第57話 ギルドまでの道
俺達はギルドに戻る為、帰り道を歩いてると、日が傾き始めてすっかり夕暮れ時と言った感じになってきた。
ちなみに目的地のギルドの建物自体は、すぐ真横なのだが……ギルドの周りは鉄柵で囲われており、出入り口を探して少し歩く事になる。
このギルドは〝宮殿かよ?〟ってぐらい、大きな建物なので、出入り口まではまだ少し距離がある。
(ん……?)
その時、ちょうど、ギルドの入り口から……
──ひょこ。
何やら見覚えのある、水色の髪のふわふわした小動物みたいな雰囲気の少女が、こちらを見てる。
(あ、ミリアだ……)
だが、俺と目が合うと
あたふた、あたふた、ひゅッ……!
隠れてしまった。
あれ、俺なんかしたかな?
……ひょこ?
(お、帰ってきた……!)
再び現れたミリアは『あれ……?』という様子で、再度俺の方を見てくるので、軽く手を振ってみる。
──!! ペコペコッ!
俺に気づいた様子のミリアは、あたふたと慌てながら、ギルドの出入口付近で……こちらの死角に隠れたり、隠れなかったりしている。
だが、それでもしっかりと頭を下げて来てくれて、律儀に、小さくちゃんと手も振り返してくれてる。
でも、どうやら、傍から見たら……
あたふたしながら、ギルドの出入り口付近で、隠れたり、隠れなかったりして、頭を下げてたり上げたりし、小さく手を振るという──今のミリアの姿は、何か〝不思議な踊り〟でも、踊ってるように見えてしまっているらしく……ミリアの周りには、頭に『?』を浮かべた人々の変な注目が集まっている。
でも、それを本人がまだ気づいて無いのが幸いだ。
もし、ミリアが自分が注目されてるのに気づいたら、多分泣いて何処かに走り去っちゃうだろう。
「あ、ミリアさんです! 相変わらず、ふわふわで可愛いいですね! あれは何をやってるんでしょうか? 私もミリアさんと踊りたいです!」
肩にハトラを乗せるアトラは、何故か参戦希望だ。
「いや、別に踊ってるわけじゃないと思うぞ? ……恐らく、あたふたと手を振りながら、頭の上げたり、下げたりして、ギルドの入口付近で、入退場を繰り返すと、多分あんな感じになる」
「それは何と言う現象なのです……?」
と、同じく頭に『?』を浮かべるアリスと、
「私的には可愛いので何でもいいです!」
可愛いければ、何でもいいらしいアトラ。
「──!? ふあぅ!!」
するとギルドの中を見たミリアが悲鳴を揚げる。
──スタタタタタタタッ!!
悲鳴を揚げるや否や、ミリアはパーにした両手を突きだした──謎の突進みたいな状態で、猛ダッシュし、こちらに走ってくる。
(どうした? G種の虫でもでたか?)
俺のいた〝元いた世界〟の孤児院では特に見る事は無かったが、夏頃になると普通に道端でも目撃する〝とあるホイホイ大活躍〟の理沙も大嫌いな〝黒い昆虫〟でも現れたのかと、俺は考えながらこちらに走ってくるミリアに目をやる。
「み、ミリアさんがこちらに走ってきますよ! ど、どうしましょう!? 私、モテ期かもしれません!」
こちらに走ってくるミリアを見て、軽く鼻息を荒くするアトラは、両手を広げて、地面にしゃがみ──受け入れ体制万全でスタンバっている。
──スタタタタタタッ! ふしゅッ!
