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天龍の御子  作者: 文記佐輝
戦神の章
4/6

四話『憎悪の被害者』

今回の話は長い割に、内容はめちゃめちゃです。

優しい目でご覧ください。

メルンと合流したシューティリーとフワは、鍛冶屋での事を話した。

「…ルデオンですか。信用できるんですかね。」

槍の手入れをしながら、メルンはそう言った。

「あ、あの人は信用できると思いまちゅっ?!」

思いっきり舌を噛んだフワは、その場でジタバタとのたうち回るのをよそに、シューティリーも信用出来ると頷いていた。

「まぁ、最初から信用しないよりは、少しだけ信じてみますか」

手入れを終えたメルンは、窓から外を見つめた。

そこで、一人の少年に目がいった。

「奴は、昨晩のガキか…!」

メルンの目に写ったのは、アルであった。

シューティリーも窓からアルを視認した。

「メルン、相手は私と同じ子供だよ?

…そんなにキレなくてもいいんじゃない?」

「キレてない。ただ、ヤツの部下がやろうとしたことは許されないことだ…!」

シューティリーは苦笑いすると、アルがこちらをみてきた気がした。

それを確認するため、シューティリーは宿を出ようとした。

しかし、メルンがそれを止めた。

「ちょっと!そこどけてよぉ!」

「いけません!あの子供に近づいちゃダメです。」

むぅ~と言うシューティリーを横目に、フワはこっそりと部屋を抜けた。

フワは宿を出ると、アルの後をついて行った。

「うぅ~…何をしているんだろぉ〜…」

自身の行動に疑問を浮かべながら、気づかれないようについて行った。

そして、アルが領主の館に入っていった。

フワは近くにあった、少し背の高い木によじ登って、館内の様子を見た。

ーーー

アルは気づいていた。後ろから何者かがつけていることに。

館の門を越えると、その気配は消えた。しかし、今度は視線を感じ取った。

(…木の上か、なかなかにしつこいやつみたいだ。)

アルはつけられていることを、誰にも話す気は無かった。

木の見える位置で、一度立ち止まり確認した。

そこに居たのは、昨晩宿に居たもう片方の小さい方だった。

確認を終えると、予定通り領主の部屋へ向かった。

そして、領主の部屋の前まで来ると、ノックを二回し、中へ入った。

「…父上、今日の見回り完了しました。」

「左様か。」

「………父上。今朝話した件なのですが…」

「…何のことだ」

椅子に座ったまま、こちらに背を向けている領主は、頑なにこちらに顔を向けようとはしない。

「税に関する話です。昨晩、資料に目を通しましたが、村の税は約60%となっておりました。

税が高すぎると思います。これだと、いつか村の者たちが反発を起こしかねません。」

アルは持ってきた資料を、領主の机に広げた。それでもこちらを向かない領主に、嫌気が差したアルは、領主の椅子をつかみ無理やりこちらに向かせた。

「…!!!」

そこにあったのは、非常に汚いわらの人形だった。

鼻を突き刺すような刺激臭に、アルは一歩後ずさった。

その時、背後から何者かの気配を感じた次の瞬間、空間を切り裂く音がその場で鳴るのだった。

ーーー

シューティリーとメルンは、ルデオンの言っていた場所へ向かっていた。

「まったく、フワはどこに行ったのかしら!」

「フワなら大丈夫でしょう。それよりも、私たちは予定通り身を隠しておきましょう。」

シューティリーと同じくフワを心配な気持ちが膨らんでいるが、メルンは平然を装いつつシューティリーの手を握って歩いた。

ルデオンの指定した場所に着いた二人は、その場で身をかがめ、ルデオンがやってくるのを待った。

しかし、何分経ってもルデオンはやってこない。

「やっぱりはめられたんじゃ?」

「……ルデオン…」

メルンはシューティリーの手を強く握り、自分が付いていることを伝えた。

その時、館内から悲鳴が聞こえてきた。

二人は他の騎士たちにバレないように、敷地内には侵入した。

ドオォォォォンッ!!

