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天龍の御子  作者: 文記佐輝
戦神の章
13/20

十三話『旧教会跡』

魔力の塊を採取し、白龍傭兵団は洞窟を一度出ようと、来た道を戻っていた。

「ザック、これからはもっと用心して行動するんだぞ。」

「はい、すいません…。」

ザックは素直に謝り、軽率な行動をしたことに対して、本当に申し訳なさそうにしていた。

バイツァはザックの背中を叩き、「今回はは手柄だったがな」と声をかけるのだった。


外の光が見えたところで、皆の緊張がほどけた。

しかしそれが駄目だった。

「ッ!?」

突如地面が崩れ始め、傭兵団の団員が次々とその崩壊に巻き込まれていく。

天龍であるリューは、近くにいたヒーラーと魔術師を抱え一気に外へと飛び出した。

二人を降ろすと、リューはすぐに洞窟に飛び込み、落ちていく団員を三人地上へ投げ飛ばし、バイツァを助けようとした。

「俺はいい!ザックを頼む!!」

バイツァはそう言うと、抱えていたザックをリューに任せた。

気を失っているザックを一度地上へ連れて行くと、ヒーラーに彼を任せ、リューは再び飛び込もうとして…

「っ!?」

リューは洞窟の眼前で倒れ込んだ。

(痛い…、まだ身体が馴染んでないんだ…)

