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彼と  作者: むーん
6/9

〜6限〜

放課後。夕焼けが差し込む校舎の裏庭で、私はゆいちゃんと並んでベンチに座っていた。

手にはコンビニで買ったアイス。


「今日、暑かったね。」


私が声をかけると、ゆいちゃんは小さく笑って頷いた。


「うん。すごく暑かった。でも、アイス食べたら生き返るね。」


「だねー。」


何気ない会話。

お互いにあえて選んだ話題だった。

沈黙が落ちても、私とゆいちゃんの間には気まずさなんてなかった。

ただ、蝉の声と、少し乾いた風の音が耳に届く。

少しの沈黙のあと、ゆいちゃんが私の気持ちを見透かしたかのようなタイミングで言った。


「私、噂のこと知らなかったんだ。」


「え?」


「だけど知った途端、はなちゃんの事が頭に浮かんで湊くんをはなちゃんの所に連れていったの。」


ゆいちゃんは少し切なげに微笑んだ。

私はポケットを探って、小さな飴玉を取り出した。


「これ、あげる。」


「え?」


「ほら、ゆいちゃん、甘いもの好きでしょ?」


差し出すと、ゆいちゃんは目を丸くしたあと、ふわっと微笑んで受け取ってくれた。


「ありがとう、私、夏乃ちゃんのそういうとこ、好きだよ。」


その笑顔は、ほんの少しだけ寂しさを隠している。

私はそれに気づいていたけれど、何も言わなかった。

ただ、そっと隣にいるだけ。


(大丈夫。ゆいちゃんは、ちゃんと強い子だから。)


ゆいちゃんは飴をスカートのポケットにしまい、少し上を見上げた。


「夏の終わりって、なんか寂しいね。」


ぽつりと呟いたその声に、私は静かに頷いた。

私とゆいちゃんの間に、また少しだけ沈黙が落ちた。

夕焼けが、ゆっくりとオレンジから深い藍色に変わりはじめる。


そんな時、ふいにゆいちゃんがぱっと顔を上げた。


「ねえ、夏乃ちゃん!」


ちょっと大きな声に、私はびっくりして振り向く。


「ど、どうしたの?」


「今日さ、このまま一緒にショッピングモール行かない?ほら、今だけ桃のフラッペ出てるんだって!」


そう言って、ゆいちゃんはキラキラした目で私を見る。


「えっ、桃のフラッペ?」


「うん!すっごい美味しそうだったんだよ!最近ずっと気になってたの!」


その表情は、さっきまでの静かな寂しさを吹き飛ばすくらい明るかった。

私まで思わず笑ってしまう。


「うん、行こう!フラッペ、私も気になってたんだ!」


「やったー!」


嬉しそうに手を叩くゆいちゃんを見て、胸の奥がじんわりと温かくなる。

少しずつ、夕暮れに溶けていく悲しみも、きっとこんなふうに、甘くやわらかく変わっていくのかもしれない。

私はゆいちゃんと並んで歩き出した。夏の夜の、やさしい風に吹かれながら。


にこにこ笑うゆいちゃんを見て、自然と私も笑顔になる。

ゆいちゃんはとても優しくて、周りの空気をふわっと明るくする子だ。

最近、少し元気がないように見えるけど、私はあえて何も聞かなかった。

きっと、ゆいちゃんにはゆいちゃんの想いがある。私はそれを、ちゃんとわかってる。


「さっそく行こっか!」

「うん!」


二人で並んで歩きながら、ショッピングモールの中へ入った。


中はたくさんの人で賑わっていて、いろんなお店の色とりどりなディスプレイが目を引いた。


「ねえねえ、あそこの雑貨屋さん可愛くない?」

「ほんとだー!見に行こう!」


二人で小走りに駆け寄り、きらきらしたアクセサリーに目を輝かせる。

シュシュやイヤリングを手に取り合いっこしながら、どっちが似合うか真剣に相談する時間が、たまらなく楽しかった。


「夏乃ちゃん、このピンクの似合いそう!」

「ほんと?じゃあ、ゆいちゃんはこの青いのが絶対可愛いよ!」

「わぁ、どっちも可愛いね〜!」


そんなふうに笑い合って、時間はあっという間に過ぎていった。


雑貨屋さんを出た後も、可愛い服を見たり、文房具コーナーで「これ、授業で使ったらテンション上がりそう!」なんて盛り上がったりして、私たちは子どもみたいにはしゃいでいた。


「そろそろ、フラッペ行こっか!」

「うんうん、気になってたやつだもんね!」


フードコートに着くと、大きな看板に描かれたふわふわの桃フラッペが目に飛び込んできた。


「これください!」

「私も!」


受け取ったフラッペは、見た目も夢みたいに可愛くて、思わず二人でスマホを構えた。

写真を撮ったあと、向かい合って座り、それぞれストローを口に運ぶ。


「おいし〜!」

「ね!これ、やばいくらい美味しいね!」


甘い桃の香りがふわっと広がって、心までふんわりと温かくなる。


そんな幸せな時間が、ずっと続くと思っていた。


でも——


ふと、隣のテーブルから聞こえてきた、聞き覚えのある笑い声に、私は手を止めた。


「え〜マジでウケるんだけど〜。」


「ほんと、あれヤバかったよな〜。」


胸の奥がひゅっと冷たくなる。


無意識に顔を向けると、そこには中学時代、私をイジメていた男子二人と女子三人のグループが、笑いながら座っていた。

私はフラッペを持つ手をかすかに震わせながら、息を呑んだ。


「…!」


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