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盈月は雲隠れ

作者: 竹取夜鷹
掲載日:2026/01/07

「ねーなんだっけ。思い込んだらその通りになるやつ。オッサンの髭剃りだっけ」

「オッサムさんに謝ってこい。プラシーボ効果だよ」

「それそれぇ。博識だね」

「お前に学がないだけだ。一般教養だよ」

「それでなんだっけ、プシラーボ効果を昨日テレビで見てさ、試してみたいんだよ!」

「教室でか?」

「別に廊下でもいいよ。じゃあ、私のことが好きって思って!はいそこ!無理とか言わない!私も君のことが好きだって思うから!」

「はぁ、具体的にどれくらいだ?」

「具体的に?うーん、監督の機嫌と天気がいい部活くらい!」

「ちげぇ。時間だ」

「あ、そっちね。じゃあ10秒!よーいどん!」

「はぁ」

「よし、十秒経ったよ!こっち見て!目と目合わせて!」

「はいはい」

「・・・・・・・・・・・・」

「おい、なんか言えよ」

「え、あ、あぁごめん!ちょっとトイレ!」



「ねぇ、誕生日なにが欲しい?」

「んーなんでもいいよ。君が私のために考えてくれたならね」

「困るなぁ。ものが欲しい?思い出がほしい?」

「どっちでもいーよー」

「うーん、じゃあ何渡しても文句言わないでね。ちょっとイオン行ってくる」

「ん、私も行く」

「え、それじゃあプレゼントのわくわくがなくなっちゃうよ」

「いいのいいの。ほら、行こうよ」

「いや、ごめんお留守番してて。俺ちょっと本気で選びたいから」

「わかった、楽しみに待ってる」

「確か今日宅配便来るから受け取っといてね。印鑑はいつもの場所ね」

「ふふふっ、不用心だね」

「なんの話?」

「気にしないで。朴念仁」

「・・・本当になんのこと?」

「いいからいいから。ほら、暗くなっちゃう前に行った行った」

「わかった。いってきます」

「ん、いってらっしゃい。気を付けてね」



「・・・まだ飲むの?」

「うるさいですねぇ。またお小言ですか」

「お小言も何も、君を家まで送り届けたくないんだよ」

「先輩酔いませんねぇ」

「ああ。酒に強いんだ」

「つまんない人生ですねぇ。仕事のことを酒で忘れられないなんて」

「お前こそ、酒に逃げないとやってられないんだろ」

「そりゃあやってられないですよ。残業残業残業。大学受験してる間のがずっと楽でしたよ」

「ほんとか?俺あの大学入るのすげー苦労したけど」

「私は目標がありましたからねー。先輩、乾杯しましょ」

「またか。5回目だぞ。今度は何に乾杯するんだ?」

「ん-頑張った私の労いの乾杯ですよ」

「全部それだろ」

「先輩はいいですよね。帰ったら寝るだけですからね。一人暮らしはつらいですよ」

「そうでもないんだなぁ。やれ靴下の脱ぎ方がどうとかやれ半額シールだとか」

「惚気るなぁ。私も恋人欲しーよー」

「や、お前モテるだろ」

「いつの話をしてるんですかぁ。それは過去の栄光ですよ」

「まぁ、恋人が欲しいならマチアプでも使うんだね。ほら、行くぞ」

「帰るんですかぁ?」

「帰りたいのか?」

「付き合ってくれますか?」

「まぁ、今日だけな」

「やったー!先輩大好き」

「・・・それ、大学のうちに聞きたかったよ」



「明日から何するの?」

「何するって、バイトだよ」

「夢がねーなぁ。せっかくの夏休みなんだよ。しかも高校1年生の。1番遊べるだろ」

「遊ぶためには何がいる?」

「ん-時間だね」

「・・・確かに。でもそれ以外にもあるだろ」

「遊び相手?」

「別に1人でも遊べるだろ」

「それは君みたいなオタク君しかできないんだよ」

「じゃあ陽キャどうしでつるんでくださいね。では」

「待ってよ、話は終わってないよ」

「これ以上何を話すんだよ。僕は夏休み5連勤を3回するんだ」

「オタク君はなんでそんなにバイトするの?遊び相手がいないの?」

「的確に僕の心を抉るなぁ」

「はははっ。私は君と違って頭がいいからね」

「さっき帰ってきたテストの順位は?」

「ん?8位。あんたは?」

「・・・11位」

「ま、まぁそんなに落ち込まなくて大丈夫だよ」

「ふんだ。神は二物を与えないとかいうけどさ、僕には何にも渡してくれやしない」

「や、オタク君はいいもん持ってるよ」

「抽象的な慰め。般若心経かよ」

「ふふふっ、少なくとも君はさ、私をメロメロにさせられるよ」

「・・・・・・え」

「んじゃ、またあそぼーね!ラインするから無視すんなよー」



「あれ、いらっしゃい。随分久しぶりですね」

