第687話 魔女の家29
「サイハテか。覚えておく。どの道、魔王討伐で通る道だ。そーいや、黒芒、お前は負けたのか?」
「バカを言うでない。妾が負けたことがあるのは〝天聖〟だけじゃ。サイハテとは決着は付かなかった」
ふーん。ようするに引き分けたってことなのか?
まあ、時間切れって線もあるけど。
「じゃが、妾が戦った時に奴はまだ成長途中じゃった。今の世ではどうなっておるかは妾にも分からん」
この千年で更に強くなってる可能性があるワケか。魔族は〝八柱の大結界〟の適用外だしな。
魔王と違って、いつでも魔族は自由に動けるし。千年もあれば相当強くなってて不思議でない。
「ニールス、最後にサイハテが先代の大聖女を倒して以降確認されたのはいつか分かるか?」
「いや、それ以降は確認されてないな。少なくとも数年は人類と接触していない。大方、魔王領にでもいるのだろう。あの場所はよほどの物好きでない限り普通の人類は近づかないからな」
その物好きが俺ってワケか。
魔王領には乗り込むつもりでいるしな。
「うどん出来たよ♪ こんな感じでいいかな?」
エプロン姿のクレハが土鍋を抱えて現れる。
その後ろからはやはりエプロン姿の桜がもう一つ土鍋を持って現れた。
魔王や魔族話からの→うどん。て、何かスゴい温度差を感じるが、まあいいだろう。
平和万歳! うどん万歳! 味噌煮込み最高!
「おお、グットタイミングだ!」
「お出汁どうかな? 上手く出来てる?」
心配そうにクレハが尋ねてくるので、先に一口レンゲでスープをいただく。
「素晴らしい! 完璧だ!」
「ほんと! やった!」
クレハは桜に目配せしながら俺の感想に喜ぶ。
桜も「はい♪」と、ご機嫌だ。
最初でこの味なら満点をあげていいだろう。
温玉まで乗ってるし、あー、腹が減る!
「おい、クレハと桜が味噌煮込みうどんを作ってくれたぞ! 締めに食べようぜ!」
と、取り皿を〝アイテムストレージ〟から取り出してると、三者からそれぞれ声が上がる。
「おお、うどんか! 懐かしいものだ。この世界には出汁の文化は無いからな。この世界じゃ、うどんは醤油に大根おろしか、ポン酢で食べていた。それを食べたら私はここらでおいとましようか」
「味噌煮込みうどんとは珍妙な。じゃが、主様よ。勝手に締めるでない。妾はまだまだ食うし飲むぞ」
「そうね。味噌煮込みうどん? は、貰うけども私もまだまだ飲むわよ。締めるのはまだ先よ」
え? まだ飲むの? 樽二つ空けてるよ。この人たち。この間にも三樽目に突入しようとしてるし。
まあ、うどん伸びちゃうから締めじゃなくても食べて貰わないと困るけど!
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