1 転生した
俺は強井剛力。プロレスラーだ。
いや、もう元、プロレスラーか。
俺は生まれつき、体が強く、大きかった。
プロレスラーにもすぐになれた。パワー剛力という呼び名で連戦連勝。観客を湧かせた。
うん。仕事運には恵まれていた。
しかし、恋愛運にはことごとく恵まれなかった。
俺は、可愛いものが好きだった。人からぬいぐるみまで、なんでも好きだった。子供の頃は隠れながらだが、一人暮らしになってからは大胆に少女向けアニメとか見ていた。
そんなだから、フリフリ衣装が似合うアイドル系な彼女が欲しかったのだが、いざアタックしても。
「怖いから無理」
との完全拒絶。心は大きく砕かれた。
反対に寄ってくるのはお姉さん系、セクシー系のグラビアタイプ。もちろん可愛い系ではなかったので俺は拒絶した。それでもたくさん言い寄られたが、結局結婚まで至ることはなかった。
そんな感じで人生送って、今はもう寿命的なゴールが間近といったところ。
体が起き上がらない。まぶたが上がらない。わかる。俺はもうすぐ死ぬ。
幸せとは強く思えなかったが、悪くない人生だった。惜しむべくは、最近のアニメはクオリティーが高いから、今やってるやつをちゃんと最後まで見納めることなく逝ってしまうことが少し心残り。
いや、一番の心残りは、彼女ができなかったことか。
もしこの命が転生するようなことがあれば、次こそ可愛い女の子と一緒になりたい。
そう思いながら、全身の力を抜いた。
すると、あっさりと意識が遠くなった。
「おぎゃー、おぎゃー!」
俺、生まれた。再誕である。
「やった、あなた、生まれた、私達の子が!」
「ああ、よくやってくれた。なんて可愛い子だ。きた、天啓きた。この子に女神の名前をつけよう!」
「まあ、なんてステキ! さすがあなたね!」
「よし。お前の名前はメローリだ。神様の名に負けないくらい、美しい子になってくれ!」
その後、俺は成長した。
金髪、オレンジの瞳、雪のように白い肌。
大人達が言うには、俺は女神メローリと同じ容姿をしているらしい。
この世界、というか異世界なんだが、とにかくここには鏡が家に常備されてなかったから、詳しくは分からないが、桶に水をはって水面を覗き込むと、確かに愛らしい見た目の幼女が見える。
今、俺、5歳。
「人生最高ー!」
まさか自分が可愛い女の子になるとは思わなかったが、今はこの上なく幸せである。
ある日のこと。
「スイーリア、おはよー!」
「メローリ、おはよー! レトリアもおはよー!」
「あー、うん」
「今日もレトリアつれてきたよー!」
「レトリアー、また家にこもろうとしてたのー? ダメだよー!」
「いいだろ、別に。人の自由だし」
「自由と怠けは違う!」
「おお、メローリ、今日もかっこいい!」
「怠けったって、結局つれてこられても遊ぶだけだろ。だったら家にいても変わんないじゃん」
「かーわーるーの! スイーリアとレトリアと、私と、3人で遊ぶの! ね!」
「ねー!」
「あー、はいはい。はあ、めんど」
水色髪、水色瞳の5歳幼女、スイーリア。
クリーム色髪、レモン色瞳の5歳幼女、レトリア。
私達はとっても仲良しな幼馴染である。
というか両手に美幼女。超幸せである。
ちなみに俺達の近くには、ピンク色のハートが浮かんでいるが、これは俺達チッサーナ族の特徴であるらしい。
しかも俺達の身体的特徴は、成人を迎えても最大15歳くらいまでしか成長しないらしい。このまま5歳、4歳の姿で成長がストップすることもザラにあるそうだ。
素晴らしい異世界。素晴らしすぎるチッサーナ族。俺、ここに生まれて良かった。
「ねえー、今日は何して遊ぶー?」
「おままごと!」
俺は即答した。
「私がお父さんで、スイーリアとレトリアがお母さん! どっちがお父さんにより愛されてるか、激しく争うの。私はそんな二人を愛す!」
「えー、でもこの前もおままごとやったでしょー。それにメローリはお父さんになれないよ!」
「なれるもん! 絶対なれるもん!」
「いやあ、ならへんならへん」
「レトリアまで、もう、もっと愛情を見せなさい!」
まあ、ツンなスイーリアとレトリアも良いけどね!
正直、こうして会えるだけで幸せなのだ。
「私達は結婚するの! そしてずっと一緒なの! そしたら、ずーっと幸せなんだから!」
「もう、メローリはいつもそればっか! 男の子のことなんて全然眼中にないんだから。そんなに私達が好きなら、男の子に生まれてくれば良かったのに!」
「それはそれで嫌!」
「メローリは相変わらず危険やね。なんで私ターゲットにされてるんだろ」
「わかった。それじゃあ予定を変更して、今日はお父さんの私が、二人のお母さんをいっぱい愛してあげるね!」
「メローリ、それじゃあいつもとやってること変わってないわ!」
「問答無用。スイーリア、いつもかわいいよ、好きー!」
「きゃー!」
俺はスイーリアにだきついて、ほっぺたとほっぺたをこすり合わせる。うーん。良い香り。良い肌触り。もうちょう天国。
「あーもう、メローリ、私もメローリは好きだけど、これはやりすぎよ!」
「やりすぎくらいが丁度いいのよ! 今度はあなたの胸に顔すりすりしたい!」
「きゃー!」
「さすがに、ダブルロリプレイはちょっと。じゃあ私は、あっちで休んでるから」
「レトリアも逃さない、大好きギュー!」
「わー!」
すかさず逃げようとするレトリアにも抱きついて、耳を甘噛みする。
はあー。もう毎日幸せである。
ある程度二人とキャッキャウフフすると、頃合いを見てレトリアのターンに移る。
何をするのかっていうと、本の読み聞かせだ。
正確に言うなら、スマホの読み聞かせである。
ちなみにこの異世界には、スマホを製造、活用する技術はない。
ではなぜ使えるかというと、それはレトリアが私達チッサーナ族の特技を使っているからである。
この詳しい話は、またのちほど。
「こうしてキャバ嬢3人は、見事ドラゴンに勝ったのでした」
「おー、すごーい!」
スイーリアは目を輝かせている。私は大拍手。
「ふう。今日はここまでかな」
「やっぱり良いね、レトリアが話すお話!」
「そうね」
俺はうなずいておく。実際スマホを使えるのだから、面白い話を探すのも得意だろう。
「続きはこの次な。そろそろお昼ごはんの時間のはず」
「くーっ、早く次の話を聞きたいーっ! 私、大きくなったらキャバ嬢になる!」
「それはダメ!」
俺は強く反対した。
「えー、なんでー。キャバ嬢はきれいで強くてかっこいいんでしょー?」
「それ以前に、キャバ嬢は男の人に近づく危険な仕事なのっ。スイーリアが危険なおじさんに目をつけられてしまったら大変よ!」
「それはお前のことだと、私は思う」
「そんなお客さん、メロメロ昇天させればいいじゃない! 私したい!」
「ダメ、絶対ダメ! きれいで強くてかっこよくなるなら、キャバ嬢じゃなくてもいいでしょ!」
「うーっ、メローリのバカ!」
「うううっ!」
スイーリアの一言で俺に大ダメージ!
でも、ここで倒れてはいられない!
「私はスイーリアのためを思って言ってるんだもん!」
「メローリったら、お母さんみたいなこと言って! メローリは私のお母さんじゃないもん!」
「お母さんじゃないけど、お父さんだもん!」
「いいや、違うね。違う違う」
「どうしてもキャバ嬢になりたいなら、私だけのキャバ嬢になりなさい!」
数秒後。
「そうしたら、私もきれいで強くてかっこいいキャバ嬢になれる?」
「なれる!」
「えー。そうなるの? これそういう展開?」
「じゃあ私、メローリのキャバ嬢になってあげよっかなー?」
そこでスイーリアが、もじもじした!
俺に大ダメージ!
「ありがとうスイーリア、大好きー!」
私は思わずスイーリアに抱きついた!
「ああん、もうメローリったら。メロメロ昇天攻撃はまだだよ?」
「もうメロメロだよー。はあーん、幸せー」
「はあ、アホくさ」
「ああっ、レトリアも好きだから、こっちきて一緒にギューってしよー?」
「やめんか!」
そんなことをやっていたら、村中に鐘の音が鳴り響いた。
カンカンカンカンカンカンカン。
「あれ、お昼の鐘かな?」
「その割には、叩きすぎな感じだけど」
「これは非常事態の鐘、メローリ、スイーリア、早く帰るぞ!」
スイーリア、私、レトリアは、思わず顔を見合わせる。
「一応訊くけど、レトリアがいつものようにすぐ帰りたいからじゃないよね?」
「違うわボケ! 緊急事態に親が子の安否確認できんでどうする! とにかく、一刻も早く争う事態ならおおごとなの! 子供は家族と一緒にいないと心配させるだろ!」
「わかった。私、もうダッシュで帰る! レトリアを信じる!」
「私も!」
「そんじゃな、元気にしてるんだぞ!」
「またね!」
「うん、また!」
レトリア、スイーリア、私と、走って家に帰る。
けれど、非常事態の鐘の音だって?
一体何があったんだ?
「ただいまー。急いで帰ってきたよー」
「大変よ、メローリ。今、この村にリトルスキーが押し寄せてきてるの」
「え、リトルスキー?」
リトルスキーは、聞いたことがある。この世界の母に言い聞かせられた、絶対に気をつけなければならないモンスターだそうだ。
もし私達チッサーナ族が捕まってしまったら、最後。リトルスキー達にペロペロされてしまうらしい。
そんな危険なモンスターが押し寄せるなんて、大変じゃないか!
