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噂の怪 その肆 怪獣ヨジラン


 僕の家の前には、朝の四時になると怪獣ヨジランがやって来る。


 小さい頃は眠っていて気づかなかった。小学生になって僕はヨジランの噂を聞いた。


 お母さんと近所のおばさんが、家の前で、ヨジランについて話していたからだ。

 


 ヨジランがやって来るときは、すぐにわかるんだって。まず最初は小さくカタカタカタって、タンスや机が小刻みに揺れる。


 それからヨジランがもっと近づくと、ガタガタガタって大きな揺れとともにドシンッドシンッ──ってお家が揺れる。


 僕は眠い目をうっすらと開ける。……まだ部屋の中は暗い。


 たまにプワァァァーップワァァァーッって叫ぶ声がする。窓を見ると光が走り、僕の部屋に影が伸びる。


 ────僕は怖くなって布団を頭から被った。


 ヨジランの声が遠のくのを待って、僕は布団からヌッと頭を出した。壁の時計をチラッと見る。やっぱり時間は噂通り四時だった。


 僕は布団から這い出て、自分の部屋の窓から怖怖と、そっと外を見てみる。


 街路樹が風に揺られてユラユラと窓に影を映して不気味さに震える。


 チッカチッカと、点灯と消灯を繰り返す街灯の下には何もいない。怪獣はすでにいなくなったあとだった。


 ────夏休みになった。僕は怖かったけれど、怪獣ヨジランの正体を探ろうと思った。


 お母さんたちが、ヨジランが騒がしくて迷惑だって困っていたから……。


 ラジオ体操に行く前に、頑張って少し早く前に起きればヨジランの正体を見れるはずだ。


 その日は街灯の明かりが切れていて、外は夜明け前で薄暗かった。ヨジランは一瞬で駆け抜けるから、気を抜けない。


 家の前は歩道があって、道路側に街灯や街路樹がある。車庫の前は何もない。お父さんが仕事で使う車も車庫にいた。


 誰もいない外の景色は初めてみた。同じくらい暗い夕方から夜は、結構人がいるし、車だっていっぱい走る。


 だから僕はヨジランが車のお化けだってわかっていた。小学生になったんだもん、それくらいわかるよ。


 お母さんたちが困っているから、ヨジランに静かに走るようにお願いするつもりだった。


 ────あたりは薄暗くて、大きなヨジランから、小さな僕の身体は見えないかもしれない。


 だから僕は足元から振動を感じると、大きく両手を上げた。それでも気がつかないかもしれないので、跳ねてみる。


 街路樹の根が道路の下を這って歪ませていて、僕はそれを踏んづけてしまい、バランスを崩して転んだ。


 プワァァァーップワァァァーッ────────眩しい光と共に、ヨジランがもの凄い勢いで叫んだ。


 僕はお話がしたいのに、ヨジランは僕から逃げようと斜めに動き、走り抜けようとする。


 逃がしちゃ駄目だ。立ち上がった僕はヨジランを引き止めようとして、ヨジランの方に向かい……巨大な身体に弾かれた。


 それからヨジランの姿は見かけなくなった。せっかくヨジランがいなくなって静かになったのに、お母さんはお家の前の街路樹にお花を供えては泣く。


 僕はずっと見ているから知ってるんだ。ヨジランの代わりに、ゴジランが現れるようになったって。


 それにガタガタ煩かったのは、僕が躓いた街路樹の根っこのせい。


 お母さんがいない時に近所のおばさんたちが僕の前で噂話をしていた。


 僕が亡くなる前に、近所の配送センターに苦情が沢山届いたんだそうだ。昼間にトラックがいっぱい来ると邪魔だって。


 荷物を届ける時間に合わせると混雑するから、ヨジランやゴジランが出現するようになったんだ。


 僕のようにヨジランやゴジランを怖がったり迷惑だったりした大人たちが沢山いたみたいだね。


 僕のお母さんを中心になって署名っていうのが集められて、配送センターはなくなった。


 ヨジランもゴジランもいなくなってみんな一安心だって、おばさんたちが噂しあっていた。


 でも、怪獣たちがいなくなったせいで、近所のスーパーも次々となくなっちゃって、結局また大変で困った事になったみたいだ。


 

 お読みいただきありがとうございます。本編とあまり関係ありませんが、ラジオ体操……やってない地域が多いようですね。


 かつての子供たちの夏の風物詩も、世代によってはわからない方もいるかと思います。


 騒音、運営する側の人員、参加義務の是非等、中止になる理由は様々なようです。


 トラックの騒音等にしても、地域のスーパーなどで問題にされている事があるようですね。


 運んでくれる方々がいなくなると、それはそれで困るのは自分達になるのでしょうか。

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