第84話 ミリア・ハイルデートはミリアである5
「ミトリさん。俺達から説明を……」
トアの冒険者仲間の1人がミトリに話しかける。
「簡潔に聞かせてちょうだい。トアを殺して、心臓を抜き去ったって事は──〝魔王信仰〟の仕業ね?」
「……はい。俺達が、いつも通り、魔物を倒したり、動物を狩ったりした依頼の帰りです。突如、現れた〝魔王信仰〟の奇襲により2名が負傷しました。その後、俺達も応戦したのですが、向こうの人数は20名を越えていました。対するこちらは10名。しかも、相手には手練れも多く……俺達は負傷した仲間を担いで逃げるのが精一杯でした」
そう話す、この男性も大分怪我を負っており、話の所々で、苦痛により顔を歪ませている。
「でも、トアは『このまま逃げても、追い付かれる。それに街にコイツらを連れてくわけに行かない。私が残るから援軍を呼んできてくれ』と言ったのですが、俺達も、その場にトアだけを残していくわけにいきませんから──最終的には、負傷者2人と付き添い3人を街へ救援を呼びに行かせ、そしてトアを含む5人が自主的にその場に残り〝魔王信仰〟と戦いました」
「……続けてもらえる?」
ミトリは歯軋りしながら、その話を聞いている。
「街に救援を呼びに行く途中で、別の冒険者パーティーと遭遇しました。それがそちらにいるラックさん達です。俺達より規模の大きなパーティーの方々なので、俺は街に戻るよりも早いと考えて、直ぐにラックさんに救援を求めました」
「横からすまない。俺が、今紹介のあったラックだ。トアさんとは別の冒険者パーティーのリーダーをやっている。救援要請を受けた俺達は直ぐに現場に向かったんだが……俺達が到着した頃には──既に、残ったトアさんを含む5人は全滅だった。そして、その5人全員が心臓を抜かれていた……」
そう話しながら、ラックは横たわる、亡くなった冒険者達の遺体に視線を落とす。
トアの他に、亡くなった冒険者達の周りには、その家族達が、悲痛な声を上げて叫んでいる。
「今、俺の仲間が〝エルクステン〟のギルドへ〝魔王信仰〟の出現情報と共に、ギルドの騎士隊に援軍要請を頼んでいる。この〝ルスサルペの街〟には、今はエルフの者がいないからな〝精神疎通〟で、すぐに救援を呼ぶ事もできない」
「……そう。それだけ聞ければ十分だわ。ありがとうございました」
ミトリはトアの遺体を抱き締め「少しだけ待っててね」と呟き、顔と胴体に布を掛け直すと、怒りと悲しみで、最早、表情の消えた顔で体を翻す。
「み、ミトリさん、どちらに! 危ないから街に残っていた方がッ!」
「心配は無用よ。少しだけトアをお願いできる?」
そう言うとミトリはミリアの方に歩き出す。
「──お、お母さんッ! お、お父さんはッ!?」
がしッとミリアが抱きついてくる。
ミトリはミリアを優しく抱き締め、ゆっくり喋る。
「ミリア、話しがあるの。とっても大事なお話よ。でも、もう少しだけ待っててくれるかしら? すぐに戻って来るから」
「み、ミトリちゃん……」
すると、おばさんが話しかけてくる。額には汗がびっしょりだ。よほど心配してくれたのだろう。
「おばさん。もう少しだけ、ミリアをお願いできますか? すぐに戻ります──」
この時。初めて、ミリアも、団子屋のおばさんも、ミトリのこんな凍るような冷たい声を聞いた。
「ミトリちゃん。貴方、まさか……いえ……私じゃミトリちゃんを止められないわね。分かったわ。ミリアちゃんは私が責任持って見てるわ──でも、必ず無事に帰ってきなさい。いいわね? もう貴方の命は貴方だけの物じゃないのよ」
「お、お母さん、何処か行くの? なら、私も行く! 危ない所? 私もお母さんに教わった魔法なら使えるよ! 私も連れてって!」
「ごめんね。それはダメなの。ミリアは連れてけないわ。でも、必ず直ぐに帰ってくるから。お願い……今は我慢してくれる?」
ぎゅっとミトリはミリアを更に抱き締める。
「……っ」
その言葉にミリアは衝撃を受ける。今まで、ミトリがミリアのお願いを、こんな風にハッキリと断った事は一度もない。
「……どれぐらい? どれぐらいで帰って来る?」
寂しげな顔でミリアが問いかける。
その目にはうっすらと涙も浮かんでいる。
「そうね。1時間以内には帰ってくるわ」
「分かった。約束だよ?」
小さな手でミリアが小指を向けてくる。
「ええ、約束よ」
その手にミトリは自身の小指を優しく絡ませる。
「じゃあ、ミリアちゃんは、おばさんのお団子屋で待ってましょうね? ミトリちゃん、呉々も気をつけるのよ?」
「ええ。おばさん、ありがとう」
お礼を言うとミトリは自身の足に魔力を込め、
空気を踏み込み、空を駆け上がっていく──!
「──タケシ! 力を貸してちょうだい!」
そうミトリが叫ぶと、湖の方角から〝空竜〟の〝変異種〟である、青い鱗と青い翼を持った青い竜が、まるで、その言葉を待っていたかのように「ガウッ!」と直ぐに現れ、その背にミトリが乗る。
「このまま、西に向かってちょうだい! トアの心臓を取り返しに行くわ。送迎を頼めるかしら?」
と、ミトリがタケシに問いかけると、
「ガウッ!!」
力強い返事が帰ってくる。
そして次にゆっくりと目を閉じて……
ミトリはスキル──〝天眼〟を使う。
──探索系の高位スキルだ。
これで〝魔王信仰〟の居場所を探る。
今のミトリには、手に取るように、ここら一帯の、人も、魔物も、動物も、そして魔力や空間といった、あらゆる物の全ての情報が、頭の中へ流れ込んで来る。その情報を元にして、怪しい場所をしらみ潰しにして、更に細かくミトリは居場所を探る。
(これも違う……これは魔物ね……)
(これは人かしら? でも、単独。奴等じゃない)
(ここは何かしら……結界? その中に人が隠れてわね……数は10……20……30……それに嫌な気配がする──見つけた! 聞いてた数よりも、少し人数が多いけど、これが〝魔王信仰〟の奴等で間違いないわ!)
「──タケシ! 見つけたわ! あの山の上よ! 正面突破で行くわ! 思いっきり突っ込みなさいッ!」
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