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第72話 飴とタイツ



「──あ、鼻のお兄ちゃん!」


 今しがた、サラから貰ったらしい……絵に描いたような真ん丸の〝飴玉〟を右手にしっかりと握りしめた、亜人のモフっ子幼女のココットが、尻尾をフリフリと動かしながら俺の方へ近づいてくる。


「転んで鼻を怪我をしたのはお前の方だろ? だから、鼻のお兄ちゃんはやめろ……?」

「えーとね。じゃあ! 怪我のお兄ちゃん!」


 元気なココットは更に微妙な呼び方で俺を呼ぶ。


 この子の中で俺は、鼻の怪我を治してくれたお兄ちゃんというイメージで固まってしまってるのだろう。


「お客さんだ!」

「あれ、サラ姉ちゃん、真っ赤だよ!」

「タイツってなぁに?」

「クシェラ兄さんとココットの知り合い?」


 そして物陰から俺をを興味津々に見てくる、

 ここの孤児院のチビ達の視線がある。


「「「「じぃ~~~~~~」」」」


「……いや、それも勘弁だ。俺の名前はユキマサだ。呼び捨てで良いから名前で呼んでくれ?」

「ユキマサ? じゃあ! 黒いお兄ちゃん!」


(いや、どうしてそうなった?)


 何でこの子の中では……ユキマサ=黒い。

 みたいな、方程式になってんだよ?


(まあ、変態や(たら)しが付かないだけ……まだマシか……)


「……それでいい──よろしくな、ココット」


 そう言いながら、俺はココットの頭をポンと撫でると、ココットはフリフリと尻尾を動かして来る。


「──さ、流石は我が兄弟だ。この短時間で、いとも簡単にまた1人〝尊き幼女〟を笑顔へと変えてしまうとは……これは私も負けてはいられんな!」


 何かロリコン(別の意味)を含んだ言い回しで、勝手に俺を驚嘆し、称賛するクシェラは、謎の対抗心を燃やす。


「え……そ、そ、そうなんですか! 困ります!」


 そして何故か……ガーン! 

 と、サラはショックな顔をする。


「いや、違ぇよ! 俺はクシェラのようなロリコンじゃねぇし、そもそもクシェラの兄弟でも無いぞ!」


(エメレアの変態扱いといい、クシェラのロリコン同志認定といい──この異世界で俺はどんな風に見えてんだよ?)


「な……照れることは無いんだぞ?」


 優しく(さと)す用なクシェラと……


「ほっ……良かった。一先(ひとま)ず、セーフ……」


 ホッと胸を撫で下ろすサラ。


「……で、それでだ。そこの、お茶を()れてくれた……確か、サラって呼ばれてたな? 昨日ギルドに直接クシェラの〝王女誘拐〟の()()に対して、10人ぐらいで抗議に行ったって言う〝ドラグライト孤児院〟の〝卒業生〟って奴の──その1人はあんたか?」


 これは朝食を食べながらクレハに聞いたんだが……


 どうやら昨日のクシェラの千撃(ジャン)への足止めが、噂の煙となり、そこから更に噂がバタバタと一人歩きをして、クシェラが〝王女誘拐〟と言うデマが、あちこちで(ささや)かれていたらしい。


 そして、その噂を聞き付けた、クシェラの運営する孤児院の〝卒業生〟と呼ばれる、13歳を迎えて孤児院を()()した者達がその()()に対して、噂の出所であるギルドへ、13~18歳ぐらいまでの()()合わせて10人ぐらいが、抗議に行ったみたいだ。


 それに男女って事は、恐らく隣のクシェリの孤児院の〝卒業生〟も加わって行ったのだろう。

 

