七話『想定外の被害者』
皆が自己紹介を終え、アルの番が回ってきた。
アルは立ち上がり、自己紹介を始めた。
「僕はアル・バニッシュと言います。先代領主、リカオン・バニッシュの息子です。
先代に代わって、大変お騒がせしてしまいました。申し訳ございませんでした。
僕は、故郷であるあの領地を自身の手で治め、より良い場所へと変えるために、僕は領主になりたいと思っています。」
アルは物怖じせず、はるか歳上の貴族たちに言い切った。
皆はアルのことを子供だと油断しているようで、まるで話を聞いていなかった。
ただ一人を除いて。
「いい心意気じゃねぇか!見直したぜ坊主!」
それはムキムキな貴族、ベイストン公爵家の三人兄弟の長男、デール・ベイストンだった。
デールはアルの肩に腕をかけて、「気に入ったぜ!」と言った。
ベイストン公爵家は、今まで多くの武勲を立てている家だ。
その中でも、デールはズバ抜けた力を持っており、まさに最強の名にふさわしい人物なのだ。
「いやぁ、俺も領主っつうのになりたかったが、俺以上に領主に相応しいやつがいるんじゃあお手上げだな!」
ガハハッと大口を開いた笑い、一瞬で皆の緊張感を和らげた。
「デール殿、バング様がいると言うのに、相変わらず場違いなことを言うものだな。」
呆れたようにそう言うのは、ヒゲメガネ。名はザルバルド・グァンディマ。
彼は一代でこの場に呼ばれるまでに成長させた、いわゆる天才だ。
ちなみに、目つきは生まれつきらしく、別にアルの事を睨んでいたわけではないらしい。
「少なくとも、貴方よりもそこの少年の方が共感は持てますね。」
次に口を開いたのは、ガリガリ顎髭。名はダッジ・ヤルンバ。
彼の知識は誰もかなうことはできないと言われるほどの知識人であり、その知識は戦闘において、策という形で活躍している。
いわゆる軍略家なのだ。
巨体メガネは未だに目を瞑っていて、名前しかまだ分からない。
その名は、ルーナ・バンマリガ。
バンマリガという貴族は聞いたことはないが、ここへ来ているということは、それなりの実力者なのだろうと思う。
「……、皆様、…話を続けませんか…?」
目を隠したままの女性は、マリア・静華・ニーナベルグ。
静華と聞いて、シューティリーはすぐに分かった。
彼女はハーフなのだ。
マリアはその事を話さなかったが、シューティリーは自信があった。
「マリア殿の言う通りだ。ここへ来たのは仲良しごっこをするためではない。
新領主を決めるために来たのだ。」
「おぉ、そうだったな、悪いな!」
デールは謝ると、自身の席に座った。
皆が落ち着いたことを見たバングは、一度深呼吸をして、本題に入った。
「皆も知っての通り、リカオン殿が治めていた、メインザイル領の領主が現在いない状況だ。
あそこでしか採れない特産が多く、また有名なダンジョンもあのあたりに集中している。
今まではリカオン殿が隣国、グラウンペール国への牽制を行ってくれていた。
しかし、そのリカオン殿が亡くなったことをグラウンペールが知ってしまえば、必ず侵攻してくるだろう。
それを防ぐためにも、一刻も早く領主を決めたい。
そのためにも、お前たちの知恵と力を借りる。」
バングは軽く頭を下げた。
皆は互いに見合い、そしてザルバルドが言った。
「リカオン殿の息子である、アル殿で良いのではないか?」
皆は頷き、なぜ呼んだのかを聞こうとバングの方へ目線を向ける。
バングは困ったように頬をかいた。
「…私も、アル殿がやってくれる気があるなら任せようと考えていたのだが…。」
そう言いながら、懐から手紙を取り出した。
「実は、こんな物が届いてしまったんだ。」
テーブルに出された資料と、手紙の複製を見た。
「こりゃ殺害予告ってやつか…。」
「……凄まじい、…殺意…。」
アルはそれを見て、口を開いた。
「…実は今朝、僕が飲もうとした水に、ポイズンスパイダーの毒が入っていました。」
それを聞いた一同は驚いたようにアルを見た。
その動きは全て、不意を突かれたものだった。
(…貴族の中には犯人がいない…?)
シューティリーは例のグラスが乗ったトレーを、アルの前に出しながら、メモしたものをアルに渡した。
アルはそれを気づかれないように袖に隠した。
「皆さん、視覚共有をするので、拒まないでくださいね。」
そう言い、アルは貴族にだけ視覚共有を行い、鑑定の結果を見せた。
「……マジじゃねえか。」
皆は驚きを隠せず、口を閉ざしてしまった。
アルは皆の様子を一通り見渡すと、椅子から立ち上がった。
そして、向かいに座っていたバングのもとへ近づいた。
「…バング様、今仲間が犯人を探しています。
しかし、ここに犯人がいないとも言えません。
ここは一度、出直すべきだと思います。」
バングは小さく頷くと、椅子から立ち上がった。
「…皆、私が呼ぶまで、部屋に戻り、待機してくれ。」
そう言うと、バングは扉の方へと歩いた。
「…っ」
バングはシューティリーの前を通った時、彼女の目が合った。
数秒、その数秒で、二人はなぜか懐かしさを覚えた。
シューティリーはその感覚を確かめたかったが、呼び止めるわけにはいかず、頭を下げた。
それを見たバングは、軽く会釈をするとそのまま部屋を出ていった。
会議室に残った貴族らは、肩の荷を下ろしたようにしゃべり始めた。
「しかしよぉ、よくこの毒に気づいたな!
俺だったら間違いなく飲んでたぞ。」
デールはそう言いながら、アルの持ってきたグラスを凝視した。
「…アル君、想像していたよりも…、強いのですね。」
マリアは部屋を出る前に、アルにそう伝えた。
アルは「ありがとうございます。」と深々と頭を下げた。
それを見たマリアは、少し微笑むと部屋を出た。
それに続いて、他の貴族たちも部屋を出ていった。
部屋に残ったのはアルとシューティリー。そしてルーナだった。
ルーナにはどうやら使用人はいないようだった。
「ルーナ殿、会議は終わりましたよ。」
「………」
「ルーナ殿?」
アルは呼びかけるが、全く反応を示さなかった。
仕方なく、ルーナを連れて行くように、城の使用人に頼もうと部屋を出た。
部屋に残ったのは、ルーナとシューティリー。
「…ルーナ様。」
シューティリーも一応呼びかけてみる。
やはり反応はない。
そこで、シューティリーは興味本位で、ルーナの大きなお腹に手を突っ込んでみた。
「…っ?」
ベチャッと、手に赤黒い液体がべっとりとついた。
一瞬、思考が停止した。
そこへ、使用人らを連れて戻ってきたアルに、腕に赤黒い液体を付けたシューティリーを見てしまった。
「…シューティリー、それ…」
「…アル様…」
二人は顔を見合わせ、ようやく理解した。
会議の最初から、ルーナが何者かに殺されていたことに…
少し更新が遅くなりましたね。
今回の話は短めですが、次回は少し長くなるかも。
この話を一旦、章終わりまで書きます。
ぜひこれからも、『天龍の御子』をよろしくお願いします。




