九話『それは異界の人』
笑いながら入ってきたその女は、「みんな馬鹿だなぁ!!」と皆を馬鹿にするように笑って言った。
「お前…、どれだけの者に迷惑をかけたか、自覚しているのか?」
苛立った様子で、バングが彼女を詰める。
彼女は「そうやって詰めるのやめてよ〜」と呑気なことを言って、少し距離をとった。
「ボクは何も悪くないでしょうよ。
あんなのも見破れないあんたらか悪いだけ。ボクのせいにしないでよね〜。」
「お前…!!」
バングが怒りを爆発させようとした時、シューティリーがそれを止めた。
「どうしてこんな事をしたんですか?
試すにしては、少し迷惑をかけすぎではありませんか、ルーナ様。」
「ルーナだと?」
「おや、どうやらバカだけじゃかったんだね。」
ニヤニヤとしながら、シューティリーに近づく。
アルは瞬時に、ルーナの前に出る。
「警戒心高いねぇ!そういうのは悪くないよ。」
ルーナは両手を挙げ、下がる。
「…貴女がルーナってのは、本当なのか?」
「そうだよ。ボクはバンマリガ家の現当主、ルーナ・バンマリガその人だよ。」
「…じゃあ、あそこで死んでいたのは、いったい誰なんですか…?」
アルは彼女を睨みながら聞いた。
皆が耳を傾け、その回答を待った。
ルーナは小さくため息をつき、満面の笑みで応えた。
「あれが例の犯人だよ。」
「例の、犯人?」
頭を傾げるアルを見て、ルーナは呆れたように笑った。
「あいつは君を毒殺しようとした犯人、そしてその手紙を偽装した張本人ってことだよ。
君等は一体誰を探していたんだい?」
人をばかにするような態度に腹は立ったが、アルはそれを胸の内に留めた。
「そろそろ私の質問に回答してもらいたいのですが…。」
シューティリーが申し訳なさそうに、重たい空気の中そう発言した。
皆はハッとしたように、改めてルーナを見た。
ルーナ自身も忘れていたというような反応を見せ、「コホン」と咳払いをした。
「えっと〜…、確かに君の言う通り、アル君を試すにしては周りを巻き込みすぎたのかもしれないね。
でも、ボクは決してアル君だけを試しているとは、言っていないよね?…つまりそういう事。
きっと君なら、もう理解しているはずだろう。」
そう言われたシューティリーは、小さく頷いた。
その時、ずっと拘束されていたデールが、ルーナの胸ぐらを掴み上げて声を荒らげた。
「つまり俺たちのことも試してたってのかよ!?」
その言葉で、アルはようやく理解した。
「ちょっとやめてよ〜、そうやってすぐに力に頼るのは、君の悪いところだよ〜?」
「うるせぇ!!
お前のせいで俺は、あらぬ誤解を受けちまったたんだぞ!!」
「だからボクのせいじゃないって言ってるだろう?
あの手紙を出したのは、あそこで死んでいた巨体なんだからさ〜。
ちゃんと話聞いてよね〜。」
そう言いながら、いつの間にかデールを地面に寝かせていた。
それを見ていた皆は、何が起きたのかと周りと話し合っていた。
「…素晴らしいね、恐ろしく速い手刀。…まるでハンターハンターだね。」
ずっと黙っていた男がそう小さく呟いた。
「君は見えたかい?…俺はギリギリだったよ。」
男はシューティリーに聞いた。
少しワクワクとした様子で、シューティリーはあえて濁すことにした。
「……私はほとんど見えませんでしたよ。」
「でもほんの少しは見えたんだね〜…。へぇ〜…イイね。」
クスクスと笑いながら、ルーナに尋ねた。
「ルーナちゃん、君強いね。いったい誰に教わったんだい?」
ルーナは彼を見て、少し嫌そうに応えた。
「…貴方ですよ、清原勇治。」
「あら、そうだったかな?」
どうやら弟子自慢でもしたかったようで、わかりやすくとぼけた。
「……ようやく分かったぞ。お前、ルーナ嬢と二人でわざと我々を混乱させるようなことをしたんだな…。」
バングが呆れたように言った。
「その通り。
…でもまさか、本当にあの巨体をルーナちゃんだと思うとはね。
バング、君他人に関心がなさすぎだと思うよ。」
「余計なお世話だ。
…まったく、余計な労力を使わせやがって。
少しは反省してもいいのだぞ。お前ら…。」
そう言われた二人は、小さくため息をついた。
「駄目だね。ホントに、駄目駄目だ。」
そしてようやく行動の意味を話し始めた。
「バング、君はもうこの国の王だ。