その音が聞こえた方へ目をやると、館に大きな穴ができたことを視認した。

「あの爆発は!?」

連鎖する爆発音を聞きながら、メルンは何が起きたのかを思案する。

シューティリーは決心したように、隠れることをやめ、大胆にも近くを走っていた騎士に声をかけた。

「一体何が起きているのです?!」

騎士はそれに反応し、こちらを見た。

「お、お前ら!?なんでここに!」

そう言う騎士の顔をよく見ると、昨晩アルとともに来ていた騎士の一人だった。

「ここは危険だ!早く離れるんだ!」

「あなたはユーズね。とにかく何が起きているか教えてください。」

ユーズはなぜ名前をと疑問に思ったが、爆発音でそれどころじゃないことを理解し、シューティリーたちに現状を教えた。

そしてまた爆発音。

館から飛び出して来た一人のメイドが、ユーズにしがみついた。

「ユーズ様!アル様が!アル様がッ!!」

必死に何かを訴えようとするが、うまく思考がまとまっていないようで、言葉に出せずにいた。

ユーズは彼女を落ち着かせると、何があったか聞いた。

「りょ、領主様の居られる部屋が、突然爆発したのです!

そ、それで、な、中を覗いたのですが、異形の化け物が、アル様を襲っていたのです!そ、それでー!!!」

そこまで聞いたユーズは、血相を変えて館内へと入っていった。

シューティリーは、使用人たちの避難誘導をするからと、メルンに、ユーズを追うように言った。

仕方なく、メルンは言われた通りに行動した。

走るユーズの後に続き、メルンも領主の部屋へと向かってい時、紫色の炎が放たれるのを見た。

「今のは!?」

「安心しろ、今の炎はあの子のだ。」

メルンは確信し、今度はユーズの前を走った。

そして、先ほど魔法が放たれた場所へとつき、アルとフワの姿を見つけることが出来た。

フワはメルンを見つけると、アルを右手で掴むと、こちらへひとっ飛びした。

そして、着地の直前にアルをユーズへと投げ飛ばすと、フワ本人はメルンに抱きついた。

「よかったですぅ!!!」

泣きながらメルンの胸の中に顔を埋める。

メルンはフワを引き剥がすと、そいつに目をやった。

「フワ、ヤツのの報告を!」

そう言われたフワは、ビシッと立ち直ると、ヤツについて簡潔にまとめメルンに伝えた。

「あれは領主様だった者です!攻撃をいくら加えても、あまりダメージが入っていないようです!

