〜3限〜
この間、泣いていた子は私の隣のクラスらしい。名前は中野さんと呼ばれていた。あれから2日間、中野さんは学校を休んでいた。
中野さんが学校に来たと聞いて、私は隣のクラスに見に行った。休み時間になってすぐに教室を出たが、中野さんは教室にはいなかった。
中野さんを探しながら廊下を歩いていると、人気のない棟の物置から2日前に聞いたあの泣いている声が聞こえてきた。
中野さんの事は見つけた。けど、仲良くもない子に何を話せばいいのかも分からない。それでも、せっかく見つけたのにここでただ、立っているわけにはいかない。
私は思い切って声を掛けてみた。
「中野さんだよね。」
「…!」
いきなり声を掛けたせいで驚かせてしまった。
けど、とても可愛くてちっちゃい子のように見えた。
「ごめんね。いきなり声掛けちゃって。」
「あ、あの。粼さんですよね。」
「あ、名前知っててくれたんだ。」
名前を覚えているとは思ってなかったから、少し驚いたけど嬉しかった。
「粼さんは、学年の中でもすごく可愛いって言われてるから。」
「えっ。あ、そうなんだ。知らなかった。」
「周りの人たちもみんな言ってるから、粼さんは知ってるのかと思ってた。」
彼女の目はキラキラと輝いて見えた。
驚いたこともあったけど、彼女の話を聞いてみたかった。少し落ち着き始めたので、私は思い切って聞いてみた。
「それで、どうして泣いていたの?」
「…。」
彼女の目からは光が消え、俯いてしまった。
「ごめんね。私には何もできないかもしれな…」
「あ、あの!」
中野さんは私の言葉を遮り、声を発した。
「粼さんは可愛くて優しいし、粼さんが話に来てくれて、とても嬉しかったんです。だから、なにもできなくないです。」
「そっか。」
その言葉に少し救われた気がした。彼女を救おうとしたのは私の方なのに少し変な気持ちになった。
「湊くんのこと、好き?」
「はい…。すみません。」
「謝る必要なんてないんだよ。誰かを好きでいるのってとてもいい事だと思う。私はまだ、誰かを好きになった事はないから説得力ないと思うけど。」
「私湊くんのこと、好きです。すごくすごく好きです。」
「そっか…。」
「だから私あの二人のこと、応援します。それで好きな人が幸せになれるなら、私は大丈夫です。」
きっと割り切れてはないけど、さっきまでとは違う迷いのない目になったのが見えた。
「…中野さん。明日から一緒にお弁当食べない?」
「いいんですか?」
「もちろんだよ。それと、夏乃でいいよ。同い年なんだし敬語もいらないからね。」
「な…夏乃ちゃん。」
「うん!じゃあ、今日から私たちは友達だね!」
私は彼女にそう言った。
彼女は困ってしまうんじゃないかと思った。だけど、彼女の目はとても丸く、明るかった。
「じゃあ、私の事もゆいって呼んで欲しいです。じゃなくて、呼んでくれないかな。」
「そうだね。じゃあ、ゆいちゃん!」
「あ、ありがとう!」
「あ、夏乃ちゃん。もうすぐ昼休み終わっちゃうね。」
「あ!私、移動教室だった!そろそろ行くね!またお話しようね。」
「うん!」
昼休みの時間も少なくなってきたので、ゆいちゃんとは一度別れた。