噂の怪 その弐 となりのフミオ
座敷童子や貧乏神など、家に居付く妖怪や神様の話は昔からある。幸福をもたらしたり、不幸に陥ったりと、人生の転機に関わる出来事を擬人化され、噂になってゆくのかもしれない。
私の知る噂の怪談は『となりのフミオ』 だ。
となりのフミオとは別に面識はない。どこからか引っ越して来ては隣に住む誰かに踏み台にされ、どこかへまた引っ越してゆくらしい。
何故フミオが踏み台にされたとわかるのか。それは生活環境の変化に敏感らしい。
例えば音。アルバイトの不定期生活の時間と、九時五時出退勤の時間に合わせた外出時間の足音で、何となく察せられる。
薄い壁でカップ麺を啜る音と、ウーバーで人気のラーメンを頼んで啜る音の違いは聞かなくてもわかるだろう。
例えば香り。カップ麺とラーメンでは香りが圧倒的に違う。室内でお湯の注がれただけのカップ麺と、配達され、一度共用通路に漂うラーメンの香り。
私はどちらも好きなのだが、フミオはきっと利用頻度に敏感なのだろう。
隣人がおしゃれな方ならば、身につける香水などでも違ってくる。過酷な労働で湿布臭いものから、高級ブランドの香水に変わればわかりやすい。
知ってか知らずか、彼を踏み台として成り上がったものはいるわけだ。
彼が隣に引っ越して来る事で、本当に人生が好転したというのならあやかりたいと思う。
しかし、うまい話にはたいてい落とし穴がある。
考えてみてほしい。生活環境が好転した予兆を、フミオはいつ知るのだろうか。
生活の行動パターンを知らなければ、音も香りも調べようがない。
フミオは────踏み台にしてゆくものの生活を一日中、一部始終覗いているのだろうか。
もう一つの疑問がある。踏み台にして成功したものが、いつまでも同じ環境に逗まっているだろうか。
フミオよりも、成功を掴んだ隣人の方が先に出ていくと思わないか?
だとすると、フミオが出ていくのはいつになるのだろう。
成功者が得意気に話を誰かに聞かせている時に、情報をたっぷりと仕入れたフミオは次の引っ越し先へ向かっている。
語られるのは踏み台扱いされた隣人のフミオだけ。成功者のその後の話は噂にもならない。
噂の出処を突き詰めたい気持ちよりも、想像される事件の方が怖くなった。
────そして本日、私の暮らすアパートの隣の部屋に男が引っ越して来た……。




