第86話 ミリア・ハイルデートはミリアである7
「ロキ・ラピスラズリ? 聞いた事のある名前ね。確か──〝英雄ロキ〟とか言うのは貴方の事ね?」
ミトリは警戒するタケシを〝待ちなさい〟と片手で合図しながから、ロキへそんな質問をする。
「英雄なんて呼ばれるほどの、何かの功績を成し遂げた記憶はありませんけどね……ですが、世間様が呼ぶ、その名前は私の事で間違いないと思いますよ?」
―ステータス―
【名前】 ロキ・ラピスラズリ
【種族】 半霊人
【年齢】 53
【性別】 男
【レベル】70
その隙に、ミトリはロキの〝ステータス画面〟をスキル──〝天眼〟を使い覗き見る。
(嘘では無いみたいね……〝半霊人〟ってのは始めて見たけど、別に今はそんな事はどうでもいいわ……)
「ギルドの援軍にしては少し早過ぎる気がするけども……それで、私に何か用かしら?」
「そうですね。結論から言いますと、私は正式にギルドから派遣された援軍と言うわけではありません」
淡々と話すミトリに対し、ロキは相変わらずの胡散臭い表情で話す。
「本当に偶然、この先の街からの帰りに寄った〝ルスサルペの街〟が何やら騒がしかったので、街の方々のお話を伺いこの辺りの様子を見に来た所、ちょうど貴方がここに居たと言うわけです」
とても胡散臭いが、ミトリにはロキが嘘を吐いているようにも、敵意があるようにも見えなかった。
「……そう。なら、後処理は任せていいかしら? それも貴方の仕事の内でしょう? ギルドマスターが、こんな場所まで来て、野次馬だ何て言わないわよね?」
少し嫌みったらしくミトリは告げながら、トアの心臓が入っている壺に視線を向ける。
その中には、トア以外の誰かの心臓も入っている。
正直な所、ミトリはトアの心臓。それと強いて言えば、トアの冒険者仲間の心臓以外に用は無かった。
だが、この中に〝魔王信仰〟に心臓を抜き取られた自分達と同じ境遇の者や、その者達の遺族の事を思うと、このまま放っとくのも些か気が引けた。
そこに、降って沸いたのがこのロキである。
立場的にも適任だろう。もしロキが拒んだとしても、ミトリはその場を立ち去るつもりだったが……
「分かりました。後は全てお任せください」
ロキは一切、顔色を変えず元々そのつもりで来たとばかりに、あっさり返事を返す。
「……」
ミトリはその対応を無言で見つめ、
「私は帰るわ。娘が待っているの」
そう告げて、壺からトアの心臓を両手で包み込むように抱えると体を翻す。
「迷惑で無ければ、こちらをお使いください」
立ち去るミトリに、ロキは何にとは言わず、いくつかの種類の袋を投げる。
「そのままだと驚かれてしまうでしょう?」
「……助かるわ」
ミトリは渡された袋の中の1つに、トアの心臓を大切に仕舞う。そして、残った他の袋には、スキル──〝天眼〟を使って判別した、トアの冒険者仲間の心臓を袋に仕舞い、それ以上は何も言わず、その場をタケシの背に乗り立ち去るのだった。
*
──〝ルスサルペの街〟お団子屋・花選──
そこには、お団子屋のおばちゃんに連れられ、何も言わずに椅子に腰かけるミリアの姿があった。
その表情はとても暗い。
「ミリアちゃん、何か食べるかい……?」
お団子屋のおばちゃんがミリアに話しかける。
だが、その顔や言葉は何処か辿々しい物だ。
ふるふるとミリアは首を横に振る。
「大丈夫です……何か食欲が無いので……」
小さな声だが、ミリアは噛まずに返答する。
ここ数年で、お団子屋のおばちゃんとは、ミリアは言葉を噛みながらも、あまり恥ずかしがらずに会話ができるようになっていた。それでも、ミリアが言葉を噛まずに返事を返すのは珍しい。
いつもは、自分に視線が集まったり、話しかけられると、必要以上に恥ずかしがったりだとか、テンパって慌ててしまう。
だが、今のミリアには、自分のそんな感情に気づく余裕が無く、頭の中が真っ白になっている。
そして、ミリアは感が良い。
だから、今起きてる事が何となく分かってしまう。
今、何故、自分の頭の中がこんなに真っ白なのか。
おばちゃんが何であんなに焦っていたのか。
お母さんが、何であんなに泣いて怒っていたのか。
それに、何でお父さんは今ここにいないのか。
──ただ、1つだけ分からない事がある。
あの時のお母さんは物凄く怒っていた。
そして、お母さんのあの目は奪われた何かを取り返しに行った目だ。私は、今までずっとお父さんやお母さんと一緒にいたから、些細な動作や視線や空気で、お父さんとお母さんの大体の気持ちは分かる。
でも、お母さんは何を取り返しに行ったのだろう?
それだけが、今の私には分からなかった。
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