「あ、はい、そうです。私は──サラ・エルミアナと申します。17歳です。さ、先程は取り乱してしまい本当に申し訳ありませんでした!」


 最初のミリアもビックリのガチガチの噛み方や、身体の震えも収まってきており、サラは普通に謝りながら返事を返してくる。


「いや、気にしてない。それに謝るのは俺の方だ。昨日のあれは元を辿(たど)れば俺のせいだ……本当にすまなかった」


 俺はサラに頭を下げる。


「いや、待て、待つのだ! あれはユキマサのせいでは無いだろう! ユキマサは〝尊き幼女のお姫様〟を守っていた筈だ。私はこの目でしかと見たぞ! あの〝尊き幼女のお姫様〟が心から笑っている姿を──それに、噂を流したのは他の誰かであろう!」


 身を乗り出しクシェラが慌ててフォローしてくる。


「どうだろうな? そう言ってくれるのはありがたいが、俺はサラには謝るべきだと判断した。身内が〝王女誘拐〟なんて騒ぎになれば……それが本当か嘘かには関わらず、かなり心配しただろう? ──理由はどうであれ、もし〝王女誘拐〟が真実だったら、フィップ辺りに、その場で斬り刻まれててもおかしく無いような状況だぞ? サラ達の精神疲労は凄いと思うが?」


 だから、この一件で、俺が一番に迷惑をかけたのは、このサラ達──〝卒業生〟だろう。


(もし機会があれば謝ろうと考えてたから、ちょうどタイミングよく居てくれて助かった。それに、謝ろうにも、俺は卒業生の顔も知らなかったからな……)


 まあ、何で、その卒業生がタイミングよく孤児院に居たかは分からないが……普通に里帰りとか、顔を見せに来たりとか、それこそお金が無かったりで〝(孤児院)〟に帰ってきていたのだろう。


 クシェラの性格だ、卒業して行った奴等でも『いつでも帰って来るがいい』とか言いそうだしな。


 〝元いた世界〟で、俺の居た孤児院は18歳までの孤児院だったのだが──就活が上手くいかないとか、今の仕事を辞めたくてとか、近くまで来たからとか、それぞれの道に進んでいった者達が、一人一人それぞれの理由で帰ってきたり、滞在する事は〝元いた世界〟の俺の居た孤児院でもポツポツとあった。


 俺や理沙達は卒業生では無く、普通にOB(オービー)と呼んでいたけどな? まあ、そこはどうでもいいか。


「い、いえ、と、とんでもないです! 私こそ色々と申し訳ありません!」


 あたふたとサラが更に謝ってくる。


「そうか……それなら、よかったよ」


 これも聞いた話だが……偶然か必然かは知らないが、その場を通りかかった、ギルドマスターのロキが騒動を静めたみたいだ。


 フォルタニアがいればもっと早く話が付いたんじゃないか? と思ったが……昨日は、残念ながらフォルタニアは休みだったらしい。


(でも、夜にはギルドにフォルタニアいたけどな? 後、エルルカとも色々と話してたみたいだったが……休日出勤か?)


「それとお前ら今夜暇か……?」


 俺はクシェラとサラに問いかける。


「む、特に決まった用事は無いがどうした?」

「わ、私も、夕方までは養成所での訓練がありますが、夜は特に用事は無いです」

「私も無いよ!」


 最後の返事はココットだ。ちなみに、さっきからココットは俺の座る椅子の周りを、何故か行ったり来たりとぐるぐるしている。


「今夜〝料理屋ハラゴシラエ〟の女将さんの計らいでな? 店を貸し切れたんだが──よかったら孤児院の子達も連れて食事に来ないか? クシェリとの約束があってな。クシェリとクシェリの孤児院の子達も来る事になってる。金は要らないから、胃袋空にして来い。メニューは〝大猪(おおしし)の肉〟だ」


