」

「いや、顔にそう書いてある。なぁ、早く本当のこと言って楽になれよ。」

「いつの時代の取り調べだよ!」

「いいから、言えって。」

「い~や~で~す~!」

そう言いながら、紺野が自席に戻り、カバンから教科書を取り出す。その横の席にはクラスメートに数学を教える川下が座っている。その時、チャイムが鳴った。皆が慌てて自席に戻る。今日もまた、何も変わらない日常が始まる。














6章  エピローグ

 6月。

「今年の文化祭ですが、何やりたいですか?」

黒板の前に立った川下が切り出す。

「はい!」神之門が手を挙げる。「私、一つやりたい作品があるんだけど・・・。」

「どんな作品なの?」

「えっと、私とひび姉が入れ替わっちゃう話。入れ替わりミステリーって感じかな。」

「もっと具体的に!」紺野が食いつき気味に尋ねる。

「ひび姉は人生3周目の設定で、ある人に何回も殺されてるの。でも、殺されず人生を過ごすために何度も同じ人生をループしてるの。で、ある時、72時間だけ人と入れ替わることができる力を手に入れた。その力を使って殺してきた犯人に復讐するって言う話。」

クラスメートたちが面白そうと口々に言う。

「ほかになにかやりたいものありますか?」

クラスメートたちは首を横に振った。

「では、今年はこの案で行きましょう。また今度、役割を決めるので、何やりたいか考えておいてください。」

「タイトル、決めておかないか?」紺野が提案する。

「なにか思いついてる?ももちゃん?」

神之門は一度下を向き、再び前を見て、ニッコリと笑った。そして、言った。

「こんなのどう?〝二人の人生~交わる運命の72時間~〟」

「なんか長くない?」

「う~ん・・・。それなら〝交わるふたり〟!」

「なんか、それだと恋愛小説みたいだな。」

「じゃあ〝運命の交錯点〟!」

「それにしようよ!」





この物語は、フィクションです。実在する人物・団体・施設とは一切関係はありません。     完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