2 秘密基地作ろう
今日、私達三人はカワうさをなでなでしながら話し合っていた。
「最近私の家での肩身が狭いの」
「大丈夫、メローリ。お母さんとケンカでもしたの?」
「いやあ、たぶんそういうことじゃないと思う」
「うん。全てはあのマジツヨが原因なの!」
「マジツヨ。でもマジツヨは良いドラゴンよ。私達にもやさしいし」
「今んとこ悪いことはせんな。うちの父さん母さんもドラゴンが村にいる現状に慣れてきたよ」
「それがマジツヨの策略なの。マジツヨはうちの中に入っては、掃除洗濯料理、なんでもするの!」
「それは別に良いことじゃない?」
「せやな。ちゃんと従ってるみたいでいいじゃない」
「全然よくない。その隣で私がぐーたらするだけで、お母さんのお小言がとんでくるの。あなたもマジツヨみたいに働きなさいって!」
「ああ。でも、目の前に良い例がいるのは良いことじゃない?」
「たしかに肩身狭そうだけど、でもそれは仕方ないことじゃない」
「全然良くない、良くないよ!」
「それなら、メローリが良い子になればいいんじゃない?」
俺たちはしばらくの間、カワうさを撫で続けた。
「スイーリア。核心を突かないで」
「ごめんなさい」
「そんなん開き直ればいいんじゃない?」
「レトリア、というと?」
「マジツヨはメローリに従ってるんだから、マジツヨの行いはメローリの行いでもあるとか、なんとか言って」
「それお母さんに言ったらぶっとばされるよ」
「そうね。ごめんなさい」
「ううー、私はどうすればいいんだー」
「うさー」
ううう。カワうさは可愛いよー。
「ここはスイーリアの言う通り良い子になれば良いと思う」
「いやっ。私はごろごろぐーたらが良いの!」
「ダメよメローリ。怠けはダメってメローリ自身が言ってたでしょ!」
「そうだったかもしれない。でもあそこまで忙しくしたくないいー」
「そういえば、マジツヨはメローリの家の隣に家を建てたのよね」
「そうなの。なんか一晩で建ってた。三階建てのビルみたいなの」
「あれどうやって建てたんかな?」
「っていうか、ビル?」
「縦に長い建物をビルって言うの」
「へー」
「ていうかなにげにメローリって地球の知識あるよね。私のスマホも受け入れてたし」
「うん」
「メローリ様。時間が空いたので来ましたぞ。何か私の手が必要なことはございますか?」
そしてここにマジツヨがやって来た。
「マジツヨ、遊びの時間にはこないでって言ったでしょ!」
「ですが、時間が空いたので。私はいろいろできますよ。ぜひ混ぜてください」
「丁度良かったわ、マジツヨ!」
「はい。なんでしょう、スイーリア」
「あなたは家を建てられるんでしょ。それを私達の分もやってほしいの!」
「ほう」
「名付けて、秘密基地作り!」
「秘密基地作り!」
スイーリアとレトリアと、三人だけの秘密基地!
そんなものがあったら、そこが真の楽園になっちゃう!
「マジツヨ、早速作りなさい!」
「かまいませんよ。私が作ってよろしいんですね?」
「それ以外に何があるの?」
「メローリ様程の魔力があれば、私でなくても家くらい作れます。まあ、多少のコツはいりますが」
「ほう」
「自分たちで作れるなら、その方が良いわ!」
「えー。私は人にやってもらった方が楽でいいけど」
「私もスイーリアにさんせーい。マジツヨ、家の作り方教えてー!」
「はい。お安い御用です。ですが、これだけは始めに言っておきます。私が使う家建設の魔法は、やはり魔法で生み出されています。なので、ディスペル魔法にものすごく弱いです。その分消滅も楽ですが、その点はしっかり憶えておいてください」
「え、マジツヨの家って簡単に消えちゃうの?」
「いえ、そう一概には言えません。魔法の腕が良ければ、何千年も劣化しないし火事も起こらない強固なものとなります。要は一長一短があるということです。上手くできれば短時間で作れますし、魔法の家の方が良い場合もありますよ」
「ならそれでいいや。マジツヨ。早速家の作り方教えて」
「はい。かしこまりました。ではまず、魔法とは万能の力です。魔法はなんにでも、どんなことにでも使えます」
「え、でも私達には、それぞれ得意な魔法があるけど」
「それは私の枠内にはあてはまりません。私はあらゆる魔法が使えますので」
「あれ。いきなりこれ、マジツヨにはできて私達にはできないフラグじゃね?」
「ですが、そもそも魔力は火になり、水になり、風になり、土になります。つまり、万物の形となることができるのです。故に万能。それが魔力であり、魔法です」
「言ってることは正しい気がするけど、私達からすればめちゃくちゃな論理よ、それ」
「まあ試しにやってみるといいでしょう。さあ、まずは木魔法で柱を作ってください。その後は柱をパズルのように組み合わせて、丈夫な枠組みを作りますよ」
「いきなり難しい!」
結局、私達では柱を作ることすらできなかった。
「頑張ってください、メローリ様、スイーリア、レトリア。頑張ればその分上達します」
「いや、それは根性論すぎる」
「もうお外暗くなっちゃった。私帰るね」
「あ、うん。じゃあね、スイーリア」
「私も帰るわ。またね」
「うん。じゃあね、レトリア」
「さて。それではメローリ様。我らも帰りましょう」
「うん。ああいや、マジツヨは自分の家に帰っていいんだよ?」
「そういうわけにはいきません。我はメローリ様の従者なのですから。今夜はバーサークボアの鍋ですよ。肉は我がとってきました」
「またマジツヨはそういう私の肩身が狭くなるようなことをして。少しは私のことを考えなさい!」
「私は常にメローリ様のことを考えています」
翌日。今日も俺はスイーリア、レトリアと遊ぶ。
「ねえ、メローリ。私いろいろ考えたんだけどさあ」
「うん」
「もしマジツヨが秘密基地作ってくれるんだったら、私こっちかこっちが良いと思うんだよねえ」
レトリアがそう言って、スマホで木の上ハウスと洋風のお城を見せてくれた。
「あ、私こっちが良い!」
スイーリアがそう言って洋風のお城の画像を指差す。
「あ、やっぱスイーリアもそう思う?」
「うん。だってお城が秘密基地ってステキじゃない!」
それはもう秘密基地じゃない気がするが、言っていることはわかる。
「じゃあ、マジツヨにこんな感じのお城を作ってもらうか。でも、お城を作るんなら、問題がある。どこに作れる?」
そもそも俺たち、土地とか持ってないし。
「うーん、それも少し考えたんだけど、ひょっとしたらとっても良いところに作れるかもしれん」
「とってもいいところ?」
「それって、どこ?」
俺とスイーリアが訊くと、レトリアはとんでもないことを言った。
「マジツヨは昨日、なんでもできるって言ってたよね。なら、空の上に島と城を作ることもできるんじゃないかなーって」