十四話『リューとシュー』
ー…アルメルク
ゲルルクの攻撃は、メルの登場により減った。
しかし、これまでの被害は決して軽いものではなく、未だに人がまともに住める場所は確保できていない。
「ザーリック殿、防壁の補強を進めるべきだと考えますが、そちらの様子はどうなっています?」
「城内を民たちの避難所にしているが…、食料の備蓄も残りが少なくなってきている。
正直、このまま戦争を続けようものなら、先に食料の備蓄がなくなってしまい、こちらの敗北は確実だ。」
頭を悩ませながら、ザーリックは小さく咳をする。
メルはそれに気づき、体調を聞いた。
ザーリックは「大丈夫だ」とだけ言うと、報告書を見た。
「…ゲルルクはなぜ我々を…」
小さくそう呟いたザーリックは、目元を押さえる。
「ザーリック殿…?」
様子がおかしいザーリックの隣まで行き、彼の肩に手を置いた。
「っ!!」
近くまで来て、ザーリックの身体がひどく火照っていることに気づいた。
ザーリックは何度も大丈夫だと言っていたが、立ち上がろうとした彼は、足がおぼつかない様子で、そのまま倒れそうになった。
体勢を崩したのを見たメルはすかさずザーリックの前に立ち、身体全身でザーリックを受け止めた。
「馬鹿!!無理をするんじゃない!!」
慎重にザーリックを横にすると、メルは使用人を呼んだ。
呼びかけに応じたのは、三人のメイドだった。
「ザーリック様!」
白髪短髪のメイドがザーリックに近寄り、身につけていたエプロンのポケットから何やら注射器を取り出した。
一緒に来た緑髪のメイドは、ザーリックの袖をまくり、注射を刺しやすいようした。
注射針を慎重にザーリックに刺すと、体内に薄水色の液体を入れる。
注射を受けたザーリックは、少し楽になったのか寝息を立て始めた。
「…無理をしすぎたのか…」
メルは、眠るザーリックを見てため息をついた。
「あの、ザーリック様を守ってくださり、ありがとうございます。」
黒髪長髪のメイドが、メルのもとに来るとそう感謝を述べた。
「…ザーリック殿はもう大丈夫か?」
「はい。少し寝れば、目を覚ますはずです。」
「そうか…」とメルは安心すると、槍を手に取り、その場を去ろうとした。
「…メル様、私たち、何処かでお会いしましたか…?」
黒髪のメイドは、躊躇いながらメルに聞いた。
メルは少し黙り込むと、メイドの方へ目線を向け、曖昧に答えた、
「…会ってるかもな。」
ー…スイリンカ
白龍傭兵団に依頼を受けてもらった少女は、二人の仲間を連れ、旧教会跡にやってきた。
「お待たせしました!
こちら私の仲間で、フワとリーナと言います。」
「我々もいま来たばかりです!」
相変わらず様子のおかしいバイツァに呆れながら、リューは少女の前に出た。
「…遅い!二時間くらいここで待った!」
リューは威嚇しながら少女にそう言うが、少女も相変わらず何を考えているのかわからず、ずっとニコニコしていた。
「すみませんリュー。
ですが、待ち合わせをしたのはお昼ですよ?」
「……今は昼…。」
すぐに理解したリューは、バイツァに飛びかかった。
「バイツァ!?私の時間返せぇ!!!」
「イダイッ!!イダダダダッ!!すまん!許してくれ!!」
その光景を見ていたフワとリーナは、少し心配そうに少女を見た。
そこへ、ヒーラーであるヒメルカがやって来た。
「すみません。
リューちゃん、スイリンカの伝統料理を食べれなくて、少し怒っているんです。
普段はもっと冷静なのですが…、今日は虫の居所が悪かったようです。」
「スイリンカの伝統料理ですか。」
「はい、本当はお昼に食べる約束をしていたのですが…。」
バイツァを襲っていたリューがこちらへ飛んでくると、少女の眼前まで顔を近づけ、不満を言った。
「バイツァがお前を優先した!!私との約束破った!!
