第61話 またの約束
フォルタニアが早急に用意した〝竜車〟がギルドの前に到着すると、エルルカはフィップやアリス──
それと、フォルタニアにも軽く言葉を交わして〝中央連合王国アルカディア〟へと帰っていった。
エルルカが帰ると、アリスも「私達もそろそろ宿に戻るのです」と言い始め、ジャンやフィップや兵士達〝アーデルハイト王国勢〟もお帰りモードだ。
最後にアリスが──
「──ユキマサ、今日は楽しかったのです。また私をどこかへ連れ出してくれますか……?」
と、珍しく、しおらしく言って来たので、
「ああ、また出掛けよう。でも、今度はジャンにちゃんと言ってからだぞ? もう〝妖怪世話焼き爺〟に、あくせく追われるのは勘弁だからな?」
補足を付けながら、また出掛ける事を承諾する。
「……それには同意なのです。でも、言質は取りましたので約束なのです! また次のお出かけも楽しみにしておいてやるのです♪」
〝妖怪世話焼き爺〟との追いかけっこには、凄く嫌そうな顔をしたアリスだが、最後には〝また次のお出かけ〟とやらにご機嫌な様子だ。
「それはそれは、私の老いぼれた身体にとっても優しく、素晴らしいお話ですな──是非、お嬢様には普段からもう少し〝一国の姫〟としての自覚を持ち、お出掛けの際は、最低限は私共へ〝ほうれん草〟を忘れずにお伝え願えれば幸いでございます」
(ほ、ほうれん草……? 確か……報告、連絡、相談の頭文字を取った言葉だったか? つーか、異世界にもその言葉あるのかよ!? 意味も一緒っぽいぞ……)
「あの野菜は嫌いなのです。ジャン、早急にあの緑を連想させる言葉を使うのは止めるのです!」
普通のホウレン草が嫌いだからという理由で、その言葉の意味が違うくとも、その言葉自体を嫌う様子のアリスはプイっとそっぽを向いてしまう。
すると、ジャンが俺の方に近づいてきて……
「改めまして、ユキマサ殿。本日はアリスお嬢様が本当にお世話になりました。こういった形は失礼かもしれませんが、もしよろしければ、少額ではありますが、これを受け取っては貰えませんか?」
と、十中八九、貨幣が入っているであろう、布製の袋を銀色のトレーに乗せ、丁寧に渡そうとしてくる。
正直な話。さっきの色々な買い物で結構な金額を使ってしまったので、かなりありがたい申し出だが……
「最初にアリスから『あの場からアリスを逃がす』って名目で冒険者の依頼として、小金貨1枚を貰ってるからな? 悪いが、双方からは金は受け取れねぇよ」
と、俺はそれを断る。
情報屋ならともかく……追いかける側と、追いかけられる側の両方から金取るってのも、中々に阿漕だしな。
「律儀な御方ですな。ふむ、そう言う理由でしたら、行方不明のお嬢様捜索の〝懸賞金〟の方はお受け取りください。それでしたら、何も問題はございませんでしょう?」
懸賞金……確か、クシェリがそんな事を言っていたな。まあ、最初にアリスを見つけたのは俺だし、これは受け取っておいて問題ない物だよな。
「分かった。それはありがたく貰っておくよ」
俺はジャンから懸賞金の金貨50枚を受けとる。
(金貨50枚、日本円にして500万か……)
……状況にもよるだろうが、行方不明のお姫様の賞金として、金貨50枚は高いのか安いのか俺には分からないが、今の俺には貴重な大金なので──ありがたく受け取り〝アイテムストレージ〟にしまう。
「スゴいですね! 今度、何か奢ってください!」
それを見て、ほわ~、とアトラは目を輝かせながら、素直に『何か奢ってください!』と言って来る。
「ああ、気が向いたらな」
「本当ですか! やった! 私、甘い物が食べたいです!」
俺の気が向いたらを、気が向く前提でアトラはわーい! と喜んでいる。ここまで天然だと、見ていて楽しいし、気持ちが良いな。気が向いちまいそうだ。
「ユキマサ、それじゃ、あたし達は宿に帰るぞ? 色々とお嬢が世話んなったな。……それと次は昼じゃなくて、夜のあたしと遊んでくれよ? ──昼間の蹴り、かなり痺れたぜ?」
最後は挑発的な笑みを浮かべるフィップ。
外はすっかり日が落ち、夜になろうとしている。
昼間に『少し遊ぼうぜ』的な事になりフィップと軽くドンパチして、俺はフィップの鳩尾に蹴りを一撃を入れている。
だが、吸血鬼は夜が本領、昼間は本調子とは全く違ったのだろう。だから、次は夜に少し本気で遊ぼうと言って来てるみたいだ。
まあ、遊ぶと言っても……
模擬戦みたいな感じだろうがな。
てか、コイツ、戦闘狂的な面があるよな。
オンとオフは切り替えてはいるみたいだが。
その後〝アーデルハイト王国〟の竜車の準備が整ったと兵士が報告してくると、最後にフォルタニア達に社交辞令的な挨拶を交わし、アリス達は宿に帰っていった。
「──ふぅ。何か、急に……スゴく疲れましたぁ……」
ペタンと両膝をつきその場に座り込むアトラ。
その肩には鳩のハトラが乗っている。
「〝剣斎〟と〝アーデルハイト王国のお姫様〟とその側近の〝千撃〟に一国の最高戦力である〝桃色の鬼〟……これ程の中に、女給仕の貴方が、普通に混じっていては、過度の緊張で、精神的にも肉体的にも疲労困憊となっても無理はありませんよ?」
そんなアトラにフォルタニアが話しかける。
「何か、ずいぶん静かになったな?」
「そうだね。でも、どちらかと言うとこれぐらいが普通なんだけどね?」
簡単に言えば、祭りの後の静けさみたいな、何処か寂しいものがあるように感じる。
それでもギルドには、まだ沢山の人がいる。
日が落ちた今からクエストに向かう者や、クエストを終え依頼報酬を受け取り〝ドロップアイテム〟を換金してる者もいれば、ギルド内にある〝売店〟みたいな所でポーションとかを買ってる者もいる。
「や、やっと、人混みが無くなったわね……」
疲れた様子で俺とクレハの所にやってきたのはエメレアだ。その後ろにはしっかりとミリアもいる。
「エメレアちゃん、お疲れ様……えーと、大丈夫?」
「大丈夫よ。心配してくれたのね、ありがとう!」
むぎゅッと、エメレアがクレハに幸せそうに抱きつくと、先程の疲れた様子など微塵も感じさせない、心底嬉しそうな顔になるのだった──。
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