第65話 多数決
俺の質問が一段落すると次にクレハが口を開く。
「ていうか、ユキマサ君さっきの『追い出すなら今だぞ?』──って、どういうこと? 今さら私がユキマサ君を追い出すと思ってるの……?」
「いや……だから、理由はさっきの話の通りだろ?」
「……」
ムスー……
どうやらクレハは大変ご立腹の様子のようだ。
「……で、次は私からの質問ね。エルルカさんに抱き付かれてたけど……告白断るんじゃなかったの……?」
まず、そこを聞かれるのか……? てっきり、王女と一緒に居たことを聞かれるかと思ったんだが……
「あの場にクレハもいただろ……? それに、ああ言われたら……断るとかの状況じゃ無かったろ?」
「そうだけどさ……にしても、ユキマサ君、エルルカさんに抱き付かれて、スッゴく嬉しそうだったよねー?」
つーん、とクレハそっぽを向いてしまう。
「あー、まあ……別に悪い気はしなかったが……」
エルルカ程の美人に……何はともあれ、抱き付かれて嫌悪感を抱く男は、まずいないだろう。
それに、あの時はギルドの往来で目立ってたし、クレハは怖い笑顔で見てくるし、それを見ながらアリスは唐辛子食ってるしで……状況的に、変に意識せずには済んだけどさ。
まあ、色々柔らかい感触があったのは認めるが。
「ふーん、そうなんだ、ふーん……」
不機嫌そうにクレハの声のトーンが下がっていき、どんどん目を細めてジトっとした目になっていく。
「……じゃ、じゃあ、私も抱き付いてもいい?」
クレハは顔を赤くし、まだ膨れっ面のまま、チラリと俺を見て、緊張した様子の声でそんな事を聞いてくる。
「──は……?」
斜め上の発言に俺は変な声を上げる。
「……私じゃ……嫌かな……?」
戸惑う俺に、クレハは不機嫌とも、寂しげとも取れる表情で……恐る恐ると俺の返事を待っている。
「……い、嫌じゃない……」
「本当……?」
「当たり前だ。というか……朝起きると大体そんな形になっちまってるだろ? もし、それが嫌なら、一緒にベッドで何て寝たりどころか、そもそも居候させて貰ったりなんてしない」
あ、でも……寝起きに抱きついたのは、あくまでも事故なので……今のクレハの発言みたいに……故意に抱きつくと言うのは、また違った話しになるのか?
「そっか……よ、よかった……じゃ、じゃあ……こっち来て……?」
ポンポンとクレハは自身の腰かけるベッドの、隣のスペースを軽く叩き、顔を赤らめながら「ここに座って」と俺を招く。
クレハに言われるがまま、俺はそこに座ると……
隣で「すぅ~、はぁ~。よ、よしっ……!」
と、何故かクレハは小さな声で気合いを入れてる。
──そして、こつん……と……
俺の肩に寄りかかるように身体を預けてくる。
「そ、その……ユキマサ君、あの、へ、変な事はしちゃ駄目だからね! こ、これはあくまでも、私がエルルカさんに負けない為に、だ、抱きつくんだから……!」
えーと、何の勝敗なんだ?
クレハが一体、何の勝負で何を基準に勝ち負けを判断しているのかは分からないが……所謂、そういう変な事はダメだと言う意味は分かったので……
「わ、分かった」
そう答えた俺だが、この二人っきりの状況下のせいだろうか……? 何か、少し無心にならないと、流石にちょっと変に意識してしまいそうだ。
「じゃ、じゃあ……抱きつくよ……?」
緊張した声のクレハは、自身の身体を俺に預けた状態から、ゆっくりと俺の身体に両手を回してくる。
クレハはエルルカみたいな後ろから抱きつく形のハグでは無く……俺に、こつんと寄りかかった状態から、抱きついてきたので……
横側から、ぎゅっ……と抱きつく形になる。
改めて思うが、クレハは本当に超が付く程の美少女で……セミロングの黒い髪はサラサラで、肌も白く、身体のラインも整っていて、しかも全身からはシャンプーとか石鹸とか……あと、女の子特有の自然な独自の香りが混ざりあって──毎度ながら色々と柔らかくて、とてつもなく良い匂いがする!
