〜24限〜
『そうやってスカしてる態度がムカつくって言ってんだよ!』
登校中、その言葉が今でも私の中で繰り返されている。
電車に揺られながら、何度も息が詰まりそうになった。
しばらくすると、電車が大きく揺れ、ホームに入っていった。
「……」
改札を通り、学校へ向かい始めると、後ろから優しく元気な声が聞こえた。
「夏乃ちゃーん!おはよー」
その声が聞こえた瞬間、私は涙が出そうなくらい安心した。
「……おはよ」
挨拶を返した私の声は、力が入っていないように微かに震えていた。
「今日も涼くん、来てないんだね?」
「……」
「夏乃ちゃん?聞いてる?」
私はようやく、ゆいちゃんが話しかけて来ていたことに気がついた。
「あ、ごめん。なんだっけ?」
「今日も涼くんは来てないんだねって言ったの」
「……ああ」
涼がそばにいない。
そのことを理解すると、せき止めていた何かが込み上げてくるような感覚がした。
「あ……」
気がつくと、私の目からは勝手に涙が流れていた。
止めようとしても止まらない。むしろ、更に涙が出てきてしまった。
「だ、大丈夫?」
駅の端で座り込んでしまった私に、ゆいちゃんはずっと声をかけてくれていた。
「大丈夫……」
涙を拭ってから私は立ち上がり、込み上げてくるものを押し殺しながら、再び歩き出した。
「学校いこ」
私がそう言うと、ゆいちゃんは僅かに頷き、着いてきてくれた。
しばらく歩き、学校が近くなってきた頃だった。
「夏乃ちゃん!」
「……なに?」
「今日、学校サボっちゃおう!」
ゆいちゃんは私の手を握ってくると、そう言い出した。
「なんか今日はやる気出ないし。パーッと遊びに行こ!」
その言葉は温かく、私の全てを包み込んでくれるような気がした。
ゆいちゃんのその気持ちがとても嬉しく、私は静かに頷いた。
――昼頃
私とゆいちゃんは家に帰らず、お店にも行かず、何となく外を歩いていた。
少しづつだったが、私はゆいちゃんに聞かれ、昨日あったことを話した。
「あの意地悪な子、林って言うんだね」
いつもなら、怒ったり文句を言うゆいちゃんだが、今回は真剣な眼差しで話を聞いてくれた。
そんな時だった。
ブーッ
「ん…?あ、涼くんからだ!」
「なんて来たの?」
「『お前ら学校始まってるけど、何してんの?』だってー」
メールの内容から、今日、涼は学校に来ているんだと思った。
「あ、場所教えたら、今から涼くんも来るって返事が来たよー」
「え…そうなの?」
――三十分後
「よっ」
「あ、涼く……」
バサッ
自分でも、私の今の行動に驚いた。
涼が見えた途端、堪らず涼の元へ走り、強く抱き締めてしまった。
「涼!」
私は再び、堪えていた涙が溢れてきた。
両腕に感じる涼の体温はとても温かく、私を安心させてくれた。
「なんかあった?」
「あ、あのね涼くん……」
昨日、私の身に起こったことを泣いている私に代わって、ゆいちゃんが話してくれた。
「林って言うのか……うざいな」
涼のその言葉にゆいちゃんは、「うんうん」と、頷いていた。
「あ!っていうか、涼くん。なんで昨日休んだの?」
「……え?」
「私も気付けなかったけど、涼くんがいたら、夏乃ちゃんは何もされなかったんじゃない?」
ゆいちゃんは頬を膨らませながら、涼の顔をジッと睨んだ。
「はあ……。昨日は調子が悪かったんだよ。だから一日寝てた」
「ならいいけどさ。でも、これからのことを考えないとね」
「ああ……。これ以上、面倒くせぇことが続くとダリィからな」
二人は真剣な表情で話を進めていた。
そんな光景を見て、私の涙は更に溢れた。
「二人とも……ありがと……」
私のために真剣になって怒ったり、考えたりしてくれる仲間がいる事がとても嬉しく、幸せに感じた。
「あ、そういや。ほら」
涼は私にコンビニで売ってる小さなクレープを優しい表情で渡してきた。
「学校サボるときは、やっぱコンビニだろ?」
「そうだねー。甘いものを食べれば夏乃ちゃんの気も少しは収まるよね。」
ゆいちゃんは涼のことをジッと見つめながら、そう言った。
「あ、中野の分はねぇぞ?」
「ケチー!買ってきてれても良かったじゃーん!」
そんなやり取りを見ていると、私は自然に笑ってしまい、涙は既に乾いていた。
そして私はコンビニのクレープを二人に見せながら言った。
「一緒に食べよ?」