「ふえぇぇぇ……!」
ミリアは目に涙を浮かべ、猛突進で走ってくると、直ぐに俺の後ろに隠れて、ひしッと俺の服をしっかりと掴む。
ちなみに、準備万端にスタンバってたのに、綺麗にスルーされたアトラは「ガーン!」とヘコんだ様子でその場に〝orz〟の状態になる。
だが、それを見かねた、鳩のハトラが、自身の羽で、パサパサとアトラの手を優しく叩いて励ましている。
それに感激したアトラが「は、ハトラぁ~! 一生、養います!」と、ハトラを抱き締めている。
そんな一人と一羽の感動的(?)な、やり取りを眺めるのも程々に、俺は俺の背中に隠れるミリアに話しかける
「よう、ミリア。日も沈んできたし、挨拶はこんばんはでいいか? それで、何から逃げてきたんだ?」
「あう……ゆ、ユキマサさん。こ、こんばんはございます……あ、あれ……です……」
〝こんばんはございます〟という、ミリアの丁寧な挨拶を聞きながら、ミリアが指をさすギルドの出入口の方向を見ると……
「──見よ! アリス様がお帰りになられたぞ!」
「お嬢様! アリスお嬢様、お帰りなさいませ!」
「心配致しました! アリス様! アリス様ッ!」
「アリス様! おお、フィップ様も一緒ですか!」
「よかった。アリスお嬢様がご無事で何よりです!」
バタバタと、ギルドの出入口から〝アーデルハイト王国〟の鎧を着た兵士が〝アリス様歓迎お祭りムード〟で、ぞろぞろと集まってくる。
「あー、うん、これか? これは怖かったなー。ミリア。もう、大丈夫だぞー?」
俺はミリアの頭をぽんぽんと撫でて宥める。
そりゃ人見知りのミリアに向かって、この数の兵士が一斉に走ってくれば、悲鳴の一つもあげて──藁にも縋る思いで、俺の方へダッシュで走ってきてもおかしくはない。
「──お前ら、うるせぇぞ! 大人しく待ってろ!」
兵士にイラついた様子のフィップが、ドスの効いた声で一喝すると……兵士達は脅えながら『し、失礼致しました!』と、直ぐにギルドの中に下がる。
「アイツら……何しに来たんだよ……?」
俺が溜め息混じりに呟くと、
「悪い。後でちゃんと叱っておく。お嬢に会えて嬉しいのは分かるが、あれじゃ……いざって時には全滅だ……」
決してふざけてるわけでは無いのだが、兵としては、かなり緊張感の足りない様子の兵士達に、フィップは落胆している。
それにアーデルハイトの兵士達は仕事だからとかでは無く、一人一人が、一人の人間として、アリスを凄く慕っているのがよく伝わってくる感じだった。
「ユキマサ、お前、ホント……あたしらの国に来いよ? 本気で歓迎するぜ?」
「……ッ!?」
再度、フィップが俺を勧誘に来るが……それを初めて耳にしたミリアが、ビックリした顔をしている。
「さっき、断っただろ? 残念ながら、そんなパッパと考えが変わるほど、俺は優柔不断じゃないぞ?」
そう答えるとフィップは「ちぇ……」と舌打ちするが、ミリアはホッ……と小さく息を漏らしていた。
──なでなで。
俺は何となく、まだ怯えた様子で、俺の後ろに隠れてしっかり服を掴んでいるミリアの頭を優しく撫でてみる。
「──!!」
少し驚くミリアだが、嫌がる素振りは無い。
よかった……もし、ミリアに『さ、触らないでください……この……へ、変態……!』……とか言われたら、流石に俺でもかなりのショックを受けて、アトラと同じく地面に〝orz〟のポーズを披露していただろう。
「あ、あの、ユキマサさん……ど、ど、どうしたんですか……!? あ、でも、こういうのはクレハにやってあげてください……何か、今日のクレハは〝ゴゴゴゴ……!〟ってしてたので、多分、頭とか撫でると落ち着くと思います。……その……少なくとも私は、落ち着かない時とかに……エメレアとかが頭を撫でてくれると……凄く、お、落ち着くので……!」
わわッ……と、少しテンパりながら、ミリアは具体的な理由を添えてアドバイスをくれる。
「そっか、そりゃいい事を聞いたな。……ん? てか、クレハが『ゴゴゴゴ……!』ってしてたって、どういう意味だ?」
あまり聞かない表現に俺はミリアに聞き返す。
「えっと、それはですね……」
ミリアが説明をしてくれようと口を開くと、
「何をもたもたしてるのです? 早く行くのです!」
待ちくたびれ、痺れを切らしたらしいアリスの言葉で、ミリアの言葉が途中で遮られてしまう。
驚いたミリアは反射的に「す、すいません、ご、ごめんなさい!」と、アリスにぺコぺコと謝っている。
「まあ、後で教えてくれ……」
と、ミリアに伝え、俺達はやっとギルドに入る。
それにしても、ギルドの出入口は見えていたのに、ギルドに入るのにやけに時間食ったな……
辺りも暗いし、すっかり日も暮れちまった──。
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