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掲載日:2026/02/10

髪を下ろしている彼女は初めて見た。


いつものポニーテール姿とはがらりと印象が変わり、ジャージ姿とぎこちない彼女の笑顔は、物語の終わりを伝えていた。



高校生活もまだ慣れていない5月の夕方、僕たちは2ヶ月ぶりに会った。遠距離カップルであれば2ヶ月はちょうどいい長さなのかもしれない。学校が別々になるだけでこんなにも近い人に会えなくなるのかと、少し後悔した。正確には、学校が別々になったからということを、僕たちが会えていない理由にしようとしていた。


彼女の家に近づいたのも久しぶりだった。彼女の家の周りは相変わらず特有の匂いがした。甘いというのか暖かいというのかどう表現していいのか分からないその匂いは、いろんな記憶を呼び起こさせる。それとは違った彼女自身の匂いもまた、少し僕の心を傷つけた。


僕たちは、近くの公園まで歩いていくことにした。話さなければならないことはたくさんあるのに、逆にそれが、何から話し始めていいのかを惑わせた。300メートルほどの公園までの道のりをお互い何も喋らずに歩いた。話すことが何もなくなって歩いていた数ヶ月前の沈黙とはまるで違った。



公園には誰もいなかった。夕日だけがやけに綺麗で、遊具たちを照らしていた。


近くのベンチに座った。気のせいか、木製ベンチは腐食が進んだように見えた。お気に入りのズボンであればためらうようなそのベンチに、彼女もすっと座った。


「俺のこと、どう思ってる?」


こんな質問から始める予定はなかったのに、自分の口から言葉として出たのはこれが最初だった。


「ん…、あたしの中で好きっていうのが何か分からなくなって、本当に申し訳ないと思ってるけど…」


彼女はもうすでに涙声だった。まさか一言目から泣いてくるとは思っていなかった自分は意表を突かれ、喉が痛んだ。


「でも誕生日くらいは何かして欲しかったな。」


数週間前に自分の誕生日があった。彼女と付き合ってから二度目の誕生日。一度目の誕生日のとき彼女はタオルをくれた。いつも以上に可愛い笑顔をしていた。高校生になって連絡の頻度が下がり、返信もだんだん冷たくなっていた彼女でも誕生日くらいは何かしてくれると思っていた。というより、誕生日に何もなかったらもう終わりだろうと思っていた。


誕生日の数日前に「今年は忙しくて何もしてあげられないかも」と連絡がきた。


「ごめん、本当に忙しくて。」

「同じクラスの子の誕生日にジュース渡したって聞いて。ジュースだけでも、おめでとうっていう言葉だけでも欲しかったな。」


本当に欲しかったのは、上手く言葉にすることはできなかった。



しばらく沈黙が続き、今度は彼女の口から言葉が出た。


「でも最近、学校でなんか見張られている感じがしてて、辛かった。」


その一言でこらえていた涙が自分の目から溢れ出た。


高校に進学して、彼女のことが心配だった自分は、彼女と同じ高校に行った友達に見守ってほしいとお願いした。彼女に他の男が近づかないように。自分から離れていかないように。しかし、それは彼女にとっての監視であり、自由を縛る鎖であった。自分の不安と嫉妬によって彼女は苦しんでいた。


「ごめん、辛い思いさせて、本当にごめん。」


彼女の前では絶対泣かないと決めていた自分が、人前でこんなに泣いたことすらないほど泣いた。



二人が涙を流している間、静まり返った公園は次第に彩をなくしていた。


この前、この緑色の芝生の上で彼女とボールを蹴った。赤色と青色のブランコを、彼女は遠慮気味に、僕は思いっきり漕いだ。隣にある黄色のシーソーにはなぜか彼女は乗りたくないと言った。銀色に光る滑り台は少し熱くなっていた。ぶらぶらと歩きまわる彼女は、ポニーテールがよく似合っていた。


日が落ち、辺りが暗くなるにつれてそんな記憶も薄らいでいった。


そのとき、彼女のスマホが鳴った。彼女はもう一度涙を拭き、電話に出た。この状態で出るのかと驚いたが、相手は彼女の母親のようだった。つい数秒前まで泣いていたとは思えないほど口調は明るくなり、まるで人が変わった。それは、この彼女はもう自分の前にいないということを、この彼女を自分は奪ってしまったということを目の当たりにさせた。


「うん、わかった。」そう言って電話を切ると、彼女はもう帰らないといけないと言った。



「付き合って無駄だったとか全然思ってないし、楽しいことたくさんさせてもらったなって思ってる。だからこれからはお互いの道をそれぞれ進んでいこう。」


そう言ったのは彼女だった。帰り道、彼女は、心なしか明るくなったように思えた。最後くらい明るく終わろうという彼女の最後の気遣いだったのかもしれない。


家の前に着いた。ここで何回ハグをしただろうか。親が帰ってくるかもしれないというときに何秒間身を合わせただろうか。彼女からどれだけの勇気とエネルギーをもらっただろうか。自分は何か彼女に与えることはできたのだろうか。


「最後にハグだけ。」


言った瞬間、言わなきゃよかったと後悔した。彼女は少し戸惑った様子を見せたが、じゃあハイタッチしようと言って手のひらを向けた。申し訳なく思いながら僕も手のひらを向けた。


「じゃ、元気でね。」

「うん。」



手を合わせた時の彼女は、綺麗な笑顔をしていた。


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