属性は闇。得意な技は、斬撃と爆破だと思います!」

「闇属性…つまり魔王やらと同じような存在ということか!」

メルンは槍を取り出すと、構えた。

「ユーズ!そのガキを連れてさっさと逃げろ!」

「ガキって!?」

「今はそれどころじゃないだろ!早くいけ!」

ユーズは訂正しようとしたが、渋々アルを抱えて逃げることにした。

ユーズらが逃げ出した途端、そいつはいきなり動き始めた。

「移動を開始しました!」

「言われなくても分かってる!」

メルンはフワを抱え、そいつから距離をとった。

そいつは何かを探すと、目視した方へと移動を始めた。

二人はそいつが見た方向に、目を向け、そいつの狙いに気づいた。

ーーー

ボクは、暗闇にいた。

『オマエは、キケンダ…ここでコロス。』

そう言われ、アルは目を覚ました。

「…ユーズ」

「ッ!!お目覚めですか!?」

ボクを抱えるユーズの話しかけ、現実に戻ってきたのだと分かった。

頭を抱えながら、何が起きたのかを思い返した。

ーーー二十分前

ボクは背後から気配を感じた瞬間、咄嗟に屈んだ。

ズゥオォンッ!!!「っ!!?」

ボクの頭上を、ものすごい勢いで切り裂く音が聞こえた。

ボクはそいつから離れるため領主の人形を使い、次の攻撃を防ぎ、入り口側に立った。

「貴様…!何者だ!」

腰にさしておいた短剣を構え、そのどす黒いオーラを纏う者を睨みつけた。

そいつは反応を示さず、次の攻撃の態勢に入った。

ボクは短剣を握り直し、構えた。

そして、そいつが手に持った鎌を振りかざそうとしたその瞬間、そいつの首に魔法弾が撃ち込まれた。

一か八かでかけてよかったなと、アルは一息し、大声で助けてくれた者に話しかけた。

「そこからでは、戦いにくいだろ!こっちへ来るんだ!」

それに応じるように、背後の扉が紫の炎で溶かされた。

そこからやって来たのは、先ほどまでボクをつけていた少女だった。

少女はキョロキョロと周りを確認しながら、ボクの隣に立った。

「なぜ分かったのですかぁ〜?」

そう言いながら、起きようとするそいつにもう一発魔法弾を食らわせた。

そいつはよろけたが、さほどダメージが通っていないように見えた。

起き上がったそいつは、鎌を再び振り上げ、切りかかってきた。

少女は魔法でバリアをはったが、瞬時に俺を突き飛ばし、その攻撃を避けた。

「バリアを貫通したのか!?」

「…まさか!」

少女は何かを理解したように、下級の浄化魔法をそいつめがけ放った。

その魔法に直撃したそいつは、一瞬だけふらついたように見えたが、すぐに体勢を持ち直したそいつは素早く次の攻撃にうつった。

「させません!!」

そう言うと、紫の爆炎を放った。

しかし、その魔法は届かなった。

「あ、あいつ!バリアを使ってる!」

少女が呆気にとられたその瞬間、そいつは少女に向け斬撃を放った。

「ッ!!」

ボクは咄嗟に少女を抱き寄せる形で、斬撃を避けた。

「危ないだろ!」

ボクは柄にもなく、少女に向け叱責した。

そんなボクの手を弾き、少女は再びそいつへの攻撃を始めた。

ボクも少女の魔法弾に続いて、そいつの特攻をしかけた。

その行動に驚いたのか、そいつは少し後ずさりし、鎌を持ち直していたが、こちらのほうが早かった。

「………ッ!!」

そいつの胴体に切りつけたボクは、そのまま次の攻撃に入ろうとした瞬間、そいつの切り口から黒い靄が溢れ出してきた。

その靄に触れてしまったボクは、全身から力が奪われるような感覚に襲われた。

それを見ていた少女は、バリアでボクの身体を引き寄せた。

「大丈夫ですか!?」

バリアでその靄が来るのを防ぎながら聞いてきた。

ボクは朦朧とする意識の中、何とか返事をした。

フラフラと立ち上がり、短剣を持ち直そうとした時、剣先が溶けていることに気づいた。

短剣をその場で手放すと、短剣はドロドロになり、跡形もなく消えてしまった。

「アルさん!私に掴まってください!」

突然少女は、そのようなことを指示した。

ボクが困惑していると、少女はボクに被さるように乗っかると、バリアを何重にも発動した。

その瞬間、靄が大爆発し、部屋は完全に燃え尽きた。

ボクは目を開けて、そいつを視認した。

「クソ野郎!!よくも父上の家を!!」

立ち上がろうとしたが、上に被さったまま動かない少女に気づき、少女を横にし脈をとる。

生きていることに安堵したのも束の間。

そいつは容赦なく攻撃を始めた。

ボクは少女を抱えたまま、攻撃を避ける。

「生きてるなら目を覚ませ!殺されるぞ!」

そう呼びかけても、少女は反応を示さない。

ボクは攻撃を避け、着地しようとしたが失敗してしまった。

足を捻ってしまったボクは、少女を庇うような体勢で倒れ込む。

攻撃が来ると思い、ボクは身構えた。しかし、そいつは攻撃をしなかった。

ボクはそいつを見ると、最初と形が変わっていることに気づいた。

その姿は、ブタの顔にドロドロの身体と言った、気色の悪い見た目にだった。

その姿に呆気にとられていたボクは、そいつの触手に気づかず捕まってしまった。

必死にもがくが、その触手は力が強く、とてもじゃないがほどけたものじゃなかった。

そいつは顔の前までボクを運ぶと、紅い目でボクを睨みつけていた。

