第81話 ミリア・ハイルデートはミリアである2
*
──今日は家族で街へお出掛けだ。
とは言っても、今に思えば、お昼を過ぎた頃、街にあるいつも行くお団子屋さんに行くだけなのだけど。
でも、その頃の私に取って、街のお団子屋さんに行くというのは、それはちょっとした冒険気分だった。
胸が緊張でドキドキしていたけど、それと同時にとても楽しみな時間でもあった。
「ミリア、まだ街は怖いかい?」
私を肩車するお父さんが質問をしてくる。
「……うん。でも、お父さんとお母さんが一緒だから平気だよ」
でも、緊張する。お父さんに肩車をしてもらってなければ……今頃、私は3分に1回ぐらいのペースで、深呼吸を繰り返していた事だろう。
「ミリアはちょっと照れ屋さんだものね?」
そう言いながら、お父さんの隣を歩いているお母さんが、私に優しく笑いかけてくれる。
「……うん。後、知らない人は少し怖いかな。何を話せばいいかも分からないし。中には、顔は二コ二コしてる筈なのに、凄く嫌な気配の人とかもいるから……」
「大丈夫。それはよく人や周りを見れてる証拠よ。むしろ、それは逆に凄い事なのよ? ミリアは、人を見る目はあるのだから何も心配は要らないわ!」
「そうだね。ミトリの言う通りだ。それに怖がる事は悪い事じゃない。例えば、お父さんの仕事の〝冒険者〟では、それはとても大切な事なんだ。怖いと感じたら、戦うというだけじゃなく──逃げると言うのも、結果的に自分だけでは無く、大切な家族や仲間を守る事に繋がる事もあるんだよ? でも、私達冒険者はカッコつけて撤退なんて言い方もするけどね……」
ははは……と、最後は少し苦笑いで笑うお父さん。
──バサリッ!!
そんな話をしながら歩いていると、空から空竜の〝変異種〟であるタケシが現れる。
「あら、タケシ、こんにちは。少し街へ出掛けてくるわ。お留守番よろしく頼むわねー!」
お母さんが、空飛ぶタケシに元気に手を降ると「グウッ!」と元気な返事が返ってくる。
タケシは、お母さんのお母さんの、そのまたお母さんが居た頃よりも前から、この家の湖と湖から約200m範囲の家の森を守ってくれている。
そして、ちょうど今お父さんの足元に深さ20cmぐらいの線がぐるっと家の土地を囲んでいる。
これは言うなれば家の土地の境界線だ。この線より内側が家の土地で──この中に入ってくる、知らない人や、魔物や、大きな動物はタケシが『えい!』って、排除するとお母さんが言っていた。
この線より内側に入れるのは、お母さんの家系の身内や、お母さんか私が許可を出した人のみだ。お父さんは婿養子(?)と言うものらしいので、入れはするが、許可権限は無いらしい……
でも、お父さんとタケシもとっても仲良しだ!
私とお父さんもタケシに手を振ると「グウ! グウ!」と嬉しそうに私とお父さんに返事を返す。
少し、辺りをぐるりと飛び回ると、タケシは湖の方角へ「グウッ!」と言いながら飛んでいった。
タケシが去ると私達は再び街へ向けて歩き出す。
そして私達はちょうど家の土地から出る境界線を跨ぐ場所にいる。その境界線を見て私は更に緊張する。
言うなれば、今まで歩いてきた森は、私の家の土地だから私に取っては庭のお散歩のような感覚なのだ。
だから、この境界線を越えてから……
──初めて、私の中でお出掛けが始まる。
こ、ここからが、本当のお出掛けだ!
ごくり……と私は唾を飲み込む。
(き、緊張する……でも、大丈夫。お父さんもお母さんも一緒だから怖くない、怖くない、でも緊張する)
緊張で頭がくらくらして来た、その時……
──ぎゅッ。
「!!」
私の手を優しくお母さんが握る。
「ここからは、私とお父さんとミリアの3人で手を繋いで行きましょ? ね、ミリア? ──それに、何だか私だけミリアに触れられ無くて寂しいわ!」
最後の方は、頬っぺを膨らましているお母さん。
「そうだね。じゃあ──肩車〝お父さん号〟はここまでだ。ミリア歩けそうかい?」
「うん、大丈夫……!」
そう返事を返すと「じゃあ、降ろすよ」と言い、ゆっくりとお父さんが私を肩車から地面へ降ろす。
お父さんとお母さんと手を繋ぐと、私の両手がいっぱいになる。温かくて、私の大好きな優しい手だ。
「それじゃあ出発よ!」
先に境界線の外に出ていた、お母さんとお父さんが『出発よ!』の声に会わせて、まだ境界線内ギリギリにいた、私の手を優しく引いて「「そーれ!」」と──ふわりと、私が跳ぶように引っ張ってくれる。
「──わっ!」
突然のことに私は少し驚く。
「ご、ごめんね。ビックリしてしまっったかい……?」
少し慌てた様子のお父さん。
「ううん、大丈夫。早くお団子屋さん行きたい!」
何となく、今のジャンプで緊張が解れた気がする。
さっきより、大分気持ちが落ち着いている。
「ふふ。私も賛成よ。さあ、行きましょう! 魔物も出るかもだけど、お父さんもお母さんもいるから心配しなくて大丈夫よ!」
ちなみに、危なそうな魔物や、数の多い魔物がこの森に来ると、境界線外でも、私達が街へ行く時は必ず通る。湖→街への、この辺りのルートは、タケシが魔物達を排除してくれてるらしいので、お母さんの話だと比較的かなり安全に街まで行けるらしい。
そうして、お父さんとお母さんと手を繋いだまま、私達は街のお団子屋さんへと向かい歩き出す。
でも、街に近づくにつれて、少しずつ……また緊張してしまう私が、ぎゅっと繋ぐ手に力を込めると『大丈夫だよ』と、笑ってその手を優しく握り返してくれる両親の手が、とても温かくて、凄く嬉しかったのを今でも鮮明に覚えている──。
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