第577話 シナノの新生活10
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服を買うというのを今日の目的に街を歩きます。時間もあまりありません。お店のオープンまでには戻らなければなりませんので。まったくアトラ先輩も休憩時間ではなくお休みの日に誘ってくれればいいものを。と、思いましたが、今の〝ハラゴシラエ〟は前代未聞の人手不足、何せ紹介状があるとは言え、どこの馬の骨とも分からない私を雇うぐらいです。休日が被ることは人手不足が解消されない限り無さそうです。
「こ、混んでますね……」
街は人でごった返しています。何かのお祭りでしょうか? この混み方では、人混みに酔いやすい人なら二秒ぐらいで即効で酔うのじゃないでしょうか?
私も人混みは得意な方ではありませんが、ここは踏ん張ります。アトラ先輩にも迷惑を掛けない為にも。
「そうですか? 今日は空いてる方ですよ?」
す、空いてる方……? アトラ先輩は何を行ってるんでしょうか?
これ以上人が増えたら軽いデモですよ。
「しなのん、はぐれないように手を繋ぎましょう」
アトラ先輩は私の返事を待たずに私の手を引きます。少し驚きながらも私はアトラ先輩に引っ張られるまま街を進みます。
だれかと手を繋ぐ何てこれもいつ以来でしょうか? 最後に手を繋いだのはやはり母だった筈です。まだ幼い私の手を引いて、故郷の街を歩いたのを覚えています。母子家庭だった私は最低限の生活でしたので街を歩いても何かを買って貰った記憶は残念ながらありません。
でも、楽しかった。私はあの時、幸せだったんです。何かを買ってもらえなくても、私は母と一緒に居られるだけで楽しかったんです。母はいつも『ごめんね。何も買ってあげられなくて』と謝っていました。お母さんは何も悪くは無いのに。
そう言えば幼い頃の私はそんな母に『じゃあ私が大きくなったら働いて何か買ってあげるね』と約束した記憶があります。遠い幼い頃の何故かハッキリ覚えてる記憶です。ですが、私が大きくなり何かを買ってあげられるほどになるまで母の命は持ちませんでした。簡単に言えば私は約束を果たせなかったのです。
心残りです。悔しいです。情けないです。
母を亡くした頃の私は今よりもっと塞ぎ混み、毎日毎日これでもかと泣いていました。後を追ってしまおうかとも思ったことも、神を、運命を恨んだことも何度もあります。
『シナノ、未来には希望が待ってるのよ。きっとあなたにも幸せが訪れるわ。私の元にあなたが生まれてきてくれたみたいにね』
そんなベッドに横たわり、亡くなる少し前の母の言葉が、母の後を追おうとする私の手を止めました。
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