一話『誕生』
時は戦乱の世。
人間と魔物が交わる異世界。
その世に、一人の現代人が召喚された。
その者の名は、「神咲 託史」。
彼は、持ちうる知識を全て使い、異世界の繁栄に貢献した。
皆、彼を慕い、尊敬していた。
しかし、皆が彼を崇拝するようになってから、彼は性格が変わってしまった。
彼は異世界人を差別し、軽蔑し始めたのだ。
彼は言った。
「人間はどの世界でも同じだ。
自分より優れたものを妬み。
自分より弱いものを愚弄し。
そして、また戦争を起こす。
人間は学ばない生き物であり、
救うに値しない存在なのだ」と。
その言葉の真意を求めず、皆は彼を殺すため、
また戦争が引き起こされた。
だが、すでに対策をされていた異世界の住人には、彼に刃が届くことなく、彼の力に圧倒された。
その戦争は、あっという間に決着がついた。
その期間たったの2ヶ月。
異世界の住人は、彼に虐げられる運命へと決まった。
ーーー
戦争か終結してから、約8年がたった。
世界は意外にも、繁栄と発展をし、暮らしが豊かになっていた。
そんな目まぐるしい発展のさなか、とある国でめでたいことがあった。
それは、ある王族に一つの小さな灯火が産まれたのだ。
その国の名は、アルメルク。
その国は、他の国に比べ大きく劣っている部分の見える、小さな国なのだ。
そんな国でも、他の国よりも大きく優れている部分がある。
それは、国王と国民の距離の近さだ。
アルメルク国王は、国民に好かれている。
そのおかげか、国は他の国に比べ犯罪はめったに起きない。
もし起きたとしても、万引きや下着泥棒ぐらいだろう。
そのくらい、この国は治安がいいのだ。
そんな国に、次期国王となる子供が産まれたのだ。
そして、いつしかその王により、世界にさらなる変化もたらすこととなる。
そのことは、きっと今の彼らに、そして、生まれたばかりの姫にはわからないことであろう。
アルメルクの姫誕生から早くも10年が経っていた。
「シューティリー姫!シューティリー姫!?」
城内を慌ただしく走る使用人はメルン。
アルメルクの姫の専属のメイドだ。
そして、そんなシューティリー姫と言うと、彼女は荷物をまとめていた。
「だ、ダメですよぉ〜…!」
そんなふわふわした喋り方をするメイドの名はフワ。
「何よ!あなたまでお父様の味方をするの?」
「そ、そういうわけではないですけどぉ…!」
フワは一生懸命に首を横に振り、弁明した。
シューティリーは大きな鞄を力任せに閉じると、部屋の窓を開け放った。
「さぁ、行くわよ、フワ!」
「ほ、本当に行くんですかぁ…!?」
フワはシューティリーの服を掴み、外へと出るのを防いでいた。
シューティリーは懸命に飛び降りようとするも、フワによってそれを止められる。
そしてついに、部屋の扉を開け放たれ。
「へへへ…見つけましたよ、シューティリー!!」
「ゲッ!?め、メルン…!」
メルンがシューティリーににじり寄る。
フワは、シューティリーが窓から離れたのを見計らって、そっと窓を閉じた。
二人は見つめ合い、互いに動きを読み合っている。
先に動いたのはシューティリーだった。
メルンが高身長なのを生かし、正面突破を試みた。
メルンは構えた。その瞬間、メルンの足と足の間に大きな隙間が出来た。
その隙間を見過ごさなかったシューティリーは、メルンの股下にヘッドスライディングした。
が、その動きはメルンに先読みされており、メルンは勢いよく開いていた足を閉じた。
「ぶべっ!?」
結果、シューティリーはメルンの太ももに挟まれる形で捕まってしまった。
ーーー
ほっぺを擦りながら、シューティリーは王様の元へと来ていた。
「シューティリーよ、なにゆえ国の外へと出たいのだ」
呆れたようにそう尋ねると、シューティリーはそっぽを向き、少し間を置いて口を開いた。
「私は、この国以外のことを知らなければいけないのです。」
それを聞き、王は頭を悩ませた。
そして、王は腹を決めたように、シューティリーの前へと歩き近づいた。
シューティリーの手を取り、王は大きな手でその小さな手を優しく包みこんだ。王は目を閉じると、ゆっくりと口を開けた。
「天竜よ、どうかこの、幼き魂を守護してくだされ」
シューティリーはその言葉を真剣に聞いた。
「外の世界は、この国の敷地内とは違い、危険が多く存在しておる。
シューティリーよ、儂はお主の無事を祈ること以外できないが、先ほどの者『天竜』は、必ずやお主の力になってくれるはずだ。」
王は懐から、小さな青色の宝石の付いたネックレスを取り出し、それをシューティリーの首にかける。
シューティリーはその宝石に、不思議な力が込められていることを感じ取った。
「お父様、この宝石…」
王は優しくシューティリーの頭を撫でた。
「そうだ、これはかつて、お主のママが付けていたものだ。
ママもきっと、お主の成長を見守ってくれている。絶対に大切にするのだぞ。」
王は立ち上がると、後ろに立っていたメルンとフワに目を向けた。
「二人とも、どうかシューティリーの事を頼むぞ。」
その言葉に、二人は姿勢を改め。
「ま、任せてくだしゃい!」
「この身に変えてでも、ご息女は守り抜いてみせます。」
王は頷き、その言葉をかみしめた。
椅子に戻った王は、シューティリー達を見つめ、そして、
「さぁ、シューティリーよ、その者たちとともに旅立つのだ!
…そして、必ずや無事に帰還するのだぞ。」
「「「はっ!!」」」
シューティリーたちは、口を揃えて元気よく返答するのだった。
その日のうちに支度を整えたシューティリーたちは、初めての国外に心を躍らせ馬車を走らせた。
そして遂に、国境の直前までやって来た。
「ここを越えれば、我々はもはやただの旅人です。
王様も言われておりましたが、ここから先は危険な魔物達や、危険な人間が数多く居ます。
それを念頭に置いて、これからは最年長である私の言う事に出来るだけ聞くようにしてくださいね。これは約束ですよ。」
シューティリーとフワは顔を見合わせると、メルンに向き直り、口を揃え。
「「はい!」」
と勢いよく返事をした。
メルンはそれを聞いて、微笑み、そして馬車を動かした。
国境を初めて越えるシューティリーとフワは、メルンを挟むように座り、国境を越えた瞬間にメルンの腕をつかみ。
シューティリー「出ッッッぱーーーつっ!!」
フワ「しゅ、しゅっぱーーつぅ…!!!」
メルン「出っぱーつ!」
こうして、シューティリーの冒険は幕を開けるのだった。