「大丈夫、平気だよね?」
「ええ、大丈夫よ。今村の精鋭達が、リトルスキー達と戦ってくれているから。でもここも危険かもしれないから、今から隣の村に避難しましょう」
確かに、それが良いかもしれない。今まで非常事態を告げる鐘が鳴ったことはなかった。母もそう言うのだから、今はそれだけ危険なのだろう。
だが、幸いなことに俺には力があった。
「ううん。じゃあ私が、リトルスキー達を倒してくる!」
「ダメよ、メローリ。あなたはまだ子供よ!」
「でも、私もう戦えるもん! 母さんだって私の強さ、知ってるでしょ!」
チッサーナ族は、皆個別に特殊能力を持っている。
その力は自身の近くに浮かぶハートに込められているとされていて、特殊能力は更に強くなることもあるらしい。
そして俺の力は。
「特殊能力、可愛いを強さに変える力。これがあるから私、誰にも負けないもん!」
そう。俺の能力値はこの特殊能力のおかげで、生まれつきマックスなのだ。
体力99999。魔力99999。技力99999。物理攻撃力99999。魔法攻撃力99999。物理防御力99999。魔法防御力99999。素早さ99999。運99999。
それが、俺の生まれながらのステータスなのである。
「確かに、あなたは強いわ、メローリ。でも、まだ子供よ。戦いなんて、早すぎる」
「そんなことないよ。母さん、リトルスキー達はどっちから現れたの!」
「あっちよ」
「じゃあ行ってくる!」
俺は母さんが指さした方にダッシュした。
すると、すぐに避難している他のチッサーナ族と出会った。
「あれ、皆こっちに逃げてるの?」
「ああ、メローリちゃん。無事だったのね。さあ、このまま一緒に逃げましょう」
「騙された!」
こっちに避難しているなら、リトルスキー達は反対方向にいるはずだ。
「待ってて、今私が助ける!」
俺はそう言い残して、更に走った。
ちなみに素早さ99999の俺は、全力を出せば戦闘機よりも速い。
「少年だ、少年だー!」
「少年でもいい、ペロペロしてやるー!」
「俺は女の子だ、絶対女の子を捕まえてやるー!」
駆けつけてみれば、本当にリトルスキー達がたくさんいた。数は数百といったところか。
2メートル程の巨漢。顔中胸中腰中に剛毛が生えていて、たくましい原始人といったような見た目。
そいつらを、大人のチッサーナ族数十人がなんとかおさえていた。
「く、流石にこの数は、おさえきれない!」
「耐えろ、負ければペロペロされるぞ!」
「負けたくない、ペロペロされたくないー!」
「く、せめて今のうちに逃げてくれ、皆!」
ああ、大人たちが今まさに負けそうになってる! 皆見た目が十代前半で華奢だけど、ピンチだ!
「皆ー、私が助けにきたよー!」
「誰だ!」
「ま、まさか、ホッソさん家のメローリか!」
「可愛いドロップキーック!」
俺はリトルスキー達にドロップキックをかました。
「ぎゃー!」
「うわー!」
「ブヒー!」
それだけで、数十体のリトルスキーが吹き飛ぶ。
よし、このまま殲滅だ!
「可愛いラリアットー!」
「ぎゃー!」
「うわー!」
「幼女だー!」
「可愛いはり手!」
「ぎゃー!」
「うわー!」
「なんて強さだー!」
俺の攻撃方法は主にプロレス技だ。
前世の経験がそうさせるのだ。
更に、そこに99999の魔力も加わる!
「可愛いマジックショットー!」
俺はまだ魔法を習得していないため、純粋な魔力を放つことしかできない。
だがそれだけでも、有効な攻撃方法になっていた。
「ぎゃー!」
「うわー!」
「眼の前に幼女がいるのにー!」
「可愛い皆殺しー!」
「ぎゃー!」
「うわー!」
こうして俺の活躍で、数百いたリトルスキー達は全滅した。
体力を0にした相手は、更にとどめを刺すことでアイテムに変わるらしい。
今知った。おかげで、辺りには肉や薬の瓶がいっぱい。めっちゃ倒したからな。全部拾うのは大変そうだ。
「まさか、メローリが全部倒してしまうなんて」
「どうする?」
「どうする、と言われても、どうしよう」
戸惑う戦士な大人達。
私はそんな彼らを見て、言った。
「皆、敵を倒したぞー!」
しーん。
「喜べー!」
しーん?
「そ、そうだな。喜ばないと!」
「俺たちは、助かったんだ!」
「リトルスキー達を倒したぞー!」
「やったー!」
大人たちは両手を上げて喜ぶ。
よし。これで一件落着、だな。
「で、メローリをどうするか」
「へ?」
俺?
「メローリ。今回はお前のおかげで事なきを得た。それは良かった。だが」
「メローリはこれからどうしたい?」
「えっと、どうするって?」
もっと具体的な言葉をくれなきゃ、こっちとしてもわからん。
「このまま、村を守る仕事についてもらってもいい。だが、メローリはまだ子供だ。一人前の仕事をさせるには早すぎる」
「だから、そうだな。このリトルスキーのドロップアイテムを売ったお金を、お前の報酬にして、それで今回の件はほぼ無かったことにしてもいい。メローリも、他にやりたいことがあるだろうしな。それで、どうしたい?」
「えっと」
どうやら、大人たちは俺を、村の戦力として数えても良いと言ってくれているようだ。
でも、俺の望みは決まっている。
それは、スイーリアやレトリアと、少しでも長くキャッキャウフフすること!
だから、村の仕事なんて、後回しでもいい!
「せっかくなので、お金だけください!」
「だよな」
「まだ子供だもんな」
「でも、無駄遣いはするなよ」
「うん!」
こうして、俺はちょっとしたお小遣いをゲットした。
後は、避難している人たちに追いついて、もう大丈夫だよって言ってこよう!
その日の夕暮れ前。
「スイーリア、レトリア!」
私はまた、二人と会っていた。
「メローリ、レトリア、無事だったのね!」
「良かった、何事もなくて」
スイーリアは笑顔で抱きついてくれる。レトリアはほっと一息といった感じ。
そんなレトリアにも、二人でギュー!
「リトルスキーが来たけど、すぐに倒せて良かった!」
「うんっ。お母さんはとっても慌てていたけど、大したことなくて良かったわ!」
「それなんだけど、リトルスキーはメローリが倒したって聞いたけど、本当?」
「そうなの、メローリ?」
「うんっ。リトルスキーは私がやっつけたよ。村をおそうモンスターは許せないからね!」
正直に答えると、スイーリアは目を輝かせた。
「凄い、メローリ強い、かっこいい!」
「ありがとう、スイーリア!」
「まあ、メローリのステータスならそれくらいできるだろうけど、でも本当にやるとは。大したもんだ」
「レトリアも、もっと褒めて!」
「うん。凄い凄い。助かったよ、ありがとう」
「うん、私もスイーリアとレトリア大好き!」
「そういう話はしてないわ」
「これで明日も安心して遊べるね!」
「うん!」
「あー、まあ、そやね」
「それじゃあ安心ダンスを踊ろう!」
「えー」
「どうやって踊るの?」
「スイーリアもレトリアも私に続いて。安心安心安心だー!」
「安心安心安心だー!」
「またしょうもないのが始まったわ」
「レトリアも、ほらっ。安心安心安心だー!」
「あー、はいはい。安心安心安心だー」
私達はひとしきり安心ダンスを踊った後、それぞれ家に帰った。
これからも可愛い女の子達との日常を、俺が守る!
翌日、今日も3人で遊んでいると、ある時年上の少年3人が寄ってきた。
「お前がメローリだな!」
「うん、そうだけど」
「俺よりお前のほうが強いなんて認められねえ、勝負だ!」
そしてなんかいちゃもんつけられた。
「これってもしかして、決闘?」
「あー、メローリ。ちゃんと手加減して手早くかたづけや」
「うん、任せて!」
俺は二人に親指を見せて、男の子に近づく。
「お、やる気になったか」
俺は自信たっぷりな男の子にまっすぐ近づいて、無言の腹パンをおみまいした。
「ごふっ」
男の子は倒れる。
「す、スケール、大丈夫か!」
「し、死ぬ。たすけて」
「安心しな。みねうちだ」
「す、スケール、変な芝居すんな。そんなわけねえだろ!」
「次は、俺たちが相手だ!」
俺は更に男の子二人に、無言の腹パンをお見舞いする。
「ごふっ」
「ごふっ」
これで3人、地に伏した。
「なんか、私が思ってた決闘と違う」
「いーや、スイーリア。これが現実よ」
反応が薄い二人に近づく俺。
「スイーリア、レトリア、勝ったよー!」
「あ、うん!」
「おつかれー」
「それじゃあ、次何して遊ぶー?」
「えーっとねえ。じゃあ、お医者さんごっこー!」
「いーよー。じゃあ私がお医者さんで、スイーリアが患者さんねー!」
「違うもん。丁度ここに倒れてる患者さんがいるから、それを楽しく看病するんだもん!」
「ダメよスイーリア。こいつらにそんな価値ないわ。そんなご褒美あげちゃダメ!」
「メローリも相変わらずだけど、確かにこいつらほっぽっとくのも女の子らしくないかも。ここは2対1でお医者さんごっこしようや」
「そうよ。レトリアも賛成!」
「くっ、レトリアめ!」
俺のほうがスイーリアに看病されたいのに。あとレトリアにも!
そして俺が見ている前で、スイーリアが男の子の一人に膝枕した。
「患者さん。しっかり気を持ってください。必ず良くなりますよ!」
「て、天使に見える」
きいーっ、うらめしいー!
「ほら、ただ痛いだけやろ。じきにおさまるから、じっとしてな」
「あ、ありがとう」
レトリアも男の子一人膝枕して、口惜しいー!
「ほら、メローリももう一人とお医者さんごっこしよ!」
「残りの一人、メローリ、ちょっとは気を使ってやれば?」
「ぐぐぐぐぐ」
俺は二人に言われて仕方なく、残っている男の元まで移動し、肩を軽く蹴った。
「怪我なんて気合で直せ、このもやし野郎!」
「ちょっとメローリ、それお医者さんのすることじゃないわ!」
「たまには女の子らしいことしてもいいんとちゃう?」
「だってこいつら、気にする価値ないし、二人をとられて悔しいし!」
「メローリのあまえんぼさん! そんなんじゃ立派なレディーになれないわよ!」
「ほら、ひとまずそいつで遊んでやりい。今はお医者さんごっこの時間やよ?」
「ぐぬぬぬぬぬ」
俺は悔しい思いを胸にしながら、お医者さんごっこの時間を過ごした。
これが試合に勝って、勝負に負けたというやつか。
それからしばらくした後。
「この山にトンネルを掘ろう」
「トンネルってなにー?」
「山の中に作った道やよ。右と左から横穴を掘っていって、途中で左右をつなげて一本道にするの」
「ダメよ、そんなことしたら山が崩れちゃうわ!」
「それが崩れないんだなースイーリア。じゃあ試しに掘ろう!」
「いいけど、きっとすぐに掘ったところから崩れちゃうわよ?」
今日は三人で砂の山を作って遊んでいると、そこにたくさんの武装した集団が現れた。
しかも体格からして、チッサーナ族ではない。まさか、村の外から人が来た?
「子供達、聞きたいことがある」
集団の一人がそう言ってきた。
「こんにちはー!」
スイーリアだけ挨拶をする。良い子だ。
でも俺とレトリアは、警戒心のほうが勝っていた。
「おじさん達、何者?」
「子供に聞きたいことって、なんかな?」
「うむ。我らはトッポーリ騎士団。この近くにある町、トーポリの領主、ムンヤムトッポーリ子爵が従える騎士団だ。我らはここへ、リトルスキーの大群を倒したというチッサーナ族の勇者を迎えに来た。その勇者はまだ年端も行かない少女だと言う。お前たち、知らないか?」
よりによって俺目当てかい。
なんか厄介そうな空気してるし、適当にとぼけておこうかな?
