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第五話 オットセイの呼ぶ対決

3匹(3人)はよちよちと出口につながる階段を登っていき、無事脱出した。


その可愛らしい様子と自然の厳しさに僕とジョン子は、ドキュメンタリーを観ている気分になった。

途中でダンジョンイタチやダンジョンワシに襲われたときには、助かってくれと2人で祈った。


モニターで様子を観ていた僕たちは、3匹が1階層の出口に到達したとき思わず泣いてしまった。


「人間界でも強く生きたまえよ……」ジョン子は言った。


「二度とダンジョンに戻ってくるんじゃないぞ……悪いダンジョンマスターに捕まってしまうからな……」僕は言った。





それから3ヶ月が過ぎた。

結論から言えば、僕とジョン子は死にかけていた。


お嬢様冒険者のお父様、公爵閣下は、一時的とは言え娘をオットセイ化されて怒り狂った。

総勢2000の軍を率いてダンジョンに侵攻した。


「ソイル・ゴレームmk-2アーマードアタッカーが大破した!私の愛機が!ちくしょう!」ジョン子は言った。


モニターに映るゴーレムは、オットセイ化ライフルを持つ手は肘から斬り落とされ、装甲は剥がれ落ちダメージを受けた内部のパーツが火花を散らしていた。

ゴーレムに内蔵されたAIから最後の通信が届く。


「……イマ……マ……デ……アリ……ガ……ト……ウ」合成音声がタブレットのスピーカーから流れた。


「ソイル・ゴレームmk-2アーマードアタッカー!!!!動けぇ、動けぇ……うう……」ジョン子は号泣している。


ゴーレムは膝をつく。モノアイの光はゆっくりと消え、完全に動作を停止した。

ソイル・ゴーレムmk-2アーマードアタッカーは消滅し、オットセイのぬいぐるみをドロップした。


追加でモンスターを召喚しようにも、前回稼いだDPは、ジョン子の趣味により消えていた。

彼女はソイル・ゴーレムの改造パーツをDPの無くなるまで購入し、私の考えた最強ゴーレムをつくった。


意外にも今回、ダンジョンの規模に見合わない強化をされたゴーレムは役立った。

ソイル・ゴーレムに搭載したAIが自我を持ち始めたこと、公爵軍はオットセイ化ビームを警戒していたことも影響して、3日持ちこたえたのだ。


モニターに映る大勢の兵士たちは、3階層へ続く階段へなだれ込んでいた。

公爵は僕たちの首に賞金をかけた。そのため兵士たちは我先にと攻め寄せきた。


「切腹くんを呼ぼう」ジョン子は言った。


「同じ手は通用しないぞ」僕は言った。


「違う。切腹のやり方を教えてもらうのさ。

ソイル・ゴレームmk-2アーマードアタッカーよ、私もすぐに行くからな……」ジョン子は言った。彼女の歯は恐怖のためか、カチカチと震えて音を出している。


「……」


僕は答えようがなかった。認めたくないけれど、もう無理だろう。監視モニターでは、兵士たちの誰かが階段を降り終えようとしていた。

そして300メートルほどダッシュして、ダンジョンルームの扉を蹴り開ける。それで僕たちの冒険は終わりだ。


僕はモニターに警告マークが表示されているのに気がついた。ダンジョンは外部からの干渉をさけるため、セキュリティとよばれる魔法障壁をダンジョンを覆うように展開している。


