暗雲の壁
暗雲の壁
ミナミリアは、ふと、空を見上げた。
そこには、街の灯りに邪魔され闇を纏えない雲が蠢いていた。
その存在を気付かれないように…ミナミリアは足を止め暫く空を見ていた。
(あの雲の向こうにあの人が…戻りたい、あの人のもとへ…)
あの日こちらの世界に飛ぶ寸前に、ミナミリアの記憶は蘇っていた。
自分がこの世界の者ではなく、ウインガル公国の姫である事も…
そして、この世界で出会い愛した人が自分と同じ世界の者で、
敵対していた国のリュウ王子だった事も…。
しかし、ミナミリアには戻るすべがなかった。
この世界で、鈴元南美として生きていこうと決めた。
いや、そうすることしかできなかった。
いつものバーの扉を開けるとカウンターは半分ほど埋まっていた。
南美は空いていた右の端に座りビールを注文した。
バッグから取り出した煙草に火をつけると一口吸いこみ、溜息と一緒に紫煙を吐きだした。
いくら時間が経っても龍輔を忘れる事が出来ず、どうしようもない虚しさだけが南美を包んでいた。
その虚しさを誤魔化す為に酒を飲み、そして酔いは、いつものように悲しみが頬を濡らす。
突然、南美の左側から手が現れた…
その手はハンカチをそっと置いた…
南美は後ろを振り返る…
男と視線が繋がった…
男は優しそうな笑顔を見せると…呟いた。
「南美、遅くなって…ごめんな」
龍輔の唇が…南美の唇に…
…優しく、触れた…
<完>
こんな拙い、文章による表現力も乏しい物を、最後まで読んでくださった方には、大変感謝いたします。できれば、叱咤激励などを記入して頂けると、私にとってはとても嬉しいです^^
本当にありがとうございました。