噂の怪 その参 見えない世界で、私達は叫ぶ
────噂は本当だった。彼らには私達の姿など映ってなかったのを知ってショックだった。。
大声で叫ぼうと、暴れようと、何百とメッセージを送ろうとも、初めから映っていないのだから。目にする事がなければ、いないのと変わらない。
無視されたからと、情けない気持ちや惨めに感じる必要はない。初めからいないのだから。
交わることのない平行世界のようなものだ。
語られた言葉、交わされた言葉を見れば、彼らは彼らだけの世界で生きているのがわかる。
不思議な思いに包まれる。まるで箱庭の住人を覗いているような錯覚を起こす。
たまに自分達の存在を気づかせようと、箱庭を揺らし荒らすもの達がやって来る。
しかし────彼らの目には映っていないのだ。
囚われているのは……むしろ私達の方かもしれないと思えて来た。
情報が入らぬようにブロックが積まれていて、完全にいない事になっているのだ。
本当に恐ろしいのは、その世界にだけに集められた人々がいる事だ。
空虚な私達の世界に比べて、大勢の人々の集まる世界こそ正しい。
そこへと集まる彼らもまた見ない。見えていないし、違う世界に行くこともしない。まるで環世界の概念のように。
どちらの世界が幸せなのか、実際比べてみないとわからないだろう。
────そもそもそういう問題ではなかった事に、私はようやく気がついた。AIによる選別だ。
使用者の好みの情報を精査し集中的に表示する……といいつつ、見せたい情報を紛れ込ませてくる。何度設定を変えてもいつの間にか、みんなが見る情報を載せたがる。
意図的にせよ自動的にせよ、排除された側は存在を主張する声すら届かなくなるのだ。
それでも私達は熱い魂の言葉を、悲痛な心からの想いを叫ばずにはいられない。
たとえAIが、便利なツールが排除を試みようとも……いつか届くと信じて。
────その後、恐ろしい噂を耳にした。政府肝いりのナンバリングや情報機器の発達は、洗脳選民による新たな票田の開拓のためだという話だ。
主要情報媒体が新聞からテレビに移り、ネットへと変わった。本人は選んでいるつもりでも、流されている情報はすでに選別された誰かに都合の良い情報だけになっている。
疑問に思った事はないだろうか。サイバー攻撃が、お金にならないマイナーなサイトを狙う理由について。
もしかすると自由に言葉を交わすことの出来るサイトを潰す、予兆だったのかもしれない。
この仕組みが完成された時、選別され別け隔てられたもの同士が出会う事はなくなる。例え居を同じくしていても、信じられるのは己の目ではなく、手に持つ携帯機器だから。
対処方法は通信機器を手放して、目の前の人々を信じ、大切にすることだろうか。
しかしそう思い込ませる事もまた、ひとつの選別なのかもしれないと思うとゾッとする。