第89話 ミリア・ハイルデートはミリアである10
──その日の午後。
トアを含む〝魔王信仰〟に殺された5人の冒険者の葬儀が、街の小さな教会で執り行われた。
ミリアは、もう二度と会う事も、見る事もできないと思っていた、棺に入った父親の姿を見ると、また涙が止まらなかった。
その後の事は、泣いていてよく覚えてない。
ずっと泣いて気づくと、お父さんの遺骨を持って、お母さんとお家に帰ってきていた。
そして、家のすぐ隣にお墓を作る事になった。
お墓はお母さんが、家の森にあった大きめの石や岩を、掘ったり、切ったりして直ぐに作ってくれた。
これで本当の本当にお別れだ。
お母さんが作ったお墓にお父さんの遺骨を納める。
お墓の周りには、沢山の物が供えられている。
家の森でお母さんや私やタケシが取って来た花。
お団子屋のあばちゃん達がくれたお供え物と花。
お父さんの冒険者仲間の人がくれたお酒や花。
その殆どが、お花だったけど、お父さんのお墓の周りは、お父さんが無くなってしまった悲しさとは裏腹に、明るく綺麗に色んな物で埋め尽くされていた。
「ミリア、それって?」
ミトリは、ミリアが家の中から、両手で抱えて持ってきたお鍋を見ると、少し驚いた視線を向ける。
「うん、晩御飯。やっと食べれるね」
ミリアが持ってきたのは、今朝の朝食で食べたがらなかったシチューであった。
このシチューは昨日の晩御飯のメニューで、トアが仕事から帰ってきたら、いつも通りに皆で食べる予定だった料理だ。
そして、シチューはトアの大好物の料理だ。
「そうね。ミリア、私も手伝うわ」
ミトリはミリアが何をしたいかが分かると、優しい目でミリアを見つめながら、ミリアを手伝う。
ミリアは温め直したシチューの鍋と一緒に、3人分の食器も持ってきており、お冷やまで準備万端だ。
『──父親が帰ってきたら家族の皆でごはん!』
ミリアの中では、これが普段の光景だ。
だから、朝食ではシチューに手をつけなかった。
これは、お父さんが帰ってきたら、家族皆で食べる物だから。
これは、お父さんとお母さんと私の3人で食べる為に作った物だから、どうしても、私は、このシチューだけは、この最後の時間に最後に皆で食べたかった。
生きてではなかったけど……
今、お父さんは家に帰ってきた。
なら、もう食べてもいいだろう。
──晩御飯の時間だ。
でも、まだ外は明るい。
夕暮れよりも少し前ぐらいだろうか?
時間的には、おやつの時間帯だ。
それに相変わらず、外の天気は曇っている。
晩御飯には早すぎる?
ううん、今回はむしろ遅すぎるぐらいだ。
だって、これは昨日の晩御飯なのだから。
お父さんの大遅刻だ。
お父さんが仕事から帰ってきた。
だから、今から晩御飯にする。
「今日はお父さんの大好きなシチューだよ」
昨日、街で買って来た、お肉とお野菜と、湖で取れた、お魚と物々交換した、牛乳やバターやお塩で味付けして、じっくり煮込んだんだ。
お母さんと私の自信作だよ。
今のミリアに墓前の作法なんて関係無い。
ここは私達のお家だ。
父親が帰ってきた。だからごはんにする。
いつも通りの、ただそれだけの話だ。
「お父さん、お帰りなさい。ごはんにするよ!」
お父さん、お母さん、私と三人分のシチューが行き渡ると、手を合わせ「いただきます」をする。
私の人生で最後のシチューを私は口に運ぶ。
私は、今後シチューという料理を食べない。
このシチューを最後の思い出にしたいからだ。
このシチューは、家族3人で食べる本当の本当に最後のごはんだ。寂しくて、辛くて、悲しくて、どんなに頼んでも、涙が止まってくれないけど、これで本当に本当のお父さんと一緒の……家族で最後の食事だ。
だからミリアは、このシチューを噛み締めるように、ゆっくりと、目に、舌に、鼻に、頭に、身体に、そして心に、大切な思いを焼き付けるように食べる。
同じくミリアの隣の墓前にミトリも腰を下ろし、涙をポロポロと溢しながらシチューを食す。
無言で、夢中で、二人はシチューを平らげる。
この時ばかりはミトリも、太るだとか太らないだとか、そんな事は一切考えず、普段のミトリの食事量では考えられない量のシチューを少しばかり時間をかけながらも、綺麗に平らげる。
同じく、ミリアもシチューを綺麗に平らげる。
これで鍋は空っぽだ。
後はお供えしたお父さんの分だけ。
ごはんを食べてる最中なのに、また泣いてしまった。
でも、この時はお母さんも一緒に泣いていた。
その後、ごちそうさまをした後に──
目を閉じて、もう一度お父さんに手を合わせる。
その後、後片付けを終えて、お母さんと家の中に戻ろうとする頃に……これで何度目だろう、本当にお別れなんだと考えると、足が止まってしまう。
時刻は夕方ぐらいで、空は日が沈み始めている。
すると、その時──
ずっと朝から曇りだった、空の雲の切れ目から、
綺麗な一筋の光が夕焼けと共に顔を出す。
「ここら辺では珍しいわね。あれは光芒って言う自然現象なのよ」
「光芒? 何かさっきのシチューの色みたい」
始めてみる綺麗な空にミリアは素の感想を呟く。
「ふふ。そうね、確かにあの光の色はさっきのシチューの色に似てるわね? なら、トアが私達に『ご馳走様』って、伝えに来てるのかもしれないわね?」
この時、トアが亡くなってから初めてミトリが笑った。綺麗な光芒を『シチューみたい』という、年相応の子供の発想豊かな感想が妙なツボに入ったのだ。
ミトリの返事に「ほんと!」っと嬉しそうに反応するミリアを見て、ミトリは最後にまた笑いを溢し、ミリアを抱き上げると、その吸い込まれるように綺麗な空を、しばし眺めてから、家の中へと入るのだった。
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