「私そんなの知らなーい」
「何言ってるのメローリ。リトルスキーをたくさん倒した子って言ったらあなたじゃない!」
はいスイーリアの一言で速攻ばれたー。スイーリア素直すぎる、そこが良い!
「何、この子が勇者か。副団長、早速勇者を見つけました!」
「スイーリア。ちょっと今は黙っとこか」
「? うん」
レトリア、できればもうちょっと早く止めてほしかった。
そして騎士団の中から、ゴリラみたいなやつが前に出てきた。
「ほう、この娘が勇者か。小娘。俺様はトッポーリ騎士団の副団長、ゴリーロだ」
自分のことを様づけするとか、ありえないんですけど。
「私あなた達に興味なーい。だからさっさと帰って。遊びの邪魔」
「小娘。どうやらお前は正しい言葉づかいを憶えたほうが良いようだな。騎士団に暴言を吐くのは重罪だ。お前は子供だからすぐ謝れば許してやるが、本来なら痛い罰が待っているぞ」
「へえー。やってみれば?」
「ちょっとメローリ、大丈夫なん?」
「心配してくれてありがと、レトリア。でも、へーき。だってこいつ、弱いもん」
「ほう。許してやろうと言っているのに、そんな態度とは。どうやら一度痛い目にあわないと自分の愚かさがわからないようだな」
「ゴリーロ様、よろしいのですか。相手は勇者ですが」
「よい。どうせ話が大きくなっているだけだ。そもそもこんな子供がリトルスキーを相手にできるわけがない」
「それでは、勇者を連れ帰るという命令はどうするのですか?」
「勇者など、実際にはいなかった。そう伝えれば十分だ。それでは、これからおしおきしてやる。おい、俺の武器をもってこい」
「はっ」
そう言うとゴリーロは、大きな鉄製のハンマーを持った。
「小娘。俺様を敬わぬその性根、今から叩き直してくれる」
「つまり、勝負するってわけ。ゴリラおじさん」
「ご、俺様の名前はゴリーロだ! いいだろう、勝負だ、逃げても無駄だぞ!」
「そっちこそ。でも勝負なら、先に約束してくれる? 私が勝ったら、もう私に関わらないって」
「いいだろう。それではお前が運良く生きてたら、一生奴隷にしてやる!」
そう言ってゴリーロがハンマーを振り上げた!
「いけない、メローリ、逃げて!」
「メローリ、本当に大丈夫なんだろうな!」
二人がそう声をかけてくる。だから俺は笑って見せた。
「私に任せなさい。この程度、お茶の子さいさいなんだから!」
そう言って、避ける。前に。
「ぬおっ!」
私はスライディングして、ゴリーロの股下をくぐった。後ろでハンマーが地面に振り下ろされた音がした。
けど、そんなの全然怖くない。余裕余裕。
そして俺は体を反転&ジャンプ。ゴリーロの背中にとびついて、脇の下に手を回す。
そして。
「ふん、ジャーマンスープレックス!」
「どわー!」
空中で体をそらし、ゴリーロの後頭部を地面に突き立てる!
きれいに決まった後、私はゴリーロから離れた。そして、カウントダウン。
「ワン、ツー、スリー」
次の瞬間、ゴリーロの体が倒れた。
決まった。ゴングが鳴ったぜ。
「ご、ゴリーロ様ー!」
「そんな、ゴリーロ様が一撃で!」
「やはり強かったんだ、チッサーナ族の勇者は!」
騒ぎ出す騎士団達。そんな中、スイーリアとレトリアが駆け寄ってくる。
「メローリ、大丈夫!」
「本当、無茶はすんな!」
「スイーリア、レトリア、私は余裕で大丈夫だよ。それより勝利のギュー!」
私達は抱きつく。はあ、幸せ。
「もう、心配させないでよね、メローリ!」
「うんうん、わかってるわかってる。ていうか、私は何があっても大丈夫だよ」
「お前見てるとそんな気してくるから、逆に不安やで」
「じゃあもっと心配してー、うれしい!」
「もう、メローリったら!」
「この調子だと、心配するだけ損か」
「勇者の実力、拝見させていただきました」
抱き合う私達に、一人の騎士が近づいてきた。
俺は抱き合うのをやめながら、言う。
「あの、約束聞いてた? 私にもう関わらないって」
「はい。聞いてました。しかし、我らの使命は勇者をトーポリに連れて戻ることなのです」
うわあ、面倒。このイベントまだ続くのかよ。
「ところで勇者は、デスモンキーというモンスターをご存知でしょうか?」
「ううん、知らない」
「そのデスモンキーを、倒していただきたいのです」
と言われても、やる気湧かないなあ。
「おじさん達が勝手に倒せばー?」
「残念ながら、我らの手にはあまる強さなのです。どうかご協力ください。勇者なら、困る我らに救いの手を差し出すべきですよね?」
「別に私は困ってないしー。おじさん達が弱いのがいけないだけだしいー」
「メローリ。皆が困ってるなら、助けるべきよ!」
ううっ、スイーリアにそう言われたら、つい二つ返事でオーケーしそうになる!
「こら、スイーリア。メローリが危険な目にあってもいいん?」
「え、そんなの嫌。メローリ、危険な真似はやめて!」
「うん、わかったよスイーリア!」
ということでダメー。
「おじさん達、私はついていかないから。というか、知らない人についていくわけないから。だからそのゴリラつれて大人しく帰って!」
「もちろんデスモンキーを倒したら、報酬もあげちゃいます」
「お金で釣れる私ではないわ!」
「もし倒してくれたなら、平民が一生働かずに暮らせるだけのお金をあげます」
うっ。
一生働かずに暮らせるだけのお金?
そんなのあったら、後はスイーリアとレトリアと遊びたい放題じゃないか!
いいや、惑わされちゃダメだ。俺!
「そ、そんなこと言われても、信じられるわけないしいー」
「既に半額の前金は持ってきています。引き受けてくれたら、すぐにお支払いできます」
「ううっ。そもそも、お父さんとお母さんに黙ったままついていけるわけないじゃない!」
「では、本日中にご両親に説明をいたします。加えて言うならば、ここの村長には既に、勇者を借りるという旨を伝えた後です」
うぐうううっ。
「とにかく、私は行かないったら行かないのー!」
きっとこれで、良いんだよね?
結局騎士団達は、俺の家にまでついてきた。
そしてお昼ごはん時に両親に説明をした。俺はその間むすっとしていた。
そしてお父さんとお母さんは。
「答えは決まっています」
「ええ。メローリを危ない目にあわせるわけにはいきません。よって騎士団にメローリを預けるわけにはいきません」
「その通りです。どうかこのままお引取りください」
さすが両親、よく言った! 本当にできた親だよまったく!
「そう言われましても、我らもこのままでは引き下がれません。報酬は更にはずみます。いえ、お二人にも報酬を払いますので、どうか勇者を貸してください」
「メローリは普通の子です。モンスターの前に向かわせたりできません!」
「そうだ。メローリは大切な娘だ。娘は俺たちが守る!」
「そう言うだろうと思っていた」
「村長!」
「どうしてあなたがここに!」
「お前たちならメローリを簡単に預けることはしないと思ったから、見に来たのだ。ふたりとも、頼む。メローリを騎士団にあずけてくれ」
「そんな、村長、どうして」
「頭を上げてください」
「では、うむ」
「偉そうに顔をそらすな!」
「では頭を下げよう」
「ああもう、やめてください、村長!」
「そもそもだ。トッポーリ騎士団は、我らの村の戦力よりも強い」
「ええ」
「まあそうでしょう」
「そんな彼らを冷たくあしらったら、村にどんな不利益が訪れるかわからん。特にトーポリを経由する商売はどうする。もし嫌がらせをされたら暮らしていけなくなる者も現れよう」
「騎士団はそんなことしませんよ」
「いいや、するぞっ。俺様を侮辱したツケを、何倍にもして払わせてやる!」
「この、ゴリーロ。もう起きたか!」
「ぬうっ、近づくな小娘、ひいっ、もう許してください!」
「とにかく、トーポリと仲良くお付き合いするためにも、メローリを旅立たせてやってくれ。大丈夫、リトルスキーの大群を倒したメローリなら、無事戻ってこれるはずだ」
「そんな」
「メローリ」
「お父さん、お母さん」
たしかにぶっちゃけモンスター退治なんて楽勝だけど、でもバトルなんて可愛くない。
あんまり気乗りしないけど、でも仕方ないのか。
「わかった。じゃあ私、村のために一肌脱ぐよ!」
「メローリ、ダメだ!」
「そうよ、メローリはまだ小さいんだから!」
あんまり背丈が変わらないお母さんに言われても、説得力ないけどね!
「大丈夫。なるべく早く帰ってくるから。あと報酬も全部お父さんとお母さんにあげるから。だから、いってきます!」
ちゃんとお金目当てじゃないこともアピール!
「そうか、じゃあ行ってこい!」
「気をつけていってきてね、メローリ!」
ズコーっ!