皆が君の行動を見ているんだよ。そんな君が、こうも体たらくだと、国民は安心して暮らすことができないだろう。」
「デール、アル、貴方たちも同じだよ。
こうして国のトップと会うような存在にまでなったのだから、少しぐらいはその地位に合った行動をとるべきだよ。
貴族だからといって、領主だからといって怠けていては駄目。
民は君たちを必要とし、安心安全を求めてボクら上のものについてくるんだ。
それに応えれるようにしないと、本当に駄目だよ。」
そう言い終えると、二人は魔法で一般兵たちを一斉に眠らせた。
眠りに落ちた兵士たちを見て、バングがついに怒った。
「お前ら!一体何のつもりなんだ!?」
椅子から立ち上がり、男に掴みかかった。
しかし、バングの手は空を切っていた。
「…昔の君なら掴めたかもだけど、王になってからの君じゃ、もう俺を掴むことはできないよ。」
少し寂しげにそう言い、男はバングを見てはっきりと言った。
「ずっと怠けていたから、力が衰えるんだよ。バング。」
「……」
「それじゃ、守りたいものを守れないよ。
王たるもの、民を守れる存在でいるべきだ。
それこそが、かつてのお前が目指していた存在なんだからさ。」
バングはその場で倒れてしまった。
死んだわけではない、ただ眠らされただけだ。
…二時間後
王の間にて、眠っていた者たちは壁際へと運び、バングやデール、アルなどは部屋へ返した。
「さて、俺達の魔法で眠らなかった君は、いったい何者なんだい?」
男はシューティリーのことを見ながらそう尋ねた。
しかし、シューティリーは「わかりません」とだけ返し、彼の望む答えは返ってこなかった。
男はしばし考えた後、自身が自己紹介をしていなかったことに気がついた。
「そういうことか!
もしかして、俺のこと知らないから警戒しているんだね。」
「…はい?」
「いやぁ〜ごめんねぇ〜。そっかそっか、自己紹介を忘れていたね。」
シューティリーに喋る暇すら与えず、勝手に自己紹介を始めた。
「俺の名前は、清原勇治っていうんだ。
名前の通り、俺はこの世界の人間じゃないよ。」
「よろしく」と言い、シューティリーの勇治は手を差し伸べてきたが、それを取るにはシューティリーに無かった。
「……異界人、と言うことですね。」
シューティリーの冷たい反応を見て、勇治は小さくため息をしてから、訂正した。
「異界人っていうのは嫌いなんだ。勇者として呼ばれたんだから、勇者と呼んでほしいよね。」
「それは…。失礼しました、勇者ユウジ様。」
シューティリーは頭を下げ、ユウジを見た。
ユウジは満足そうに笑うと、改めて尋ねてきた。
「では聞かせてもらおうか?
…君は、いったいどこのお姫様で、どうして俺達の魔法が効かないのか。」
おっとりとした目でありながら、その目には、明らかな圧が込められていた。
圧に気圧されつつ、シューティリーは自身がアルメルクから来たことと、アルに頼まれ会議に参加したことを述べた。
「ユウさん、アルメルクと言えば、今襲撃を受けている国ですよ。」
「へぇ、故郷は心配じゃないの?」
「…心配ですよ。でも、私は私のやるべきことをやるんです。」
「やるべきことね。」
ユウジは感心したように頷くと、シューティリーに近づいた。
「…やるべきこととは、他の国の情勢を探ることかい?」
ニマニマとしながら聞いてきた。
シューティリーは少し悩むと、応えた。
「…それもありますが、私は何も知らない箱入り娘です。
なので、もっと多くの方々と関わらないといけないと思ったので、私たちは旅をしているんです。」
シューティリーの思いを聞いた二人は、「良い心意気だね」と感想を述べた。
そして、ユウジはシューティリーの手を取って、何かを唱えた。
「…な、何をしているんですか?」
「安心しなさい。貴女の加護を鑑定しているのよ。」
「加護、ですか?」
『加護』、シューティリーはそれを聞いた事はあるが、実際に加護を持っている生物に会ったことは一度もない。
(まさか私なんかに…)と思いながら、シューティリーはユウジの鑑定を待った。
そして、ユウジが「面白いね…」と言って、顔を上げた。
「君、自覚はないんだよね?」
「…はい、そもそも『加護』を持った者を見たことすらありません。」
ユウジは「そうかそうか」と笑い、そして鑑定の結果を伝えるのだった。




