十九話『救出依頼』
「シューティリー…。」
「か、彼女が光属性を持っていると…!?」
取り乱すスイレンをナナホシはなだめる。
「さっきも言ったが、これは憶測にすぎない。
…だが、彼女と初めて会ったあの日から、ずっと胸の奥がざわついているんだ。」
「…っ、それは…。」
「安心しろ、今回のは悪い予感ではない。…むしろ、良い予感だ。」
ミリアは自信満々にそう答えた。
「それは…、本当なんだろうな?」
「今回は自信がある。私を信じろ。」
いつもは信じたく無いミリアの予感を、今回ばかりは信じたいと思ってしまった。
スイレンは一度深呼吸をすると、ナナホシに水を用意してもらうことにした。
命を受けたナナホシが一度席を外す。
二人だけになった執務室には沈黙が流れた。
スイレンは書類を見ながら、気持ちを落ち着かせようと必死だった。
ミリアはそれを見ながら、突然、何の脈絡もなく話を始めた。
「にしても、特にこの国は砂漠化が本当に酷いなぁ。」
「…いきなりなんだ?」
冷静さを取り戻したスイレンは、ミリアを見た。
「いや、昔はちゃんと水の都をしていただろう?
そんな水の都が、砂漠化の影響をもろに受けるなんて、なんか何とも言えないなって思ってさ。」
ミリアは思い出を振り返るように、外を眺めながら言い始めた。
「あんときのスイレンは、今よりも嫌なやつだったな。」
「昔のことだろ…。私だって、あの時の私は嫌いだ。」
「ハハッ!私も、あの時はスイレンのことを本気で嫌ってたからな〜!」
「…うっさいな…。」
スイレンは苦笑いをすると、浮かない顔を浮かべた。
それに気づいたミリアは、あえて何も言わなかった。
「お待たせしました。こちら、お水でございます。」
そこへ、水を取りに行っていたナナホシが戻ってきた。
「あぁ、すまないな。」
感謝を伝えると、スイレンは出された水を、ほんの少し飲んだ。
「…さて、お前がここへ来たのは、白龍傭兵団のことだけではないのだろう。」
スイレンは読み終えた資料を机に置く。
「スイレン…。
先にも言ったが、闇属性と光属性有している者がいるかも知れない。
それがシューティリーであるか否かは関係なく、もし本当にいるのであれば、私達がそれらを失うのは、あまりにも損失が大きいと思わないか?」
「…人類史において、光属性が途絶えたのはもう何百年も前のこと…。
そして、その対となる闇属性もまた、今絶滅の一途を辿っている…か。
確かに、人類が闇属性、光属性を有しているのであれば、それらを失うのは大きな損失となるだろうな。」
スイレンは昔読んだ書物の内容を思い返しながら、ミリアの意見に賛同した。
「そこでだ。」
ミリアは笑みを浮かべると、ギルドへ提出することができる依頼書を鞄から取り出した。
「…街の活性化を図るとともに、白龍傭兵団と他三名の救出依頼をギルドに出すのはどうだろうか?」
「…救出依頼を出して、なぜ街の活性化になるのだ?」
スイレンは不思議そうに尋ねた。
「今スイリンカは、砂漠化によって観光客が減少傾向にある。街の物品は売れず、国益も減少する現状…。
今頼れるのは、よそから来る冒険者や旅芸人達…。
そんな彼らに、今よりも多く来てもらうためには、この救出依頼による豪華な報酬で釣るしかないだろう。」
ミリアは、いかにも良い策かのように説明をする。
その内容を聞きながら、スイレンは少しだけあきれたような様子を見せたが、一応最後まで聞くことにした。
「…その顔、『こいつ馬鹿だろ』と思っているだろう?