『オマエは、愚か者だ…コロス価値もない…』

そいつはそう言うと、漆黒の霧をボクに吐きかけてきた。

ボクはその霧によって、意識を持っていかれそうになった。

その時、紫色の炎が舞い上がった。

『ッ!!!!!?』

突然の攻撃に驚いたのか、そいつはボクを離した。

そんなボクをバリアを使い、滑り下ろした。

「…ここで奴を仕留めます!」

少女の足元まで到着したボクに、そう宣言した。

ボクも立ち上がろうとしたが、さっきの霧によって完全に意識を奪われてしまったのだ。

ーーー現在

外まで逃げることが出来たユーズは、ボクを地に降ろした。

「アル様!無事だったのですね!」

そう言いながら、少女が駆け寄ってきた。

「お前は…ここは危険だ、早く逃げろ!」

ボクは彼女に警告をすると、まだ上手く力が入らないようで、ガクッと崩れ落ちた。

駆け寄るユーズを制止し、ボクは自力で立ち上がった。

その時だった。使用人たちが逃げている橋が、攻撃により破壊されたのだ。

「はっ!?」

彼女は攻撃を受けた使用人たちに駆け寄ると、すぐに手当てを始めた。

ボクはそんな彼女を制止した。

「やめろ!汚れるぞ!」

しかし、彼女にこの言葉をかけたのは失敗だった。

彼女は昨晩と同等、いやそれ以上の眼光でボクを睨みつけた。

ボクはその眼光に驚き、仰け反った。

彼女は何も言わず、手当てを続けた。

「……ユーズ、ボクはまた愚かなことをしたのか?」

「……ッ」

ユーズは言葉に詰まっていた。

そこで理解した。ボクが常識だと信じていた事は、皆とは違うものだったのだと。

後悔したボクは、すぐさま今すべき事を考え、ユーズに告げた。

「ユーズ、負傷した使用人の治療をしてやれ。」

その言葉に驚いたのか、一瞬の沈黙があったが、ユーズはすぐに応じ行動を開始した。

ボクは彼女の行動一つ一つに興味を持ちつつ、館にいるそいつを見やった。

「こんなボクでも出来ることはなんだ。考えろ…考えるんだ!」

そんなボクに、一人の青年が声をかけた。

ボクはそちらに目をやると、青年は剣を差し出した。

「お前が出来ることは、奴を止めることだ。」

そう言われたボクは、勝手に身体が動いていた。

その剣を手に取り、駆け出した。そいつのいる、館へと。

ーーー

「全く刃が立たないな。…フワ、お前は逃げろ。」

「だ、ダメですよ!このままだと、村がッ!」

「知ってる!だから…あの人に頼るんだ…!」

「…ッ!」

フワは悩んだが、もうそれしかないと考え、彼女の元へと向かった。

残ったメルンは、槍を収めると、巨大化を続けるそいつと同じ位置まで跳躍した。

「…こうやって見ればよくわかる。お前は、悪意その物なんだな。

…だから攻撃が通じねぇんだ。」

そう言いながら、メルンは拳を構える。

「だけどな…そういう奴には、悪意をぶつけるのが最善策って相場が決まってんだよ!!」

メルンはそう言うと、全身で悪意を力へと変換していく。

それを見たそいつは、メルンと同じように構え、殴りかかった。

「遅い!!」

メルンはそいつの攻撃をバリアを使った跳躍で回避すると、そいつの腕の上を駆ける。

そして、そいつの顔前まで来ると、悪意を込めた拳を顔面に叩き込んだ。

そいつは大きく体勢を崩すと、倒れそうになったが、耐えきってしまった。

そして、戻る反動を利用した攻撃を、メルンに思い切り叩き込んだ。

「ッ!!」

メルンはバリアを前方に数枚展開したが、それらを破壊して、メルンを殴り飛ばした。

それを見たフワは、メルンを救出するため、バリアの上に乗り、勢いよく飛び上がった。

そして、メルンを回収すると、シューティリーのいるところまで一気に降下した。

なんとか地面に到着すると、フワはメルンをその場に寝かせシューティリーに駆け寄った。

「シューティリー様ぁー!!」

勢いよくシューティリーに抱きつくと、涙を流した。

「フワ?!大丈夫!?」

「ごめんなさい!ごめんなさい…!」

謝罪を繰り返すフワをなだめなが、シューティリーはそいつを目視した。

そして、フワを落ち着かせると、フワに命令を下した。

「もしも、あれが消えなかったら。フワは皆を連れて逃げて。

これは、命令だからね。」

ーーー

ようやくそいつのいるところについたアルは、剣を構えた。

「やはり…貴様の本体はここに居たのだな…!」

それに反応するように、父上はこちらを見た。

「……気付いたのか。わが息子よ。」

「貴様の息子じゃない!ボクの父上は、高潔なお彼方だった!!」

父上の姿をしたそいつは、笑い出した。

「そうだとも、彼は高潔であり、まさに理想的な御方だった。」

そいつはそこまで言うと、少し悲しそうに俯いた。

「だが、あの人は見てしまったのだ。

…私の本当の姿を…!本当は殺したくなかった…あの御方はこのような場所で死んで良い御方ではなかった。」

そいつは許しを請うように、天を仰ぎながらそう言った。

「貴様は何者なのだ…!」

アルはずっと思っていたことを口にした。

しかし、その返答は無かった。

「お前はあの御方とは違う…まるで似ていない!

どうして私が暴走した時、お前は止めなかった?

私が彼の代わりになれないことぐらい分かっていたのに!

