十八話『希少属性』
リーナを見つけたルイスは、早足近づいた。
「ザックを保護したわ。」
「ありがとう、ルイスさん。」
何やら操作盤のようなものをいじりながら応えた。
「それは何?」
ルイスは邪魔にならないように覗き込み、真剣な表情のリーナに尋ねた。
リーナは作業を止めると、ルイスの方へ身体を向けた。
「恐らく、これ扉を開けられるんだと思う。
でも、初めて見るものだから、私じゃとてもじゃないけど操作はできない。」
「そんな…、じゃあバイツァ団長たちはどうしたら…。」
リーナは少し唸ると、何かを思いついたように、持ってきていた鞄を漁りはじめた。
そして、出てきたものは火薬をパンパンに詰めた瓶だった。
「…正直、これで開くとは思ってないけど、これ以外に方法はないかもしれない。」
壊すという発想は無かったルイスは、その提案に驚いていた。
「しかし、結構分厚い扉だったはずだよ。…私も、それでは行かないと思うな…。」
「他に方法がなかったら、ちょっとずつ削っていくイメージで爆破させるしか無いかな。」
「むぅ…。」
二人は頭を抱えた。
そこへ、一つの気配が迫ってきていることに、ルイスはいち早く気づいた。
「リーナ…!」
リーナの手を引き、扉の近くにあった机の下へと身を隠した。
二人が身を隠してすぐに、影のように靄のかかった者が入ってきた。
(…アイツは、一体何者?)
ルイスはその影の正体を見ようと、体勢を変えてみた。しかし、上手く見ることができない。
そんな彼女らに気づかず、影は操作盤をいじり始めた。
ゴゴゴッと言う轟音が、下の階から聞こえてきた。
リーナとルイスは顔を見合わせると、もしやと思い、影が姿を消したのを確認し、すぐに団長らの下へと向かった。
ルイスはザックを道中で拾い、リーナは先に先ほどまで閉じられていた扉の下へと来ていた。
「…ラッキーだね。」
案の定、中央広場が開かれていた事に、リーナは少し笑った。
「おぉ!開いているじゃない!」
ルイスは何も考えずに入ろうとしたため、リーナは彼女を止めた。
「もしボクたちに気付いていたとしたら、二人ともここで潰されてしまうかもしれない。
ここは、ボクがあの二人をこっちに連れてくるよ。」
「そんな!
私の方が力は強い、二人を一気に連れてこれるから、リーナはザックを見ていたほうが安心だよ!」
リーナは危険だと伝えたが、ルイスは「自分の仲間だから」と譲らなかった。
背負っていたザックを下ろしたルイスは、装備を脱ぎ身軽になった。
「…ササは、もう亡くなってる…。手前の二人を頼む。」
意識を取り戻したザックは、ルイスの手を掴み、そう伝えた。
「……。
分かった、バイツァ団長とナイツをだけを助ければいいんだね。」
「…すまない…。」
「いいよ。こういう時にしか役に立てないから…。」
ザックと会話を交わしたルイスは、しっかりと前を見据えた。
「…私なら、…できる!」
そう自身に言い聞かせると同時に、ルイスは駆け出した。
念のために、全速力で回収を試みる。
ルイスは片足だけ門の上に置いた状態で、バイツァとナイツの首根っこを掴み上げ、すぐに引き返そうとした。その時だった。
「っ!!!」
ゴゴゴッと轟音を立てながら、門が上がり始めた。
「ルイスさん!!走って!!」
一瞬の動揺をすぐに消し飛ばし、ルイスは風の抵抗を受けながら前へと進み始めた。
しかし、どれだけ全力を出しても、上手く前へ進めないルイスは、瞬時に二人を先に避難させることにした。
「リーナ!二人を頼む!!」
そう言い、バイツァとナイツを全力で投げ飛ばして、ギリギリ門の外へ出した。
そして、成人男性二人の重みが無くなったルイスも、全力で走り出した。
「ルイスゥ…!!!」
ザックは門が上がる光景を見ながら叫んだ。
そして、門は大きな轟音と共に、完全に閉じるのだった。
ー…
旧教会跡地に着いたミリアは、短刀を抜くと、念には念を入れ探知魔法を使用した。
「…誰もいない?」
調査中であると聞いていたため、ミリアは誰もいないことを不思議に思った。
ミリアは短刀を構えたまま、気配を完全に消し去り、探索を開始した。
そしてすぐに、例の魔法陣をミリアも見つけた。
「新しい魔力が込められている。
…てことは、この先にその傭兵団は行ったってことね。」
ミリアは短刀を納める。
魔法陣を触ってみたが、何の反応も示さないことを確認すると、すぐに闇の魔力が使用されたことに気づいた。
「なるほど。
…闇を扱う者はそう多くないから…、もしかしたらこの魔力は。」