「なんて言うと思ったか、メローリ、心配すぎる!」
「危ないことなんてやめなさい、怪我したらとっても痛いのよ!」
ほっ、良かった。お父さんとお母さんはやっぱり優しい。
「心配しないで。騎士団、前金ちょうだい」
「はい」
私は前金をもらい、そのうちの金貨を一枚持つ。
それを両手で握って。
ぶちっ。
指の力で金貨を半分に引きちぎった。
「この物理攻撃力で、ちょっとモンスター倒してくるから」
しーん。
周りが静まり返った。
「ところで、半分にした金貨って半分の価値になるの?」
「ああ、いえ、そんなことは、ありませんが」
「すいませんでしたー、勇者様ー!」
あ、ゴリーロが私の前でスライディング土下座した。
「お前一生、私の足な。道中ずっと肩車しろよ」
「はい、承知しましたあああー!」
こうして俺は、ちょっとデスモンキーを倒しに行くことになった。
「それでもメローリが心配だから、騎士団がメローリをずっと守ってください」
「それが私達への報酬でかまいませんので、どうかよろしくお願いします」
ということで、話はついた。私はちょっと、騎士団に守られながら村を離れる。
「ところで、デスモンキーってどこにいるの?」
「トーポリの東にある山です」
「じゃあそっちへ行くわけ?」
「いえ。トーポリで準備を整えてからいきます」
「ふーん」
そういうことになって、数日かけてトーポリに来た。
町だ。大きい。いっぱい人がいる。
そして、皆大人だ。チッサーナ族は私しかいないなー。今のところ。
そして行き交う人皆、俺に注目する。ふっ、やはり私が可愛すぎるからか。仕方ないな。
「やっぱり他種族の男女も私の魅力に引かれちゃうのかなー」
「いえ。単にゴリーロ副団長の肩に幼女が乗っているのが奇妙に見えるだけかと」
「ああん?」
「まだ子供なのに、凄みに貫禄がありますね」
それにしてもこの騎士だけ、あまり私を怖がらない。なんか不動心って感じがあって、少し感心する。
「お前、名前なんだっけ?」
「フリーズです」
「私の世話役、大体お前だけど、いつも冷静だよね」
「ええ、まあ」
「こんな美少女と一緒にいても純情揺れたりしないの?」
「俺はもっと年上が好みですので」
「あっそ」
まあ、他の騎士達は怖がって俺に近づこうともしないから、一人くらいこんなやつがいて丁度いいけどね。
そんなこんなで町を見回していると、やがて一軒のお屋敷についた。
「つきましたぞ、メローリ様。ここがムンヤム子爵のお住まいになります」
真下でゴリーロがそう言った。
「ここで旅の準備をするんだ?」
「いいえ。一度ムンヤム様にご挨拶してもらいます。形式的にもムンヤム様からの依頼なので、顔を合わせておくのが良いでしょう」
「そっか」
面倒だが、雇い主の顔くらい知っておいてもいいかもしれない。
「では屋敷に入るので、肩からおりてください。メローリ様」
「はいよー」
ここからは私、ゴリーロ、フリーズだけで屋敷に入った。
そして、そこで髭のおっさんと出会う。
「私がムンヤム子爵だ」
どうやらこいつがムンヤム子爵らしい。
「ムンヤム子爵。私はこう見えて忙しいんだ。さっさと依頼の準備をすませてくれ」
「ふむ。生意気なやつめ。ゴリーロ。こやつが例の勇者なんだな?」
「はい。このお方は俺をも倒しました」
「なるほど。噂は本当だったのか。では、勇者よ。ここで一度、依頼の確認をする」
「うん」
「そなたにはこの町から東にある山に出没した、デスモンキーを退治してもらいたい。報酬はドロップアイテムを確認してから出す。期限は10日としよう。やってくれるか」
「オッケー。あと、こっちの両親の要望で、騎士団を私の護衛にするから。そこもよろしく」
「何、勝手なことは許さんぞ?」
「申し訳ありません、ムンヤム様。ですが、我らが護衛を務めない限り、勇者メローリ様を送り出せないと言われまして。あの時は要求をのむしかありませんでした」
「その騎士団が刃が立たぬのだから、むざむざ危険な地に送り出す必要はないではないか。勇者には一人で退治に向かってもらいたい」
「しかしムンヤム様。山へは案内が必要です。少なくとも俺がついていけば、より素早くデスモンキーを退治できると思います」
ここでフリーズがそう言った。
「むう、確かにそうだな。よしわかった。ではお前の同伴だけゆるそう。後の者は通常業務に戻るがよい」
「はっ」
「えー、ゴリーロは足扱いなんだけどなー」
「何?」
「まあいいや。自分で走った方が速いし」
「おい待て、今私の騎士団の副団長を足扱いと言ったか?」
「フリーズ、お金一枚ちょうだい」
「はい」
俺はフリーズからもらった一番安い硬化を指で引きちぎった。
それをムンヤムの前に置く。
「そっちこそ、勇者を怒らせたらそのお金と同じ末路になるよ?」
「なるほど。確かに強いようだ。わかった、では支度ができ次第、すぐに出立するがよい」
「お待ち下さい、ムンヤム様!」
「なんだ、ゴリーロ」
「俺は勇者に負けました。しかしその時確信しました。勇者なら必ずデスモンキーに勝てると。俺はその勇姿をこの目で見たいと考えます!」
「ゴリーロ、お前までそう言うか。では騎士団をどうする!」
「団長殿もいますし、頼りにできる部下もおります。一時程度なら、俺がこの場にいなくとも問題ないかと」
「わが騎士団はそのような浅慮でやっていける程愚かではないぞ。血迷ったか、ゴリーロ」
「まあまあ、ムンヤム様。どちらにせよデスモンキーの退治は重大な仕事です。副団長程のお方が見届ける価値はあると思われます」
「む、むう、そうか」
フリーズは間をとりもつのが上手いなあ。
俺は半分にちぎった硬化をもう一度持った。
そしてもう一度半分にする。これで四分の一だ。
「私は護衛が何人いてもいいし、来るものは拒まない。ゴリーロが来るなら、許す。来い」
「はっ」
「というわけで、いいね。話終了。決定!」
ぽかんとするムンヤム子爵。
さっさと面倒な話は終わりにするに限る。
「で。次はどこに行くの?」
「騎士団の本部に来てくだされ。準備が整い次第、出発しましょう」
「オッケー」
俺が立つと、騎士二人も立つ。
屋敷を出つつ、ムンヤムが見えなくなったところで訊いた。
「で、ゴリーロはなんで私についてくる気になったの?」
「はっ、何、理由という程のものはございません。ただ、あなたという勇者を見つけて、ふと思ったのですよ。あなたについていけば、子供の頃に憧れたおとぎ話のような英雄譚をこの目で見られるのではないかと。その期待を信じたくなったのです」
期待を信じる、か。なんか、深いな。
「ゴリラのくせに生意気だぞ」
「誰がゴリラですか」
「副団長が行くなら、やっぱり一個小隊分くらい動かしますか?」
「いや、いい。勇者の旅は少数精鋭と決まってますからな!」
「そっか。でもゴリーロは勇者の仲間っぽくないよ。見た目が」
「そんな傷つくこと言わんといてください」
俺は次に、武器庫に連れて行かれた。
「勇者。まずはご自分が使う武器を選びください」
フリーズにそう言われる。
「武器かあ。じゃあ、椅子か、毒液か、鎖だな」
元プロレスラー故、致し方なし。
「は?」
「だから、椅子か、毒液か、鎖。椅子はパイプ椅子じゃなくてもいいよ」
「あの、まず、椅子が武器なのですか?」
「うん。あ、丁度いい椅子あんじゃーん」
私は鉄製の少し錆びた椅子を見つけて、それを持った。
「あの、勇者。それは拷問用の」
「よっと」
ブンブン。試しに軽く振ってみる。
「んーまあ、これでいいかな」
「さすがは勇者。常人の武器では合わないというわけですな!」
ゴリーロ、なぜか嬉しそうである。
「うん。そのとーり。それじゃあ私の武器はこれで」
「は、はあ。わかりました。それでは、次は防具を」
「いい。私基本攻撃に当たらないし」
「いえ、でも万が一がありますから」
「椅子で防御もできるし、いざとなったらお前ら肉盾もいるでしょ」
「勇者、たびたび思いますが、発言が過激ですね」
「というわけで、次いってみよー!」
その後ごはんを食べている内に、旅の支度が整う。
そして、俺達はいよいよ東の山に向かうことになった。
「なんだ、あれは。鉄の椅子を持った幼女が大男に肩車されているぞ」
「なんということだ。なんであんなことになっているんだ?」
「あれは副団長のゴリーロ様じゃないか?」
「ということは、あれがチッサーナ族の勇者?」
わいわい、がやがや、どよどよ。
「なんか私、すっごく注目されてる気がする」
「だってはたから見て異様ですよ、勇者。せめて肩車をやめて椅子も置いたらどうですか?」
「むう、仕方ない。フリーズの言うことにも一理ある気がする。おい、ゴリーロ。私は歩くから、その間椅子を持て」
「はっ。承知いたしました」
自分で歩いてからも他人からの視線がやけに刺さったが、もう気にしていられない。どうやっても注目されるのだ。なら気にしない方が良い。
トーポリを出て、山に向かう。でも山まで少しかかるなあ。歩いてたら日が暮れちゃうよ。
「ねえ、ゴリーロ、フリーズ。山まで走れる?」
「はい、いけます!」
「いいえ、いけません。モンスターが出現するかもしれないんですよ。体力は残すようにしてください」
「んもー、もやしっ子だなあフリーズは。仕方ない、それじゃあ歩くか」
「フリーズ、鍛え方が足りないぞ!」
「副団長も、本番は山に入ってからですよ。慌てないでください」
という感じで、一日歩いて、ようやく山に入った。
そして日がくれる。今夜は野営だ。やー、えーい。
「キシャー!」
「グルアー!」
「よっ、ほっ」
時折襲い来るモンスターを、椅子で叩いて攻撃する。
「やはりメローリ様の実力なら、この程度のモンスターは軽くあしらえるな」
「そのようですね」
騎士二人は後方から高みの見物だ。
「おーい二人共ー。少しは手伝えー!」
「と言われても、メローリ様の対応が早すぎるのですが」
「勇者、ここらへんの戦闘は軽いウォーミングアップと考えてください。どのみち俺の実力ではこいつらを倒すのに時間がかかります」
「なるほど。たしかに一発で倒せるなら私が戦った方が効率的だ」
勢いよく椅子を振って、ついた血を払い落とす。
「ところで、デスモンキーっている場所わかってるの?」
「はい。縄張りの場所は把握しております」
「このまま山頂を目指しましょう。そこにデスモンキーがいるはずです」
「りょうかーい」
と言っている間に、虫型モンスターが新たに現れた。
「グシャー!」
「とう!」
グシャーッ。
「今日の椅子も血に飢えておるわ」
そしてハイキング気分で山頂にたどり着く。
「ウキー!」
そこには、大きな猿のモンスターがいた。
「お前がデスモンキーか」
「はい、その通りですメローリ様!」
「どうか倒してしまってください!」
「ウキー!」
「早くスイーリアとレトリアと再会するため、倒させてもらう!」
俺はそう言って接近。
本気のダッシュにデスモンキーはついていけず、そのまま顔面に椅子を受ける。
グシャッ!
一発でデスモンキーの顔はモザイクになった。
「ふう。まあ倒したっと」
「凄い。デスモンキーをたった一撃で」
「いろいろとおかしいですね。強さといい椅子といい。こんなにあっさり終わっていいんでしょうか?」
後ろで騎士二人が何か言っているが、とにかく後はとどめを刺すだけである。
この世界の生き物は基本、一撃でとどめをさせないのだ。
体力が0になったところで力尽き、そこでとどめを刺すことでアイテム化する。
だからもう一度、攻撃しなければいけないんだけど。
「ウキー!」
「ウキキー!」
俺がとどめを刺す前に、どこからともなく子猿モンスターが現れた。
「よっと」
俺はデスモンキーから離れて、小猿の奇襲をかわす。すると、子猿達はデスモンキーを守るように立ちはだかった。
「お前たちはまさか、デスモンキーの子供?」
「ウキー!」
「ウキキー!」
「ウキャー!」
あ、小猿がもう一匹現れて三匹になった。
「メローリ様ならこの程度の相手、問題になりますまい」
「勇者。後は俺たちでも対処できますが」
「できない」
「え?」
「は?」
「可愛い子猿を前にして、このまま親っぽいやつごと倒すことなんて、できない!」
「え、ええー?」
「では勇者、やはり俺がとどめを刺しましょうか?」
「やめなさい、そんなことしたら私が殺したみたいで気分が悪いでしょ!」
「えー」
「では、デスモンキーはどうするのですか?」
「私が飼うか、どこか別の場所に移動してもらう!」
「なるほど、さすがメローリ様だ」
「しかし、飼うことなんてできませんよ、モンスターを」
「きっと大丈夫、なんとかなるさ!」
なんとかならないなら、そんな世界滅んでしまえ!