私はガチだぞ。本気でスイリンカを活性化させるために一晩考えたんだ。」
「そうか…、ならば聞かせてくれ。」
「…まぁいい。
これは私の予測だが、白龍傭兵団がこちらへ帰ってこない理由の一つとして、砂漠化の原因を突き止めた可能性があるということだ。」
「…っ」
「白龍傭兵団について、ギルドでいろいろと聞いたが、それなりにやれる者たちだそうだな。
そんな彼らがこんなにも長く、魔法陣の先に滞在しているということは、原因を見つけることができたから、その対処のために向こうに残っているという事。」
「…確かにな。」
スイレンは納得したが、ミリアはすぐにネガティブな予想を話し始めた。
「だが、最もあり得ることの一つは、こちらへ戻ってこれなくなったということだ。」
「戻ってこれない、…つまり、闇属性の者が居なくなった可能性があるということか。」
「そう。
…普通に考えれば、こっちのほうが可能性は高いだろうね。
だからこそ、数に限られる騎士団よりも、冒険者たちに救出依頼を出したほうが、金に釣られた輩たちが行くんじゃないか。って話さ。」
「…つまり使い捨てにしろと?」
「言い方が悪いな。
そもそも、救出依頼に行く者なんかは、ちゃんとした冒険者だけだよ。そう簡単にやられないし、危なくなったら私だって出るつもりだ。」
「…最初からお前が行けばいいじゃないか。なぜそうしない?」
「……だから報告書に書いただろう?
あの魔法陣は闇の魔力が使用されており、一般的な属性である私の魔力じゃあ開けることもできないんだ。」
「…闇属性みたいなもんだろ…」
「誰が性悪だ。別に闇は悪というわけじゃねぇし。」
軽く冗談も交わしたところで、改めてスイレンは依頼書を見た。
「…まぁ確かに、今騎士団を動かすのはリスクが大きいか…。」
ミリアの策には穴がいくつかあるように感じたスイレンであったが、彼女の言うことにも一理あるなと考え、その策に乗ることにした。
ー…二日後。バルサ王国、冒険者ギルド
「これ、スイリンカからの救出依頼…?」
ギルドへ遊びに来ていたユウジは、たまたまその依頼を見つけた。
彼のあとに続いて、次々とその依頼を見る冒険者たち。
「おい、この『白龍傭兵団』ってまさか、あの竜退治で功績をあげた傭兵団だよな?」
「そんなに凄い傭兵団の救出依頼って…、俺らじゃ無理じゃねぇか?」
「身の丈に合わねぇよ。」
皆が首を横に振り、その依頼を避けていく中、グループで活動している若手の団体がそれを掲示板から剥がした。
それを躊躇いもせずに、受付嬢の元へと受諾を貰いに来た。
「すみません、こちら最低でもランクBの冒険者でないと受けれないものでして…。」
受付嬢は赤毛の若手剣士に優しく伝えた。
しかし、赤毛の剣士は引き下がらなかった。
「オレ、ランクBなんス。
こいつも、こいつだってB。アイツらは、まだE…スケド…。」
「しかし…、非常に危険な依頼ですよ。
まだ未来がある若手を、そう安々と行かせるわけには…」
受付嬢は困ったように悩んでいる。
その光景を見ていたユウジは、少し面白そうだと思い、彼らに近づいた。むろん、勇者としてではなく、一冒険者として。
「すまない、私もそれを受けたいのだが、よろしいか?」
「あっ、えぇと、まずタグの確認を…」
ユウジは言われた通り、『レックス』のタグを出した。
「…ランクA、ですか!
確認できましたレックスさん、ですが一人で行かれるには少し厳しいですよ。できれば、複数人で行くほうが…」
「それなら、彼らと一緒に行ってもよろしいですか?」
「っ!」
若手のグループは、目を輝かせた。
「な、なるほど…。
…分かりました。ですが、無理だけはしないと誓ってくださいね。
彼らは若手で、まだ至らないところもあります。レックスさん、必ず彼らと共に達成の報告をしに戻ってきてくださいね。」
受付嬢は心配そうに若手グループを見ながら、レックスに約束をお願いした。
レックスは優しく微笑み、「必ず守ります」と返した。
無事に依頼を受けれた皆は、嬉しそうに外で話し合っていた。
「あの!…レックスさん、オレたちのために、ありがとうございます!」
赤毛の剣士は深々と頭を下げる。
「いいさ。私も、一人で行くのは心細く思っていたんだ。」
レックスは優しい笑みを浮かべ、皆を安心させた。
「ところで、君たちのグループ名は何と言うんだい?」
そう聞かれた若手グループは、赤毛の剣士に言うように言った。
赤毛の剣士は、一度咳払いをすると、後に伝説となるその名を述べるのだった。