「──!? な、なんだと、それにあの愚妹(ぐまい)も来るのか! それに〝大猪(おおしし)〟何て高級食材だぞ? それを金は要らないとはどういう事だ?」

「そのままの意味だよ。肉は俺の持ち込み。貸切りは女将さんの計らいで、調理は無料で店主が承ってくれた。礼なら店に言いな──詳しい経緯はクシェリにでも聞け?」


「い、いいのか……? それにあの愚妹(ぐまい)はユキマサといつの間に何の約束しているのだ……」


 クシェラは珍しく真面目な理由で頭を抱える。


「わ、私もいいんですか!?」


 と、サラは自分を指さす。


「ああ。それと、サラは昨日、その一緒に抗議に行った卒業生には声をかけてみてくれ──『今までの卒業生の全員に声をかけろ』ぐらいの台詞を一度はカッコつけて言ってみたい物だが……悪いが、今はそれぐらいが限界だ。他の昨日不在だった卒業生の奴等には悪いが、そんな感じだと助かる」


「え、えっと……わ、分かりました!」

「これで話は纏まったな? 俺は夜に顔は出さないと思うが……店には話を通しておくから、クシェリと話し合わせて行ってみてくれ」


 と、言いながら俺はお茶を飲み干し、席を立つ。


「あ、ああ……分かった。1つだけ聞いてもいいか?」


 立ち上がる俺にクシェラが声をかけてくる。


「何だ?」

「なぜ、私達にそこまでしてくれるのだ?」


 これまた珍しく真剣にクシェラが質問してくる。


「……俺も孤児院で育ったんだ。期間は8年ぐらいか。まあ、だから変な情が湧いた──そんな理由だ。大猪(おおしし)の肉も、()()()で手に入った物だしな?」


 ──ちなみに稗月(ひえづき)家にはこんな家訓がある。


 〝働いて稼いだ金は大事に自分達の為に使え、泡銭(あぶくぜに)は可能な限り人の為に使え〟


 この家訓は俺の糞爺と婆ちゃんが作ったらしい。


 昔、自分の小遣いの範囲で競馬やパチンコに行き、大勝してルンルン気分で帰ってきた親父は──この家訓に基づき、家に帰ってくるや否や、母さんに『はい、泡銭です!』と勝ち分を全て没収されていた。


 親父は『おいおい、待ってくれ! 今日は勝ったが、今まで()ったのを換算するとそんなに勝っては無いんだ!』とか言って泣き付いていたが……母さんに『泡銭です!』と、更に同じ台詞を二ッコリと返されガックシと肩を落としていた。


 ちなみにその金はどうなったのかと言うと……


 俺達は()()()()でちゃっかり〝食べ放題系の焼肉店〟に行き、食事をして、残った金は母さんが全て寄付をしていた──。


「そ、そうだったのか……」

「──、ぁ……ッ……」


 それ以上は何も追求しないクシェラ。


 それと何かを言おうとして止めたサラ。


 そして何故かトントンとテーブルの角に、先程サラから貰った飴を優しく叩き付けているココット。


(……ココットは何やってんだ?)


 その様子を不思議そうに俺が見ていると……


 ──パカリと飴が二つに割れる。


「──はい、黒いお兄ちゃん、半分あげる!」


 と、半分に割れた飴の片方を俺に手渡してくる。


「……いいのか? サラからせっかく貰った飴だろ?」

「うん、怪我のお礼。ありがとうございました!」


 そんな無邪気な笑顔のココットを見て『さ、流石は兄弟だ……』と呟きながら感激してるクシェラの声が聞こえる。


 まあ、クシェラは置いとくとして……


「じゃあ、遠慮無く貰うぞ? ご馳走さま」


 と、礼を言いありがたく飴を半分貰う。


 そして、よく見るともう半分の飴は既にココットの口の中のようで、幸せそうに尻尾を振りながら「どういはしまひて!」と飴を食べながら返事をしてくる。


 すると、その様子を見ていたクシェラは……


「まったく、幼女は最高だな!」


 目に熱いものが込み上げてきてるらしく、少し上を向きながら、涙が(あふ)れるのを必死に押さえている。

 