可愛いはいつだって最優先されるのだ!
「というわけで、デスモンキーの子どもたちよ。私はもうお前達を傷つけない。けどそのかわり、どこか別の場所に行け。それか私のペットになれ!」
「ウ、ウキ」
「ウキキ」
「ウキー」
子猿達は迷っているようだ。
そうだ、まずはデスモンキーを起こさないとな。
「ゴリーロ。ポーションを渡せ」
「はっ。しかし、何に使うおつもりですか?」
「このデスモンキーを起こすのに使うのだ。なんだったらお前が使ってやれ」
「い、いえ、流石にメローリ様にお渡しします」
というわけで、俺はデスモンキーにポーションをかけた。
「ウ、ウキ」
「気がついたか」
「ウキ!」
「慌てるな。もう私はお前の敵ではない。だが、私のペットになるか、他の場所に行ってもらわなければならない。どちらにするか、決めるのはお前だ。子どもたちのことも考えて決めてくれ」
「ウキ」
デスモンキーは数度まばたきをすると、言った。
「ウキ、ウキウーキ、ウキッキ、ウキキ。ウキキキ。キッキ?(私はできるならば、故郷の隣山、デスマウンテンに戻りたい。だが、そこには今私達より強いモンスター、デススネークがいる。そいつを倒さなければ、私達はデスマウンテンで暮らせない。あなたなら、デススネークをなんとかできないか?)」
「何を言ってるのかわからん!」
コミュニケーションって超大事だとわかる、今日この頃。
「ウキッキ(ついてこい)」
デスモンキーはそう言って、私を背に乗せ、移動を始めた。
「ウキッキ(子どもたちも、いくぞ)」
「ウキ!」
「ウキー!」
「ウキキ!」
「め、メローリ様、お待ち下さい!」
「こんなの、予定にないんですがねえ」
「何を言う、ゴリーロ、フリーズ。これも子猿達のためだ。いくぞ!」
こうして私達は、更に移動を始めた。
夜通し歩いて、やって来ました隣山。
「ゲシャー!」
「グケー!」
「く、こいつら強い!」
「メローリ様、加勢してください!」
「こっちは子猿を守るのに忙しいの。お前らは騎士なんだから、自分の命くらい自分で守れ!」
とは言いつつも、こっちの山のモンスターは段違いに強かった。
それでも俺の方が強いが、まあ、ゴリーロ達も死なない程度くらいには守ってやろう。
ただ、甘やかすことはしない。
「ウキー!」
デスモンキーも、戦いの傷が癒えてないのか、苦戦している。
頑張れ。私は見守る。
そしてモンスターを倒した後は、ちょくちょく休憩。
「んー、美味い。デスマウンテンのモンスターの肉がこれほど美味とは!」
「それだけは同感です。でも、ここちょっとレベル違いすぎますよ。このまま進んで、俺の身が持つかどうか」
「フリーズ、スパルタ指導は上達への近道だぞ。これくらいの山、慣れろ」
「勇者。それ少女が言う言葉じゃないですよ」
「ウキキ」
そんなこんなで俺以外傷つきながら進み。
改めて山頂。
「シャー!」
そこには大きな蛇がいた。
「メローリ様、そいつはデススネーク、デスモンキーより強いモンスターです!」
「勇者、無理そうなら速攻逃げますよ!」
「大丈夫だいじょーぶ。このスーパープリティーに任せなさい。よいしょお!」
椅子で顔面に一発。
それだけでデススネークは倒れた。
やっぱり攻撃力99999は違うな。
「ウキー!(やった、これでこの山を取り返したー!)」
喜ぶデスモンキー。そこへ子蛇達が押し寄せてくる。
「シャー!」
「シャー!」
「こ、これはもしや、最初と同じパターン!」
「勇者、また同じ展開は無しですよ!」
「心配ご無用。小蛇は可愛くないから、倒せる!」
俺は小蛇たちに手の平を向けた。
「可愛い攻撃ー!」
そう言って、魔力を放出して小蛇たちを倒す。
そして、更に魔力を放出して皆にとどめを刺し、アイテムにした。
ゴリーロとフリーズは、一応ということでデススネークのドロップアイテムを回収。
そして俺とデスモンキー達との、お別れの時間がやってきた。
「ウキ、ウキキウッキ、ウッキ(人間、本当にありがとう。いや、本当に人間かは疑わしいけど、とにかくこれで私達は大事なすみかを取り戻せた。もうすぐ散り散りになった仲間たちも戻ってくるだろう)」
「やっぱり何言ってるかわからないけど、これでめでたしめでたしなんだな。子猿が大きくなって可愛くなくなっても、お前たちのことは嫌いにならないぞ。たぶん」
「ウキッキ、ウッキ(この恩は私の子どもたちが必ず返す。大きくなったらあなたの元に送るから、期待して待っててね)」
「それじゃあなー!」
「ウキー!」
「ウッキキー!」
「ウキー!」
こうして俺の旅は終わった。
いや、まだ終わってないか。家に帰るまでが旅だ。
「なんだか大変でしたが、スッキリする終わり方ですな」
「ええ。今も生きているのが不思議なくらいです。おかげでかなりレベルアップしました。いいえ、まだ帰り道もありますね。勇者、帰りは完全に守ってください。お願いします」
「お前騎士として給料もらってるんだろ。もっと頑張れ、命がけで。私は守ってやらん」
「鬼だ」
「愛の鞭と言いたまえ」
後は特筆すべきこともなく、トーポリに帰る。
無事帰還したゴリーロとフリーズは、騎士団の仲間たちに今回の旅について、心から語ったという。
「いやー、やはり勇者様は真の勇者だった。俺は年甲斐もなく感動したよ。そして俺も勇者を見習って、己の信念を貫くあり方を真似したいと思う」
「あの勇者危険。もうやばい。めちゃくちゃなこと平気でする。こっちは命がいくつあっても足りない」
めでたしめでたし。
後は村に帰るだけなのだが、その前にムンヤムと一悶着あったり。
「なに、デスモンキーを見逃したあ?」
「うん。でもデスモンキーは隣山に戻ったから」
「バカかお前はっ。それでデスモンキーがまた東の山に来たらどうするっ。危機は何も去ってないだろう、それでも勇者か!」
「いや、そもそも私、勇者じゃないし。そっちが勝手に言ってるだけだし」
「しかしムンヤム様。この通りデススネークのドロップアイテムもありますし、勇者としての責務は果たしたのではないかと」
「バカかゴリーロっ。魔王を倒してこいと言ったのにドラゴンを倒して帰ってきたら、褒める展開なんてあるわけないだろうっ。目的をはき違えるな!」
「はき違えてないもん。デスモンキーは東の山からいなくなったもん」
「だから、また来る可能性が残ってるだろうがー!」
なにこのおじさん、感じわるーい。
でも、一応こいつが依頼主なんだよなあ。依頼主が満足しなかったらこじれるよなあ。
あ、そうだ。
「なら、これはどう、おじさん」
「おじさんではないムンヤム子爵だ!」
「またデスモンキーが出現したら、今度はタダ働きで倒しにきてあげるよ。だからそれまで、騎士団が警戒ってことで」
「ぐううううっ」
おお、ムンヤムは怒り顔だが、黙った。これは効果ありか?
「本当にタダ働きするのだな。今回の成功報酬も払わんぞ」
「いいよーそれで」
「なら、東の山への警戒を厳重にする。それで今のところは、よしとしよう」
どうせもうデスモンキーが来ることはないだろうし、軽く請け負っておこう。
というわけで、俺は手ぶらだが帰ることができた。椅子はちゃんと元の場所に返してきた。
全力ダッシュで、半日かけずに村に戻ってくる。
いつもの遊び場を確認してみると、あーっ、スイーリアとレトリアいたー!
「ただいまー!」
そのままスイーリアにギュー!
「きゃあ、メローリなの、おかえり!」
ああっ。スイーリアにギューってし返された。至福!
「おー、おかえりメローリ。元気そうで良かった」
「レトリアもぎゅってしてあげるー。こっちきてー」
「いや、そういうの私本当いいから。普通でいいから」
「ハグくらい普通だもん。ねえスイーリアー?」
「そうよ、レトリア。せっかくメローリが帰ってきたのよ。もっと喜ばないと!」
「ああ、そやね。ところでメローリ、家には帰ったの?」
「ううん。まだ」
「それはいけないわ。お父さんとお母さんにそのことをしらせないと。メローリ、いってらっしゃい!」
「うん。わかった。じゃあ、行ってくるよ!」
まったく、レトリアは私をあしらうのが上手いんだから。
でも、ただいまのギューは絶対やってあげるからね!
「ところで、今日スイーリアとレトリアは何して遊んでたの?」
「そうなのメローリ。ねえねえ、聞いて!」
「うん、聞いてあげる!」
「私とレトリアは、メローリがいなくなっちゃったから、寂しかったでしょ?」
「うん。絶対寂しかったよね!」
「いや、私はそんなでもなかったけど」
「だから私もレトリアも次はメローリと一緒に旅立てるように、強くなる特訓してたの!」
「そんなのいいよ。スイーリア。だってスイーリアは、私が守るから!」
「でも今回は私もレトリアもメローリと一緒に行けなかったじゃない。私はそんなの嫌。だから頑張って強くなってたの!」
「そっか。私のためにありがとう!」
「えへへ。それでね。じゃーん、私達はどりょくのすえ、魔法が使えるようになりました!」
「おーすげー!」
私だってまだちゃんとした魔法は使えないのにー!
「いいなー、見せて見せてー!」
「もちろんよ。ではまず、私からね。えい、水魔法!」
わあ、スイーリアの手から水が出てきた!
