噂の怪その壱 バッテリーに潜む怪──チュパチャパ
チュパチュパは別名チュルチュルとも呼ばれ、人に取り憑き……携帯機器のバッテリーの容量を奪うという。
証言者の話では頭痛やめまいが発生する程度で、人体に危害を加えるものではないのがわかっている。ただ…この御時世だ。
すでに依存症レベルの携帯機器。その電池残量が一瞬でゼロとなるのだ。精神的なダメージは大きく、恐慌を引き起こす例も確認された。
取材を行う記者も、チュパチュパによる直接的な被害はなかったものの、タブレットにて作成仕掛けの記事のデータが一瞬で飛んで、頭の中が真っ白になったという。
初めは故障かと思われ、バッテリーの不具合に関してメーカーに問い合わせが増えはじめた。メーカーが調査するも、機器に問題はない事は確認済だった。
フル充電された電池残量がゼロにされる恐怖が生んだチュパチャパの怪。噂が噂を呼び、その脅威は世界中に広がってゆく。
多くの国のメディアの識者は再充電すれば問題ないので、騒ぐのはバカバカしいと発言。
しかし世界中にスマホ依存症の人間がどれだけいるのか考えると、識者の方が世間知らず過ぎるだろう。
人々は恐怖した。どんなセキュリティも関係ない。携帯機器の電力だけを吸う単純な荒技。悪意あるウィルスを撒くよりも早かった。
何かと製品に対してガラパゴスと称される日本の研究チームは、この正体不明のチュパチャパに対して、単純な手段で対策を施してみせた。
何事も複雑にしたがる民族性だが、一つ一つは実に単純な理由なのだ。
それは予備電池の搭載だ。急激な電力消費に対してのみ切り替わる予備電源機能を搭載しただけだった。
チュパチャパに対応する電池量は1%から10%まで。対応自体は試作段階のため、応急処置のためバラつきがある。
データが収集されれば、日本の研究チームはチュパチャパへの必要対応量を割り出し、最適化することだろう。
────この噂には余談がある。携帯機器の電池容量が奪われるのは、某国の衛星兵器の実験ではないかとの噂だ。
ピンポイントで目標施設のエネルギーを奪う予定が、システムの不具合により操作不能になり衛星兵器をロストしてしまった……のではなかろうか。
お読みいただきありがとうございます。
空に浮かぶ大量の衛星の中には、すでに役目を失って宇宙ゴミのように漂うものや、制空権ならぬ制宙権を巡って静かな戦いが行われてる────なんて噂を聞いたような所から、作品へ繋がりました。