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第92話 ミリア・ハイルデートはミリアである13



 ──お父さんの葬儀から数日後。

 お母さんが、生まれつきの病気の、いつもの発作を起こして、寝込んでしまった。


 今、お母さんは熱が4()2()()以上あるみたいだ。


「お、お母さん! 大丈夫!? これ、お水とタオル持ってきたよ!」


 せっせと、水とタオルをミリアは運ぶ。


 ミトリの発作にはいくつか種類がある。咳が止まらなくなったり、熱が42度以上でたり、パタリと倒れて数日間も目を覚まさない事もある。


 今も月1ぐらいで、何かしらの発作を起こし、そのいずれかの症状が現れる。今回の発作は熱のようだ。


「ミリア……ありがとう……毎回毎回……ごめんね……」


 ベッドに横たわるミトリは、ゆっくりと返事を返すが、喋るのも辛そうな様子だ。


「全然大丈夫だよ。早く元気になってね」


 ミトリのおでこのタオルを取り替え、ミリアは心配そうな様子でベッドの横にある椅子に腰かけると──ミリアは、ミトリの手を握り〝回復魔法〟を使う。


「《我が詠唱に於いて・汝の体に・回復の加護を届けよ》──〝回復魔法(ヒール)〟!」


 ミリアは、少しでもミトリの体の負担が(やわ)らげばと思い、必死に回復魔法を使う。


「ミリア……ありがとう……」

「お母さん、ど、どう? 少しは効く?」


「ええ……凄く効くわ……」


 お世辞では無く、これは本当に効く。

 発熱であちこち痛くなってた場所が治療される。


 一時的にとはいえ──間接や筋肉の痛みや、肺や気管支等の炎症が和らぐのは凄く助かる。


 そして体力が回復されていく。

 体力が回復され、疲労や倦怠感(けんたいかん)といった、()()()が一度リセットされる感覚だ。これだけでも大分違う。


「──ほんと! よかった!」

 

 ミリアは嬉しそうな声を上げ、

 上機嫌で更にミトリに回復魔法を施す。


「これ以上はミリアが疲れちゃうわ〝魔力枯渇(マジックダウン)〟を起こしたりしたら大変よ?」

「だ、大丈夫……もう少し……」


「無理しないの。私は大丈夫よ、ありがとう。棚に〝魔力回復薬(マジックポーション)〟があるから飲んでおきなさい」


 ミリアのお陰で、少し体を動かすぐらいの余裕が出てきたミトリは上半身を起こし、家の奥にある棚に指をさす。


 ちなみにミトリの逆の手は、ミリアの頭の上にあり、なでなでと優しくミリアの頭を撫でている。


「うん!」


 ミトリに頭を撫でられたミリアは更にご機嫌だ。


 そしてミリアはミトリに言われた通り、魔力回復薬(マジックポーション)を棚から出して、くぴくぴと口へ運ぶ。


 と、その時。


「──グウアァァァァァァァァァ!」


 空気がブォーンと振動する声が外から聞こえる。


 大きな貝殻を吹いたような鈍い音だ。


 この声の主はタケシだ。そしてこのタケシの声は、家の敷地内に、誰か見知らぬ()が来たという合図だ。


「……結構、人がいるわね」


 そのタケシの声を聞いたミトリは、瞬時に──スキル〝天眼〟を使い、約200m先の外の様子を確認する。


「お母さん! 寝てなきゃダメだよ!」


 上半身だけを起こして、スキルを使うミトリだが、その顔色は酷く青ざめていて呼吸すら苦しそうだ。


 今のミトリの体は熱が42℃を越えている。


 そもそも普通なら、スキルや魔法の使用は愚か──立つ事や、起き上がる事すら(まま)ならない状態だ。


 慌ててミリアはミトリの体を支えるが、ミトリは──スキル〝天眼〟を使ったままでいる。


「さっき……ミリアが〝回復魔法(ヒール)〟しておいてくれて……本当によかったわ……」

「私がタケシと何とかするからお母さんは寝てて!」


 本当に具合が悪そうなミトリを見て、涙目のミリアは必死にミトリをベッドに戻そうとする。


「大丈夫よ……これぐらいお母さんは平気よ」

「わ、私が平気じゃないよ!」


 これ以上、こんなに具合の悪そうな母の姿を見てられないと、すぐにミリアは反論する。


「ミリア……え……あ、ちょっと待って。これは……おばさんかしら? こっちに一人で向かって来るわ」


 ミリアの言葉に少し戸惑った後、ミトリはこちらに向かい、真っ直ぐ進んで来る人の気配を感じて『あれ?』っと首を傾げる。


「おばちゃん? お団子屋のおばちゃんが来るの?」

「ええ。そうみたい。ミリア、おばさんを出迎えてくれるかしら? よければ家に上がってもらいなさい」


「うん……分かった」


 そして数分後──

 お母さんの言う通り、家のドアが優しくノックされ、お団子屋のおばちゃんが訪ねてくる。


「おばちゃん? どうしたの……?」


 ミリアは、恐る恐ると扉を開ける。


「あら、ミリアちゃん。こんにちは。急にごめんなさいね。ミトリちゃ……お母さんはいるかしら?」


 走ってきた様子のおばちゃんは少し息を切らしているが、声は落ち着いている。こないだのお父さんの時とは全然違う、その声を聞いて私は少し落ち着く。

 