「凄い、凄いよスイーリア!」
「えへへ、そうでしょ、頑張ったんだから!」
なんて眩しい笑顔。ああ、スイーリアの友達で良かった。
「スイーリア可愛い!」
「きゃあ、メローリ、今はだきつく時じゃないでしょ!」
「私はいつだってスイーリアにだきつくの、ギュー!」
「あーもう、メローリったら!」
ひとしきりだきしめました。
「それじゃあ次はレトリアの番ね。レトリア、メローリに見せてあげて!」
「ああ、うん。いいけど。でも大したものじゃないよ」
「ハードル下げようとしたって無駄よ。期待して見てあげる!」
「いや、別になんでもいいけど。はい、土魔法」
そう言ってレトリアが手を伸ばすと、その下の地面が山になった!
「きゃーすごーいレトリアも天才ー!」
「わー、だきつくなー!」
「大好きギュー!」
「あーもう、結局ただ抱きつきたいだけだろー!」
そうだけど、だからこそやめられない!
「凄いわ、レトリア。スイーリアも、二人共。このままいけば、魔法使いになれちゃうかも!」
「ま、魔法使い!」
スイーリアが痺れたように反応した。
「ううう。キャバ嬢もいいけど、魔法使いも、いいかも!」
「私はキャバ嬢より魔法使いの方が良いと思う」
「私もそう思う!」
何よりスイーリアが魔女っ子衣装とか、絶対似合う!
「スイーリア。スイーリアは魔法使いの方が似合ってるよ!」
「そ、そうかな?」
「合ってるじゃなくて似合ってるって言うところが、メローリの業が深い」
「スイーリア、魔法使いになろう。私も応援するから!」
「うーん、魔法使いかあ。じゃあ、考えとく!」
「レトリアも魔法使いになる?」
「んー、どうやろ。でも、戦うなら間違いなく魔法使いかなあ」
「じゃあ決まり。私達三人で魔法使いになろう!」
「そっか、メローリも魔法使いになるのね!」
「メローリは今のままでも十分強いけどね」
「というわけで、私も魔法使いになるぞー!」
「おー!」
「おー」
こうして、俺たちは魔法を使う特訓を始めた。
まあ、遊びの内容もかぎられているし、丁度いい新しい遊びのような感覚だ。
それからしばらくして。
スイーリアとレトリアの魔法はすいすい上達していったけど、私だけ難航していた。
「魔法、でろー!」
しーん。
「うーん、なかなか上手くいかないね」
「むいてない、のかなあ。ここまで進歩しないとなると」
「やだやだ、そんなことないもん。私だけ仲間はずれは嫌。魔法、でろー!」
しーん。
「なぜだ、なぜ私だけ魔法が使えない」
「ファイトよ、メローリ。諦めなければきっとできるようになるわよ!」
「うーん、何かが違うとか? そういえばメローリは、どんな魔法が使いたいわけ?」
「なんかすっごい魔法」
「イメージが雑すぎる、だから魔法にならないんじゃない?」
レトリアにそう言われてしまった。
「でもー、そう言われても、あんま上手くイメージできないし」
「だから魔法が使えないのよ。メローリ、私はいつだって水魔法を使う時は、水を出すイメージをしてるわ」
「私は土を動かすイメージやね」
「メローリにもそういう、具体的なイメージが必要なのよ!」
「具体的なイメージ、具体的なイメージ」
お、なんか閃いた気がする。
「わかった。じゃあちょっとやってみる!」
「うん!」
「がんば」
「二人の応援が私の力となるっ。ふおーっ、必殺魔法、可愛いビーム!」
ズビビー!
「やった、なんか出た、必殺魔法!」
「やったね、メローリ。これでメローリも魔法使いよ!」
「やっぱメローリらしく、物騒な魔法が出てきたね」
「よーし、これで三人で魔法使いになるぞー!」
「おー!」
と、テンション上げていたところで、俺たちの前に謎の一団が現れた。
背が高いからチッサーナ族ではない。また外からの客か。
「子どもたち、聞きたいことがある」
「なんですか!」
「こらスイーリア。この人たちのことは、私達に任せて」
「そうなの、知ってる人?」
「いや初対面だけど、想像はつく」
「この村にメローリという勇者がいると聞いた。彼女と会いたい」
「メローリは私だ!」
「そうか、そなたがメローリか」
「うん!」
「頼む、そなたの力を、私達に貸してくれ」
「またこのパターンか」
「その前に、1つええ。この話も、前みたいに断れないものなの?」
「いや、無理にとは言わない。なにせ、我らが勇者メローリに頼みたいのは、我らが姫をマジツヨドラゴンから取り戻してほしいというものだからな」
「お姫様、ドラゴン!」
なんかスイーリアが反応していた。
「だったら無理やわ。メローリは勇者って言われてるだけだし、わざわざ危険なことするわけない」
「レトリアの言う通りである!」
「でも、ねえメローリ、レトリア。私達でお姫様をすくいましょうよ!」
「スイーリアの言う通りである!」
「ちょっと二人共、正気?」
はっ。レトリアの言葉で少し冷静になった。
「ねえ、スイーリア。マジツヨドラゴンって、きっとマジ強いよ。ひょっとしたらこっちが怪我しちゃうかも。そんな危ないことスイーリアにさせられないわ」
「大丈夫よメローリ。私達はもう魔法も使える。それにすぐドラゴンと戦うわけじゃないわ。そこに行くまでにさまざまな冒険があって、そこでレベルアップをしてから挑むのよ。それならほら、怖くない!」
「確かに!」
「いやいや、おかしいおかしい。どっちにしろレベルアップのときもずっと危険やよ。怪我したらめっちゃ痛いで。お母さんも心配するで」
「そうだよ、危険なことには変わりないよ!」
「でもきっと、実戦が成長の近道なのよ。私もっと強くなりたい!」
そう言ってスイーリアが俺の手を握った。
うれしい!
「あれ、この感じ」
「スイーリア、気持ちはわかるけど、でもやっぱり戦うなんて危険よ」
「ねえ、メローリ。私、なんだか今、すっごい強いみたい!」
「え?」
スイーリアはそう言って俺から手を離して、そしてまたつかんだ。
「どうやら、メローリに触れている間だけ強くなれるみたい。今、私の全能力値が55555よ!」
「そんな馬鹿な!」
「どういうこっちゃねん」
俺とレトリアはうろたえる。
「ほら、水魔法!」
スイーリアはそう言うと、目の前に凄い噴水を作った。
「ご覧の通りよ。私、メローリと手をつないでいる間はさいきょーだわ!」
「なんということでしょう」
「ほら、レトリアも、メローリを手をつないでみて!」
「お、おう」
レトリアも俺と手をつなぐと、驚いた顔をした。
「ほ、ほんまや。私もすごく強くなった!」
「うそーっ」
「土魔法!」
レトリアはそう言うと、噴水の隣に巨大土人形を作り上げた。
「おおおっ!」
「この力があれば、きっとマジツヨドラゴンに勝てる!」
「頼む、勇者よ。いや、勇者達よ。その力でマジツヨドラゴンを倒し、見事に姫様を取り戻してくれ!」
大人たちにそう言われる。
けどなあ。スイーリアとレトリアをドラゴンの前につれてくなんて、やっぱり危険だよなあ。
「はい、わかりました、お姫様は私達が助けます!」
と、逡巡している間に、スイーリアがそう言った。
「ちょっとスイーリア。スイーリアとレトリアが私の力で超絶強化されたのはわかったけど、それでも危険だって!」
「そうやよ、スイーリア。危ないことはしないの!」
「大丈夫よ、怪我しそうになったら逃げればいいんだから。それより、お姫様を救いにドラゴン退治なんて、かっこいいっ。二人共いこーっ。ね、いいでしょ!」
スイーリアにそう言われると、強く出れない。
「んもー、しょうがないなあ」
「メローリも、本気か?」
「だって、スイーリアもレトリアも、私と手を握っている間は安心なんでしょ。だったらまあ、ちょこっとくらいならいいかなあーって」
「ああもう、この二人を放っておいたら何が起こるかわからん。わかった、なら私も行く!」
「やったー、それじゃあ三人でドラゴン退治だー!」
「お、おー」
なんかなりゆきで、ドラゴン退治に行くことになってしまった。
まあ、きっと、大丈夫だよね?
「マジツヨドラゴンはマジツヨイ島にいます。地図はこれです」
「ふむふむ」
「地図ってなに。私わかんなーい」
「スイーリアが地図読めないのはわかった。でもマジツヨイ島、結構遠いね」
「場所は大体わかった。で、どうやって行くの?」
「自分たちの足で行ってもらいたい」
「うわすげえ雑」
「ドラゴンなクエストとはそういうものだ。旅の資金として、少しのおこづかいと銅の剣を送る。では、頼んだぞ」
こうして大人たちは去っていった。
「ひとまず銅の剣は売ろう」
「そうだな」
「えーっ、銅の剣かっこいいよ。メローリがいらないなら私が装備する!」
「スイーリア、魔法使いは銅の剣を装備できないの。スイーリアには水魔法があるでしょ?」
「ううー、けど、もったいないー」
「あっても危ないだけだし、早いとこ売ろうか。でも、この村で売ったら変な噂がたつかも。売るなら町に行った方が良いな」
「町かあ。じゃあ、行こう!」
「うん、明日ね!」
「まあ、今日はもう午後だしなあ」
「あと旅に出るんなら、お父さんとお母さんをどうにかごまかさないと!」
「え、なんで、普通に言えばいいでしょ?」
「スイーリア。父さん母さんがはいそうですかって言うわけないだろ。ちょっと上手く言わないと、絶対ダメって言われるよ」
「そ、そんなの嫌。だってお姫様も助けなきゃいけないし。わかった。でも、なんて言えばいいの?」
「そうだなあ。じゃあ、今日大人たちがまたやって来て、トーポリに行かなきゃならなくなったから、せっかくだから三人で行ってくるってことにしようか!」
「わかったわ!」
「それが無難だろうね」
「嘘は言ってないし。それじゃあ明日はトーポリに行こう!」
「おー!」
翌日。三人で手を繋いで走ったら半日かからずにトーポリについた。
「よし、まずは銅の剣を売ろう。どこで売ろう?」
「武器屋は、武器を売ってるところよね。そこで逆に買ってもらうってことはできないかしら?」
「それでもいいかもしれないけど、その前に頼りになる所が一つあるで」
「さすがレトリア。で、それはどこ?」
「騎士団や。騎士たちならメローリのことを知ってるし、何か話も聞けるかもしれん」
「さっすがレトリア、あったま良い!」
「じゃあ騎士団本部に行こう。私行ったことあるから場所知ってるー!」
「じゃあ案内は任せたわ、メローリ!」
「うん!」
こうして俺たちはまた手をつないで、騎士団本部に来た。
そこで、ゴリーロと会った。
「これはこれは、メローリ様。ようこそいらしてくださいました。本日はなんの御用で?」
「実はかくかくしかじかで、マジツヨドラゴンを倒しに行くことになったの」
「なるほど、そういうことですか。さすがはメローリ様です。ではその旅に、俺も同行させていただけないでしょうか。ぜひメローリ様がドラゴンを倒すところを見たいのです」
「そうはいかない。今回私はスイーリアとレトリアと一緒だから、お前まで気にかける余裕はない!」
「そうですか。残念です」
「でも、まずはこの銅の剣を売りたいんだ。それにマジツヨイ島等のことで詳しい情報が欲しい。ということでまずはこの銅の剣、引き取ってくれん?」
「頼む」
「わかりました。メローリ様の頼みでしたら、引き受けましょう。それで、マジツヨイ島等の情報ですな?」
「イグザクトリー」
「マジツヨイ島はマジツヨドラゴンが住む島として有名です。ですが、それ以上の情報はありません」
「なんだ、つかえな」
「どこに行ってもそう言われるでしょう。まずマジツヨイ島は、周囲が海に囲まれているのです。そしてそこには強い海系モンスターが出ます。なので誰もがめったに立ち寄りません」
「なるほど」
「更にマジツヨドラゴンも、マジで強いという情報しかありません。マジツヨドラゴン自体はあまり相手にとどめを刺さないことが多いらしく、マジツヨドラゴンの強さを知る者はそれなりにいるらしいのですが、きっと彼らからも貴重な意見をもらうことはないと思います」
「なるほどお。でもとどめを刺さないなら、安心だ。スイーリアとレトリアがやられないってことだからな」
「良かったね、メローリ!」
「うん!」
「それじゃあ、マジツヨイ島に行く方法とかは、ないん?」
「残念ながら、俺は知りません。ちなみにマジツヨドラゴンと戦ったことがある者は、基本マジツヨドラゴンが気まぐれに飛んできたところを戦っただけの者たちです。ああ、ですが、マジツヨイ島の近くの情報なら、一つ有名なのがありますよ」
「なになに、教えてー」
「はい。マジツヨイ島の近くに、カワイサ平原という場所があります。そこに、カワうさといううさぎモンスターが現れるそうですが、それが世にも珍しい程可愛いらしく、一羽捕まえて売れば一攫千金と言われています」
「世にも珍しい程可愛いだって!」
なにそれ、すごく見たい!