どうして止めなかった!?」

アルは何を言っているのか、分からなかった。

しかし、次第に閉ざされていた記憶が開くような感覚に陥った。

頭を押さえながら、アルはそいつに目をやった。

「き、貴様はなんなんだ!!」

その時、一瞬そいつの顔が現れた気がした。

しかも、その顔には見覚えがあったことに、アルはたじろいだ。

「ほ、本当に…なんなんだ…貴様、は?」

そいつがニヤッと笑ったその時、一つの矢がそいつの胴体に刺さった。

「これは…光の弓?」

それを認識した瞬間、そいつは崩れ落ちた。

「な、なんだ?何が起きてる?」

「貴方は闇に呑まれすぎたのです。ケイン・バニッシュ様。」

アルの背後から現れたシューティリーは、そいつにそう言った。

「ケイン…?」

その名を聞いた瞬間、アルはすべてを思い出した。

三年前、兄であるケインが、父上を刺殺した事を。

「…ケイン、な、なぜお前が?」

しかし、そこで一つの疑問が現れた。それは、

「あの日、確かにお前は断罪されたはずだろ?」

そう、ケインは父上を殺したことで、死刑にされていたのだ。

その疑問にシューティリーは答えた。

「ケイン様の肉体と、領主様の肉体二つを取り込んだ、古の魔物でしょう。」

「古の、魔物?」

シューティリーは苦しむケイン?に近づき、額に手をあてた。

「その魔物の名は、『オージュ』と言います。」

ケインだった者は、父上へと姿を変え、そしてドロドロのスライムのような物へと姿を変えたか。

「そのオージュと言う魔物の元は、ただのスライムだったのです。

しかし、そんなスライムに人間が、日頃の恨みや憎しみを込めて、虐待まがいな事をしたことで、そのスライムは生態を変えたのです。」

ドロドロとなったその魔物は、とても苦しそうにしており、痛々しいものだった。

シューティリーはそんな魔物に安らぎを与え、そして苦痛なく殺した。

ドロドロの魔物は、最期に少し嬉しそうに鳴いていた。

「アル様、そんな彼らを利用する邪悪な存在が、まだ生きていますよ。それを共に止めましょう。」

そう言うと、シューティリーは巨大になったそいつに目をやった。

「あれが根源だとばかり…」

「先程のものは、あれを復活させる為に住み着いていたのでしょうね。」

まだ何がなんだかなアルは、自身を無理やり納得させ、そいつとやり合うために覚悟を決めた。

ーーー

私はあれのことを知っていた。

『オージュ』と呼ばれる魔物たちの頂点に位置し、魔王なんて比にならない力を持っている、かつての英雄。

アル様を先頭に、私はあれに近づいた。

「アル様はここで待っていてください。

合図を送るので、その時に攻撃を…」

アル様は優秀だ。それゆえに、今までは自身が正しいとずっと思い込んでいた。

そのせいで領主様に化けたあれを見破れなかったというのもある。

私はあれの足元まで来ると、一つの魔法陣を一瞬で展開した。

「聞こえますか?闇に堕ちた…」

言い終える前に、あれは巨大化した身体を分裂させ人間サイズまで戻った。

「……余のことをシってオルノカ…?」

私の方へと、一歩踏み出そうとした。しかしそれは許されなかった。

足元の魔法陣に足がついた瞬間、彼の足は粉々になった。

驚いたのか、感心しているのか、彼は屈み込みその魔法陣を見ていた。

「…余のことを知っておるナラば、この魔法も知ってオルカ…」

彼は魔法陣より三歩離れた位置で、私を見た。

「そんなに詳しいのでアレバ、余がその魔法を攻略できることも知っておるのだろう?」