リューは消えゆく意識の中、一人の少女が洞窟へと飛び込むのを見た。

団員は飛び込んだ少女に驚きながら、洞窟の入り口で崩落した地面の底を見つめた。

「あっ…!あそこ!」

一人の団員が、深い位置でゆらゆらと揺れている少女を見つけた。

「すみませーん!引き上げてもらえますかぁ!?」

少女は目線に気づいたのか、団員たちに頼んだ。

団員たちは了承し、少女が引っ掛けたであろうフックを見つけ、ロープを全員で引っ張った。

明らかに少女一人分の重さではないことに気づき、皆は驚いた。

ようやく上まで上がってきた少女は、皆の予想通り、バイツァを抱えていた。

少女はバイツァを安全な位置で離すと、少し距離を取って、座り込んだ。

「団長!!」

団員が咳をするバイツァに近づき、怪我をしていないかを確認し始めた。

バイツァは何が起きたのかよく理解できておらず、身体を触って生きていることを確認し、安堵の息をついた。

「よかったぁ!皆無事だぞ!」

大剣使いの団員が歓喜の声を上げた。

「あ、あぁ…。よかった…。」

バイツァは自身を救ってくれた少女を見た。

「………」

少女はバイツァの視線に気づき、ムッとした表情で近づいてきた。

「皆さん、緊張を解くのは洞窟を完全に出てからにしてください。

行く時はトラップがなかったのかもしれませんが、だからといって油断だけは絶対にしてはいけませんよ!」

その言葉は、初めて会ったにも関わらず、皆のことを心から思って叱ってくれていることがよく伝わるものだった。

団員は謝り、感謝を伝えた。

その言葉を受け取った少女は、ニカッと笑うと、

「分かってもらえたのなら、よかったです。」と言った。


傭兵団は少女に謝礼を払おうとしたが、それは拒まれ、代わりに依頼を引き受けることを提案された。

団員は皆口を揃えて、「やらせてください!」と答えた。

少女は可愛らしく笑うと、スイリンカのギルドに依頼の申し込みをすると伝え、その場を去っていった。

少女と別れて、すぐに気を失っていたリューが目を覚ました。

「…バイツァ…?」

リューはゆらゆらと立ち上がろうとした。

「リューちゃん、ダメだよ、まだ万全じゃないからね。」

ヒーラーは少し慌ててリューを寝かせる。

「…ヒメルカ、私は大丈夫だよ。」

なんとか説得しようと試みたが、ヒメルカは首を横に振った。

説得は無理だと考えたリューは、せめて、バイツァの安否と傭兵団の被害状況を聞いた。

「安心して、バイツァ団長は無事だから。

それに、すごい女の子が団長を救ってくれたおかげで、傭兵団の全員無事で、被害はゼロだよ。」

優しいヒメルカの声で聞いたリューは、安心したように、「寝る」とだけ彼女に伝えて目を閉じた。

ヒメルカはリューの頭を撫でながら「おやすみなさい」と伝え、治療を続けた。


ー…シューティリー

ロープで傷ついた腕を上着の袖で、傷つい手は手袋をつけて隠し、フワとリーナの待つ廃墟へと向かった。

「ごめん、遅くなっちゃった。」

二人と合流したシューティリーは、怪しい集団が利用していたであろう廃墟を探索し始めた。

「情報によると、ここはかつて、とある宗教団体が利用していた教会だったそうだよ。」

「その教会の跡地を拠点として活動していたのは、何か理由があるのかな?」

「さぁね。

でも、一つだけ分かることはあるよ。」

そう言うと、リーナは懐から古びた書物を取り出した。

「この教会には、とある祭壇があるそうなんだ。

その祭壇には、今でも残されている魔法陣があるらしい…。

…そしてその祭壇というのが、アレだね。」

リーナが指を差した方向へ視線をやると、ステンドから太陽の光が差し込んでおり。その光の先には、一つの像と、地面に描かれた魔法陣があった。

「これが例の魔法陣…」

シューティリーはその魔法陣に、魔力の残滓を見た。

二人はそれに気づいていない様子で、その魔法陣を調べ始めた。

シューティリーは話そうとも考えたが、思いとどまった。

魔力は微かに残ってはいるが、それでなにか起こることはないと考えたからだった。

シューティリーは二人に近づき、共に魔法陣を見てみた。


しばらく捜索をした頃、リーナに話しかけられた。

「シュリーちゃん、この魔法陣は何のためにここにあったと思う?」

「…ここにあるのは少し不可解ですが、転移のためのものでしょうか。」

リーナは「なるほど」と言い、顎に手を当てて何か悩み始めた。

少しして、リーナは二人を先の魔法陣の場所へと集めた。

「この魔法陣、ボクが持っている魔導書にはどこにも記載がないものだったんだ。

…んで、さっきシュリーちゃんとフワちに聞いたんだけど、この魔法陣は何のために使われていたのか…。

ボクなりにいろいろと考えて、それっぽいものが浮かんできたんだ。」

リーナはそう言うと、魔法陣の上に立った。

「…これは、緊急時の出口だったんだと思う。」

そう結論を出す。

フワは少し納得したが、シューティリーは少しだけ違和感を感じ、リーナに聞いた。

「緊急時のものだったら、わざわざ魔力が必要な魔法陣じゃないほうがいいんじゃない?

それに、これだと魔力を持たない者たちは脱出できずにここで…。」

そこまで言って、シューティリーは一つの答えにたどり着いた。

まさかと思い、リーナを見た。

リーナは小さく頷くと、未だに理解が出来ていなかったフワに説明を始めた。


「これはある一人のための魔法陣だったんだ。」

「ある一人のため?」

「うん。

そいつは恐らく、ここを根城にしていたメンバーの一人だったと思うんだけど、他の団員が通れないようにこれを選択したんだよ。」

「どうしてそうする必要があったんですか?」

「…これも憶測になっちゃうけど、多分これを使ったのは、宗教団体の中でも上位の者たちだったんだと思う。

彼らは、下位の団員たちを囮にして逃れたんだ。」

「な、なるほど。

つまり、宗教団体の長やその側近とかだけが逃げるために利用したってことですね。

それに、この魔法陣に使われる魔力量は、大抵の魔術師でも枯渇するレベルだから一般団員たちじゃこれは使えなかった、と…。」


納得したようにフワは小さく頷いた。

二人の会話を聞いていたシューティリーは、メモ帳でこの教会跡の現状を書き込み、肝心な事が不明なことに気付いた。

「…結局、フードの方々はここで何をしていたんでしょうね?」

「そうだね…。

問題はそこなんだけど、まったくと言っていいほど証拠が出てこないねぇ。」

「ここを根城にするくらいです。

何らかの理由があってもおかしくないと思いますが、…フワは何か見つけました?」

「私もまったく…。今のところまだ怪しいだけですから…。」

三人は頭を悩ませ、結局ここでの収穫は何も無いと言ってもよかった。


ーーー次の日、早朝…

リューはバイツァと共にスイリンカの冒険者ギルドへ来ていた。

目的は特に無かったが、何もせずに一日過ごすのも良くないと思い、ふらっと立ち寄っただけだった。

「…これ、もしかしてあの娘のものか?」

掲示板を眺めていると、バイツァが一つの依頼書を見つけた。

リューもそれを見た。

依頼の内容はシンプルなもので、よくある調査依頼というものだった。

「受ける?」

「……恩返しもしないといけないからな、少しでも手伝えるなら、これを受けてみよう!」

バイツァがいつにも増してやる気を見せたことに、リューは少し驚きつつ、それに賛同した。

二人はそれを手に取り、受付へ向かった。

受付へ着くと、すでに受付と仲良く話している少女がいた。

バイツァは遠目で見て、すぐに少女が恩人であることに気がついた。

バイツァは一瞬だけ顔を緩めたが、すぐにいつもの状態に戻した。

「すまない、これを受けたいのだが…。」

受付まで歩き、それを窓口に置いた。

そして、受付と話をしていた少女と目が合った。

「…それ!引き受けてくれるのですか?」

彼女はキラキラとした瞳でバイツァを見た。

「は、はい!

命を救ってもらった恩、少しでもお返しするためならば、どんな依頼でも引き受ける所存でございます!」

なぜか声が上ずって聞こえたリューは、バイツァの異変にすぐに気づいた。

バイツァは不自然に背筋を伸ばし、額から汗を滲ませながら、どこを見ているのかと突っ込みたくなる目線。

そんな彼を見たリューは、無性に腹が立ってしまいスネを思いっきり蹴ってしまった。

「アダっ!?」

突然蹴られ、動揺するバイツァをよそに、リューは自身より少し背の高い少女を睨みつけ、威圧し始めた。

「こら!俺たちの恩人をなんて目で睨んでいるんだ!?

やめなさい!」

「コイツ、私と似た匂いがしてキライッ!!」

リューが初めて感情を表に出してくれたことに嬉しさを感じつつも、恩人に対して失礼なことをしている事に板挟みにされ、バイツァは変な気分になった。

戸惑っているバイツァを落ち着かせ、少女はリューと目線を合わせた。

「安心して、私は貴女から何かを盗ろうとなんて思ってないからね。」

優しい声色で少女はそう言うと、リューの頭を優しく撫で始めた。

「あっ!!それは…!」

バイツァは慌ててそれをやめさせようとした。

しかし、意外にもその行為を黙認するリューを見て、バイツァはさらに感情をごちゃまぜにされたのだった。

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