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Episode0 挨拶からはじまる恋 翔子 21歳 女子大生

「私、あなたのことが好き」


「おはようございます」

「おねがいします」

「ありがとうございます」

「ごちそうさまでした」

「私の目を見ながら笑顔でいうお客さんはいないから素敵な人だなとずっと思っていました」


「だから好き」

会社員にはつき物の転勤。入社してから営業部で4年目を迎える私には今回の工場購買部への人事異動は青天の霹靂。上司の課長からは名古屋営業所転勤があるとは内々に話をされてはいたが、諸事情からまさか東京から約2時間弱の工場勤務になるとは。


決まったものはしょうがない。引越をしないで都内から通うことも考えたが、工場の始業時間が8時と早いので工場から車で15分のアパートに引越。近くにスーパーとコンビニ、24時間営業のファミリーレストランがあったのでここに決めた。


数か月が経過した頃、出勤前に自宅近くのファミリーレストランでモーニングを食べようと立ち寄るとお客が私一人。翌日の朝に行ってもお客がいない。五日目にして三人連れの先客がいたが、平日早朝バイト1名(翔子 21歳 女子大生)と私の二人しかフロアーにいないときが多かった。


朝食をファミリーレストランでとるのが恒例化、他にお客がいないときは翔子の学生生活や恋愛話し、趣味の話し、バカ話しを交わすのが私の楽しみに。特に読んだことがある本、作家をお互いに紹介している時は話しがもりあがり、本の貸し借りをするようになりそのころから私は翔子に恋をしはじめた。


ある日、急な出張で早朝から直行し工場に戻ったのが21時過ぎ。夕食をスーパーで買って帰るのが面倒くさいのでファミリーレストランへ行くと、金曜日の夜ということで満席状態。入り口付近も席を待つ人でいっぱい。店員も接客で忙しく動き回っているので、あきらめて帰ろうと扉を開けると後ろから声が。


「いらっしゃいませ」

「こんばんは」

声の主が誰だか振り返らなくてもわかる、翔子だ。


「あれ、夜にバイトって珍しいね?」というと

「バイトが足りなくて急遽はいりました」

「でも22時までだからもう上がります」

と周りに聞こえないように小さな声で答えた。


受付表をみると4組待ちということで、向かいにあるハンバーガーチェーン店に行く事に。ハンバーガーにポテト、コーヒーの味気ない夕食を終え帰ろうとすると


「こんばんは」

「バイト終わりました」

「さっきここに入っていくのがみえたから」


と突然翔子が対面の席にあらわれ、私を驚かせた。お客が立て込んでバイト中に賄い食を食べる時間が無かったらしく、ハンバーガーを食べるとの事で同席。バイト先の愚痴を口にポテトをくわえながら話す姿をみて、翔子のことが愛おしくなった。


お店の閉店時間が近づき、

「もう少し」といいかけたところで「明日と明後日、東京でディベート大会だから朝早く出ないといけないから嫌だな」と翔子のひとことでいいそびれた。


その後も平日はファミリーレストランで朝食をとるものの翔子との関係は進展しなかった。

なぜなら私が心の中で


「21歳の女の子が6歳も年上の男を好きになるわけない」

「大学生と社会人ではつりあわないだろう」

「翔子みたいな素敵な女性が私を好きになるはずがない」

「告白してふられたらもうお店に行けない」


など自分で勝手に言い訳を作っていた。


工場に来て1年半経過したところで、半年後に完成する中国工場の立ち上げメンバーに選ばれ中国出張後、中国工場完成後に赴任することに。日本人スタッフの住むところや現地スタッフの採用面接、工場の工事進捗報告など半年はあっという間に過ぎ帰国。


日本工場に出勤する最後の日、朝ファミリーレストランに行くとなぜか翔子の姿がなく、男性店員が。いつものバイトさんはと聞くと、今日はお休みとのことで最後に翔子に会うことができなかった。


その日は業務終了後に会社の食堂で中国工場に赴任するメンバーの壮行会&送別会が行われ20時に終了。中途半端におなかが空いていたのでハンバーガーチェーン店に行く。ハンバーガーとコーヒーを持って2階に行くと先客がパラパラ座っている。


横一列のテーブル壁側に座ってハンバーガーを食べていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。この声は翔子だ。他にも複数名の声が聞こえてくる。


翔子の声を聞いて自分の心が躍り上がるのがわかる。翔子と最後に何でもよいから話しがしたい。自分の気持ちが抑えきれない。が明後日には日本を発つ自分がいまさら翔子と何を話す、と自分の弱いところがでてしまった。


10分位すると翔子と友達はワイワイガヤガヤいいながら帰っていった。心の中で後悔とほっとする気持ちが入り混じり複雑な気持ちのなかコーヒーを飲む。


コーヒーを飲み終え駐車場に行くと翔子の姿が私の車の前に。

「どうして半年バイト先に来てくれなかったの?」

「急に来なくなったから私はあなたのことを心配していました」

「私があなたに失礼なことをした?」

「入院していたの?」

と一度にたくさんの質問をされ驚いたが、この半年間中国出張して日本に居なかったこと、明後日には日本を発つことを詳細に話した。


話しを終え一息つくと翔子の方から、


「年上の男性が大学生を好きになるわけない」

「大学生と社会人ではつりあわないだろう」

「素敵な男性が私を好きになるはずがない」

「告白してふられたらもうバイトに行けない」


自分で言い訳を作っていたけど私いうね。


「私、あなたのことが好き」


「おはようございます」

「おねがいします」

「ありがとうございます」

「ごちそうさまでした」

「私の目を見ながら笑顔でいうお客さんはいないから素敵な人だなとずっと思っていました」


「だから好き」

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