第69話 おにぎりと味噌汁
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「あ、それで、ユキマサ君はどうする? お墓参り来る?」
台所にて、お弁当の鳥の唐揚げを油で揚げているクレハが、俺の顔をチラっと覗きながら聞いてくる。
その隣で俺は大きめの鍋で米を炊いている。
「そうだな。線香……は無さそうだから、花束の一つでも供えたい所だが……そもそも俺が行ってもいいのか?」
「うん、勿論。ミリアも喜ぶと思うよ?」
「そうか。なら、俺も行ってみるかな……あ、でも少し用事があるんだが、すぐ出る感じか?」
「えーと。私達も、買い物してから行くから、すぐ出るってわけじゃ無いよ? 後、空竜も借りたりしなきゃだから、準備に1時間ぐらいはかかるかな? というか、ユキマサ君はどこ行くの?」
(──空竜? 名前から推測すると、竜車の空版みたいなのか? もしかしなくても……飛ぶのか!?)
「クシェリ達の孤児院と〝料理屋ハラゴシラエ〟だ。1時間もあれば十分だ。少し出てきてもいいか?」
「あ、うん。じゃあ、朝ごはん食べたら、1時間後にギルド前に集合でいい?」
「分かった──お、そろそろ米が炊けてきたな?」
米が焦げないうちに〝魔道具〟である、赤いウィータクリュスタルの──〝火の結晶〟の火を止める。
「というか、ユキマサ君、料理できるんだね?」
へー、と少し感心した様子のクレハは、炊けた米を見て「あ、いい香り!」と呟いている。
「まあ、俺の居た孤児院では男女関係無く〝食事当番〟があったからな? それなりには作れるぞ?」
(そーいや、俺のスキルに〝料理師〟とか言うのがあったな? てか、我ながら何で〝異世界〟で〝料理スキル〟なんて持ってんだよ! いや、もしかして……〝魔王討伐〟に何か使い道が……あるわけ無いか……)
「あ、食事当番、なるほど! それと、その隣のお鍋は何……?」
クレハが炊いた米の隣にある鍋を指さす。
「あ、これか? これは昨日、クレハがシャワー浴びてる時に、クレハの婆さんが『台所とかも遠慮せず、何かあれば好きに使っておくれ』って言ってくれたんでな? お言葉に甘え、鍋を1つ借りて、昆布を水に浸しておいたんだ」
あの時は少し手持ちぶさたな事もあり……婆さんも二コ二コと笑って言ってくれたもんだから、アリス達と街に買い物を行った時に寄った、乾物屋で買った昆布を鍋に入れて出汁取ってたんだよな。
しかも、そこの店の乾物は、どれも値段が安い割りはスゴく品質が良かった。
ちなみに、一緒に居たアトラが店のおつかいで買い物に来る店だったらしく、色々と教えてくれたんだが──この世界だと、昆布はサラダ等に使う事が主流らしく……昆布出汁だとかの、出汁の概念という物は、そもそもこの異世界には無いみたいだ。
「……? ど、どういうこと?」
頭に「?」を浮かべるクレハ──出汁という概念が無い世界で、いくら許可を得たからとは言え……人様のお家の鍋で昆布を水に浸し、出汁を取るという行動をすると、奇怪と見なされ、こんな反応をされるみたいだ。……以後、気を付けよう。
「昆布出汁とか鰹出汁って分かるか?」
「だ、だし……?」
クレハが首を傾げる。
一応クレハにも聞いてみるが、やはり、この世界には出汁って概念が無いみたいだ……それによく考えたら〝元いた世界〟でも、海外だと出汁って文化が無い国とか普通にあったからな。
昨日、アトラにも同じ質問をしたら……
『だ、だし……? あ、家の店主の事ですか! こないだ料理中に靴を無くしちゃったみたいなんですよ。ユキマサさんよく知ってますね! 誰から聞いたんですか?』とか言われた……『いや、それは出汁じゃなくて裸足だ!』と突っ込もうかとも思ったが、出汁という言葉自体が分からない以上は〝?〟しか返答は返ってこないと思ったので、俺は『いや、何でもない。忘れてくれ』と、俺はアトラとのその話題を切り上げた。
(それはそうと料理中に無くした店主の靴は一体どこにいったんだろうな? 不思議な事もあるもんだ……)
「出汁ってのは俺の居た世界……というか、俺の故郷では、簡単に言えば調味料とか以外で味を出すみたいな感じなんだが、主に昆布や貝や乾燥させた魚とかから旨味を抽出するような事を出汁を取るって言うんだ」
──後、この〝異世界〟の塩はスゴく美味い。
