〜19限〜
「おはよう。起きてたんだな。」
「おはよう、涼。」
眠るときの環境が変わったからか、今朝、私はいつもより早く目が覚めた。
一晩が経っても昨日の事が忘れられなかった。
「あのさ。」
「……?」
「昨日はごめん。冷静さを欠いてた。」
涼は少し眠たそうな顔でそう言った。
「ううん。涼とゆいちゃんが守ってくれて、私は嬉しかった。ありがとう。」
「……ああ、よく考えてみれば、あいつらを探してまで、事を荒らげる必要は無いんだよな。」
「……。」
私が返す言葉を探していると、涼は一度深呼吸をすると、「よし」と言い、吹っ切れたような顔になった。
「……中野が起きたら、駄菓子屋いこうぜ。昔、よく行ってただろ?」
「うん。」
心置き無く遊べることに、私は心を弾ませていた。
涼の一言のお陰で、もう、昨日のことは私の頭の中から薄れていた。
「そういえば、ゆいちゃん起きてくるの遅いね。」
「そ、そうか?昨日、寝付けなかったんじゃないか?」
涼は何かを焦って取り繕うように、私にそう返した。
そう言って、間もなくゆいちゃんは目を擦りながら起きてきた。
「……おはよー」
「ゆいちゃん、おはよ。」
「遅かったなー。この後、出掛けるぞ。」
涼はいつも通り気だるげながら、温かい表情と声色でそう言った。
――ガラガラ
「いってきまーす。」
「いってきまーす!」
ゆいちゃんはこっちに来た初日と同じく、とても元気な様子ではしゃいでいた。
「夏乃ちゃんは駄菓子屋さん行ったことあるの?」
「うん。こっちに住んでた時に結構行ってたよ。」
少し歩いていると、涼の口数が少ない事に気付いた。
いつもなら、ポッケに手を突っ込み、前を向いて歩いているが、今日は少し俯き、上の空になっているように感じた。
「……涼。何か考え事?」
「……あ、ああ。何でもねぇよ。だから気にすんなよ。」
最初は何かを取り繕うような様子だったが、途中からはいつもの調子を取り戻し、歩き方が自信ありげになった。
――駄菓子屋
三十分ほど歩くと、さっきより更に住居の少ない景色が広がり、馴染みのある駄菓子屋が目に飛び込んだ。
「いらっしゃいませ。」
少し若めの人が一人で店を切り盛りしていた。
お姉さんという印象の店主で、私がよく駄菓子屋に来ていた頃の店主とは違った。
前の店主は、優しいおばあちゃんで私はその店主によくしてもらっていた。
「あの。前の店主はどうされたんですか?」
「ああ。前は私のおばあちゃんがお店にいたんですが、去年の初めくらいから『体力的に大変』と言っていて、去年の四月に丁度、私が高校を卒業したのでその時から私が店主を任されたんです。」
「そうだったんですね。」
「はい。畑で採れた野菜とかを百円で無人販売していたり、今は家でゆっくりしていますよ。」
店主が代わり、少し落ち着かなかったが、説明を受けて私は安心した。
店主と私の話が終わると、涼とゆいちゃんはお菓子を持ってきて会計を済ませた。
「これくださーい!」
「夏乃は何も買わねぇのか?一応、アイスは三人分買ったけど。」
「うーん。何個か買おうかな。」
私がお菓子を買い終わると、棒アイスを食べながら駄菓子屋を後にした。
帰り道を歩く私たちは、大きな夕日と紫に染まる空を背負っていた。
――涼の家
「ただいまー!」
「母さんただいま。」
家に着いた頃には、辺りは既に暗くなっていて星が良く見えた。
「おかえり。お風呂湧いてるから入っちゃいなさい。」
「はーい!夏乃ちゃん一緒に入ろ!」
「うん。」
――私は夏乃ちゃんの提案で一緒にお風呂に入った。
パシャンッ
「ふー!あったかーい!」
「そうだね。」
ゆいちゃんの優しく無邪気な笑顔を見ていると、私の胸の痛みや重みが消えていくような感覚がした。
「夏乃ちゃんは、よくこうやって涼くんの家に来たりしてたの?」
「うん。何回か泊まったりしてたよ。」
「そうだったんだねー。私、この家あったかくて好きだよー!」
「うん。暖かいよね。」
少し深い浴槽に座り、首まであるお湯から片手を出しながら、そう言った。
「私、そろそろ上がるね。」
「私も出ようかなー。そろそろのぼせそうだしー。」
まだほんのりと火照っている身体を手で扇ぎながら寝室へと向かった。
「涼くん、お待たせー!お風呂いいよー!」
ゆいちゃんが畳に「ドンッ」と腰を下ろしながらそう言った。
「んじゃ、風呂入ってくるわ。」
その後、ご飯を食べて少し落ち着いてから布団を敷いた。
私たちは充実した一日の心地よい疲れが眠気となって現れ、布団に入るとすぐに眠った。