最初よりも流暢に喋るようになった彼は、両手を天にかざし、聞いたことのない言葉で詠唱を始めた。

「…無も名乗らず、戦闘をするのですか?」

私は彼が本物かどうかの確認のために、少し煽るような口調で聞いた。

彼は詠唱を一度止めると、私へと目を向けた。

「ふむ、余としたことが、名乗りを忘れるとはな。」

彼は少し悩んだ末、詠唱を完全に中断した。

「余の名は、アーサー…アーサー・ペンドルトン。

古の、英雄だ…」

そう名乗ると、彼は再び天に手を掲げ、詠唱を再度始めた。

「…アーサー王…やはり貴方は、その名を語りますか!!」

私が勢いよく左腕を上げ、それを合図に飛び出したアル様は、アーサーの右側から斬り掛かった。

アーサーはそれに気づいたが、詠唱をやめなかった。

悪寒を感じた私は、魔法陣をすぐにかき消し、できるだけ多くの補助魔法をアル様にかける。

「消えちまえぇッ!!!!」

アル様の剣は、見事にアーサーの首を捉え、首をはねた。

しかし、私の悪寒は止まることなく、冷や汗を大量にかきはじめる。そして、詠唱を読み終えたアーサーは、それを地面に叩きつけた。

ーーー

地面はひび割れ、気が付いた時には、そこにあったはずの館は消し炭になっていた。

気を失っていたことに気づいた私が起き上がると、男が声をかけてきた。

「見事だ。勇気ある姫君よ。」

そちらに顔を向けると、無傷で岩の上に座っていた。

「安心しろ、まだ誰も殺しておらぬ。」

そう言われ、辺りを見渡す。

私は目に写ったその光景に驚愕した。

「…メルン…フワ…!」

そこにあったのは、力無く倒れ込んでいた二人と、何十人もの騎士だった。

「騎士の方は、さほど手応えはなかったが、ユーズと言う者は素晴らしい騎士道を見せてくれた。

それに、お主の使用人の二人も、まだ荒削りな所はあるが、素質はしっかりある。」

そう称えると、私の前まで来た。

「そして姫よ。お主にも、その見た目にはそぐわぬ実力を持っているようだ。まるで、ウルズラのようだ。」

「ウルズラさんって、世界最強の女性のことですか?」

「いかにも、彼女は余とともに戦ってくれた戦友でもあるのだ。」

アーサーは鋭い石を手に取ると、私の首筋に当てた。

「そんな彼女も、今の君と同じような顔をしていたよ。」

そう言うと、アーサーはその石を頭上に掲げ、勢いよく振り下ろしたのだった。

今回の話の簡単なまとめ

館へ侵入するため、ルデオンの指示通り待ったシューティリーとメルン。

しかしそこにルデオンは来なかった。

メルンが憤っている時、館で爆発音が聞こえた。

シューティリーは作戦を変更し、館で起きている事件を解決することにした。

シューティリーは使用人たちの避難を、メルンは合流したユーズと共にその原因の対処へ向かった。

そこでアルとフワと合流したが、『そいつ』を倒すことは厳しいと判断。

シューティリーへ助けを求めると、シューティリーは戦うため一人で向かったアルの元へと向かった。

アルと合流したシューティリーは、『憎悪を蓄積して変異したスライム』を退治。そして、未だに暴れる悪意の塊を倒すため、二人は作戦を実行する。

作戦は完璧に思われたが倒すことは出来ず、『アーサーと名乗る者』に呆気なく全滅する。

一人気が付いたシューティリーは、アーサー?に話しかけられ、そして、アーサーに斬りかかられる。

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