十二話『スイリンカの王』
「おや?
ミリアちゃん、どこか行くのかい?」
大きな荷物を背負い、東門に向け歩いていると、銭湯へいつも来てくれるお婆さんに声をかけられた。
「えぇ、少し旅に…。
でも安心してください。銭湯は弟たちが通常通り開けますので。」
「そうなのねぇ…。でも、少し寂しくなるわね。」
そう言いながら、お婆さんは優しく見送ってくれた。
私は簡単に別れを告げると、彼女を探しに、スイリンカへ向かうのだった。
ーーー
砂漠化の影響で、水の都はかつての活気を失っていた。
以前までは姿を見せなかった魔物たちも、街中で見られるようになり、スイリンカの長であるスイレンは、対応に追われていた。
「…砂漠化が今よりも進めば、スイリンカは終わり、か…。」
スイレンは頭を悩ませながら、貴重な水を少しだけ口に含んだ。
そこへ、側近であるナナホシが、一人の少女を連れてきた。
「スイレン様、この者が会いたいと言ったので、連れてまいりました。」
「……ナナホシィ…」
スイレンは天を仰ぎながら、「何用だ?」と少女に聞いた。。
少女はシューティリーと名乗ると、礼儀正しく挨拶を済ませると、スイリンカの現状を尋ねてきた。
「…それを知ったところで、お主に何の徳がある?
そして答えたとして、僕になんの徳がある?」
呆れながら、スイレンはシューティリーを見ながら問うた。
シューティリーは物怖じせず、その問いに答えた。
「私はスイリンカの復興を望んでいます。
スイリンカが復興すれば、私はそれだけで徳なのです。」
スイレンは少しだけ関心を持ち、椅子に乗せていた足を下ろした。
「そして、私はまだ子供ですが、それなりの教養はあります。
なので、復興のお手伝いをしたいと考えております。」
「…お手伝い、ね。
例えば、どのようなことをしてくれる?」
スイレンは椅子から立ち上がり、シューティリーの前まで歩を進めた。
目の前まで来たスイレンを前にしても、シューティリーはなんの動揺も見せず、むしろ笑顔で答えた。
「水の都スイリンカの復興、そのためでしたら、私は使える知識をすべて使い、砂漠化の元凶を叩いてみせましょう。」
その堂々とした受け答えに興味を引かれたスイレンは、少しだけ希望が差したように感じ喜んだ。
「お主のような者が必要だと思っていたのだ!
スイリンカを救うために、お主の知恵を貸しておくれ!」
手を差し伸べたスイレンの手を、シューティリーは快く握った。
ーーー
「どうだった?上手くいった?」
城から出てきたシューティリーを、フワとリーナが出迎えた。
「はい、協力する流れになりました。」
「よっし!
じゃあ後は、砂漠化を引き起こした原因、元凶を突き止めるんだね。」
リーナは嬉しそうにそう言うと、どこかへ走り去ってしまった。
城の前に残されたフワは、シューティリーに詳しい情報を教えてもらった。
「…つまり、この砂漠化は何者かの干渉があったと考えているんだね。」
「えぇ、スイレン様いわく、砂漠化が起きるちょっと前に、ゲルルクから使者が来たらしい。
…疑うわけではないけど、もしかしたらその使者が関係しているのかも。」
シューティリーは一瞬、銭湯で読んだ新聞のことを思い出したが、それは考察には反映させなかった。
「もしその使者が関係していたのなら、ゲルルクとの関係は悪くなるかもしれないね。」
二人は悩みながら、城から少し離れた広場に向かった。
広場のベンチに腰を掛けると、シューティリーは深く息を吐いた。
「…それにしても、スイレン様の圧倒的なオーラは、昔から変わっていなかったな…。」
緊張を隠しきれていたか分からないが、今だけは全身の力を抜いた。
「スイレン様とは知り合いだったの?」