「やぁ後輩君。僕もまさか君に会えるとは思ってなかったよ」

「何か飲みます?いつものでいいですか?」

「ふふっよく覚えてるね」

「そりゃぁ、あんなに通われたらいやでも覚えますよ。連日のように来てましたし」

「君みたいな薄情者は僕のこと忘れてると思ったよ」

「まさかね。はい。いつもの」

「・・・ごめん、砂糖とミルクも貰っていいかな?」

「あれ?気取ってブラックじゃあなかったんですか?」

「・・・え、気が付いてたの?」

「そりゃブラック飲んであんなに顔を顰めてたら」

「・・・いいから早く頂戴」

「ふふっ、はい」

「まったく。・・・少し見ない内にまたかっこよくなったね」

「ははっ、ありがとうございます。そりゃ半年経てば変わりますよ」

「そう言えば、彼女さんはどうしたんだい?」

「んー・・・死んじゃったんですよ。交通事故で」

「・・・ごめん」

「いや、謝んないでください。誰も悪くないんですから。先輩はいつまでこっちにいるんですか?」

「僕も法事で帰ってきただけだから、明日帰っちゃうよ」

「そうですか。また寂しくなりますね」

「よく言うよ。あーあ。目論見が外れちゃったな」

「何か言いましたか?」

「うんにゃ、なんでも」

「そうですか。もし時間があるなら、今からアップルパイでも焼きましょうか?」

「いや、大丈夫。ご飯食べてきたし」

「そうですか。じゃあ、チョコを1つどうぞ」

「ふふっ、ありがと」

「いえいえ。先輩は将来何になるか決めました?」

「うん。前言った通り、翻訳家」

「そうですか。ま、僕はこの喫茶店を継ぐんで、日本に帰ってきたらいつでも寄ってくださいね」

「気が早いよ。それに、君の出勤日、もう知らないし」

「ま、誰にも言ってませんし。ここだけの話、日曜日は絶対います」

「知ってるよ。じゃあね」

「またお越しください」

「・・・ねぇ」

「どうかしましたか?」

「・・・・・・なんでもない。またね」



「おい、スマホ貸せよ」

「な、なんでですか」

「なんで説明しないといけねーんだよ。おら、貸せ」

「は、はい」

「お前馬鹿か?なんでロック解除してねーんだよ。ほら、解除しろ」

「はい・・・」

「ふん、最初からやっとけよ」

「・・・きょ、今日は殴らないんですか?」

「あ?アタシがいっつも殴るみたいに言うなや。ああ気分悪い」

「ご、ごめんなさい」

「・・・お前、このラインの女、誰だ?」

「え・・・なんのことですか?」

「とぼけんな!YUNAって女だよ!」

「・・・えっと、その」

「なに、言い淀んでんの?え?」

「・・・昨日、課題の範囲を聞かれただけです」

「お前、グループライン入ってないよな。なんでYUNAって奴はお前のラインを知ってんの?」

「・・・」

「答えろ!」

「・・・言うもんか!」

「なっ!てめぇ!」

「僕だって、僕だって!プライバシーがあるんだ!」

「・・・・・・・・・、その、悪かった。ごめん」

「・・・・・・うん」

「・・・あたし、もう行く。二度と行かない。こんな部室」

「・・・」

「ちっ」



「ねぇ、あの約束、まだ覚えてる?」

「・・・なんの話だ?」

「そうだよね。普通そうだよね」

「お前、どうしたんだ?らしくないぞ」

「らしいって、君から見た私ってなに?」

「なにって」

「幼馴染み?友達?知り合い?同僚?それとも、元恋人?」

「・・・全部だ」

「全部。そう全部だよね。じゃあ、なんで逃げるの?」

「・・・」

「私に負い目を感じてるの?それとも、罪悪感?背徳感?」

「・・・・・・」

「私は、今のこの状態結構幸せよ。君が毎日来てくれるし」

「何が言いたいんだ?」

「いいや。なんでもないよ。ただ昔の約束を覚えてるかなーって」

「覚えてない」

「即答だね。涙が零れるよ。ああ悲しい」

「・・・今日の飯だ」

「今日は親子丼か。丼物ばっかり。変わってないね」

「・・・」

「七味は・・・もうかかってるか。さっすが。明日はオムライスが食べたいな」

「断る」

「思い出を汚したくないの?」

「黙れ!このッ!・・・・・・ちっ!」

「うふふ、相変わらず血の気が多いのね」

「・・・食い終わったら食器は外に出しておけ」

「はいはい、知ってる知ってる。・・・ん?なに突っ立ってるの?」

「・・・ハッピーバースデー」

「・・・・・・ふ、ふふっ、覚えてたんだね。ありがとう、愛してるよ」

「死ね。このクソ野郎」

「ねぇ、私は、まだ愛してるからね」

「・・・死ね」

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