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第37話 婆やは耳が遠い

 禿山は居心地の良い場所ではなく、枯れ木を避けながら下山して西辺境伯家に辿りついた。こちらの辺境伯家でも歓迎されてフレデリック様の兄、ご両親と親交を深めた。まあ、当たり障りない社交である。ホームシックになっていても誘われたら断れず一泊することになった。


 オスカー君は朝には普通にしていたが、しばらく剣は振れないだろう。

 私の命の恩人。合わせる顔がない。



 明日には屋敷に戻ろうと出立の準備をしていると聖女ハリエットが現れた。


「またお会いしましたね。カーラ様、無事で何よりです」

「聖女ハリエット様、お勤め順調ですか?」

「聖女アリシアは無事でしたが敵を逃がしたようで追跡しています。私は帰還しますけど」

「そうですか」

「お急ぎのようですからこのくらいに、次は死の森でお会いましょう」


 無害な小動物のような笑顔。それが胡散臭い。

 逃げ出したいのを見透かされてるし、死の森ってパワーワードまで残していく。


 何者よ聖女ハリエット。





 西辺境伯家に泊めてもらい朝を迎えた。いえ、目が覚めたのは夜明け前だった。誰もいないし、ちょうど良いとモザイカに次の行き先を確認した。気になっていた封印の指輪のありかは、なんとエレーンプロックス領の聖域で見つかるという。しかし、私は箱入り娘、領地のことなどよく知らない。


 こまった。



 あ、乳母の婆やは博識だったはず。乳母としてはもちろんのこと、私が8歳になるまでガヴァネス(家庭教師)として働いていたのだから。久しぶりに会いたいし、聖域案内してもらおう。


 早起きは頭の回転が違うわ。

 多少緩くても。



 出立するときになりフレデリック様が現れる。何でも一度話しておきたいと。

 なんだろう?


「カーラ様、出発前に悪いね。時間は取らせないから」


 フレデリック様が颯爽と現れた。さすがライオン凛々しいわ。


「いえ、問題ありませんわ。どうぞご用件を」

「今回同行して自分の無力さを知りました。今のままではいけないと思い、特訓をすることにしました。騎士に相応しい実力を身に着けた、その時には従者にしていただきたい」


 深々と膝を折って同意を求める圧はすごい。たぶん、運命による強制なのだろう。


「期待していますわ。フレデリック様。お待ちしておりますね」

「はっ!」


 ちょっとオーバーね……。

 こちらが恥ずかしくなるわ。もう。


 フレデリック様を振り切った私は屋敷に向かい辺境伯邸を後にした。ちなみに、辺境伯は神経質な獅子オヤジ、夫人は気のいいおばちゃんといった感じ、フレデリック兄は女性のようなイケメン。ちょっと兄に似ている。


 こっちの辺境伯もまた訪問したい。



 オスカー君とは普通に会話ができるようになった。フレデリック様の仲介のおかげである。

 それでも、私が無謀な作戦をとり、庇ってもらってから少し意識してしまう。

 ダメね。私って。




 帰路は盗賊や突発イベントも起きず、土産を買うことだけがミッションになっていた。そして屋敷の戻るとルーティンと化したゴシゴシ洗いの後に兄弟の来襲までがセットだった。まあ、今回もユリアと仲良くしたのだけど。


 ビエレッテとユリアは仲良くなり、イケない道に……。予想はしていたけれど。

 まあ、本人の自由だし。


 そのあとは父に獣騎士の話と、ある程度モザイカの情報を流した。母には婆やの居場所を聞き、せっかくだからとお土産を手渡される。今回はソフィー達も連れていくつもりなので、つまみ食いされないように厳重に施錠した。


 なんだかんだ言ってもソフィーは癒しだった。

 水龍はまだ名前がない。




 そして今、婆やを訪ねて二日旅に出発した。移動はいつものあれだ。

 幸いなことに婆やはエレーンプロックス領の聖域の近くに住んでいた。運だけは良い。


 最近は緩み切っていて、牛荷車の上で立ったまま寝るという、器用な芸当を覚えてしまった。

 ソフィーは少しご機嫌斜めで、水龍は置物だ……。


「ん、誰か喋った」

「誰もしゃべってないよ。人も魔物もいないし」


 なんだろうか、エリシャは嘘つかないし。

 誰かに呼ばれたような。


 ぼんやりと街道を眺める。青々とした畑が連なるのどかな風景で、蝶や羽虫が飛んでいる。真夏で暑い時期であるはが、ここは避暑地として有名なエレーンプロックス領。だから不快ではない。


 また居眠りしていると。


 誰かの声が聞こえる。

 聞き入ってしまうほど美しい女性の声。


『魔女の呪いを受けしもの、我がもとに参れ』

「なんなの?」


 みんなに聞いてみたが誰にも聴こえない声のようだった。

 眠気が吹き飛んでしまったよ。


 ついに幻聴まで、私って末期なのかな。




 道の先に小さな一軒家が見えてきた。婆やのお家である。

 そういえば、一人暮らしで母は心配していた。


 元気かな?


 ドアチャイムが壊れていたので、多少はしたないがドアをバンバン叩いた。

 耳が悪かったことを思いだしたからだ。


「押し売りは帰れ!」

「違うよ! カーラだよ!!」


 絶叫するとビエレッテが大笑いする。私はすまし顔で睨む。


「はぁ?」

「だから、カーラだよ!!」 カーラ!!!」


 これを三回繰り返してやっと家に迎え入れてくれた。


 部屋は狭く全員が寝泊まりできず、従者二人は近くにある安宿で一夜を明かしてもらうことにした。

 双子と私は亡くなった爺やのベッドで一緒に寝ることにした。まだ夕方だけど。


「大きくなったの。いい娘さんになって。何年振りか、覚えておらんわ」

「二年くらいかな。婆やは変わらないね」

「年取ったら変わらんよ。そっちの子供はカーラの娘か。可愛いのう」

「違うってば、まだ結婚前よ」

「ふしだらなことしてはいかんぞ。子供には罪はないからの」


 私の勘違いの多さは、婆や譲りかもしれない。

 ほんとにそう思う。



 夕食を食べながら積もる話をして、翌日は聖域の入口まで案内してもらうことになった。双子はおばあちゃん子だったので、すぐに婆やに懐いてしまった。


 婆やと双子は夜になるとすぐ寝てしまったので、何もすることのない私は明日のことを考える。

 きっと邪魔者が現れるのは確定だろう。


 なかなか眠れず、風が窓をたたく音を聞いていた。

 風が強い。こんな日は星が綺麗だ。


『我は昇華の精霊、我がもとに来たれ呪われし者よ』


 まただ、この前よりもはっきり聞こえる。

 隙間風が私の心を揺らす。



 私を待ち受けるは昇華の精霊。


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