過去からの決別
過去からの決別
「リュウさま、本当に宜しいのですね?」
「はい、お願いします」
記憶定着装置の椅子に座った龍輔は答えた。二つの世界を繋いでいた、転送装置が技術者によって修理され、龍輔達はミレニアル王国へと戻っていた。失くした記憶を取り戻し、過去の記憶を消すことを決めた龍輔であった。龍輔の記憶を失くした南美…いや、ウインガル公国の姫、ミナミリアとは、再び戦わなければならない立場の龍輔には、とても辛い決断だった。出来る事なら王子の地位を放り投げて、南美のもとに向かいたい…しかし、南美の記憶を持ったままでは、自分を護ろうとしたミナモのように周りの者に迷惑がかかる事が龍輔には許せなかった。
「それではリュウさま、始めます」
その言葉に目を閉じた途端に、龍輔の意識は途切れた。
「ミナモ!動きが遅い!もう一度いくぞ!」
「はい!リュウさま、よろしくお願い致します」
リュウとミナモは再び剣を交える。リュウの烈火のごとく振り下ろされる剣を必死で防ぐミナモ。二人の動きに、同席していた戦士たちは、言葉を失い、息をのんで見ていた。ミナモの剣を打ち払い、剣は弧を描きミナモの手を離れた。
「まいりました、リュウさま」
ミナモはリュウの足元で正座をし、頭を下げた。
「ミナモ、まだまだ修行が足りないぞ!」
厳しく言い放つリュウに、ミナモはさらに頭を下げた。
「申し訳ありません、有難うございました」
戦士の中でも一番の剣さばきのミナモでさえ、リュウにはまだまだかなわなかった。
「ウインガル公国の野望を打ち砕くためにも、しっかりと鍛錬せよ!」
リュウの言葉に戦士たちは言葉短く答え、敬礼をした。
「父上お呼びでしょうか」
リュウはミレニアル国王ガルドラ・ミレニアル・ファルクスの前で跪き、一礼をした。
「堅苦しい挨拶は良い、ここはファルクス家のプライベートスペースだ」
ガルドラは微笑みながらリュウの肩を抱きソファーに座らせ、向かい合って座った。
「それにしても本当によく無事に帰ってきてくれた」
そういうガルドラの瞳は潤んでいた。
「ところで、ミナモの事だが… 」
「ミナモがどうかしましたか?」
龍輔が問いかけると同時に入口の扉がノックされた。ミレニアル王国の王妃クラリエル、リュウの母親が入ってきた。その後ろから白いドレスを纏った女性が現れた。
「…ミナモ?!」
先ほどまで剣を交えていたミナモとは別人のようなその姿に、リュウは愕きのあまり声を上げ…見惚れた。 クラリエルはミナモの手を取り、リュウの隣に座らせた。
「あなたも無事に戻ってきた事だし、ミナモさんをいつまでも待たせてはいけませんよ」
クラリエルはミナモを見ながら言った。ミナモは俯いて頬を赤く染めていた。 リュウはミナモの手を取った。ミナモはリュウを見つめる。
「ミナモ…すまない、今は大事な戦いの最中だ。この戦いが終わるまで君との結婚は待って欲しい」 「はい」
リュウの優しい言葉に、ミナモの瞳は潤んでいた。
鮮やかなオレンジ色に輝く地平線、青い空がダークブルーに塗り替えられ…やがて消え去るオレンジの光。空が闇を纏い始め、ゆっくりと現れるいくつもの星の輝き。そして暗闇に抵抗するかのように月が淡い光を放つ。
ミナモはリュウの腕に寄り添って星空を見ていた。
「ミナモ…もう傷の具合はいいのか?」
リュウは星空を見上げたまま訊ねた。
「はい、ご心配をおかけいたしましたが、もう大丈夫です」
リュウはミナモに向き合い肩を掴んだ。
「ミナモ、すまなかった。俺がそばにいながらミナモを傷つけてしまった…これからは、お前の事は俺が命を掛けて護る!」
リュウに抱きしめられたミナモの頬を涙がつたう。
「リュウさま、有難うございます。でも、リュウさまを護る事がわたくしの…」
ミナモを抱きしめるリュウの腕に力が入る。
「戦士としての使命などいいのだ。お前が傷つく事が俺には何よりも辛い」
そう言うとミナモの髪をそっと撫で、肩を掴みミナモを見つめた。
リュウの顔がミナモに近づいてくる。
ミナモはそっと目を閉じる…ミナモの唇にリュウがそっと触れる。
リュウの優しさが、リュウの愛がミナモを包みこむ。
「愛しています…リュウ…」
ミナモの言葉にリュウの優しい唇が答えた。
ミレニアル王国の宮殿前に戦士たちは集まっていた。戦士たちの視線にリュウ王子が現れると一斉に敬礼をする。
「これから、我々はウインガル公国へと向かう。目的はウインガル公国の転送施設を破壊し、大公ドラグエルを粛清することにある。熾烈な戦いになる事と思う。しかし、無謀な戦いはせぬように、誰一人として命を落とす事は許さん!これは命令だ!よいか!!」
リュウ王子の言葉に戦士たちは一斉に答える。




