第82話 ミリア・ハイルデートはミリアである3
──〝ルスサルペの街〟お団子屋・花選──
森を抜けて、街に入ると、すぐの所にある今日の目的地のお団子屋さんに到着すると、お団子屋のおばちゃんが出てくる。
「──いらっしゃい……って、あら、ミトリちゃんじゃないの! それにトアちゃんも、ミリアちゃんも一緒で、今日は家族でお出掛けかい?」
お団子屋のおばちゃんは私達を見ると、近くに駆け寄って来て、親しげに話かけてきてくれる。お母さんは小さい頃から、このお団子屋さんに通っているので、お団子屋のおばちゃんとは──大の仲良しだ。
「こんにちは。ええ、今日は家族でお出掛よ」
「お世話になっています。お邪魔します」
お母さんとお父さんが、お団子屋のおばちゃんにそれぞれ返事を返す。
「ヤダねえ、お世話になってるのはこっちの方だよ。ポーションの材料になる、薬草とかをミトリちゃん達が売ってくれてるから、家も何とかやってけてるんだからさ、ささ、座ってちょうだい!」
このお団子屋さんはお団子以外にも、他にお饅頭やおにぎり──そして、ポーションも売っている。
ここのポーションの材料は、家の森で取れる薬草だ。前に私もお母さんと一緒に薬草を取って、そのまま、このお店に持って来たことがある。
その時におばちゃんが、お店のお団子を私にくれたのが私とおばちゃんの出会いだ。
「ありがとうございます──それとミリア。おばさんに、ちゃんと挨拶できるかい?」
はうっ……!
すると私は、お父さんからそれはそれは小さな小さな試練が与えられた……でも、挨拶は当たり前の事だ。
──こくこく。
挨拶を決意した私は小さく頷く。
「ミリア頑張るのよ!」
「そうよ! ミリアちゃんならできるわ!」
応援してくれるお母さんと、私の対面者である筈のおばちゃんも、何故かノリノリで応援してくれる。
「こ……」
こんにちはを伝えるのだ……
あ、でも。ございますも付けよう。
その方が丁寧な気がする。
「こ……」
こんにちはございますだ。
こんにちはございますを伝えればいいのだ。
(よ、よ、よ、よし……!)
「こん……」
(よ、よし、い、いける……!)
「こ、こん、こんちゅうはございますっ!」
(──ッ!?)
……か、噛んだ。噛んでしまった。
しかも……こんちゅう……昆虫と言ってしまった。
……私は自分の大いなる失態に戦慄する。
どこかに穴があるのなら是非とも入りたい。
それこそ、今はお団子のように丸まっていたい。
まずい……羞恥で頭がクラクラしてきた。
「──きゃー!! ミリア頑張ったわねー!!」
そんな私に全力で抱きついてくるお母さん。
「はい、こんにちは。ミリアちゃん!」
そんな様子を微笑ましそうに見ながら、おばちゃんが『こんにちは』を返して来てくれる。
「よく言えたわねミリア! 『こんにちは』でも、『昆虫は』でも何でも良いのよ。思いを伝えようと口を開いて言葉を発する事に意味があるのよ!」
私の顔にすりすりと頬擦りするお母さん。
「あらら、ミトリちゃんはちょっと親バカみたいね。でも、その気持ち。分かるわ……ミリアちゃん本当に可愛いわね。お団子いっぱいあげたくなっちゃうわ!」
その様子を笑って見てくれてるおばちゃん。
(──お団子!!)
