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第06話 剣樹の茨クルート

 人の嵐が過ぎ去り、窓から若草の香りとそよ風が流れ込む。カーテンがかすかに揺れて、床には陽光が入りこみカーテンの影模様が揺れ動く。


 私は掛布団に包まりながら天井を見上げる。


 前世の記憶。その一部を思い出しても肝心の名前や何者だったのかは記憶にない。自分のことは当たり前で意識しないから思い出せないのかもしれない。


 疑問なのは誰かに思い出すように呼びかけられたこと。神様かな。何者か知らないけど、この展開なら記憶を思い出させることに目的があったはず。


 目的が無いとおかしいのよ。絶対あるはず。


 それにしても私にとって前世の記憶はドキュメンタリーや自叙伝を暗記しているような感じで、実体験として捉えられるのにどこか他人事。

 不思議な感覚で、この先も馴れるとは思えない。


 記憶は有効活用ができないけれど、人生経験は私の糧になったようで、今まで見えなかった繊細なものを感じ取れるようになった。


 でも価値観は変わらない。


 悩んでみても、いくら考えても結論は出ないと悟ってしまう。


「ああ、わたくしは何をなすべきなの。情報がもっと欲しい。誰か教えて!!!」


 興奮して独白すると同時に右手に不思議な黒い板が現れる。小さな黒っぽい板状の物体には不思議な文様が架橋するように何層にも紡がれている。


 中心部分にある液晶? 窓? はめ込み画像には笑顔のAIが待ち受けている。


「これ、スマホ? 情報端末なの!!!」


『ご用件は何でしょう。主様』

「板がしゃべった!?」

『初回起動です。チュートリアルを開始しますか?』

「えっと、あなたは誰なの」

『古書の精霊、モザイカとお呼びください。呼び名はチュートリアルの後で変更できます』

「お、驚かないわよ。前世のゲーム知識があるから……。でもチュートリアルは受けるわ」


 私はチュートリアルで黒の手帳のセットアップを完了させて初期設定は終わった。コミュニケーションツール、辞書辞典、攻略wiki、翻訳、掲示板、日記、念話? アプリは多いがコミュニケーションする相手がいない。

 これ、同じ目的の仲間か同陣営の者がいるってことかしら。


 首をかしげながら窓の外に視線を移す。


 外を眺めていても手から端末を外せず、気になって仕方ないので黒の手帳に視線を戻す。画面の右上に達成度0%、ステージ1と表示されている。


 そうだ、当面の目的を知らないとまずいわ。前世のゲームでもノルマがあるものが多かったし、とても重要なことだわ。ペナルティがあったら大変だもの。


 これはモザイカに質問かな?


「モザイカ教えて。端末の画面にある達成度とステージって何かしら」

『主様、質問に回答するには任務と背景の知識が必要です。説明いたしましょうか?』

「うん、一番聞きたかったことだわ。お願い説明して」


 説明を聞いた私は考え込む。


 この世界は異世界人に侵略されていて、魔王などとして直接的に被害を加える者、陰から重要人物に成り代わる者など侵略形態は多岐にわたる。

 それに対して防衛する一団が私の所属させられている《《剣樹の茨クルート》》。


 中二病のような名前で恥ずかしい。


 いろいろと問題山済みだけど、気を取り直してと……盟主は神のような存在、女神ミンジー&ジャー、いったいどこの神様よ!

 どうやら女神たちは直接介入ができないので私のような使徒、まあ使いっ走りが必要らしい。

 知れたことで特に重要なこと、それは私の戦力がゼロ!!! 

 どうしろっていうのよ。


 魔王に立ち向かえないよ?


「モザイカ、私は戦力外通知のようだけど何すればいいの?」

『主様を守る者たちはすでに召喚済みです。戦力強化はクエストと呼ばれる課題を解決すると達成ポイントがもらえますので任務に有用です。強くなるには冒険者組合に行くことをお勧めします』

「あ、冒険者ギルドみたいなものね。確かそんなのがあったはず」

『準備ができればご案内します』

「まだいいわ。えっと、クエスト等による組合活動で達成度が上がり、達成度が100%になるとステージがアップするのよね?」

『はい、組合のランクとは別ですがステージアップします。難易度もそれに合わせて上昇します』

「大体わかったわ。メリットデメリットが問題ね。何もしないペナルティってあるの?」

『敵は主様を排除することがミッションになっています。最低限防衛しなければ抹殺されるでしょう』

「なにそれ、私は望んで抗争に参加するわけではないのに! とても理不尽よ!」

『主様はお忘れのようですが、強い意志を持って志願されたはずです』

「思い出せないけど、何か感じるところはあるわ。使命感かしら」


 なぜか、モザイカの説明に納得できない。奥歯に物が挟まったように違和感が広がっていく。

 根拠などないけど。


 脅迫や詐欺にあった後の後悔の念に似ているかもしれない。



 このまま悠長に寝ていては殺される。私は青くなりながら布団に潜り込む。

 普通に考えて死んだらおしまいだ。嫌だけど組合には早めに行こう。


 あーっ、行きたくない。

 でも死にたくない。


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