よく似た人、よく似た花
からん、と、ドアに取り付けたベルが、来客を知らせる。
切り花の手入れをしていた私は、声も出すことなく、顔も上げるようなこともしなかった。ただ静かに、いつも通りに花屋を営んでいた。
かつかつと、足音が響く。やってきた客は、何かを探しているようだった。それとも、この「花屋」という、人とっては気味の悪い店に戸惑っているのだろうか。
花には様々な色や形があり、香りも違う。
そんな花は、全て、枯れるためにある。
「――すみませーん」
やがて、そろそろと声がかけられる。まだ子供らしさが残った声だった。
「あの、作業中ごめんなさい……薄いピンクの花ってあるかしら」
「――ええ、ありますよ」
私はハサミを置いて、垂れてしまっていた長い灰色の髪を耳にかけた。
「あちらに……咲き頃を迎えていて、いい具合に枯れそうな――」
そうしてようやく、顔を上げた。
――よく膨らんだ、薄いピンク色の蕾が、目に入る。
瞬間、私は息を止めてしまった。
目の前にいたのは、女学院生だった。その灰色の制服からわかる。目が合えば、ぱっちりとした金色の瞳が笑う。
その雰囲気も。そして明るい茶髪を飾る、薄いピンクの蕾も。
――かつて咲いてしまった姉に、よく似ていた。
昼過ぎのことだった。まだ室内の明かりを灯さなくとも、外から差し込む日光が優しく店内を満たしてくれる、そんな暖かな日のことだった。