 これはスルーでいいか? いいよな? いい筈だ。

 ……という事で俺はクシェラをスルーし「そろそろ時間だから俺は帰るぞ?」と、近くにいたサラに声をかけて、孤児院を後にしようとする。


「あ、はい! ぜ、是非、また来てください! ──本当に色々とありがとうございます。あ、あと、夜の〝料理屋ハラゴシラエ〟の件もお言葉に甘えさせてください! 昨日の皆にも話しておきます!」

「ああ、どういたしまして。じゃあ、宜しく頼むよ」


 サラに見送られ玄関の扉を開けながら俺は……


「そーいや。ココットがサラが言っていたって言う『物凄くタイツなんですけど!』って、結局は何だったんだ?」


 と、ふと思い出した疑問をサラに問いかける。


 タイツ……タイツ……タイツ……?

 考えれば考えるほどに謎が深まるな。


 いや、別にタイツを知らないわけじゃないぞ?

 あれだろ、あの足に履く長いやつ。


「そ、そ、そ、それは忘れてください! それにタイツじゃ無いですからぁ!」


 瞬時に真っ赤な顔になったサラが、半泣きで慌てながら必死に止めてくる。


「わ、分かった、悪かったよ?」


 どうやら聞かれたくない事らしい。


 ──ガッ!


「きゃ!」


 (たいら)な床なのだが、慌てたサラは、足を(つまず)かせてしまう。


「あ、おい!」


 ──がし! バランスを崩したサラを、俺は抱き締めるような形で受け止めて支える。


「──!!」

「……足、大丈夫か?」


 見た感じ(ひね)っては無いようだが……


「──/// だ、だいじょぶ……です……」


 俺と目が合うと、またもや目を見開いたサラは、顔を真っ赤にしたままで硬直状態だ……


「あ、あの……その、ま、ま、ま、また絶対来てくださいね!! や、や、や、や、約束ですよッ──!!」


 サラの噛み噛みのそんな台詞と共に、俺は背中をグイグイと押されて開いた扉の外へと押し出される。 


「──え……えーと、ちょ、おいッ!」


 ──パタン。


 また、扉を閉められてしまった。

 本日2度目の〝扉パタン〟である。


 ……な、何だったんだ?

 そんなにタイツが嫌だったのか?


(──てか、やべ……これまじで急がねぇと待ち合わせに遅れちまう! 結局〝タイツの謎〟は分からず(じま)いだが……まあ、用件は伝えられたから良しとするか)


 そんな疑問を残したまま、俺は走り出し、次は〝料理屋ハラゴシラエ〟とクレハ達との待ち合わせ場所である、ギルドへ急いで向かうのだった。


 *


 ──数分後 ドラグライト女子孤児院──


 そこには、またもや家の隅に(うずくま)る少女がいた。


 それは言うまでもない──

 サラ・エルミアナである。


「うぅ……またやっちゃったよ……1日に2回もドア閉めるなんて……絶対嫌われた……嫌われちゃったよ……私の初恋……」

 

 ずーん……とショボくれるサラのそんな後ろ姿をチラリと見つめ「……私の初恋?」と頭に〝?〟を浮かべながら、不思議そうに呟くモフっとした尻尾のこの亜人の幼女が、それから数時間後に「初恋ってなーに?」とサラに質問し、本日2つ目となる〝飴玉〟を獲得するのは、また別の話しである──。




 ★★★★★★作者からのお願い★★★★★★


 作品を読んで下さり本当にありがとうございます!


・面白い

・続きが気になる

・異世界が好きだ


 などと少しでも思って下さった方は、画面下の☆☆☆☆☆から評価やブックマークを下さると凄く嬉しいです!

 (また、既に評価、ブックマーク、感想をいただいてる皆様、本当にありがとうございます! 大変、励みになっております!)


 ★5つだと泣いて喜びますが、勿論感じた評価で大丈夫です!


 長々と失礼しました! 何卒よろしくお願いします!


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