この〝異世界〟に来てから〝わかめスープ〟とか〝野菜スープ〟を飲んだが……どれも塩の味が引き立っており、甘くてコクが深く、それこそ出汁が要らないほど、旨味が強い感じだった。
それだからなのかは知らないが、この世界のスープは、基本は塩ベースで作るみたいだ。
でも、それはあくまでも、塩ベースのスープの話しだ! 俺が欲している、日本の食卓の大定番! 味噌ベースのスープを作るとなると、話が変わってくる。
まあ、勿論、わかめや野菜からも出汁は出るので、意図的じゃないとしても、少なからず出汁は出てる筈なのだが……
この異世界では、出汁という言葉も無いみたいなので、特に誰もこれと言って気にしてないようだ。
だから、わざわざ一晩も昆布を水に浸けて、出汁を取るという俺の行動は、かなり奇怪なのだろう。
「あ、ユキマサ君の故郷の料理って事は、私から見たら〝異世界の料理〟ってこと──?」
でも、クレハは興味津々な様子で聞いてくる。
「そうなるな。ちなみに俺が今作ってるのは、味噌汁って料理だ──白米に凄く合うんだ。俺の居た孤児院では、朝食で白米を食べる時は、100%の確率で味噌汁を一緒に飲んでた」
と、話しながら、俺は〝火の結晶〟を使い、昆布の入った鍋を弱く火にかける。
「味噌汁って事はお味噌?」
「ああ、正解だ。こっちだと味噌は、あまりスープ系の食べ物には使わないのか?」
唐揚げを作り終え、今度は炊き上がった白米を水で濡らした手に取りながら、慣れた手付きでおにぎりを握るクレハに俺は質問を返す。
「スープは基本的にお塩かな? お味噌は炒め物とか、何か他の食材に直接付けて食べるのが多いよ。あ、でも、おにぎりの具に使う時とかあるよ! そう考えると、味噌汁ってお米に合いそうな感じだね!」
「だろ──? それにおにぎりの具と言うと、ネギ味噌とかか? あれも美味いよな!」
そんな話をしながら、沸騰する前に昆布を取り出し、火を止め、ここで昨日、乾物屋で昆布と一緒に買ってきた──削り節を鍋に入れる。
「あ、何これ! 美味そうな匂い!」
削り節を入れると、台所に節の良い匂いが立ち込め、クレハがその匂いをくんくんと嗅いでいる。
削り節が沈みきり、十分な出汁が取れたのを確認すると、俺は出汁を布で濾し──次に〝アイテムストレージ〟から、味噌を取り出して、沸騰させないように、出汁と合わせ、わかめ、豆腐、ネギといった具材を投入し、味噌汁を完成させる。
「これが味噌汁なの?」
「ああ、これで完成だ。まあ、この異世界の味噌で作ったのは初めてだから、俺も美味いかどうかは、まだ分からないけどな……」
この味噌汁は味噌汁であっても、異世界の味噌を使っているので──〝異世界の味噌汁〟だ。
実際に飲んでみない事には、味は全く分からん……ちなみに、この味噌は〝水仙味噌〟とかいう〝スイセンの国〟が発祥の味噌らしい。
「まあ、これは昼だな」
と、俺は出来上がった味噌汁をそのまま鍋ごと〝アイテムストレージ〟に仕舞い──料理を終える。
「え、お昼なの!?」
どうやら食べる気満々だったらしい様子のクレハは、少し残念そうな顔をしている。
「まあ、おにぎりと一緒に食べた方が美味いしな? それに朝食は、クレハの婆さんが俺達より早起きして用意してくれてあるだろ?」
テーブルを見ると、3人分の朝食が並べられており──そのメニューは、トーストに、ベーコンやレタスやトマトみたいな野菜と、目玉焼きと……これは俺は見た事の無い、カットされたフルーツ(?)みたいなのが用意されている。
「う、確かに……じゃあ、それはお昼だね。後はおにぎり作り終えたらお弁当は完成だから、そしたら、お婆ちゃん呼んで朝食にしよっか──」
そんな元気なクレハの言葉に俺は「そうだな」と短く返事をすると、クレハが更に「うん♪」とご機嫌な様子で返事が帰って来る。その後──クレハは軽く鼻歌交じりに、楽しそうに綺麗なおにぎりを作る。
そんな様子を見てると──
(やべ、腹減ってきたな……)
美味しいそうなおにぎりに食欲が掻き立てられる。
そんな俺の視線に気づいたクレハが、
「これはお昼だよー♪」
さっきのお返しなのか、味噌汁の時の俺と同じような台詞をイタズラっぽく言ってくるので……
「……わ、分かってるよ」
と、少しからかわれた形になった俺は、おにぎりから視線を逸らしながら、普段よりも、ちょっと小さめな声でクレハに返事を返すのだった──。
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