第66話 就寝モード
クレハとベッドに入り、お互い〝就寝モード〟なのは良いのだが……
俺は、まだ何となく起きていたい気分だった。
「……ユキマサ君、まだ起きてる?」
すると、未だに俺の左半身に抱きついてるクレハが、小さめの声でボソリと話しかけてくる。
「起きてるよ。何となくまだ起きてたい気分でな?」
バリバリ起きていた俺は、直ぐに返事をする。
「そうなの? でも、私もそんな気分かな?」
「じゃあ、何か少し話すか?」
俺はクレハにそんな提案をしてみると……
「あ、賛成! 私、寝る前に話すの大好きなんだ」
クレハは、何だか嬉しそうに賛同してくれる。
「そう言えば、アリス王女様と何で一緒にいたの?」
「……ああ、レノンの武器屋で〝短剣〟を買った帰り道に、何やら美味しそうな匂いに誘われてな? 露店街を見に行ったんだが、そしたら〝激辛スープの屋台〟をキラキラした目で見つめる迷子を見つけたんだ、それがアリスだったんだよ」
「ユキマサ君、よく見つけたね……聞いた話だと、王女様は〝認識阻害〟の魔法で凄く見つけづらいって聞いたけど……あと〝激辛スープの屋台〟って、もしかして──〝完食したら小金貨1枚!〟とかのやつ?」
認識阻害? そういや、あのアリスの抱えてた〝熊のぬいぐるみ〟……名前はリッチだったか? 確かに、あれにはそんな効果があるような事を言ってたな。
「それについてはアリスも驚いてたな? 恐らくは俺のスキル〝天眼〟の効果だろうな。普通に見つけられたぞ? それとスープ屋も恐らくそれであってる」
スキルは、持ってるだけで無意識に発動する物と、意識的に発動する物、そしてその両方を持ち合わせている物があるみたいだ。
無意識に発動する物──
分かりやすいのは〝状態異常耐性〟とかだ。
例えば、状態異常を食らう前に、予め意識しとかないとみたいな感じだと、使いづらいだろうしな。それに、それだと奇襲にも対処できない事になる。
逆に意識的に発動する物──
分かりやすいのはクレハの〝空間移動〟だろう。
これは無意識に〝空間移動〟してしまうとかだったら、色々とんでもない事になりかねんしな。
そして、その両方を持ち合わせている物──
それが俺のスキル〝天眼〟にあたる。
意識して相手の状態を確認するのに使ったり、アリスの時みたいに無意識に〝認識阻害の魔法〟を見破ってしまってたりもある。
「え、その〝激辛スープ〟王女様……食べたの……?」
「ああ、流石に止めたが、辛い物が大好物らしくてな? 最悪、辛さ程度なら俺の〝回復魔法〟で、何とかなると思って奢ってやった……まあ、辛いってよりは〝痛いスープ〟だったけどな?」
(〝鬼唐辛子〟をベースのスープに〝サソリ海老〟とか言う激辛食材を入れて──〝爆弾唐辛子〟なるものをプカプカと浮かべてやがったからな……)
店の周りには、失神して倒れてる奴とかいたし。
それに辛さで死ぬってのは、比喩じゃなく、本当にある出来事だ……一定以上の辛さの唐辛子は、下手な毒なんかよりもずっと危険な物もある。
しかも、異世界の激辛唐辛子……〝元いた世界〟から見たら、十ニ分に致死性を越えた物だっただろう。
「え……本当に食べたの? というか、ユキマサ君も!? ちなみに完食なの……?」
引き気味のクレハ。
あのスープ屋、結構有名なのか?
「俺も完食したが、アリスは笑顔で『ぷはぁ!』とか『これなのです!』とか言って完食してたぞ?」
「ど、どうだった? あ、味は……?」
「食べたこと無い感じだったな。辛いより、痛いだな。てか、まず、あれは味覚じゃないな……痛覚だ。食ってる最中は、クレハの作ってくれたおにぎりの事ばかり考えて食べてたよ……」
「そ、そっか……じゃあ、また、おにぎり作るね!」
「まじか! それは是非頼む!」
そんなクレハの嬉しい言葉に対し、是非を加えた言葉と共に、反射的にクレハをぎゅっとしてしまう。
「──!!」
「あ、わ、悪い……! 痛かったか!?」
ビクリ! と反応したクレハに俺は謝罪する。
「ううん……そ、そういう訳じゃないから……!」
あ、あれ? だとすると、俺がぎゅっとしちまったのが嫌だったって事か?
──う、思いの外、ヘコむな……
「「……」」
少しの沈黙が続く……
後、やけに身体が熱い。
それに、クレハの身体から伝わってくる心拍数も、何だかさっきより、また上がってきてる気がする……
「──そ、そういえば、前も少し聞いたけど、ユキマサ君て、意外とお行儀いいよね。ほら、食事の時とか、ちゃんとお礼を言う場面とか……?」
沈黙の中、クレハが話を振ってくれる
「どうだろうな? まあ……『いただきます』と『ごちそうさま』は糞爺と婆ちゃんに──『ありがとう』と『ごめんなさい』は親父と母さんにしっかりと言うようにって、昔から躾られてたからな……?」
「そうなんだ、ユキマサ君の家族って、どんな感じの人達なの? わ、私も、あ、会ってみたいな……!」
少しもじもじとしながら、何故だか……また顔を赤くしたクレハがそんな質問をしてくる。
「親父と母さんは、もう無理だと思うが……糞爺と婆ちゃんは、もしかして、もしかすると会えるかもな?」
まあ、取り敢えず、世界を渡らんとならんけど。
それでも、亡くなった両親よりは、極わずかながら可能性が残ってるだろう……生きていればだがな。
俺も、かれこれ8年会って無いし。
最後に会ったのは、確か両親の葬式の日だ。
「あっ……ご、ごめんなさい! わ、私、そうとは知らなくて……本当にごめんなさい……!」
『親父と母さんに会うのはもう無理』と言う言葉で──もう二人はこの世にいない。と言うことを察したクレハが『あっ……』と、申し訳なさそうな表情で謝ってくる。
「別に謝らなくていい……知らなくて当然だ」
むしろ、知ってた方が怖い。
「……う、ご、ごめんね」
だが、クレハは罪悪感が残る様子だ。
(あー、何か変な空気になっちまったな……)
その時、俺は夕方にミリアの頭を撫でた時に──
『こういうのはクレハにもやってあげてください……。多分、頭とか撫でると落ち着くと思います』
と、言っていたミリアのアドバイスを思い出す。
ここは一か八か……
ミリア大先生のありがたい御言葉を信じ、俺は慌てるクレハの頭を、ゆっくりと撫でてみる。
「ひゃ! ゆ、ユキマサ君……!?」
ビクリ、と反応し、クレハは凄く驚いた様子だ。
「……悪い、嫌だったか?」
「……う、ううん、び、ビックリしただけ……!」
ミリア大先生のお陰で、俺とクレハは、お互いに『ど、どうしたものか……』みたいだった、少し気まずい空気が、良い方向に変わる。
「あー、何だ……もう少し眠くなるまで、軽くだが、俺の両親の話しでも軽く聞くか? 」
「いいの……?」
「ああ、クレハも両親の事を話してくれたしな?」
そして俺はサラサラの綺麗なクレハの髪を、ゆっくりと撫でながら、話しを始めるのだった──。
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