おばちゃんのお店のお団子はとても美味しい。
あんこが乗ってて甘い物お団子や、桃色と白と森色の3つの色の柔らかいお団子や、お団子に甘じょっぱいドロッとした茶色い調味料(?)みたいなのがかかったお団子など、沢山のお団子がある。
お母さんには、喉に詰まらせてはいけないから、ゆっくり食べなさいと言われるが、それでも食べる手が止まらないぐらいの美味しさだ。
「さあ、ミリア何を食べようか?」
「え、えっと……いっぱい食べたいのがあって迷う」
「遠慮しなくていいんだよ? お父さんやお母さんはミリアと一緒に美味しい食事をしたり、楽しい時間を過ごす為に働いているんだからね。たまにのお出かけの日ぐらい、ミリアの食べたい物を好きなだけ食べていいんだよ?」
と言いながら、お父さんが頭を撫でてくれる。
「……本当? じゃ、じゃあ、この3種類のお団子を10個ずつ食べたい……」
「それでいいのかい? まあ、足りなかったら追加で注文すればいいね!」
「ミリアは育ち盛りだもの! いーっぱい食べなさい! でも、太らない体質って言うのは我が娘ながら少し羨ましいわ……これはトアに似たわね?」
お母さんがお父さんを妬ましそうに見ている。
「み、ミトリも少しぐらい多く食べてもいいんじゃないのかい? いつでもミトリは素敵だよ?」
「そ、その油断が命取りなのよ! 女には女の悩みがあるの! で、でも、私も3種を2本ずつ……いえ、3本ずつ……お願いするわ。もし太ったらトアに責任を取ってもらうわ!」
「あはは……そ、それは怖い話だね。じゃ、じゃあ、私は3種類を15本ずつお願いできますか?」
こう見えて、トアは大食漢である。簡単に言えば痩せ型の大食漢と言う奴だ。そして生まれつき太りにくい体質なのだ。
先程、ミトリに妬ましく見られたのもそのせいだ。
「10本、3本、15本……合わせて各28本ずつね。かしこまりました。少し待ってておくれね!」
と、おばちゃんはお店の奥に走っていく。
「それにしても、ミリア頑張ったわね~♪」
撫で撫でと、まだ誉めてくれるお母さん。
実はこの日が、私はお父さんとお母さん以外の人と話したのは初めてだった。前におばちゃんにお団子を貰った時は、テンパってしまい何も言葉を発っさずに、頭を下げるだけで精一杯だった。
「大切な一歩だね。これからの人生で、ミリアにも友達や仲間と呼べる人達ができる筈だから、私達以外の人との会話も、少しずつ無理せず頑張っていこうね」
「お友達? 私に?」
「そうだよ。不安かい?」
「うん……お友達……まだよく分かんないかな」
この街の私と同じぐらいの子供達が、皆でボールで遊んでいるのを、遠目に見たことがあるけど、あの輪の中に私が入れるとは思えなかった。
「心配しなくて大丈夫だよ。ミリアは優しいから。優しいミリアには、きっと優しいお友達ができるよ」
お父さんが『心配しなくて大丈夫だよ』と、そう言ってくれると、少しずつ私の中の不安が溶けていく。
「うん……そうだと嬉しいな……!」
緊張もするけど。少しわくわくする。
「──はい、お団子お待たせしましたッ!」
そんな話をしてるとドーン! っと、大皿に乗ったお団子と、森色のお茶をおばちゃんが運んでくる。
「わあ、美味しそう!」
思わず心の声が漏れる。
「あら、ミリアちゃん! 嬉しいこと言ってくれるわね! いっぱい食べてってね!」
「……/// ひゃ、ひゃい……」
思わず漏れてしまった声に、私は顔が赤くなる。そして、その様子を見たお父さんやお母さんが優しく笑ってくれている声が聞こえる。
とても恥ずかしかったけども……
でも、凄く優しい時間が流れていく。
「さ、ミリア、早く食べましょ!」
と言う、お母さんの声で皆で『いただきます』を言って、お団子を食べ始める。
甘くて、もちもちとしてて凄く美味しい。
森色の温かいお茶もお団子によく合う。
お父さんとお母さんと一緒にお話をしながら、お団子を食べていたら、気が付くと、いつの間にか全部綺麗に食べ終わってしまっていた。
お父さんがお会計を済まして、私達がお家に帰ろうとすると、お団子屋のおばちゃんが私に話しかけて来る。
「はい、ミリアちゃん! これはおばちゃんからのプレゼントよ。明日にでもまた食べなさい!」
と、お団子の入った包みを渡してくれる。
「あ、おばさん。そんな悪いわ!」
お母さんがおばちゃんに慌てて話しかける。
「いいのよ。ミトリちゃん達には、いつもお世話になってるんだから、それに、こんなにミリアちゃんが美味しそうに家のお団子を食べてくれるから、私も主人も嬉しくなっちゃって!」
おばちゃんは頬に手を当てて笑っている。
「あ、あにょ! ……の!」
噛んだ。また噛んでしまった。
でも、伝えなければ。言葉にして発しなくちゃ。
「あ、ありがとうございましゅ! ……す! お団子とっても美味しかった……の、です……! ご馳走さま……でした……!」
更に噛んでしまった……言葉もめちゃくちゃだ。
……つ、伝わっただろうか?
「お粗末様でした! いつでもまた来てね!」
なでなでと私の頭を撫でながら、お団子屋のおばちゃんが元気に返事を返してくれる。
「ふ、ふゃ、ひゃいッ!」
私は、そんな言葉にならない言葉を、お団子屋のおばちゃんに返しながらお店を後にして。帰り道も、お父さんとお母さんと一緒に手を繋いで、夕日を見ながら、来た道を辿り、お家へと帰るのだった──。
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