「あかん。メローリの変なスイッチが入った」
「じゃあ、絶対カワイサ平原に行ってみるよ。それどこ!」
「今地図で説明します」
こうして俺たちは銅の剣を売りつつ、カワイサ平原に行くことにした。
ドラゴンなんてどうでもいい。カワうさ、待ってろよ!
三人で手を繋いで走れば、大陸内の移動なんてちょっとしたランニング気分でできる。
というわけで、トーポリをすぐに出て走ったら、夕暮れ時にカワイサ平原に到着した。
「ここにカワうさがいるのか!」
「そうね、メローリ!」
「あー、もうすぐ暗くなるし、早いとこ探そか」
「いた、カワうさ発見!」
「え、もう!」
「ダッシュ!」
俺は一人で突っ走り、カワうさを捕まえた。
「う、うさー、うさー!」
「おお、これがカワうさ、カワイイ!」
「うさー、うさー!」
「おお、よしよし。あ、スイーリアとレトリアには俺がついてないとまずい。すぐに戻らないと!」
俺は慌てて再ダッシュ。すぐにスイーリアとレトリアの元に戻ってきた。
「ごめん、スイーリア、レトリア。ちょっとカワうさ捕まえるのに夢中になってた!」
「ああ、いいわメローリ。ちゃんと間に合ったんだから、それで!」
「え、間に合ったって?」
スイーリアは一体何を言ってるの?
「メローリ、あれを見てみい」
レトリアが指差す方向を見ると、そこには数匹のやせ細った狼がいた。
「グルルウ」
「グウウー」
「あ、あれは。見るからにやばい!」
「きっと今の私じゃ勝てない。でもメローリの力があれば大丈夫よ!」
「うん、そうだね。あ、でも私は今、カワうさを持っているから手が離せない。二人共、私の肩をつかんで!」
「うん、わかった!」
「そうするわ!」
そうして、二人が俺の肩をつかんだ瞬間。
「う、うさー、うさー!」
俺の腕の中でカワうさが、突然光り輝いた!
「うさー!」
そして、カワうさからビームが出た!
「ワオーン!」
「アオーン!」
哀れ、狼達はカワうさビームに一瞬でやられる。
「これは」
「うさ、うさ!」
「カワうさ、お前がやったのか?」
「うさ、うさ!」
「そうか、わかったわメローリ!」
「一体何が、スイーリア!」
「きっと今メローリがカワうさを抱きしめてるから、メローリの力がカワうさにも宿ったのよ!」
「んなアホな」
「さっすがスイーリア、とっても冴えてるわ!」
「でしょー、えへへ」
スイーリアが照れている間に、また狼が現れた。
「グルルウ」
「ワウー」
「どうやらまだ戦いは続きそうだな」
「私頑張る。だからメローリもレトリアも、そしてうさぎさんも頑張ろう!」
「うん!」
「こうなったらそうするしかない!」
「うさ!」
「それじゃあいくよ、皆。それ、攻撃えーい!」
それから少しの間、俺たちの一方的な攻撃が狼達を倒しまくった。
「かわいいビーム!」
「キャウーン!」
よし、最後の狼を倒した。
でも、なんかちょっと違和感がある。俺の魔法、最初の時よりも威力が上がっているような?
ん?
体力∞魔力∞技力∞物理攻撃力∞魔法攻撃力∞物理防御力∞魔法防御力∞素早さ∞運∞
「えー!」
「なに、メローリ、今度はどうしたの!」
「違うんだスイーリア。俺の能力値が、∞になってる!」
「え?」
「試しにスイーリアがカワうさを持ってみて!」
「え、ええ。わかったわ」
俺はスイーリアにカワうさを渡した。すると。
「あ、能力値が全部99999に戻った!」
「私は、普通に戻ったけど」
「あ、私がスイーリアに触ってないと。ぎゅっ」
俺がスイーリアに触れると、カワうさを抱いたスイーリアは驚いた。
「きゃ、なに。大変よ、メローリ。突然私の能力値が、全部99999になっちゃった!」
「やっぱり!」
「どういうことや!」
「レトリア、どうやら私達、いや、私の能力は、カワうさを装備しているとかわいさが上がって能力強化させるみたい!」
「なんだってー!」
「んなアホな!」
「でも私の特殊能力は、可愛ければカワイイ程強くなれるだから致し方なし。ほら、レトリアもカワうさを持ってみて!」
「はい、レトリア!」
「う、うん」
「そして私がレトリアに触れると!」
「な、なんや、急に能力値が99998になった。信じられん!」
「凄い、なんという大発見。これで私は真の最強となった!」
「うーさー!」
その時、レトリアの腕の中でカワうさが鳴いた。
「うーさー、うーさー!」
大声で何度も鳴く。何事だ?
「な、なんや?」
「まさか、レトリアにだっこされてるから?」
「そんな傷つくこと言わんといて!」
すると、なんということでしょう。
どこからともなくたくさんのカワうさが現れて、俺達の元に集まってくるではありませんか。
「やった、カワうさがいっぱい!」
「なに、急に、凄い、可愛い!」
「そうか、なんか嫌な予感せえへん?」
「うさ、うさ!」
そして、一際モコモコしたカワうさが近づいてくる。
「あなた達が、カワうさに認められし者か」
「きゃー、カワうさがしゃべったー!」
「とっても可愛い!」
「大丈夫なんやな、害はないんだな?」
「私はカワうさプリンセス。プリンセス故人の言葉を喋れるのだ」
「はじめまして、私はメローリ!」
「私はスイーリアよ!」
「私はレトリアです」
「うさ、うさ!」
「うむ。どうやらそなた達といると、我らカワうさでもヤバイウルフを倒せるだけの力を得られるらしいな」
「このカワうさに聞きましたか。正確には、私の能力のせいで、私と私に触れられている可愛い存在は強くなれるんです」
「なるほど。では、一つお願いがある。その力で我らの天敵、ヤバイウルフ達を一掃してほしい」
「えっと、一掃は流石に無理だと思います。うちもらしは出るかと」
「なら、ヤバイウルフキングだけでも倒してほしい」
「わかった。それならできそう。でも、それには条件がある!」
「なんだ?」
「私達はカワうさを装備していれば強くなれるの。だから私達の分で、三羽カワうさをちょうだい。もちろん大事にするわ!」
「え、カワうさを飼えるの、やったあ!」
「うおい、それは、どうなん?」
「ふうむ。どうだ、皆のもの」
「うさうさ」
「うさうさ」
カワうさ達は相談しだす。
するとやがて、三羽のうさぎがこちらに寄ってきた。
「どうやらこの三羽のカワうさが、お前たちに飼われてもいいそうだ。三食昼寝つきで」
「やったあ、それじゃあ交渉成立ね!」
「それじゃあ私達は、ヤバイウルフキングを倒せばいいのね!」
「面倒なおつかいだけど、まあ困ってるなら仕方ないか」
「うむ。では、ヤバイウルフキングを倒してくれ」
「わかったわ。でもその前に、もう夜になるから、カワうさのベッドで寝かせてほしい!」
「仕方ないのお。特別サービスだぞ」
「やったあ!」
こうして俺たちは、カワうさ達に包まれて眠れることになった。
ふふふ。至福至福。
その深夜。
「ワオーン!」
「ワオーンワオーン!」
「うさうさ!」
「大変だ。ヤバイウルフ達がかつてない程の規模でこちらにおそいかかってきた!」
カワうさプリンセスがそう言って、俺たちは起きた。
「飛んで火に入る夏の虫。私達が成敗してくれる!」
「カワうさ達は私達が守るわ!」
「そうね。きっと私達がここに呼び寄せたようなもんだし!」
「というわけで、スイーリアも、レトリアも、カワうさを頭に装備!」
「うん!」
「どういうわけだ!」
どーん!
私達は頭の上にカワうさをのっけた!
「そして私達三人が手をつなげば!」
「やった、私の能力値も99999になったわ!」
「私の能力値は全部99998だけど」
「妖怪1足りないなんてどこにでも現れる、レトリア、気にするな!」
「ううー、ちょっと気になるー」
「スイーリアが気になってどうすんねん」
「ワオーン!」
「あ、狼が見えたわ!」
「いくぞ、二人共。可愛いビーム!」
「水魔法!」
「土魔法!」
「うさうさー!」
俺たちは容赦なくヤバイウルフ達を迎え撃った。
そして、圧倒的に秒殺。
「ワウー(く、くそ。こんなところでやられるのか)」
ばたっ。
「あ、なんかヤバイウルフキングっぽいのも倒した!」
「後はとどめを刺すだけね!」
「そうね、人思いにやってしまおう!」
「マジックショットー!」
皆で魔力の波を放つと、倒れた狼達は全てアイテムになる。
「やった、ヤバイウルフ達を一掃したぞ。ヤバイウルフキングも倒れた!」
「うさー!」
「うーさー!」
カワうさプリンセスの言葉で、カワうさ達は歓喜する。
俺たちの頭の上のカワうさ達も、軽く飛び跳ねた。
「よっし、奇しくも目標を撃破!」
「やったわね、メローリ、レトリア!」
「ああ、なんとかなって良かったわ!」
「それじゃあ喜びを体現すべく、安心ダンスを踊ろう!」
「おー!」
「え、あれまたやるの?」
「あたぼうよっ。それじゃあ早速、安心安心安心だー!」
「安心安心安心だー!」
「うっさ、うっさ、うっさうさー!」
カワうさ達もタイミングよく飛び跳ね始めた!