「誰かがセキュリティを突破して、このフロアに転移してくる」僕は言った。


「人間たちが最難関クラスのダンジョン攻略で使う手だ。公爵殿も用意周到なことだ。もう私たちには何もないのに」ジョン子は言った。


警告音が鳴る。

サブモニターでは、ダンジョンマップのあちこちが赤くなっている。セキュリティが突破されて、何者かが転移してくると警告している。


僕はコーヒーを3つのカップに注ぐ。一つは自分用。のこり2つはジョン子とソイル・ゴーレムの分だ。

ジョン子にカップを渡し、ソイル・ゴレームmk-2アーマードアタッカーの予備パーツの前にコーヒーを置いた。弔いがわりだ。


警告音をオフにして、ジョン子と2人でゆっくりコーヒーを飲む。無糖なのにしょっぱかった。


ダンジョンルームの扉がひらいた。

まだ半分しかコーヒーを飲んでいない。討ち取られるにしても、最後まで飲ませてもらうようお願いしよう。僕はそう思った。


「間に合ったようで、恐悦至極でございます。エルフ国より、精鋭300人参上いたしました」


長身のエルフの女性が部屋に入ってきた。以前、お嬢様冒険者が来ていた鎧なんておもちゃに見えるくらい立派な白銀の鎧を着用している。

公爵め、どことも交流せず森に引きこもっているエルフ国を動かすなんて、どれほど怒ってたんだ。


「せめてコーヒーを飲み終えるまで待ってくれないか?最後の一服を邪魔するほど、無粋じゃないだろう?」僕は言った。


「私たちは貴公たちの援軍に来たのです」


エルフはにっこりと笑った。


僕はモニターを確認する。3階層の入口では、エルフたちの弓矢攻撃によって、公爵軍の兵士たちの進軍はとまっている。


「申し遅れました。私はエルフ女王近衛隊司令官カクジーン・イハセツと申します」


彼女は神話から飛び出してきたような神々しい女性という印象を受けた。


ただ、次の瞬間、先程までの神々しさを備えたまま、正直に言うと下品に、唾液をくちゃくちゃと音を立てながら口角をあげて「私も女王様も、先日の動画めっちゃ楽しみました」と言った。


「先日の動画?」


「おやおや、能あるダンマスはスキルを隠すということわざのとおりですね。

3ヶ月前に配信したあのオットセイ化動画ですよ……常に無表情の我が国の男が『オウッ、オウッ』と情けなく声をあげるのにどうしようもなく興奮……いや、勉強させていただきました」


彼女は頬を赤らめながら、その魅力を早口でしゃべった。僕は聞き役に徹した。


そうだ。僕もすっかり忘れていた。お嬢様パーティーが3階層にやってきたとき、僕は多分死ぬだろうと思った。せめて僕の生きた証をなにか残したかった。僕は監視モニターの映像を配信モードに切り替えて、ダンジョンルームを出たのだ。

配信モードにしたということは、あのときの攻防は世界中に流れたということだ。


僕は映像がどういう層にウケたのか、深く考えないことにした。







「さあ、エルフたちよ!己の大切なものを守るため、戦うのだ!」


エルフの変態将軍、カクジーン指揮のもと反撃がはじまった。

エルフは高度な文明と優れた人材を持ちながら、覇権を握ったことはないそうだ。それは、長い生を経たエルフたちはいつも無気力だからだ。

ただ今日のエルフたちは、心から戦う理由を見つけたようで、異常に士気が高いのが僕にも伝わってきた。


「兵が足りない……公爵め、これほどの大軍を用意するとは」カクジーンは言った。


戦線は拮抗している。ただし補給のできないダンジョン側は不利だ。


「エルフだけがこのダンジョンのポテンシャルに気づいているとでも?

いつもエルフは魔族を甘く見すぎなのだ。毛深さを愛する者たちよ、夜明けは近い!

魔王軍四天王が一角、水生の獣王、同志500とともに見参!」


「ボクっ娘……それは魔導よりも謎めいて奥深い。悠久の時を生きるエルフでもその謎は解けまい!

魔術師協会よりSランク魔道士、300人。無償で協力させていただく……」


「普段は高慢、高飛車でいて、ほんとはポンコツで心根の優しい貴族令嬢は実在するのか?エルフよ、その叡智を持って教えてくれ!

悪役貴族健康保険協会より、義勇兵900推して参る!怪我をしても3割負担だ、恐れることなく突撃せよ!」


魔術障壁の穴から次々と変態たちが集結する。後でセキュリティにあいた穴は直してくれるのだろうか。



「今日だけは、呉越同舟……っ!恩に着る!」(五・七・五)


カクジーンはまるで彼女がダンジョンマスターであるかのように感激しながら返事した。

僕とジョン子は蚊帳の外だった。


これで公爵軍2000人 対 変態オールスター軍2000人だ。

策も使えない、障害物のないただっ広い洞窟。なら、勝つのは?


士気の高い方だ。


公爵軍は総崩れで、撤退した。



こうして、僕とジョン子のダンジョンは、各地にちらばる変態の支援を受けながら拡大していくのだった。

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