シューティリーの口ぶりから、フワは疑問に思ったことを聞いた。その疑問に、シューティリーは「生まれた時に会った」と答えた。
「赤ちゃんの時に会ったのね。」
そう言ってから、約3秒後に驚いた。
「赤ちゃんの頃に会ったこと覚えてるの!?」
突然大きな声を出され、シューティリーはびっくりした。
「そ、そうだよ。私が生まれた時に、スイレン様がお父様に連れられて来ていたの。
その時から、大物のオーラというか、すでに圧倒的なオーラを放つお方だったから、よく覚えてるの。」
「そ、そうなのね。…すごいわね。」
フワは小さく深呼吸をして、「そうよね」と自分に言い聞かせた。
「ところで、フワは何か情報はない?」
広場のベンチでゆっくりと休憩をしたシューティリーは、フワに聞いた。
「そうだね…。
これも砂漠化する以前の話ですが、フードを被った怪しい人物が複数人いたそうだよ。」
フワは鞄から手帳を取り出し、集めた情報の一部を抜粋し伝えた。
「怪しい人物の集団…。
ゲルルクの使者は関係なさそうだよね?」
「分からないわ。でも、少なくともその集団と砂漠化は何かしらの関係がありそうだわ。」
砂漠化は世界各地で起きている現象であり、それがもし人の手によるものなら、各国の偉い人はその犯人を決して許さないだろう。
シューティリーはその最悪の未来を想像し、それだけは避けたいと思った。
「…原因の除去。それは最優先にしないとだね。
元凶の追求はそれから…かな。」
ベンチから立ち上がり、二人は宿の方へ向かい歩いた。
「他にも気になった情報があって、二日ほど前に、白龍傭兵団が訪問してこられたそうよ。その中には、天龍の子がいたとか。」
「て、天龍の子…?」
「えぇ、白亜の羽根に龍の尾、鋭い角に蒼い目だったそうよ。
髪色も、シューティリーちゃんに似た赤髪と白髪が混在する髪色だったそうよ。」
「そうなんだ…。」
空を見ながら、シューティリーはその容姿を想像した。
(…きっと綺麗なんだろうなぁ、天龍の子は。)
少し憧れを持ちつつ、シューティリーは出会えることを楽しみにしながら、宿へ帰るのだった。
ー…???
「そっちへ行ったぞ!」
増殖を続ける魔物を、白龍傭兵団は依頼のために倒していた。
ヒーラーを襲おうとした魔物に対し、同行していた天龍の子は、容赦のない一撃を入れた。
「ハァッ!!」
ドゴォッと凄まじい音がした瞬間、魔物たちは驚いたのか、その場で一瞬固まった。
それを見た団長は、皆に指示を出し魔物を一掃した。
魔物たちの気配が消えたことを確認し、皆一息ついた。
「よくやった、皆。」
「団長の指示のおかげっすよ〜。」
皆が武器を下ろすなか、天龍の子はただ一点を見つめていた。
「お前もよくやった、一旦休憩しよう。」
「……」
「…リュー?」
リューが見つめる先を、皆も見つめる。
「……まさか!!」
いち早く察したのは、ば白龍傭兵団の所属したばかりの新人だった。
一人駆け出した新人を、団員は止めようとした。
その静止も聞かず、新人とリューは奥へと入ってしまった。
団長は焦り、団員に待機するように伝えると、二人のことを追って奥へと入っていった。
「リュー!ザック!!」
ようやく追いついた団長は、二人を叱ろうと近づいた。
二人に近づいて、ようやくあることに気づいた団長は、リューを見た。
「……これはお手柄だぞ、リュー、ザック。」
団長はそれを見つめながら、ザックに団員を連れてくるように伝えた。
「…これはいわば、魔力の塊…。
…洞窟の入り口から、魔力の流れがずっと変だった。
原因はこれだよ、バイツァ。」
「…団長と呼びなさい。」
そして、団員を連れて戻ってきたザックらと共に、白龍傭兵団はそれを採取するのだった。




