十一話『動かぬ戦場』
水の都、『スイリンカ』を目指して出発したシューティリーとフワは、道中で倒れていた弓使いを拾った。
「すみません、本当に助かりました!
もう駄目かと思ってましたよ…!」
弓使いはヘラヘラと笑いながらそう言った。
「もし私たちが来ていなかったら、諦めようと思ってました?」
「そん時はそん時ッスよ!」
なぜこんなにも悠長なのかと思いながら、シューティリーは彼女に尋ねた。
「あんなとこで倒れていましたが、いったいどこへ行こうとしていたんですか?」
「そりゃもちろん!……どっかですよ!」
何も考えていなかったことが浮き彫りになった。
彼女は特に理由もなく旅をしていたということに、シューティリーは驚いていたが、フワは納得したように「なるほどです〜」と言っていた。
「…フワ、目的もなくただ旅をする人は何がしたいの??」
純粋な疑問を聞いた。
フワは苦笑いをしながら、「この子は箱入りなんです」と言った。
何のことだろうと思い、シューティリーは弓使いを見た。
弓使いはなぜか、苦しそうに悶えていた。
「シュリーちゃん…、素朴な疑問ほど痛いものはないよ…。」
胸を押さえながら、弓使いは半泣きでシューティリーに告げた。
シューティリーはいまいち理解ができておらず、追撃をしてしまったのは、また別のお話。
ーーー
三日ほどかけて、ようやくたどり着いたスイリンカは、噂で聞いていたよりも廃れてしまっていた。
「…ここが…、水の都?」
シューティリーは驚きで言葉が出ずにいた。
「砂漠化の影響がここにも出てるか…。」
弓使いは道中の雰囲気とは打って代わり、とても真剣な表情になった。
「砂漠化って、いったいなんですか?」
「ここ一年の間に、約20カ所の村や町、国で水不足が増加しているんだ。
でも、まさか海に面しているここまで砂漠化が起きてるなんて…。これは想定外だな。」
弓使いは興味深そうに、地面の砂を袋に詰めた。
「…もしかしてその調査のために旅を?」
フワは気になり、弓使いに尋ねた。
しかし、弓使いは首を横に振り、「普通に興味があるだけだよ。」と答えた。
「…さて、君らはこれからどうするんだい?」
「私たちは情報を集めるために、城下町の宿に泊まります。」
「そうか…。分かった、ならボクも同行させておくれよ。
ボクも砂漠化の原因について、いろいろと情報を集めたいからさ。」
弓使いはそう申し出てきたが、シューティリーは困った。
その理由は、まだ彼女にはシューティリーの出身を話していないからだ。
「……それは、いい考えですね。」
少し悩んでしまったが、シューティリーは利益を考えて、彼女の申し出を承諾した。
弓使いは小さく喜ぶと、手を差し出してきた。
「改めてよろしく!
ボクの名前は、リーナって言うよ!」
そう名乗ったリーナは、眩しい笑顔を見せたのだった。
ー…アルメルク
ゲルルク軍を一時的に退けたアルメルク軍は、一旦の休息に入っていた。
「帰ってきてくれて本当に助かった。」
ザーリックは援軍を率いて戻ってきた槍使い、メルに感謝を伝えた。
「…いえ、故郷が襲われていると聞いたので、故郷を守りに来ただけです。」
メルは素っ気なくそう言うと、仮面をずらし水を飲む。
「…ところで、シューティリー様は?」
「まだ帰っておらんぞ。
まぁ今の状況でも戻ってこられても、守れる自信がないがな…。」
「…そうですか。」
帰っていないことを聞いて、少し安心したような声色になった。
休息していたザーリックの元へ、伝令が走ってきた。
「王様!ゲルルクから使者がやって参りました!」
「なに?」
ゲルルクの使者を王の間に通すよう、伝令に伝えると、メルに一緒にいてもらえないか聞いた。
メルは少し面倒くさそうにため息をつくと、「いいでしょう」と承諾した。
そして、少しして使者が姿を現した。
「失礼します。私、ゲイツ・フォルティと申します。」
丁寧な挨拶をしたゲイツは、顔を上げると、手に持っていた紙のようなものを地面に置いた。
「こちら、ゲルルク襲撃部隊の将軍からの申し出でございます。」
「…ほう、わざわざ私がそれを読まねばならぬのか?」
「……私はこれを渡すように言われているだけですので、私は読むことを許されておりません。」
ゲイツは後退すると、その場で座った。
「……なるほどな。…私を試しておるのか…。」
ザーリックは少し苛立ちつつも、冷静を装いつつ立ち上がろうとした。
しかし、それをメルに止められた。
「…ボクが行きます。…ザーリック殿はそのままで…。」
そう告げると、槍を王座に立て掛け、歩き始めた。
メルがその紙の前まで来ると、それを拾い上げた。
今のところ問題は起きていない。
そして、メルがその紙を開いた瞬間、眩い光が王の間全体を包みこんだ。
「…やはり罠か…!!」
ザーリックは即座にメルの槍を掴み、背後から襲いかかってきた気配に向け、一突きした。
「グッ!?」