「こ、こんにちはございます。お母さんはいるけど、今は体調が悪くて出れません。で、でも、おばちゃんが来たら『よかったら家に上がってもらいなさい』ってお母さんが言ってました」


 ミリアはミトリに言われた事と、ミトリの体調不良の要点を、しっかりとおばちゃんに伝える。


「ミトリちゃんは大丈夫なのかい? いつもの発作かね? ごめんね。じゃあ、少しお邪魔するよ」

「……ね、熱が酷くて、顔色が凄く悪いです──おばちゃん、こっち、上がってください。狭い所ですが、私達の大切なお家です」


 ミリアは見よう見まねで、謙遜(けんそん)的な社交辞令を述べるが、最後は本音が溢れてしまっている。


 おばさんは、そんなミリアをほっこりとした様子で見ながら優しく微笑む。そしてミリアに手を引かれ、ミトリの元へと案内される。


「──お母さん。おばちゃん来たよ」


 ミリアがミトリに声をかける。


「ええ……ミリア。ありがとう……おばさんも、いらっしゃい。こんな姿でごめんなさいね。ちょっと今日は体調悪くて……」

「いいんだよ。そんな事より、体調は本当に大丈夫なのかい!? ──あ、ほら。ミトリちゃん、いいから寝てなさい!」


 ベッドから起き上がろうとするお母さんに、おばちゃんが『寝てなさい』と再び布団をかけ直す。


「そのまま聞いてちょうだい。気づいてると思うけど、外にミトリちゃんにお客さんよ。エルクステンのギルドから──フォルタニアさんっていう方が来てるわ。周りの人はその人の護衛よ」

「そう……知らないわね。何の用事かしら?」


 本当に心当たりが無いらしく、ミトリは(いぶか)しげな表情をする。


「それが……あ、ミリアちゃん。おばちゃん、ミリアちゃんにお願いがあるんだけど頼めないかしら?」


 お母さんと話してたおばちゃんが、急に私に話しかけて来る。


「うん……ど、どうしたの?」

「お水を一杯もらえないかしら? おばちゃん、走ってきたらスッゴく喉が乾いちゃって」


「え? うん。ちょっと待ってて」


 前置きのわりには、凄く簡単なお願いで拍子抜けするミリアは、返事を返すとタッタッタと台所へ走る。


「──で、おばさん……その人達の私に用事って言うのは何……? ミリアを()()()()って事は、あまり良い話しでは無さそうね?」

「悪い話しでも無いわ。でも、ミリアちゃんには()()にしておくのよね? トアちゃんが〝魔王信仰〟の手によって殺されたってことは……」


 ミトリはトアが〝魔王信仰〟に殺された事、をミリアに話してはいない。今後も話すつもりもない。


 ──お父さんは街を守る為に戦って亡くなった。


 ミリアにはそう伝えてある。


 それに事実そうである。

 あの頭の狂った連中を街に近づけさせない為に、トアとその仲間達は戦い──そして亡くなった。


 これ以上、ミリアに辛い話をしてどうするのか? だから、魔王信仰の事はミリアには伏せる。


 これについては、おばさんやおじさんにも話し、二人とも賛成して、口裏を合わせてくれていた。


 それ(ゆえ)の、今のおばさんの行動である。


「ええ……じゃあ、それに関係が?」

「ギルドからミトリちゃんへの〝魔王信仰〟の懸賞金らしいわ」


「懸賞金……」


 お金なんて要らないからトアを返してくれ。

 ミトリは、一瞬だけそんな感情が頭を(よぎ)る。


 でも、ギルドにそんな事を言っても仕方がない。


 それにギルドは悪くない。むしろ、あの状況下から、わざわざ家まで懸賞金を持って来てくれるとは思っていなかった。


「ミトリちゃん、受け取って置きなさい。これからは貴方達の将来の事があるんだから──もっと言ってしまえば、これはミリアちゃんの為でもあるわ。いっぱい美味しい食事を食べさせて、立派に育てなくちゃいけないんだから。それにはお金も必要よ」