今、エメレアに〝黒い変態〟と呼ばれても、俺は何も否定できない気がする。
それぐらい、俺はクレハを意識してしまっていた。
「ユキマサ君、ドクン、ドクン、ってしてる……」
「そりゃ、生きてるからな?」
クレハは、ぎゅっと抱きついたまま、俺の心臓の音を聞いてるみたいだ……後、今の俺はクレハに抱き付かれた事により、いつもより心拍数は高い気がする。
「……えい!」
そんな掛け声と共にクレハが俺をベッドに押し倒す。
(──え、えーと……!?)
「私……この体制……好きみたい……あ、べ、別に変な意味じゃないからね!」
『ほ、本当だからね! 嘘じゃないよ!』と更にクレハが付け加える。
……まあ、クレハの表情や声のトーンを見るにフリとかじゃないみたいなので、俺は「あ、ああ……」と短く返す。
「も、もう少し……このままでもいい……?」
「……ああ……好きにしろ……」
「本当? じゃあ、このまま寝てもいい……?」
クレハは俺の寝てる横で抱きつきながら、そんな提案をしてくる……いや、嬉しいけど、嬉しいけどさ……
──けど、色んな意味でヤバい! エメレアとか、理性とか、後は、エメレアとか、エメレアとか……!
あれ? 多数決だとエメレアが理性に勝ったぞ!?
(よし、これからは理性がヤバくなったらエメレアの事を考えよう!)
……まさか、エメレアに感謝する日が来るとは、夢にも思わなかったな?
それこそアルテナの〝異世界召喚〟以来の驚きだ。
それに、エメレアも普通にしてれば……かなりの美人なんだよな──でも、あいつは……ツンドラ? いや、構ってちゃん? あ、いや、レズフだったか!
所謂、残念美人……いや、残念エルフか……?
でも、正直、ああいう真っ直ぐなタイプは嫌いじゃない。
むしろ、好きか嫌いかで言えば好きなタイプだ。
あ、待て、別に変な意味じゃないぞ?
「あぁ……あ、でも……俺、買い物ついでに布団買ってきたから、別に一緒の布団じゃ無くても寝れるぞ?」
(俺を信じてると言ってくれてるとはいえ……クレハも俺と一緒のベッドだと……気を使うだろうし、疲れも取れづらいだろうからな……)
──って、あれ……?
ムッスー!!
何故だか、クレハは急に物凄く不機嫌になる。
「じゃあ、今度は私がユキマサ君の布団に入って寝る!」
「ん? ああ、別に構わないが……?」
クレハは布団派だったのか?
「……ゆ、ユキマサ君と一緒にだよ!」
「──、疲れが取れにくかったりとか無いのか?」
「だ、だから私はユキマサ君と一緒に寝たいの! それとも、ユキマサ君は私と一緒に寝ると疲れるの?」
「いや、そういうわけじゃないが……」
俺は頬を人差し指で掻きながら答える。
「……あぁ、もう分かったよ! ちょっと照れくさかっただけだ! 俺もクレハと一緒が良い!」
確かに、変に意識しちまうって事もあるが……
それでも、クレハと寝てると、温かくて落ち着くんだよな……だから、俺は逆に疲れが取れるぐらいだ。
「──ひゃっ/// わ……/// う、うん……!」
顔を真っ赤にしたクレハは珍しく、ミリアみたいな噛み方をしている。
「てか、それならこのままいつも通りに寝ればいいか……」
「そ、そうだね……うん!」
──ごろん、と俺とクレハはベッドに寝転がる。
別に、これも変な意味じゃないぞ?
まあ、まだクレハは俺に抱き付いた状態なんだが。
と、取り敢えず、一旦、落ち着こう……うん。
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