お前、私の大切な時間奪った犯人!!」
ヒメルカはリューをなだめると、抱きかかえられ少女から離された。
「少し可哀想なことをしてしまいましたね。」
少女は申し訳なさそうに笑うと、自らリューに近づいた。
「リューさん。」
「…なに?」
「この依頼を済ませたら、みんなでお料理を食べに行きましょうね!」
「……お前も一緒…?」
「もしよろしければ。」
「…やっ!」
「あはは、これは相当嫌われてますね。」
リューはべーっとすると、ヒメルカの後ろに隠れるのだった。
ーーー
リュー不貞腐れたまま、ザックとヒメルカの間に挟まったまま、目的の魔法陣の下へ来た。
魔法陣をまた一行は、不思議そうに観察した。
「…これ、少しだけ魔力が残っていますね。」
観察していた白龍傭兵団の魔道士、ナイツがそんな事を言い始めた。
「魔力が残っている?」
「はい、それにこの魔力、宗教団体が使用したのとは別…、新しい魔力です。」
「…つまり、最近この魔法陣を使った何者かがいるということか…。
これを起動することはできるか?ナイツ。」
その問いにナイツは少し難しそうな顔をした。
「基本的に魔法陣というのは、これを設置した者と同じ魔力、もしくはそれに似た魔力でしか使えないとされています。
なので、僕の魔力じゃこれは起動できないかも…」
バイツァは理解したように頷くと、その魔法陣に触れた。
「…確かに、お前の魔力とはまた別の魔力だな。」
「触っただけで魔力の違いが分かるのですか?」
フワが感心したように聞いた。
「団長は昔から、魔力の流れを感じ取ることができるのよ。」
「へぇ〜…、ちなみに、どのような魔力なんです?」
「そうだな、言葉にするには難しいが…、闇に似た魔力を感じる。」
フワはなるほどと再び感心した。「なら…」と言い、フワは魔法時に近づくと、杖を取り出すと魔法陣に魔力を注ぎ始めた。
ナイツは驚いたように、フワを止めようとしたが、少女に止められた。
皆が不安そうに見守る中、フワは魔力を注ぎ終えると、構えている皆の方を見た。
「これで起動できると思います!」
「……なに?」
魔法陣を確認したバイツァは、しっかり起動していることに困惑しながら、団員たちを呼んだ。
「…マジかよ、君も、あの娘もいったい何者なんだ…?」
ザックは呆れたような、感心しているような様子でそう言った。
魔法陣の起動を確認した一行は、装備の点検を入念に行った。
「皆、これから何があるかわからん、すぐに対応できるように心の準備もしておくんだ。」
「はい!」
団長の指示に返答を返し、各々が準備運動や武具の手入れをする。
そんな中、リューは夕陽が落ちていく様子を見ていた。
「リュー、お前も油断するな。」
バイツァはリューを気にかけ、話しかけた。
リューはそれに反応を示さず、ずっと空を見上げていた。
困ったとバイツァは頭を悩ませると、リューが口を開いた。
「…私は、なんでここに来たんだろ…?」
突然の質問に、バイツァは何と返答すべきか悩んだ。
「…ごめんなさい。
…私、自分が天龍なのがよく分からなくて。…忘れて…。」
リューは悲しそうな表情で、バイツァから離れた。
何も言えなかったバイツァは、自身の無力さに腹を立て、拳を握りしめた。
バイツァから離れたリューは、なぜかあの少女の元へ来ていた。
「ん?どうしたんですか、リュー。」
少女はリューと目線を合わせると、優しい声色で尋ねた。
「…ごめん、なさい…、いきなり怒鳴ったりして…」
いきなり謝られた少女は驚いた様子を見せ、すぐに笑った。
「いいえ、貴女は何も悪くありません。悪いのは私ですから。
…貴女の大切な時間を奪ってしまい、本当にごめんなさい。」
少女はリューの頭を優しく撫でる。
撫でられるリューは、なぜかその行為がとても嬉しく感じた。
不思議な気持ちになる彼女は、ある人のことを思い出した。
「…お前、名前なんて言うんだ?」
「名前ですか?」
「うん…。お前のこと、ずっとお前なのは嫌…。…教えて。」
少女は撫でるのを一度やめると、ニコっと笑い名乗ってくれた。
「私はシューティリー、長いから短めに適当に呼んでください。」
「…シュー、いい名前。」
「貴女もいい名前ですよ。リュー、とても可愛い♪」
シューは再びリューのことを撫でるのだった。




