桜之木
ああ、もうこんな季節か。
此処に根を張り、幾星霜、様々な人が私の姿を見に来ていた。
寒さが和らぎ、草木が力を得る季節。
周囲の草木も暖かさに気が付き、緑の葉を広げ始めている。
草木は変わることなく、また、育っていく。
ただ、人は幼子から大きくなった後は、此処に来ることが無くなるものも多い。
人の命は短い。
少し前には幼子だったものが、少ししたら老いている。
数多くの者たちを見て、去っていった。
私ももう、老木となり、身体は虫に侵され、苔が張り巡らされている。
花を咲かす力も失われている。
蕾は結んでも、芽吹くことなく枯れていく。
皮は剥がれ、朽ち果てようとしている。
まだ、まだ、生きる事は出来るだろう。
そして、朽ち果て斃れる……
そう思っていた。
ふと周囲を見れば、私と同じ時期に芽吹いた木々が無くなっている。
枯れ、朽ち果てたのではない。
人によって、切り倒されて行った。
周囲の景色は変わり、草木の姿は消えていった。
私たちを守っていた人たちも、目の前で切り倒しを反対していた。
しかし、それは無駄だったようだ。
今日、この日に私は生涯を終えるようだ。
先がないと分かっていても、残念でならない。
この世界を、草木の息吹を、人の笑顔を見る事が出来なくなることが。
恨むまい、恨んだところで、何ができる訳でもあるまい。
ああ、また、花を咲かせたかった。
そして、蜜を取に来る虫たち、枝にとまる鳥の声、人の喜ぶ顔が見たかった。