ミリアは一度その事を用紙に記し、一度ギルドへ報告する事にした。
ギルドへの報告を終えた頃、すでに夕日は落ちていた。
「もし私の考えが正しいなら…。あの娘もあっと行っちゃったのかな…。」
ミリアは宿への帰路を歩いていると、ふと目に入ったものがあった。
「…銭湯?」
砂漠化が進んでいるにも関わらず、その銭湯には明かりが付いていた。
ミリアは興味を持ち、その銭湯へと入ってみることにした。
「いらっしゃいませ。」
出迎えたのは、一人の小さな少年だった。
警戒しつつ、ミリアは彼に尋ねた。
「ここは営業をしているのですか?」
少年は「はい」と答えると、カウンターから出てきた。
「ですが、今使えるお風呂は普通のものではないんです。
そしてそのお風呂で使用されているお湯は、自然の水ではないんです。」
「自然の水じゃない?」
どういうことだと思いつつ、少年の案内に従いついていく。
「ここで使用されているのは、野生のスライムから採取できるスライムエキス…、つまり体液を使用したものなんです。」
「スライムエキス…」
確かに、スライムエキスは美容に良いと聞いたことはあるが、それをお風呂にしるとは…。
ミリアは困惑しながら、案内された湯船を覗き込んだ。
「…これ、身体に何らかの害などは無いんですか?」
湯船いっぱいに入った、鮮やかな青色を見ながらミリアば戸惑いながら訪ねた。
「害は一切ありません。
それに、このお風呂に入られたお客様からの評判はとても良いのですよ。
たしか、このお風呂に入ってから、お肌がプルプルの誰もが憧れるお肌になれた、とか…。」
少年は胸を張りながら応えた。
少し興味が湧いてきたミリアは、意を決してこの風呂へ入ることにした。
ー…
「スイレン様、お肌プルプルのお客様がお見えです。」
「…お肌プルプル…?」
ナナホシが変な事を言って、執務室に通したのは一人の冒険者だった。
「お久しぶりです、スイレン。」
「お前は…!元気であったか…、なんだそのプルプルとした肌は…?」
久しぶりに再会した戦友、ミリアに喜びと共に困惑までやって来た。
「これは城下のとある銭湯に入ったことが原因だよ。」
「そんな銭湯に入ったということは、やはりお前の趣味は変わっておらぬのだな。」
呆れたように笑うスイレンは、王座から降りミリアに近づいた。
「…まぁどんな姿であれ、またこうして会えたこと、嬉しく思うぞ。」
「私もだよ、立派に王をやってるようで安心だ。」
二人は熱い抱擁を交わすと、スイレンはさっそく用事を尋ねた。
「旧教会跡地で、白龍傭兵団が姿を消したことは知っている?」
「知らないな。白龍傭兵団は今どこにいるのかも把握していなかった。
ギルドの依頼をしているのではないのか?」
「実は、調査依頼を受けてすでに五日が経っているんだ。」
「たかだか調査の依頼で五日も?」
スイレンはありえないと言った様子で、ミリアを見た。
「私もその調査依頼を受けて、旧教会跡地に行ってみたんだ…。そこで、妙な魔法陣を見つけた。」
そう言いながら、ミリアは調査報告書を鞄から取り出し、スイレンに渡した。
それを受け取ったスイレンは、軽く目を通すと、目を見開いた。
「闇属性だと…?!」
驚くスイレンにミリアは頷き、別の資料も取り出した。
「驚くのも無理は無い。
…今や、闇属性をその身に宿している者自体が減少傾向にあるからな。だが、全くいないわけでもないのは分かっているだろう。」
「もちろんだ。王になるまでに、そのくらいの教養は身につけている。」
「それなら安心だよ。…まぁ何が言いたいかというと…」
スイレンはいつもよりも真剣な表情で、ミリアを見つめた。
「スイレン…、もしかしたら白龍傭兵団、もしくはそれに同行したとされる少女らの中に、希少な闇属性を扱う者が居る。
それに、これに関しては単なる憶測になるが…。」
ミリアはスイレンの目をしっかり見ると、ゆっくり話し始める。
「…光属性を扱う者もいるかもしれない。」
「………おいおい、私を馬鹿にしているのか…?」
首を軽く振りながら、苦笑いを浮かべるスイレン。
「光属性は闇属性なんかよりも少ない…。
いや、もはやそれを所有する人間は絶滅したはずだろ…?」
「…あぁ、今光属性を持っているのは、天龍民のみだろう。
だが、私は一人だけ身に覚えがあるぞ…。」
動揺を隠せていないスイレンをよそに、ミリアはその名を告げる。
「シューティリー…。」
「っ!」
最近会ったことがある人物の名を聞き、スイレンはいつもの冷静さを失うのだった。