視界を奪われていても、的確に急所へ当てたザーリックは、その者をゲルルクの使者、ゲイツに向け投げ捨てた。
「…さすがは、戦神とも呼ばれたお方だ…。」
ゲイツは槍で貫かれた兵を担ぎながら賞賛した。
「貴様…、こうなることはわかっていたのだな。」
「もちろんです。
この程度の子供騙しで、戦神の首を取れるとは到底思ってはいませんでした。」
「なら、なぜこんなことを…!」
その質問をした瞬間、ゲイツの背後から煙が現れた。
「…私は信じているのですよ、ザーリック殿。
この戦、私は貴方が勝ってくれることを、祈っておりますよ…。」
ゲイツは笑い、煙の中に姿を消すのだった。
ーーー
「…ザーリック殿、以後はゲルルクからの使者はすべて断りましょう。
それが、長生きするための最適解だと思います。」
メルは槍を拭きながら、ザーリックに提案した。
ザーリック自身も、その事はよく理解はしていた。
しかし、先ほど来たゲイツという男のことを思い返しながら、それは本当に最善の策なのかと悩んでしまう。
「…あの男、ザーリック殿のことを、『戦神』と言っていました。
しかし、ボクが知る限り、『戦神』と呼ばれた男はすでに亡くなっていると聞いているのですが。」
悩んでいたザーリックに、メルは聞いた。
それに対して、ザーリックは特に何も言えずに俯いてしまった。
メルは何か事情があることを察し、それ以上の追求は辞めることにした。
しばしの沈黙が続き、静かな時間が流れた。
そこへ、一人の青年が扉を開けて入ってきた。
「アンタがシューティリーの親父か…。」
そう言った青年もまた、メルと同じように仮面をつけていた。
「…ルーン、ザーリック殿は王様だぞ、ちゃんと敬え。」
「そ、そうだった…。ンンッ!」
メルは呆れたようにため息をつきながら、首を横に振った。
「無礼な態度、申し訳ありませんでした、ザーリック王。
俺…、私はるで…、ルーンと申します。」
「……ルーン…。」
頭を抱えてしまったメルと、本当に申し訳なさそうにしているルーンを見たザーリックは、思わず微笑んでしまった。
「よいよい。タメ語構わないぞ、ルーンよ。」
「あっ…!そ、それならお言葉に甘えて…。」
軽く頭を下げながら、ルーンは話し始めた。
「ザーリックさん、兵の武具をみて回ったんッスけど、あまり良いものを付けてないッス。
そのまま戦っても、勝てないことは無いッスけど、勝率は下がっちまうと思います。」
「…確かに武具は、兵たちの身を守る物だからな…。
だが、今から作り始めたとしても、次の攻撃までに間に合わない…。」
「そこでです…。」
そう言うと、ルーンは背負っていた鞄から、新品の武具が現れた。
「それは?」
「これは、俺が作った武具たちです!」
自慢げに、彼は鞄から次々と鞄からそれらを出し、並べていった。
すべて綺麗に磨かれており、手入れが行き届いていることがよくわかった。
「こいつらを、全てアルメルクに引き渡ししたいと考えてるッス。」
「なんと…!良いのか!?」
目を輝かせたザーリックに、ルーンは嬉しくなり「はい!!」と口走ってしまった。
「おい!違うだろ!」
そこでメルが止めに入った。
「無償で渡す馬鹿がどこにいるんだ!」
「そ、そうだった!!悪い…!」
「まったく」と言い、メルは腕を組んでため息をついた。
ルーンは焦りのあまり、変な笑い方をして、仕切り直そうと咳払いをした。
「すんません…、ちょっと舞い上がっちって適当言ってしまいました…。」
「いや、こちらこそすまない…、勢いで押し切ろうとしてしまった…。」
「そうでしたかぁ……はは…。
で、では条件のお話といきましょうか!
…こちらを無償でお譲りすること、正直こっちに利がないのでできないです。
そこで、俺からの相談といいますか、条件なのですが…。」
ルーンは地図を開き、ザーリックに見やすいように配置する。
そして、ルーンはその場所を指した。
「…ここに、俺の工房を作る許可をいただけないでしょうか。」
「そこは…。」
ルーンが指した場所、それは、アルメルク最大の洞窟、そしてそこで採れる希少性の高い鉱物のあるダンジョンだった。
「…そこがどれだけ貴重な場所であるか、貴殿は知っててそう言っているのか…?」
「もちろん。
…アルメルクと言えばこのダンジョン…。
そして、そこで採れる鉱石こそが、この国の最大の強み。」
「その通りだ。
それを理解したうえで、貴殿は私に、その付近での活動を許せと、そう言うのか?」
「…はい。
その付近での活動を許していただけるのなら、俺はこのアルメルクのために、どんな武具でもお安くご提供しましょう。」
二人は互いを見つめ合い、そして笑った。
「良いだろう。ルーン、貴殿のその目を気に入った。
ダンジョン前の工房の設置、許可する。」
「っ!!
ありがとうございます!ザーリックさん!」
そしてその日、新品の武具がアルメルクの兵士たちに配られるのだった。