こうして俺たちは安心ダンスを踊ってから、交渉通り、カワうさ三羽を貰い受けたのだった。
「よし。それじゃああなたの名前は今日からうさぴょんよ!」
「うさ!」
「じゃあ、私のカワうさは今日からうさぴょいよ!」
「うさ!」
「え、私も名前つけなきゃダメ?」
「つけなきゃダメ!」
「そうなんかあ」
「レトリアが考えつかないなら、私が考えてあげる。その子はうさぴょこよ!」
「うさ!」
「ああ、なんだか勝手に決められてしまった。しかも三羽とも名前が似てて紛らわしい!」
「じゃあうさぴょん、うさぴょい、うさぴょこ。もうあんまりここには来れないかもしれないから、皆と別れの挨拶しておいで!」
「うさ!」
そんな感じでカワうさ達とたくさんたわむれて、日が昇ったと同時に、私達も出発することにした。
というか、いい加減お腹空いてきた。早くドラゴン倒して、ごはん食べたい。
「うさぴょん装着!」
「うさぴょい装着!」
「うさぴょこ装着」
「よし。素早さも上がったことだし、レッツゴー!」
俺たちはまた走り出した。
そして海まで来て、海の上を走って、そのままマジツヨイ島に入る。
そこには、とんでもなく大きなお城があった。
「あそこにマジツヨドラゴンが住んでいるのね。乗り込めー!」
「おー!」
「ちょっとは警戒した方が良いんとちゃうんー!」
そのまま突撃すると、お城の中に大きなドラゴンがいた。
「なんだ、お前たちは。ここまで来たのか、やるな」
「お前がマジツヨドラゴンだな!」
「いかにも。お前たちはなんだ。名を名乗れ」
「私はメローリ!」
「私はスイーリア!」
「レトリア!」
「うさ!」
「ぎ!」
「うさっ!」
「私のカワうさはうさぴょん!」
「私のはうさぴょいよ!」
「あー、私のはうさぴょこ」
「いや、カワうさの名前はいい」
「あ、そう」
「どうやらお前達はなかなか強いようだな。だが我の能力値は全て99900ある。よって我に勝てる者などいないのだ」
「それはどうかな、可愛いビーム!」
「ぎゃー!」
勝った。
「よっしゃあ、勝利!」
「なんだ、これはどうしたことだ。我は、負けたのか?」
「そうだ。とどめを刺されたくなかったら、大人しくお姫様を返せ!」
「なに、それだけなのか。我のドロップアイテムが欲しくはないのか?」
「ううん、別に。私はただ姫を助ければいいって言われただけだし。別にお前に興味はない」
「くく、ははははは!」
ドラゴンは笑うと、人の姿になった。
ボインのお姉さんだ。正直、ストライクゾーンからは外れている。
「気に入ったぞ、メローリよ。せっかくだ。我を倒した力を見込んで、家来になってやろう」
「え、いいよ。変なの拾って帰っても、お父さんとお母さんに元いた場所に返しなさいって言われるし」
「我は犬猫ではないぞ。我は長い時を生きたドラゴン故、あらゆることができる。この城に貯めた金銀財宝も好きに使ってよいぞ」
「あー、それは、もらっちゃってもいいよね」
「メローリ、私金銀財宝を見てみたい!」
「まあたしかに、もらえるならもらっといた方がいいかなあ」
ぐううー。
「あ。けどその前に、お腹が空いたね」
「そうね!」
「まあ今のところは、帰るのが先か」
「何、腹が空いたのか。では、我が食事を用意してやろう」
「本当?」
「もちろんだ。嘘をついてどうする」
「ありがとう!」
「うさぴょこ達の分もよろしくお願いします」
こうして、ドラゴンの城で朝ごはんを食べることになった。
「ふうー、美味しかったー。ごちそうさまー」
ドラゴンのごはん、美味しすぎる。正直、食べすぎてしまった。
「私今動けないー」
「まあ確かに、美味しすぎたね」
「うさー」
「うさうさー」
「うさー」
「満足したようだな、皆のもの。それで、この者が尋ね人の姫で相違ないか?」
そう言ってドラゴンがつれてきたのは、二十代近い高飛車そうな金髪女だった。
正直、俺の守備範囲ではない。
「なるほど。あなた達が私を助けた勇者というわけね。で、誰がリーダーなのかしら?」
「私だけど」
「そう。なら、幸運に思いなさい。ドラゴンを倒して、私を救い出す礼として、私があなたの妻になってあげる」
「いや、いいです。そういうのパス」
「はあっ、あんた正気?」
「私はあんたの正気を疑う」
「たしかにあなたは女の子で、まだ小さいけど、姫がお嫁さんになってくれるって言われたら、誰だって狂喜乱舞するに決まってるわ。早くしなさいよ!」
「そういう押し売りいらない。それに私の妻はスイーリアとレトリアだって決まってるの」
「いやいや、決まってないから」
「もう、メローリったらいつもそういうこと言うんだから!」
「いいでしょスイーリア、レトリアー。ねー結婚しよー?」
「うさー」
「まさかこんな輩に我が負けるとは」
「納得いかないわ。私は今までマジツヨを倒す勇者の妻になることを夢見ていたのよ。それがこんな形で終われるか!」
「マジツヨって?」
「我の名前だ。マジツヨドラゴンだからマジツヨ」
「もう一度言うわ。あなた、私と結婚しなさい!」
「嫌だ、お前は趣味じゃない!」
こうして姫と言い争いながら、姫を返しに姫の城まで行くことになった。
金銀財宝は、また後で見に来るということで。
「姫の城まで、我が背に乗せて送り届けてやろう」
「よろしくお願いしまーす」
「うさー」
さて、旅ももうほぼ終わったし、後は家に帰るだけだ。
ドラゴンの背に乗って城の庭に入る。
「何事だー!」
「ドラゴンだー!」
「であえであえー!」
私達がマジツヨから降りる頃には、既にたくさんの兵士たちが出迎えにきていた。
そしてマジツヨもすぐ人の姿になる。
「みーんなー。頼まれてたドラゴン退治は終わって、この通り見事仲間にしたよー。そして姫は無事連れ帰りましたー!」
「何」
「本当だ、ツツン姫だ」
「そしてあの女はたしかに今まで、マジツヨドラゴンだった」
「ということは彼女達は、噂に聞くチッサーナ族の勇者?」
「だが勇者に依頼しに行った兵士達は、まだ帰ってきてないぞ?」
兵士達は動揺している。まあ無理もないか。俺たちはいきなりやって来たんだしな。
「皆のもの、まずは落ち着きなさい!」
あ、姫が声高らかに言った。ていうかツツンさんって言うんだ。
「は、ツツン姫!」
「まずは私が帰ったことをお父様にお伝えして」
「はっ、かしこまりました!」
「そしてすぐに、私と勇者様との結婚式を挙げるわよ!」
「はあ?」
聞いてねえし決まってねえよ、そんなこと。
「はっ、かしこまりました!」
しかも兵士達従順すぎるな!
「なんかこの国やばい。スイーリア、レトリア、もう帰ろう!」
「え、でも、こんな帰り方でいいの?」
「ええんとちゃう。私はまあまあ楽しかったよ」
「うさー」
「そうね。じゃあ、いいよ。メローリ、帰ろう!」
「うん。じゃあ、マジツヨ。姫から逃げるために、また私達を乗せて飛べ!」
「承知した」
「待ちなさい、勇者。あなたはもう私のものよ!」
「誰がお前のものになるか、私は自由だー!」
すぐにマジツヨがドラゴンになった。その背に素早く乗る。
「というわけで、帰る。褒美は後からもらっていいけど、絶対姫とは結婚しないからー!」
「なんでよーっ、しなさーい!」
「絶対嫌!」
こうしてマジツヨは再び空を飛び、俺たちはそのまま村に帰れた。
「空飛ぶの楽しかったねー!」
「まあ、せやな」
「ふう、それじゃあこの後は、どうしよっか」
「決まってるわ。お父さんとお母さんにただいまって言わなきゃ!」
「あ、そうだった。じゃあ一回さよならだね!」
「うんっ。メローリ、レトリア、じゃーねー!」
「うん。お母さんにうさぴょこのことなんて言おう」
「私もうさぴょんを飼えるようにお願いしなくちゃ」
こうして俺たちは、それぞれ家に帰った。
そして、マジツヨが俺についてくる。
てく、てく、てく。
「あの、マジツヨ」
「なんだ、メローリ様」
「お前は流石に、お母さんになんて説明すればいいかわからないから、家に来ちゃダメだよ?」
「そう言うな。我はもうお前に仕えているのだ。ご両親にも、事情を説明すればわかってもらえる」
「そうかなあ。いや、絶対ダメ。家に来ちゃだめ。マジツヨはどこかにいて」
「ふむ。そうか。仕方ない。では適当に過ごしているとしよう」
「それでお願い」
こうして俺は、うさぴょんだけ頭に乗せて家に帰る。
「ただいまー」
「おかえりなさい。早く帰ってきたのね」
「うん」
「あら、その頭に乗っているのは、うさぎ?」
「そうだよ。カワうさって言うの。ねえ、可愛いでしょ。だからうちで飼おう?」
「ダメよ。動物を飼うってことはね。その子の世話をしないといけないということなの。メローリは毎日朝から晩までその子の世話できないでしょ。だからダメ」
「お母さんおねがーい、ちゃんと面倒みるからー!」
「ダメよ。元のところに戻してきなさい」
「このとーり、本当にこのとおりだから、おかあさ」
「大変だー!」
「あら、隣の家のお母さん。どうされました?」
「村にドラゴンがいるのよ。それもものすごく大きい!」
あー。
「え!」
「早く逃げなきゃ、さあ、早く一緒に来て!」
「わ、わかったわ、行きましょう、メローリ!」
「あ、いや、その、そのドラゴンさあ。実は」
俺は仕方なく、マジツヨのことも話した。
するとその後、俺は両親にこっぴどく叱られた。
「うさぎだけじゃなく、ドラゴンまでつれてきちゃダメでしょ!」
とほほ。
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