二十話『眠り姫』
シューティリーが目を閉じて、四日が経った。
「…」
未だに深い眠りについたままのシューを、リューは心配そうに見つめる。
そんな彼女を気遣い、彼女らを匿ってくれているゴブリンの『ナーオス』が、新鮮な水と魚を調理して持ってきてくれた。
「リューさん、ここへ来てから全く食事をしていないでしょう?
これ、本島の人間たちが送ってくれたお魚だから、この島の危ないものじゃないわよ。
ね?心配だから、食べてちょうだい。」
そう言われても、リューは頑なにその料理たちを食べようとしない。
決して美味しくなさそうというわけではない、むしろ、ナーオスの作る料理はどれも食欲を掻き立てるような見た目だ。
それでも、リューそれらのご馳走を食べようとはしなかった。
どうすれば良いのかと途方に暮れたナーオスの元へ、狩りから慌てて帰ってきた夫のリーズルが、興奮気味にナーオスに狩りで出会った人間について話した。
「その人たちって、もしかして?!」
「あぁ!まさに、リューが探していた人間たちだったんだよ!」
その会話を聞いていたリューは、この家に来て初めて笑顔を見せて、二人の会話に割って入ってきた。
「会ったのか!?今どこにいる!?」
リーズルはリューと視線を合わせ、その人間達がすでに、この家の前で待機していることを話した。
目を輝かせたリューは、廊下を走って玄関まで向かった。
そして、扉を勢いよく開けたリューは、約五日ぶりに再会した仲間に抱きつくのだった。
ー…
久しぶりの再会をしたリューとヒメルカら一行は、ナーオスが用意してくれた食事を食べながら、これからの事について話し合っていた。
「シューティリーちゃんは以前にも、同じように眠りについたことがあります。
その時は、二週間ほど眠っていました。」
フワはあの時のことを思い出しながら、皆に情報の共有を行った。
そのことを聞いたリューは、安心したように、少し肩の力を抜いた。
「けれど、このまま何もせずに待つわけにはいかないよね。」
「それに、ここがスイリンカを砂漠化にした原因なのなら、調査を進めなくちゃいけない。」
リザリーとヒメルカは真剣な話をする。
二人の話を聞きながら、リューはシューのための食事を取り分けていた。
それに気づいたフワは、リューの手伝いをした。
「すみません、シューティリーちゃんのことが心配なので、リューさんと一緒に様子を見てきますね。」
話し合いをする二人に、フワはそう伝える。
二人はそれを了承すると、話し合いを再開させた。
「リューさん、行きましょう。」
「うん。」
シューのいる部屋の前まで来た二人は、ノックをして中へ入ろうとした。
ドタンッ!
ドアノブに手をかけたとき、部屋の中から物音がした。
二人は嫌な予感を感じ、勢いよく扉を開けた。
「ッ!!!」
二人の目に映ったのは、シューティリーを抱きかかえるフードを深くかぶった人物だった。
フワは瞬時に魔力の弾を作り上げると、シューティリーを攫おうとしているその人物に向けて放った。
しかし、放たれたその魔力弾はフードの人物の目の前で、なぜか一瞬止まり、突如フワとリューをめがけて跳ね返ってきた。
リューがフワの前に出て、跳ね返ってきた魔力弾を叩き落とした。
「シューを返せ!!」
「…ッ」
「っ!?」
魔力弾を叩き落としたリューは、思い切り床を蹴りフードの人物に殴りかかったが、先ほどの魔力弾と同様に、リューの拳もそいつに届くことはなかった。
「…今のお前たちに、彼女を任せられない。」
リューは弾き飛ばされると、壁に激突し、気を失ってしまった。
フワはもう一度、今度はさらに強い魔法で攻撃をしようとした。しかし、なぜかフワの身体は突如、金縛りになったかのように動かなくなってしまった。
「この場所は、彼女には悪影響すぎる。
お前たちがこの地を出ることができたのなら、その時、お前たちのもとに彼女は返してやる。
…その時まで、死ぬなよ。」
フードの人物はそう伝えると、窓から降りた。
何もできなくなっていたフワは、その人物が姿を消したと同時に自尊の意思で動けるようになった。
「シューティリー!!!」
フワは急いで窓から下を覗いたが、そこには誰も居なかった。
守らなければならなかった自身の主を、フワは守り切ることができなかった。
「ごめんなさい…、メルンさん…私…!!」
ー…???
膝から崩れ落ちるフワという魔術師は、あまりにも精神が弱すぎる。遠くから見ていた私は、大きくため息をついた。
「どうだった?彼女の護衛は。」
「あれじゃ駄目ね。見た目通り、弱っちいヤツだわ。」
菓子を食いながら尋ねてきたネオにそう返し、私は持っていたコーヒーを飲む。
そこへ、シューティリーを保護してきたケイジが戻ってきた。
「…アーシャ、あの少女を見てどう思った?」
それを聞いたネオは、「さっき聞いた」と返した。
「…フワのことじゃない、もう片方だ…。」
ケイジは連れ帰ったシューティリーをベッドに寝かしながら、少し語気を強めて静かに尋ねてきた。
私はケイジが何を気にしているのか分からなかったが、応えることにした。
「まぁ、力に任せた戦い方だよね。それに、感情の制御も上手くできてないみたい…。
例えるなら、野生生物みたいな娘かな。」
「…そうか。…そうだな。」
納得したのか、コクコクと頷きながら椅子にもたれるように座った。
「どうしてあの娘が気になったの?」
私は、疲れたように息を吐いたケイジに尋ねた。
「…あの強さは、普通の人間じゃない。」
「…強かったの?」
「あぁ…、強かった。」
滅多に相手を褒めないケイジが、目も付けていなかった少女を褒めた事に、私とネオは顔を見合わせた。
私は恐る恐るケイジに、攻撃を受けてどう感じたかを聞いた。
「…あの強さは…」
そう言いながら私たちに目を向けると、ケイジは応えた。
「…『天龍の御子』だ…」