「……」


 正論を言われ、ミトリは少し沈黙する


「分かったわ」


 ミトリは承諾すると、懸賞金を受け取りに行く為に起き上がろうとするが、おばさんに止められる。


「ミトリちゃんは寝てなさい。私が受け取ってきてあげるから」

「で、でも……」


 『悪いわ』と言う前におばさんが喋り始める


「そのフォルタニアさんって方は──スキル〝審判(ジャッジ)〟って言うのを持ってるらしくてね、相手が言ってる事が嘘か本当か分かるみたいだよ」

審判(ジャッジ)? ギルド職員にそんなスキルを持った人がいるとはね……ギルド的に考えると……かなり重要な存在よ……そのフォルタニアって人は」


「私はそこら辺の事は深くは分からないけど。とにかく、私がミトリちゃんが貰う懸賞金を、ちょろまかしたりはしないってことよ?」


 おばさんは冗談混じりに笑う。


「おばさん……冗談でも怒るわよ? おばさんが、そんな事するような人じゃないってぐらいには……私はおばさんを心から信じてるわ」


 また、体調が少し悪くなって来たのか、ミトリの言葉がまた少し、途切れ途切れになってくる。


「ありがとう……ごめんなさい。ちょっとふざけちゃったわね」


 真っ直ぐなミトリの視線と言葉に、おばさんは少し照れ臭そうにして微笑む。


 すると……


「おばちゃん、お水だよ!」


 コップに、水を注いで持って来たミリアが現れる。


「ありがとう。ミリアちゃん」


 ミリアにお礼を言うと、一気にその水をおばさんは飲み干す。


「じゃあ、行ってくるわ。お邪魔しました」

「ええ、おばさん。ありがとう」


「あれ? おばちゃん。もう帰るの?」


 水を()みに行っていて、話の流れが分からないミリアが『お邪魔しました』と帰宅モードのおばちゃんに「もう帰るの?」と少し寂しそうに質問する。


「少し用事を済ませて、また後でお邪魔するわ。ミリアちゃん、お母さんを()ててあげてね? 何か困ったことがあったら、家のお団子屋さんに来るんだよ。私が直ぐ飛んでくるからね」


 そう言い残し、おばちゃんは私の頭を優しく撫でてから、すぐに家を出て行ってしまった。


「……ミリア……私にも……お水を貰える……? できれば……コップに(そそ)いでくれると嬉しいわ……」

「あ、うん! ちょ、ちょっと待ってね!」


 更に熱が上がって来たのか、結構限界の様子のミトリに、大急ぎでミリアは水差しから、水をコップに注ぐ。


 水を飲む為、上半身だけ起き上がるミトリの体をミリアは支えながら、ゆっくりミトリに水を飲ませる。


「お母さん、大丈夫……?」

(いた)れり()くせりね……大丈夫よ……外の件も……おばさんが何とかしてくれるわ……」


 水を飲み、少し深呼吸をするお母さん。


「おばちゃんが? よかった……」

「ええ……心配いらないわ……それと……ごめんなさい……少し寝させて貰うわ……また熱が上がってきたみたい」


「う、うん。ゆっくり休んで……!」


 その言葉を聞くと、ミトリは「ありがとう」とだけ言い、そのままベッドに横になり、そっと目を閉じる。


 息は荒い。それに時々、痛みで顔を歪ませている。


 そんなミトリをミリアは心配そうに見つめながら

「お母さん……早くよくなってね……」

 と、呟きながら──

 寝ているミトリに、ミリアは30分置きぐらいに〝回復魔法(ヒール)〟を使い、体へのダメージを和らげる。


 ミリアはそれを繰り返した。

 ミトリが目覚めるまでと思い、何度も何度も。


 そして、12回目のミトリへの〝回復魔法(ヒール)〟を使い終わった所で、ミリアは急な()()に襲われる。


(あれ……頭がくらくらする……まずい……この感覚……〝魔力枯渇(マジックダウン)〟だ……)


 お母さんには口を酸っぱくして『〝魔力枯渇(マジックダウン)〟には気を付けなさい』と言われていた。


「最後に〝魔力回復薬(マジックポーション)〟飲んだのいつだっけ……」


 その言葉を最後に、ミリアはその場にパタリと、倒れ込んでしまうのだった──。




 ★★★★★★作者からのお願い★★★★★★


 作品を読んで下さり本当にありがとうございます!


・面白い

・続きが気になる

・異世界が好きだ


 などと少しでも思って下さった方は、画面下の☆☆☆☆☆から評価やブックマークを下さると凄く嬉しいです!

 (また、既に評価、ブックマーク、感想をいただいてる皆様、本当にありがとうございます! 大変、励みになっております!)


 ★5つだと泣いて喜びますが、勿論感じた評価で大丈夫です!


 長々と失礼しました!

 何卒よろしくお願いします!


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