第97話 ミリア・ハイルデートはミリアである18
あれから、10日──。
まだ、お母さんは目を覚まさない。
熱もあり、意識も無い。
ただ……時々、お母さんが小さく唸るような声を上げると、私は手を握り必死にお母さんを呼んだ。
数日前、私は泣きながら、お団子屋のおばちゃんの所に駆け込んで、事情を話した。
おばちゃんは大慌てで、街の治療院から、お医者さんを呼んでくれて、私とおばちゃんと一緒に家に来てお母さんを診て貰ったけど──
お医者さんは『数年前にも診察させて貰いましたが、私共では手に終えない状態です。大変失礼ながら、今現在、生きていらっしゃる事が奇跡と言わざるを得ないような状態です』と、首を横に振った後に『定期的に、ポーションと水を必ず摂らすようにしてください』と言って帰っていった。
おばちゃんは、帰り際のお医者さんに何度も『何か他に方法は無いのか』『この症状を診れる人は、誰か他にいないのか』と聞いていた。
そんな、おばちゃんの姿を横目に見ながら、私は何もできず……遠回しに『無理』と突き付けられた、そんな現実を聞くと目からポロポロと、涙が溢れてきた。
それから、毎日。私はお母さんの口に少しずつ、水とポーションを飲ませ、汗を拭いて、暇さえあれば〝回復魔法〟を使っていた。
お母さんの容態は、倒れた日から一向に変わらない。高熱を出し、意識が無く、時折、唸るような声を上げていた。
逆を言えば、倒れた日から、容態は悪化もしていないように見えるが……この状態が長く続けばいつか、張っていた糸が──ぷつんと切れるように、お母さんが何処か遠くに行ってしまうような気がした。
──それから、また2日。
お母さんは、まだ目を覚まさない。
容態も相変わらずだ。
日がどんどんと増すに連れ、私の中のお母さんへの心配が、焦りへと変わっていった。
家にあった、ポーションも、底を尽きかけていたが……毎日様子を見に来てくれるおばちゃんが、お店のポーションを、有りっ丈持ってきてくれて「長丁場になるわね。大丈夫、大丈夫よ」と頭を撫でてくれた時は、少し力が抜けて声を上げて泣いてしまった。
──それから、また4日後。
「ねぇ、タケシ、まだお母さんの目覚めないんだ……」
私は、森から器用に果物を取って持ってきてくれたタケシに、そんな言葉を投げかける。
「グウ……」
そんな弱々しい私の言葉に、タケシは少し困ったような返事を返す。多分、意味は理解してくれてる。
「ごめんね。変な空気になっちゃったね……タケシ、果物ありがとう。美味しく食べるね」
そう言い残し、ミリアは家の中へと入る。
ミリアが家の中に入った後も、タケシは少しの間……その場を動かず、じっとミリアの家を困ったように見つめるのだった。
──それから。更にまた4日後。
お母さんが倒れてから、20日が過ぎた。
容態は全く変わらない。
私のやる事も、随分と手慣れてきてしまった。
少しずつ、口から水とポーションを飲ませ、タオルで汗を拭いて〝回復魔法〟を使う。
そして、あの日から私の食事も変わらない。
お母さんが倒れた日から、朝昼晩の食事は基本的に全部お粥だ。他に食べたものと言えば、こないだタケシが取ってきてくれた果物ぐらいだ。
お母さんが、目が覚めたらお腹が空いてるだろうから。
空いてなくても、お粥なら胃にも優しいから。
前に高熱を出した時も、私の作ったお粥を『美味しい』と言って、嬉しそうに喜んでくれたから──
だから私は、いつお母さんが目が覚めてもいいように、新しいお粥を常備するようにしている。
今、私ができる事は、こんな事ぐらいしか無い。
「……」
ごしごしと、自然と流れてきた涙を拭う。
古くなったお粥を食べ終わり、新しいお粥を作り終えるとシャワーを浴び──お母さんのいる寝室に戻り、私もその隣に寝転がる。
早く、元気になって目を覚ましてほしい。
そんなお願い事と共に、私はそっと目を閉じる。
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